名目GDPと総固定資本形成(国内固定資産投資)の関係を考えてみる

2014年(暦年)の名目国内総生産(nominal Gross Domestic Product)は487兆円でした。名目GDP(暦年)の過去ピークは1997年の523兆円でしたから、17年も前のピークと比べてまだ▲36兆円(▲6.9%)も小さいままです。しかし、その内容を見てみると、2014年は1997年に比べて、民間消費支出は5兆円(1.9%)増加現物社会給付(医療・介護現物給付)は16兆円(36.2%)も増加政府現実最終消費は4兆円(10.7%)増加しています。すなわち国内消費項目は全て過去ピークをすでに上回っていて全体で25兆円(6.8%)増加しています。

国内消費は増加しているのに名目GDP全体が過去ピークに比べて大きく沈んだままなのは、総固定資本形成が▲37兆円(▲25.7%)減少し、在庫品増加(在庫投資)が▲4兆円(▲132.7%)減少し、純輸出が▲21兆円(▲369.1%)も減少して赤字に転じているからです。純輸出は、2015年以降は原油価格の大幅な低下と旅行収支の黒字化などによって大きく改善していますし、在庫投資の減少は必ずしも悪いことではありませんから、問題は総固定資本形成に絞られることになります。

次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(支出側)の推移を要素内訳で示したものです。
GDP支出側1955-2014.jpg
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あらためて、リーマンショック不況や東日本大震災の影響による経済規模の縮小は非常に大きく、その落ち込みから回復するだけでも非常に大変なことであるのが分かります。それでも、最初に述べたように、下から3つの国内消費項目の積み上げは2014年で僅かながらも過去最高水準にまで回復していることが確認できます。

このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは総固定資本形成(Gross Fixed Capital Formation)に絞って見ていくことにします。総(Gross)固定資本形成から固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital)を引いたものを純(Net)固定資本形成と呼びます。固定資本減耗は、国民経済計算では名目国内総生産(生産側)で集計されます。

次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(生産側)の推移を要素内訳で示したものです。
GDP生産側1955-2014.jpg
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2014年はピークだった1997年に比べて、雇用者報酬は▲27兆円(▲9.6%)減少し、生産・輸入品に課される税は3兆円(7.7%)増加し、固定資本減耗は0兆円(0.2%)増加し、営業余剰・混合所得は▲8兆円(▲8.4%)減少しています。このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital)に絞って見ていくことにします。

GDPは国内経済活動による付加価値の総額です。固定資本減耗は減価償却と滅失を合わせたもので、会計もしくは税務上のみなし費用であって実際に支払いが行われる費用ではありません。ですから、付加価値総額から雇用者報酬と生産・輸入品に課される税を支払った残余(償却前利益)は、総(Gross)固定資本形成(設備投資)の原資になります。

次のグラフは、1955年から2014年までの純(Net)固定資本形成の推移を総(Gross)固定資本形成と固定資本減耗の推移も合わせて示したものです。
固定資本形成1955-2014.jpg
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名目GDPの過去ピークは1997年でしたが、総(Gross)固定資本形成(設備投資)のピークは1991年の149兆円で、純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)のピークは1990年の71兆円でした。ちなみに固定資本減耗(減価償却および滅失)のピークは2008年の109兆円でした。

純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)は1990年をピークにほぼ一貫して縮小し、2009年には▲9兆円のマイナスまで転落しましたが、2010年から回復に転じて2014年には僅かながら3兆円のプラスにまで回復しています。しかし、設備投資が名目GDPの拡大(経済成長)を牽引していた時代にくらべるときわめて低調で、概ね減価償却の範囲内程度で推移する状況が続いています。

