韓国の国/地域別の経常収支を見てみる

韓国経済の入門的なデータ整理の2回目は、国・地域別の韓国の国際収支(経常収支)を見てみることにします。韓国の長期時系列経済データは韓国銀行の経済統計システム(ECOS)からダウンロードすることができ、国と地域別のデータも入手できます。これによって、韓国と他の国と地域の経済・金融の結びつきをある程度おおまかに推定することができます。

まず、経常収支(Current Account)を国と地域に分けて見てみます。以下のグラフでは、比較しやすいように国と地域のグラフの色を統一してあります。また、日本・中国・東南アジア諸国は同系の赤の濃淡に色分けしてあります。以下のデータは全てUSドルベースであることに注意が必要です(韓国ウオンベースではありません)。
currentaccount.jpg

韓国は、アメリカや日本とくらべると、サービス収支(Balance of Services)や所得収支(Balance of Income)の規模がまだかなり小さいので、上の経常収支(Current Account)のグラフと下の貿易収支(Balance of Goods)のグラフはかなり似ています。そこで、中味は、下の貿易収支から見ていきます。
balanceofgoods.jpg

まず、中東諸国(Middle East)に対する貿易赤字が大きいのは、石油や天然ガスの輸入によるもので、原油価格の変動によって赤字額も大きく増減しています。

東南アジア諸国(Southeast Asia)に対する貿易黒字は、過去10年以上継続的・安定的に拡大を続けていて、韓国の最大の輸出先になっています。その間、韓国ウオン為替相場が大きく変動したので、東南アジア諸国への輸出は為替による影響を受けにくい分野(あるいは方法)が多いのではないかと推定されます。
それに対して、中国(China)に対する貿易黒字は2008年までは減少が続いていて、2009年からまた増加に転じています。これは2002年から2008年までは韓国ウオン高が続いたためではないかと推定されます。韓国ウオン安に転じた2009年からは再び対中国貿易黒字は大きく回復しました。したがって、対中国貿易は、国際的な価格競争が激しく、為替変動の影響を受けやすい分野が多いのではないかと推定されます。
日本(Japan)に対する貿易赤字とアメリカ(US)に対する貿易黒字は、為替変動とあまり関わりなく、過去10年位(ドルベースで)おおむね横ばいに推移しています。日本からの輸入は為替変動に関わらず輸入を続けなくてはならい資本財や部品などが多いためではないかと推定されます。

ラテンアメリカ(Latin America)の太宗は北米自由貿易協定(NFTA)圏(メキシコ)に対するものと考えられますから、実質的なアメリカへの輸出と見ることができます。アメリカとラテンアメリカに対する貿易黒字の合計は、為替変動に関わりなく拡大を続けているようにみえます。

最後に欧州連合(EU)に対する貿易黒字は、以上とはかなり異なる動きをしています。2004年に大きく増えたのは東欧など10か国のEU拡大があったためかもしれません。その後、EUに対する貿易黒字は、ウオン高の局面で中国とは逆に拡大し、ウオン安の局面でも中国とは逆に縮小しています。これにはより詳しいデータがないと合理性のある推定を行うことはできません。

次に、サービス収支(Balance of Services)について見ていきます。韓国のサービス収支の規模は貿易収支の10分の1くらいの規模しかなく、そのことが、韓国経済の現状でもあります。したがって、グラフは10倍強調されていますので規模感に注意が必要です。
balanceofservices.jpg

中東諸国に対するサービス貿易黒字は、おそらく建設業の請負契約収入が多く含まれると推定されます。欧州連合に対する赤字は再保険料が多く含まれると推定されます。アメリカに対する赤字はパテント料やライセンスフィーなどが多く含まれると推定されます。中国と東南アジア諸国に対するサービス貿易収支はごく小さく、概ね赤字側で推移しています。これは旅行収支が主に含まれると推定されます。
最後に、日本に対するサービス収支も小さいものですが、ウオン高のときに赤字でウオン安のときに黒字になっているように見えます。この多くも旅行収支であると推定されます。

最後に、所得収支(Balance of Income)について見てみます。韓国の所得収支の規模は、サービス収支よりも更に小さく、そのことが韓国経済がまだまだ未成熟な段階にあることを示しています。したがって、グラフはサービス収支のグラフより更に大きく強調されていますから規模感に注意が必要です。
balanceofincome.jpg

所得収支赤字の主因は対外債務に対する配当や利子の支払いによるもので、逆に、所得収支黒字の主因は対外債権や資産からの配当や利子の受取りによるものが太宗を占めると推定されます(貧しい国の中には海外出稼ぎ送金が大きい国もあります)。いわゆる「成熟した債権国」は、長年にわたって蓄積してきた巨額の対外債権からの配当や受取利息などで大きな所得収支黒字の状態にあります。日本もそうした国の仲間入りをしつつありますが、韓国はずっと所得収支の赤字が続いていた国で、所得収支黒字に転じたのはつい最近のことです。

韓国の所得収支は、2006年までほぼ全ての国と地域に対して赤字で、2005年には赤字幅が過去最大に拡大しました。つまり、ここまでは、韓国は外国からの借金を増やさないといけない厳しい財政状態が続いていたと推定できます。そのときに所得収支赤字が大きかった先が主要な債権国であり、韓国にとっては国際的な信用力が弱かったときに資金援助をしてくれた国であったということができます。その2006年までは、米国・EU・その他の地域に対する所得収支赤字(したがってネット債務残高)が多く、日本・中国・東南アジア諸国に対する所得収支赤字(したがってネット債務残高)はきわめて僅かしかありませんでした。

2007年から、アメリカに対する所得収支は黒字(したがってネット債権先の状態)に大きく転換しました。これは準備資産(Reserve Assets)などが増え、韓国全体で保有する米国債などの残高が増えてきたためだと推定されます。
また、対東南アジア諸国は2008年から、対中国も2010年から、それぞれ所得収支黒字に転換し、黒字幅も拡大してきました。これはこれらの地域に対する直接投資資産の配当などが徐々に生まれてきたためではないかと推定されます。
2006年から、主な所得収支赤字先(すなわちネット債務先)はアメリカからEUと日本に代わりました。当初はEUの方が融資拡大に積極的だったように見えますが、欧州金融危機の影響か韓国の資金需要が減ったためか、近年急速に縮小しています。日本は、欧州の縮退と韓国の借入減少に伴って、結果的に最大の債権国として残ったように見えます。しかし、日本の金融機関の韓国に対する信用評価判断は、だいぶ健全な状態になってきたもののまだ蓄積は始まったばかりで厚みはなく(すなわちフローは良くなってきたがストックはまだまだだということですね)、そして地政学的リスクは依然として続いているので、既往実績のクレジットラインでの取引を継続していこうというスタンスにあるのではないかと想像されます。

以上は、あくまでも韓国の所得収支の推移からおおまかに推測してみた私見であって、実際の金融取引残高の推移や信用評価機関の評価を検証したものではありません。


 



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