『行き過ぎた円高是正』はもう限界?

基軸通貨国である米国のFRB(連邦準備制度理事会)は、世界の通貨の為替レートのヒストリカルデータを公開しており、月次データは為替変動相場制が始まった1973年までさかのぼって取得することができます。また、米国の貿易高による通貨別外国為替取引高シェアをもとにした毎年の通貨ウエイト(currency weights)も1973年までさかのぼって取得することが出来ます。近年の米国の外国為替取扱高の99%以上を占める26の通貨について、1973年3月の対USドル為替レートを100とする指数にし、毎年の通貨ウエイト(currency weights)で調整算出した月次の総合ドル指数(Broad Dollar Index -- Monthly Index 26通貨バスケット)も1973年までさかのぼって取得することができます。

1973年までさかのぼってデータを取得することができますが、1998年末に欧州通貨同盟(EMU)による通貨統合(ユーロ発足)が実施されるというきわめて大きな変化があり、また1973年には1%のウエイトしかなかった中国人民元が2008年には最大のウエイト(第1位)の通貨になっているという大きな変化がありました。そこで、ユーロ相場の始まった1999年1月を100とする指数に再変換してその後16年間の推移を見てみることにします。26通貨全部を比較するのは難しいので、通貨ウエイト上位7通貨総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)の推移を比較してみます。この7通貨で全体の75%以上のウエイトを占めています。また、日本円を含む世界のほとんどの通貨の為替レートは1USドルの価格(単位はその通貨)で表されますが、ユーロ・UKポンドは逆にその通貨1単位のUSドル価格(単位はUSドル)によって表わされます。したがって、世界の通貨を同時に比較するためには、これらのUSドル表示通貨の為替レートを1USドルの当該通貨価格に変換する(逆数にする)必要があります。
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上のグラフでは、月次総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)は領域グラフで描いています。これが右肩下がりのときは「ドル安(26通貨バスケット高)」右肩上がりのときは「ドル高(26通貨バスケット安)」です。2014年10月は1999年1月に比べると7%くらいのドル安(26通貨バスケット高)の水準にあります。他方、7つの国と地域名の頭につけている番号は、その通貨の2013年の通貨ウエイト(currency weights)順位です。7通貨の方は折れ線グラフで描いています。これらは1USドルのその通貨価格(の指数)なので、逆に、グラフが右肩上がりのときは対USドル「通貨安(切り下げ)」で、右肩下がりのときは対USドル「通貨高(切り上げ)」になります。

7通貨を同時に表示した上の図では見にくいので、以下ではウエイト順位毎に分けて見ていくことにします。最初はウエイト順位1位の中国です。

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ウエイト1位(21%)の中国人民元の対USドル為替レートは、2005年6月まではほぼ1USドル8.27元に固定されていました(USドルペッグ固定相場制)。しかし、2003年以降はUSドル安(主要通貨高に伴うUSドルペッグ中国人民元安)に振れる中で米国との為替取引高のウエイトが日本を上回る12%(3位)にまで拡大したので、2005年7月から管理変動相場制に移行しています。主要通貨バスケット方式による管理変動相場制なので、2008年までは総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)に概ね沿った切り上げ(グラフ上では1USドルに対する人民元の減少なので右肩下がり)が行われています。2008年のリーマンショックに始まる金融危機で他の主要通貨が暴落(総合ドル指数は上昇)した間は為替相場は維持(グラフ上では横ばい)管理され、2010年からまた管理変動相場によるモデレートな切り上げ(右肩下がり)を続けています。その結果、中国人民元は1999年1月に対して25.9%切り上げられた状況にあり、1999年以降では主要7通貨の中で最も大きく切り上げられた通貨となっています。

次はウエイト順位2位のユーロと7位の英国ポンドの欧州通貨です。

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ウエイト2位(16%)のユーロは、発足後しばらく大きな通貨下落(グラフ上では1USドルに対するユーロの増大なので右肩上がり)に直面し、2000年から多通貨安(USドル高)傾向が続いたため発足時より大幅に切り下がった水準(グラフ上では高位水準)で推移しました。しかし、2002年くらいから反転上昇(グラフ上では右肩下がり)に転じ、2003年以降は概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)に近い水準で推移しています。他方、ウエイト7位(3%)の英国ポンドは、2008年のリーマンショックまでは概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)に近い水準で推移していましたが、欧州金融危機ではユーロよりも大きく通貨価値が下落(グラフ上では高位水準シフト)し、その後今日まであまり回復していません。

次はウエイト3位のカナダと4位のメキシコです。

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ウエイト3位(13%)のカナダ4位(12%)のメキシコは、ともに米国と長い国境を有するNAFTA(北米自由貿易協定)締結国です。しかし、対USドル為替レートは全く正反対の推移になっています。カナダは、1USドルに対して払う自国通貨が7つの主要通貨のうち最も小さくなった(最も通貨高になった)国です(この期間通算では中国とほぼ同じ切り上げ幅)。逆にメキシコは、7つの主要通貨のうち1USドルに対して払う自国通貨が最も多くなった(最も通貨安になった)国になっています。どうしてそうなってしまっているかはここでは触れませんが、米国は、管理通貨の国(中国)や弱い通貨の国(メキシコ)との取引高が大きい国であるということは認識しておく必要があると思います。

最後は、5位の日本と6位の韓国です。

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ウエイト5位(7%)の日本円は、しばしば総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)とは逆方向に動いていることが目を引きます。2005年から2008年のドル安(26通貨バスケット高)進行期に逆に大きく円安方向に向かい、2008年のリーマンショック後の急激なドル高(26通貨バスケット安)時には逆に円高方向に動き、そのままかなりの円高水準(グラフではかなり下方の水準)まで円高が進みました。2013年からは緩やかなドル高(26通貨バスケット安)が進む中で大胆な円安誘導オペレーションが行われ、(1999年1月からの累計変化では)概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)に近い水準に戻っています。

最後に、ウエイト6位(4%)の韓国ウオンは、1998年に生じた大幅なウオン安是正過程にあった2007年までは概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)の領域グラフより下側、すなわち26通貨バスケットよりもよりもウオン高(グラフでは右肩下がり ウオン安是正)の方向で推移していました。しかし、輸出依存度が高いので2008年のリーマンショック後の金融危機と世界景気後退でまた一気に大幅なウオン安(グラフ上では上方突出)に陥りました。それでも、2009年以降すぐに反転上昇(グラフ上では右肩下がり)に転じ、2014年には総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)の水準にまでウオン安是正が進みました。これでようやく1998年に生じた大幅なウオン安の翌年である1999年の水準に戻ってきたところという理解の仕方が適切なように思われます。

以上、基軸通貨国の米国にとって主要な7通貨の過去16年の動きを概観してきました。月次総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)は1999年1月を100とすると2014年10月には93に低下しています(16年間で7%のUSドル安・26通貨バスケット高)。日本円は「行き過ぎた円高是正」のオペレーションを行ってきましたが、1999年1月を100とすると2014年10月には95の水準(16年間で5%の円高)になっており、総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット)の93よりも少し円安ドル高ゾーンに踏み込んでいる(グラフ上では領域グラフの上に出てきている)ように見えます。したがって、もしこれ以上に強力な円安誘導オペレーションを行う場合は国際社会から非難が出てくる懸念があります。


 


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