米国の仕事と賃金と学歴にはどんな関連があるか?(学歴格差と低学歴の社会)

間もなく米国大統領に就任するトランプ氏は個別の企業に米国内の雇用拡大を促していて、自動車や航空などの大企業の中からこれに応える企業が出てきています。そのような動きに対する見解は別にして、ここでは最重要の政策となっている米国の雇用の実態がどうなっているかをあらためて見てみることにしたいと思います。

米国の雇用統計では毎月発表される「非農業部門雇用者数(Nonfarm payroll employment)」の増減数が重要な景気指標として注目を集めます。しかし、ここでは米国の雇用の「仕事・賃金・学歴」の関連について見ていきたいと思います。米国労働省労働統計局(United States Department of Labor / Bureau of Labor Statistics : BLS)がこれらの統計を公表していて、いま現在入手できるのは2015年5月現在のデータです。<仕事別雇用統計(Occupational Employment Statistics)

まず、米国の雇用数の「仕事」別の内訳を見ていきます。働いている会社や団体の「産業区分」ではなくどんな「仕事」に従事しているかという内訳です。この統計の「仕事」の区分は非常に細かいところまでブレークダウンできますが、最初はいちばん大きな分類区分で全体像を見ていきます。
仕事別雇用数850.jpg大きな画像

2015年5月の米国内の雇用数は137,896,660人でした。労働統計局がここまで詳細な数字を公表するのにはびっくりさせられます。そのうち米国内で「製造する仕事(Production Occupations)」に従事する人は9,073,290人で、大分類では多い方から5番目でした。

ダントツの1位は「事務や行政の補助の仕事(Office and Administrative Support Occupations)」で従事者数は21,846,420人、2位は「販売関連の仕事(Sales and Related Occupations)」で従事者数は14,462,120人、3位は「食事調理と給仕関連の仕事(Food Preparation and Serving Related Occupations)」で従事者数は12,577,080人、4位は「輸送や物流の仕事(Transportation and Material Moving Occupations)」で従事者数は9,536,610人でした。米国内では、財貨を造る仕事に従事する人よりも、財貨を輸送したり販売したりする仕事に従事する人の方がはるかに多いことが分かります。これは米国民が消費する財貨の多く(ほとんど)は外国から輸入しているからです。

「製造する仕事」よりは若干少ないものの、6位は「教育・訓練・図書館の仕事(Education, Training, and Library Occupations)」で従事者数は8,542,670人、7位は「開業医と医療技術の仕事(Healthcare Practitioners and Technical Occupations)」で従事者数は8,021,800人、8位は「事業及び財務運営の仕事(Business and Financial Operations Occupations)」で従事者数は7,032,560人、9位は「管理職の仕事(Management Occupations)」で従事者数は6,936,990人、そして10位は「建設及び(原油?)抽出の仕事(Construction and Extraction Occupations)」で従事者数は5,477,820人でした。

この大区分の「仕事」の従事者数の構成比を円グラフで表すと以下のようになります。
仕事別雇用比率850.jpg大きな画像

米国のドラマによく出てくる「法律の仕事(Legal Occupations)」に従事している人は1,062,370人で大分類にされるほど多い仕事ですが全雇用者の僅かに0.8%を占めるにすぎません。また、「農林漁業の仕事(Farming, Fishing, and Forestry Occupations)」に従事している人は454,230人しかおらず全雇用者の僅かに0.3%を占めるにすぎません。

大区分毎の仕事に従事する人の数の多さ(少なさ)はその区分の仕事に就ける機会の多さ(少なさ)でもあります。他方、仕事に伴う賃金の高さ(低さ)も就業機会と同様あるいはそれ以上に重要な問題です。賃金水準は大区分では比較しにくいので、より細かいより具体的な分類区分で比較する必要があります。

次のグラフは、この統計で示された3つの切り口の「仕事(occupation)及び製造業産業(Manufacturing industries)」別の「年平均賃金(annual mean wages)」の比較を一つにまとめたものです。3つの切り口とは、「従事者数が最も多い方の仕事の年平均賃金(Annual mean wages for the largest occupations)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方のSTEMの仕事(STEM occupations with the highest and lowest annual mean wages)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」です。なにやら分かりにくいですが、グラフの内容を見ていけば分かると思います。
主な職業の賃金水準850.jpg大きな画像

まず最初に明らかなのは、細分区分で「従事者数が最も多い仕事は年平均賃金水準が低い」ということです。細分区分で従事者数が多いトップ3は、「ファストフード店員等(合成食品の調理と給仕の労働者、ファストフードを含む:Combined food preparation and serving workers, including fast food)」「レジ係(Cashiers)」「ウエイターとウエイトレス(Waiters and waitresses)」で、年平均賃金水準は20千ドル(110円/ドル換算で220万円)前後のきわめて低い賃金水準の仕事になっています。このグラフ上の唯一の例外は「登録看護師(Registered nurses)」だけで、その年平均賃金水準は71千ドル(110円/ドル換算で781万円)になっています。

