貿易赤字の拡大について考えてみる

<要旨>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器輸出の減少」による
○「機械及び輸送用機器輸出の減少」は自動車と電気機器の輸出減少が主因である

<本文>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している


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暦年名目GDPとその内訳について、<1996年と比べた増減額の推移>をグラフに描いてみました。1996年を基準年にしたのは現行基準で1995年以前のデータに遡れない統計があるためで、それ以外に特別の意味はありません。比較基準年からの変化額を比較するために1996年を仮に用いています。2008年はリーマンショック後の世界同時不況が始まった年で、2011年は東日本大震災による原発稼働停止が始まった年ですので<赤い丸>で囲み、2011年以降の回復期を<赤い背景>にしています。

過去17年間で名目GDPが最も大きかった年は2007年で、最も小さかった年は2009年でした。僅か2年間ながら2007年(ピーク)から2009年(ボトム)の変化は著しく大きく、 民間需要が△35兆円も減少し、 公的需要は1兆円増加したものの、 純輸出が△7兆円減少したので、 GDP(名目)は△41兆円も減少してしまいました。

2009年(ボトム)から2014年(直近)までの5年間の回復は、 民間需要が24兆円増加し、 公的需要が10兆円増加したにもかかわらず、 純輸出が△17兆円も減少したので、 GDP(名目)は17兆円しか回復していません。

このグラフから、たとえば、民間需要は今後2007年(ピーク)の水準を超えて拡大していけるのだろうか?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、ここでは、かつて経験したことのない<純輸出の赤字転落と赤字拡大継続>のところに注目してみたいと思います。内需はある程度回復しつつあるのに、純輸出がGDPの回復を著しく阻害しているように見えるからです。


○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている


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純輸出は財貨とサービスの貿易収支ですから、まずサービス収支の方を一瞥します。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、 旅行収支は1.9兆円改善(赤字縮小で2015年は黒字転換見込み)し、 知的財産権等使用料収支は0.9兆円改善(2002年に黒字転換し黒字拡大)し、 輸送収支は0.2兆円改善(赤字縮小)し、 それ以外のサービス貿易収支が△1.8兆円悪化(赤字拡大)しましたが、 サービス貿易収支全体では1.3兆円改善(赤字縮小)しました。

このグラフからも、たとえば、それ以外のサービス貿易収支はとくに2011年以降悪化(赤字拡大)が大きくなっているのは何故か?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、サービス貿易収支は一貫して改善してきているので、ここでは純輸出の赤字拡大は全て財貨貿易収支の悪化によるものだということを確認するにとどめます。


○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい


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貿易収支(これ以降は財貨貿易収支を単に貿易収支と呼ぶことにします)は、通関統計によって品目別のデータを入手することができます。貿易収支の赤字拡大は、原油価格の高騰や原発停止による液化天然ガスの輸入量増大などが影響していることは間違いありません。そこで「鉱物性燃料を除いた貿易収支」と「鉱物性燃料輸入」に分けて見てみることにします。

2014年(直近)は2007年(名目GDPおよび輸出額の過去ピーク)に比べて、 鉱物性燃料輸入額は7.5兆円増加(貿易収支悪化・名目GDP縮小)し、 鉱物性燃料を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化(貿易収支悪化・名目GDP縮小)しました。つまり、鉱物性燃料輸入増加は確かに大きかったのですが鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化の方が2.1倍も大きかったことが分かります。


○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる


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輸入金額が増加する第一の原因は輸入数量の増加です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、 原油及び粗油輸入量は△16%減少<(77−92)÷92>し、 液化天然ガス輸入量は32%増加<(193−146)÷146>しました。原油及び粗油輸入量は今後も減少が見込まれ、原発稼働停止に伴う液化天然ガス輸入量増加は2012年にピークアウトして概ね横ばいに沈静化していますから、輸入金額増加の第一の原因はほぼなくなったと考えることができます。


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輸入金額が増加する第二の原因は輸入価格の上昇です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、 原油及び粗油の年平均輸入価格(円ベース)は35%上昇<(497−368)÷368>しており、 液化天然ガスの年平均輸入価格(円ベース)は89%も上昇<(433−229)÷229>しました。原油スポット価格(ドル建て)も液化天然ガススポット価格(同)もすでに大幅に下落していますが、ドル建て価格の下落は円安/ドル高によって相殺される面もあり、液化天然ガスは長期契約で輸入されていることもあって、2014年は年平均通関価格(円ベース)の低下はまだ実現していません。

以上から、今後は、輸入数量は増えず年平均通関価格(円ベース)は下がっていく可能性がきわめて高いので、「鉱物性燃料輸入額」が増加して貿易収支及び名目GDPを阻害する可能性は小さく、むしろ輸入額の減少によって名目GDPを押し上げていく可能性が高いと考えられます。


○「鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器の輸出」の減少による

(再掲)

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2007年は、名目GDP過去ピークの年であると同時に、財貨輸出額の過去ピークの年でもあります。2014年は2007年に比べて、 鉱物性燃料を除いた輸入額が5.3兆円増加したのに対して、 輸出総額は△10.8兆円も減少したので、 鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化(31.0兆円の黒字から14.9兆円の黒字に半減)しました。


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2014年の2007年に対する輸出減少額△10.8兆円のうち△10.6兆円(98%)は「機械及び輸送用機器」輸出の減少でした。「機械及び輸送用機器」の主な品目別の減少額は、 自動車△3.4兆円半導体等電子部品△1.6兆円事務機器(電算機およびその部品)△1.3兆円映像機器△0.8兆円、などとなっています。増減額だけでは減少率が分からないので、「機械及び輸送用機器」の2007年と2014年の輸出額の比較もグラフにしてみました。


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輸出額の減少率が大きいのは、映像機器/音響・映像機器の部分品/二輪自動車/事務機器(電算機およびその部分品)/半導体等電子部品です。

さて、輸出額の減少は、 為替レート上昇(円高)によるもの、 生産拠点海外移転によるもの、 国際競争力の低下によるものなどが考えられます。 為替レートは2014年後半から2015年前半にはほぼ2006年から2007年(輸出過去最大)にかけての水準に並びつつあります。 一部には生産拠点日本回帰の動きもあるようですが、生産拠点の国際分散は為替レートだけで決められるものではありません。 国際競争力を失った品目に代わって数兆円規模で輸出される新たな工業製品の出現がないと輸出額全体が過去の水準に回復するのはきわめて難しいと考えられます。したがって、今後、従来型の工業製品輸出の増加による貿易収支の改善(ひいては名目GDPの拡大)については、それほど多くを望むことはできないように思われます。


 


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