次のグラフは、1980年から2014年の総(Gross)固定資本形成(設備投資)の内訳推移です。内訳データは国民経済計算の93SNAからしかデータがないので1980年以降になっています。
固定資産内訳1980-2014.jpg
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総(Gross)固定資本形成(設備投資)は1991年に149兆円の過去ピークに達した後、1998年に▲12兆円(▲8.3%)、2002年に▲9兆円(▲8.6%)、2009年に▲14兆円(▲12.9%)という前年比の大きな落ち込みがあり、回復を見ないうちに次の大きな落ち込みがまた到来するという「階段状の」縮小を繰り返してきたように見えます。とくに2009年の落ち込みは大きかったので、さすがに2012年以降はやや増加回復傾向が見られます。

主なものを大きい順に並べると、その他の機械設備(主として民間企業)、その他の構築物(公共土木事業が多く含まれる)、住宅住宅以外の建物(民間のビルや商業施設と公共事業のハコモノ)、輸送用機械(民間企業)、コンピュータソフトウエア(官民とも含まれる)、の順になっています。

次のグラフは、この主な6つについて合計ピークの1991年を100とする指数でその後の推移を示したものです。
固定資産内訳指数1980-2014.jpg
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その他の構築物住宅住宅以外の建物は、耐用年数が長く毎年の償却額が小さく償却期間が長い固定資本ですが、最も投資減少率が大きい固定資本となっています。2012年以降の若干の増加傾向は東日本大震災の復興投資が押し上げていると推定されます。

輸送用機械コンピュータソフトウエアは、耐用年数が短く毎年の償却額が大きく償却期間が短い固定資本で、最も投資の増加率が大きい固定資本となっています。2012年のネ∩用機械の大幅増加は、東日本大震災の復興工事が押し上げていると推定されます。2000年のΕ灰鵐團紂璽織愁侫肇Ε┘△梁臧増加はいわゆる2000年問題(Y2K)クリア後の投資積極化だと考えられますが、以降は横ばい傾向で積極的な投資増はみられません。

最後に、最も額が大きく主として民間企業による、その他の機械設備は、景気によって増減しながらも基調的に右肩下がりに縮小を続けてきました。景気回復期に入っているので足元の2015年まで含めて微増で推移していますがあまり力強さは見られません。

以上、あらためてマクロ統計から設備投資の推移を見てきました。単純に要約すると、国内への設備投資は概ね減価償却の範囲内程度に抑えられるようになってきていて、基調的に回復していく兆しは見えないということです。これは、民間企業の投資が消極的だということではなく、だいぶ前から投資先が国内ではなく海外になってきているということです。

最後のグラフは、1996年から2014年の純固定資本形成と純対外直接投資の推移です。
直接投資.jpg
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純固定資本形成は、すでに見てきたように総固定資本形成から固定資本減耗を引いたもの、すなわち償却滅失を上回る固定資産純増額です。総固定資本形成(固定資産投資)はモノやソフトウエアの実物資産を購入することで、これには民間企業だけでなく政府や個人も含まれています。

他方、純対外直接投資は、日本から海外への直接投資の実行額から回収額を引いたもの、すなわち海外直投資残高の純増額です。対外直接投資は、株式取得・利益留保増(回収しないものは再投資したとみなす)・債権などの金融資産を取得することで、このほとんどが民間企業によるものです。

したがって、この二つを比較するのはあまり馴染みませんが、上記のような認識を前提に、規模感と増減傾向をいっしょに見るためにあえてひとつのグラフにまとめてみました。1996年以降になっているのは対外直接投資のデータがそれ以降しかないからです。

明らかに分かるのは、国内の固定資産投資は減価償却・損耗の範囲内程度に抑えられてきているのに対して対外直接投資の方は純増が拡大する傾向にあることです。

なお、国民経済計算基準が2008SNAに改定されることによって、研究開発費(R&D)が費用ではなく固定資本形成にカウントされるようになると、名目GDP(支出側)の総固定資本形成が膨らみ、名目GDP(生産側)でも固定資産減耗および営業余剰・近行所得が同額膨らみます。名目GDPが膨張するので600兆円の政府目標とのギャップは縮まりますが、成長率に与える影響はきわめて小さいものです。


 


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