STEMは理系科目(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の頭文字をとった教育関連の用語で、労働力開発や移民政策に関連してこの理系科目の教育の強化がうたわれています。したがって、STEM occupationsは「理系の仕事」ということになります。理系の仕事の細分区分では年平均賃金の幅が広いことが示されています。「森林保全技術者(Forest and conservation technicians)」「農業及び食品化学技術者(Agricultural and food science technicians)」「測量及び地図製作技術者(Surveying and mapping technicians)」「生物学技術者(Biological technicians)」「環境科学及び健康を含む環境保護技術者(Environmental science and protection technicians, including health)」などの「ロマンティック」にみえる仕事の年平均賃金は40千ドル(110円/ドル換算で440万円)前後で全雇用平均の48千ドル(110円/ドル換算で532万円)よりも少し低い水準にあります。しかし、他方で、「石油エンジニア(Petroleum engineers)」「建築及びエンジニアリングのマネージャー(Architectural and engineering managers)」「コンピュータ及び情報システムのマネージャー(Computer and information systems managers)」は141千ドル(110円/ドル換算で1,550万円)を超えるきわめて高い年平均賃金を得ています。

「年賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」を見ると、製造従事者全体の年平均賃金は36千ドル(110円/ドル換算で398万円)で全雇用平均賃金より25%も低い水準にあります。その主因は、製造業全体の雇用数が減少してきて、食品加工などの賃金水準が低く賞味期限などでで海外生産移転しにくい製造業業種の雇用の占める割合が高まってきているからです。最も年平均賃金水準の低い製造従事者の業種は、「アパレルアクセサリー及び他のアパレル製造(Apparel Accessories and Other Apparel Manufacturing)」「アパレルニット工場(Apparel Knitting Mills)」「シーフードの調理とパッケージング(Seafood Product Preparation and Packaging)」などで、概ね25千ドル(110円/ドル換算で275万円)前後のきわめて低い賃金水準にあります。他方、最も年平均賃金水準の高い製造従事者の業種は、「石油及び石炭製品の製造(Petroleum and Coal Products Manufacturing)」「基礎化学品製造(Basic Chemical Manufacturing)」「航空宇宙製品及び部品製造(Aerospace Product and Parts Manufacturing)」「自動車製造(Motor Vehicle Manufacturing)」などで、これらの年平均賃金水準は50千ドル(110円/ドル換算で550万円)前後で全雇用平均賃金水準を若干(3%程度)上回る水準にあります。

最後に、学歴と賃金と雇用の関係を見てみます。まず、学歴(求職者に求められる典型的な教育の水準:Typical entry level education required)と年平均賃金(annual mean wages)の水準の関連を見ていきます。
学歴別賃金水準850.jpg大きな画像

「博士号又は専門学位(Doctoral or professional degree)」「修士号(Master's degree)」「学士号(Bachelor's degree)」の大学卒以上の学歴者の年平均賃金は、全雇用者平均の1.5倍から2.5倍の高い水準にあります。その一方で、「短大卒もしくは大学一般教養課程修了資格(准学士号:Associate's degree)」は全雇用者平均水準を若干(11%強)上回るものの、それ以下の「高卒又は同等資格者(High school diploma or equivalent)」等の学歴では全雇用者平均水準をかなり下回っています。とくに「高卒資格を持たない(正式な教育資格情報なし:No formal educational credential)」の場合は年平均賃金は全雇用者平均の半分近い25千ドル(110円/ドル換算で275万円)となっています。これによって、米国は学歴で著しい格差が生じる社会になっていることが分かります。

それでは、学歴による雇用者数(求職者に求められる典型的な教育の水準による雇用者数:employment by typical entry level education required)はどうなっているのでしょうか。
雇用の学歴構成850.jpg大きな画像

大学卒以上の学歴を求められる仕事の雇用者は全雇用者のおよそ4分の1(25.4%)を占めるにすぎません。その一方で、高卒資格を持たない仕事の雇用者が全雇用者の4分の1以上(27.7%)、高卒資格者の仕事の雇用者が3分の1以上(36.0%)を占めています。

米国は、雇用の際にきわめて学歴を偏重する一方、低学歴・低所得者層の構成割合が大きい社会であることが分かりました。したがって、政府も企業も国民も学歴の向上に強い関心を持っていますが、近年の非農業雇用者数の増加に占める高学歴の仕事の割合はきわめて低い実績にあります。米国全体としては経済は順調に拡大成長しているものの、成長の果実が国民に幅広く行き渡っていかないところが、今回の大統領選挙の結果に反映されているのではないかと推測することが出来そうです。


 


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