訪日旅行者数(インバウンド)目標2000万人について考えてみる

政府の「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」は2,000万人の訪日旅行者数(インバウンド)の実現を目標に掲げています。すでに2014年12月の出入国管理統計速報が発表されていますので、2014年暦年実績が把握できます。このデータを使って過去の実績を分析し、今後の見通しを考えてみたいと思います。

最初に、出国日本人数(アウトバウンド)と訪日外国人数(インバウンド)全体の推移を見てみます。
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日本人のアウトバウンドは、1996年に1,600万人を超えて以降、2003年と2009年に大きな落ち込みがあったものの、それ以外は概ね1,600万人から1,800万人のレンジ内で為替レートに連動して増減してきました。2003年はイラク戦争が始まった年で、2009年は前年のリーマンショックによる世界同時不況があった年でした。これらから、日本人のアウトバウンドは過去20年近く「概ね横ばい」の基調を続けているといえます。政府目標のインバウンド2,000万人が達成されると、日本は、発展途上国に多い旅行者「出超」の国から、多くの経済先進国と同様の旅行者「入超」の国に変われる可能性があります。

外国人のインバウンドは、1995年までは400万人を若干下回るきわめて低い水準で横ばい推移していましたが、1996年に400万人を超えて増加基調に転じました。しかし、やはり2003年と2009年に停滞と落ち込みがあった上に、2011年には東日本大震災の原発事故発生によって大きく落ち込みました。2009年から2012年の4年間はこれらの要因による落ち込み停滞の期間としてグラフではピンクの背景を入れてあります。この落ち込み停滞期間を過ぎて再び増加に転じ、2013年には初めて1,000万人の大台を突破し、2014年には1,415万人にまで拡大しました。過去2年は政府の目標に向かって順調に拡大しているように見えますが、国(地域)別の動向を更に詳しく見て、今後の見通しを考えてみたいと思います。

まず、訪日外国人数(インバウンド)を国(地域)別の積み上げ棒グラフにしてみました。
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2014年の訪日人数が20万人を越える国(地域)について多い順に下から上に積み上げてみました。1991年から2014年まで一貫して韓国が1位を続けていますが、それ以下には変化があり、かつ韓国との差もかなり小さくなってきています。2014年の上位4位、すなわち韓国台湾中国香港の合計は934万人で、全体の66%を占めるとともに、2年前の2012年のインバウンド総数917万人を上回っています。

2000年のインバウンド総数は527万人でしたから、2014年までの14年間で888万人(169%)も増加したことになります。その14年間の増加数が最も多かった国(地域)から順に並べてみたのが次のグラフです。2009年から2012年の4年間に大きな落ち込みがあったので、2001年から2012年までの12年間の増加と2013年と2014年の2年間の増加に色分けしてあり、( )内は14年間の全体の増加数888万人に対する割合(%)を示しています。
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14年間の増加数の順位と2014年の実績数の順位は、多少順位のズレはあるものの概ね似通っています。上位4位は中国台湾韓国香港で、増加数構成比率の合計は73%になり、2014年の実数構成比率66%よりもだいぶ高くなっています。他方で、2014年実数順位5位の米国11位の英国が、14年間の増加数の上位17位以内には入っていません。これは米国と英国は2001年から2012年の12年間にインバウンドが減少したからです。

以上のように、国(地域)毎の推移には多様性があり、同じように増加してきたわけではないので、それをより明確にするために推移を折れ線グラフで描いてみました。
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2014年のインバウンド上位7位までの国(地域)のうち、2年前の2012年に過去最高数を上回っていたのはタイだけで、他の6つの国(地域)は全て過去最高数を下回っていました。韓国の過去最高数は2007年の285万人で、その後の落ち込みが大きく、2014年に7年ぶりに過去最高数を少し更新して302万人になりましたが、台湾と中国との差は著しく縮小しました。米国の過去最高数は2005年の85万人で、その後は過去最高数を上回ったことはなく、しかも2014年は大幅に円安ドル高が進行したにも関わらず大きく減少しました。

最後に、2014年のインバウンドが5万人を超えた20の国(地域)について、当該国(地域)の人口10万人当たりの日本旅行者数が多い順に並べたグラフを作ってみました。分母の人口は全て同年ではなく2012年から2014年に分かれているので、これは概数です。
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訪日旅行者数(インバウンド)は、その国(地域)の、日本からの距離(旅行に要する費用と時間)、所得水準(費用の負担能力)、人口入国要件(日本への入国のし易さ)、親日感情の高さ(訪日動機の高さ)、などによって左右されます。

香港台湾は、人口以外の4条件をほぼ満たしていて、すでに人口の13%から12%もの訪日旅行者数になっています。日本人の出国者(アウトバウンド)「総数」が人口の13%ですから、香港と台湾の訪日旅行者数がいかに多いかが分かります。韓国シンガポールは、それぞれ人口の6%と4%で、香港と台湾の半分以下の水準ですが、韓国の対日感情やシンガポールの距離などを考えるとやはり非常に高い水準にあります。これらの4つの国(地域)の人口は少なく、インバウンドはすでにきわめて高い水準にあるので、今後更に著しく増大する可能性は小さいと考えられます。

北米とヨーロッパは「遠い国」ですが、毎年延べ数百万人の日本人が旅行に出掛けています。それに較べると、これらの国々から日本への旅行者は、すでに見たように実数でも増加数でも著しく小さく、人口は多いので人口1,000人について1人から5人くらいの著しく少ない水準になっています。これらの国々から「遠い国」へのアウトバウンドの行先は世界全体が対象となるので、その中で日本へのインバウンドが著しく増大する可能性は極めて小さいと考えられます。

他方、ASEAN諸国は、経済発展と所得の水準には大きな開きがありますが、概ね高い経済成長を続けており、しかも人口が大きいので、所得水準の向上と入国要件の緩和によってインバウンドが拡大し続ける余地が十分あります。近年のタイがその好例で、それより人口の多いベトナムインドネシアがそれに続くものと考えられます。

最後に、中国は、2000年の39万人から14年間で215万人も増えて2014年には254万人になりましたが、人口が13億人もあるので、人口1,000人について2人にも届いていないという低水準にあります。近隣国でありすでに富裕層人口も大きくなっているので、インバウンドが増えること自体がSNSなどによる情報伝播を加速して新たなインバウンド増加につながる拡大循環が続く可能性があります。

総じて、訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)の2,000万人の目標達成は、需要面からは主として中国とASEAN諸国の訪日旅行需要拡大によってあまり心配はないように思われます。むしろ、航空旅客輸送や宿泊や訪問地の地方分散など、旅行サービス供給面の方がネックになる可能性があると思われます。なにしろ、日本は2,000万人もの外国人旅行者を受け入れた経験がないからです。


 


コメント
小澤先生
初めて読ませて頂きましたが、要点のみに簡潔にまとめられており、とても判り易く感銘を受けました。資料の見せ方などとても勉強させて頂けました。是非参考にさせて頂きたいと存じます。
ASEAN+インドの伸びシロには期待したいですね。かつての偏重政策の轍を踏むことは避けなくてはならないでしょう。同時に、欧米豪、台湾・韓国のFIT市場向けのコンテンツ(SIT)の充実と可視化は進めたいところです。とりわけ宿泊コンテンツ(施設ではなく)の多様化は、FIT市場における誘導因子として重要な取り組みの一つとなろうかと考えております。すでに都市部の宿泊施設の稼働率上昇と高騰化は始まっています。課題はすくなくありませんね。
  • 一般社団法人国際観光政策研究所
  • 2015/02/12 4:24 PM
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