アメリカの資本収支の変化(リーマンショック前後)

アメリカの国際収支は、貿易収支赤字を主因とする経常収支赤字を資本収支黒字で賄ってバランスしています。その振幅はまるで地震計の地震波のように激しく振幅しています。

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ドル金兌換をやめ(それに伴って日本円の360円固定相場制もやめ)た1972年の<ニクソンショック>あたりからみると、最初の(1983年から1990年の)膨らみのピークにあたる1985年には<プラザ合意>があり、そこから日本の<バブル経済>が始まりました。アメリカの貿易赤字が一旦縮小した1991年は、日本の<バブル経済崩壊>の年に(たまたま?)一致します。

その次の(1992年以降の)より大きな膨らみは、概ね日本の<失われた二十年>に一致します。それが2008年の<リーマンショック>によって2009年に一旦激しく縮小し、2010年から再び拡大に転じています。しかし、まだピークの水準には戻っていません。この経常収支の中味について、もう少し詳しく見てみます。

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経常収支赤字の主因はなんといっても貿易収支赤字です。貿易収支と経常移転収支の赤字を、サービス収支と所得収支の黒字で埋める経常収支構造は一貫して変わっていません。1985年の<プラザ合意>前後の貿易収支赤字は(たまたま?日本のバブル経済が崩壊した)1991年にほぼ最小化しました。しかし、すぐに翌1992年から<リーマンショック>の2008年までずっと拡大の一途を辿りました。そして<リーマンショック>によって2009年に一旦劇的に縮小しましたが、2010年からすぐにまた拡大傾向に転じています。しかし、2011年ではまだピーク水準には戻っていません。

他方、<リーマンショック>直前の2007年から、サービス収支と所得収支の黒字幅がぐっと大きくなってきました。それによって貿易収支赤字の拡大ほどには経常収支の赤字が拡大しない構造に変わってきました。サービス収支と所得収支の急速な増加には、<リーマンショック>の影響もほとんどうかがわれず、アメリカの国際収支構造の基調的変化になっていると考えることができます。

経常収支赤字を賄っている資本収支の黒字はどういう中身で構成されていて、どう変わってきたのでしょうか。それを少し詳しく見てみます。

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2008年の<リーマンショック>を境にして、アメリカの資本収支の構成はそれ以前の基調とは大きく変化しています。

民間米民間証券投資(外国の民間金融機関等によるアメリカの民間証券商品に対する投資。グラフでは「赤」で表示)と、米金融機関対外債務(アメリカの銀行の外国の金融機関等からの借金。グラフでは「オレンジ」で表示)は、2007年までは基調的に増加を続けていました(いずれもアメリカの<対外債務>の<増加>なので資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>で推移しています)。ところが、<リーマンショック>後の2008年・2009年には、それが逆に減少に転じています(アメリカの<対外債務>の<減少>なので資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では逆の<下側>に生じるようになっています)。

他の民間海外資産(対外直接投資や外国証券を除くアメリカの金融機関や法人が保有する対外債権。グラフでは「薄い紫」で表示)も、2007年までは基調的に増加を続けていました(アメリカの<対外債権>の<増加>なので資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では<下側>で推移しています)。ところが、<リーマンショック>後の2008年・2009・2011年には、それが逆に減少に転じています(アメリカの<対外債権>の<減少>なので資本収支の<プラス>に働き、グラフ上で逆の<上側>に生じるようになっています)。

以上の3つは<リーマンショック>を通じて最も変化が大きく<プラス>が<マイナス>に逆転した項目です。

外国保有財務省証券(外国の政府または公的機関が保有する米国財務省証券。グラフでは「藍色」で表示)は、とくに<リーマンショック>後の2008・2009・2010年の3カ年の増加が大きくなっています(アメリカの資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>に生じています)。

民間保有財務省証券(外国の民間金融機関や法人が保有する財務省証券。グラフでは「やや濃いめの水色」で表示)は、増えたり減ったりしてきましたが、とくに<リーマンショック>後の2008・2010・2011年の3カ年は増加が大きくなっています(アメリカの資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>に生じています)。

以上の2つは<リーマンショック>を通じて量的に増えた<プラス>項目です。

他方で、民間海外直接投資(アメリカの民間企業による海外直接投資。資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では<下側>で推移しています)と、対米民間直接投資(外国民間企業によるアメリカへの直接投資。資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>で推移しています)は、<リーマンショック>の前後であまり大きな変化がなく、一貫して増加基調にあって、<リーマンショック>後もあまり増え方が衰えていません。

以上の2つは、<リーマンショック>の影響をほとんど受けずに増加を続けている基調的項目です。

こうした資本収支の累積である対外債権債務および対外資産負債は、所得収支に跳ね返ってきます。最後にそれを少し詳しく見てみます。

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直接投資配当受払(対外直接投資の配当受取と対米直接投資への配当支払の差額。グラフでは「薄い赤」で表示)の黒字幅が圧倒的に大きくなっています。対外直接投資は、過去にはアメリカの製造業が製造拠点を海外に移転する雇用流出が原因でしたが、過去10年位は、中国での組み立てなどのグローバル・サプライチェーンを前提としたグローバル・ビジネス構築が主流となっています。

金融危機であった<リーマンショック>の影響もあまり受けることなく、対外直接投資が拡大を続けて、その投資配当が急速に拡大してきています。グローバル化したアメリカ製造業の典型的な姿と強さがここから浮かび上がってきます。

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アメリカの国際収支統計は以下のリンクから簡単にダウンロードすることができます(実際は1960からの時系列データを取得することができます)。
U.S. Bureau of Economic Analysis Table 1. U.S. International Transactions


ダウンロードしたExcelファイルにグラフ作成用の調整を少し加えて上記のグラフを作っています。調整後のExcelファイルは以下からダウンロードできます(これを見れば同じことを自分でもやってみることができます)。
アメリカの国際収支推移グラフExcelファイルDownload

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