サービス収支は世界の中の立ち位置を示す

2011年は日本の貿易収支が赤字になったという点で大きな転換点の年であったといえます。しかし、所得収支の黒字がそれを上回って、経常収支の黒字はなお維持されています。所得収支の黒字が大きい国を「成熟した債権国」と呼びます。成熟した債権国の入口に立った日本の国際収支の状況を再掲します。
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成熟した債権国の代表はアメリカです。アメリカは貿易収支赤字が巨額なので、経常収支も大幅な赤字になっていますが、所得収支とサービス収支は黒字で、しかもそれは拡大しつつあります。そこでアメリカのサービス収支の中味をみてみます。

アメリカのサービス収支(Balance on services)<折れ線グラフ>の黒字は、2003年をボトムに反転し、2011年には1,805億ドル(およそ14兆円)にもなっています。

その中で目立つのは、著作権使用料とライセンス料(Royalties and license fees)のネット黒字拡大です。ソフトウエアライセンス料や映画・音楽などの著作権料は、アメリカのいわゆる「収穫逓増(売上が拡大するほど収益率が高くなる)」ビジネスの隆盛を示しています。また、アメリカの製造企業が製造コストの安い国に製造を委ねて製品を世界中に販売し、製造国から多額のライセンス料を取っている構図もあります。

その他の民間サービス収支(Other private services)の黒字もかなり大きく、金融・保険・情報・通信などの手数料のネット収支が含まれますが、そのうち金融手数料がかなりの部分を占めると推定されます。ここもアメリカの企業が強い部分です。

旅行(Travel)と旅客運賃(Passenger fares)もかなりの黒字です。これは外国に行く(民間)アメリカ人よりもアメリカを訪れる外国人の方がはるかに多いことを示しています。アメリカの観光産業は、医療・福祉・教育分野に次いで雇用成長の大きな分野です。これは程度の差こそあれ欧米諸国に共通する傾向で、世界でも人は豊かな観光国の方に流れるのです。

他方、他の輸送料(Other transportation)および政府サービス(U.S. government services)は赤字になっています。1999年頃から輸送料と政府サービスの赤字が拡大したためにサービス収支黒字は5年間ほど減少が続きました。これは輸入の増加と海外での軍事的な拡大を反映しています。また、同時多発テロがあった2001年以降はしばらく旅行収支の黒字幅も縮小しています。

さて、このようなアメリカと比較してみると、「成熟した債権国」の入口にさしかかった日本のサービス収支には、どのような違いがあるのでしょうか?

日本のサービス収支<折れ線グラフ>は、アメリカとは全く逆に、1996年の6兆5千億円の赤字をボトムに徐々に赤字幅が縮小してきていますが、それでもなお2兆円くらいの大幅赤字となっています。

著作権使用料とライセンス料(Royalties and license fees)や金融サービス(Financial Services)のネット収支は、21世に入ってようやく赤字から黒字に転じてきましたが、まだ黒字幅は僅かで、しかも必ずしも順調な拡大を続けているようにはみえません。そして保険サービス(Insurance Services)は海外への再保険によってずっと赤字が続いています。

また、建設サービス(Construction Services)は、おそらく政府援助などに付随する請負収入等を主に以前から黒字を続けていますが、これも拡大を続けているようにはみえません。

他方で目立つのは、旅行(Travel)と運賃(Transportation)のネット赤字の大きさです。これは日本を訪れる外国人が外国に行く日本人よりもはるかに少ない(入管通過累計では半分くらい)からです。これは、欧米諸国とは逆の傾向で、むしろ発展途上国に多い傾向です。日本人は円高を背景に世界中のどこにでも大勢旅行に出かけますが、欧米からみると日本はあまりにも遠く、また近隣の国々からの観光客は長い間あまり受け入れてきませんでした。

近年ようやく、日本人の海外旅行が頭打ちになる一方で、台湾・韓国そして中国から日本への観光客が増加し始め、旅行や運賃などの観光サービス収支の赤字が縮小し始めました。しかしそれでもまだ赤字幅は大きく、発展途上国型を抜け出せてていません。近隣諸国の経済成長が日本への観光客増加を後押しして、観光サービス収支が黒字に転じていくかどうかが大きなポイントになると思われます。

国が(外貨=ドル=ベースで)豊かになるにつれて、製造業の空洞化(脱工業化)は不可避で、貿易収支は赤字化していきます。海外からの所得収入は国内の産業の需要に直接的には結びつきません。外国人観光客拡大によって、国内のサービス産業に対する海外需要をより多く引き入れることは、日本の経済社会にとって非常に重要な目標になっています。

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