急速に改善が進む経常収支の変化を見てみる

12月8日に財務省から「平成27年10月中 国際収支状況(速報)の概要」の発表がありました。月次の数値は、季節的要因や月の日数や月ズレなどによって振幅が大きくなりがちなので「季節調整値」というのも示されています。しかし、それでも単月の数値の推移ではなかなか現在のトレンドを把握しにくいところがあります。

財務省の「時系列データ:国際収支」(リンクはこちら)で、1996年1月以降の月次データを入手することができます。そこで、過去12ヶ月間の計(過去1年)の月次の動きにして推移を見てみることにします。過去1年間計の月次推移グラフは、前月比ではなく前年同月比が増加すれば右肩上がりに、前年同月比が減少すれば右肩下がりになります。したがって以下では、前年比のトレンドを見るために過去12ヶ月計の数値を使って長期的な月次推移を見ていきます。

まず、経常収支の改善を概観してみます。
経常収支S.jpg
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経常収支の(過去12ヶ月の計=以下ではこの但し書きは省略します=)月次推移を見ると、2010年12月の19.4兆円の黒字をピークに収支悪化(黒字縮小)が約3年半(44ヶ月)続きました。しかし、2014年8月の▲0.7兆円の赤字をボトムに反転改善(赤字縮小)が始まり、14ヶ月後の2015年10月は15.2兆円の黒字まで一気に改善しています。経常収支は過去14か月で15.9兆円も改善(黒字回復から黒字拡大)したことになります。しかも、直近数ヶ月のトレンドを見ると改善はもう少し先まで続きそうに見えます。

2014年9月以降の経常収支の改善15.9兆円は、貿易収支の改善(赤字縮小)10.2兆円第一次所得収支の改善(黒字拡大)4.1兆円サービス収支の改善(赤字縮小)1.7兆円、その他収支の悪化▲0.1兆円、によるものです。

以下では、これらの内訳についてもう少し詳しく見ていくことにします。最初は、貿易収支の改善です。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、貿易収支は10.2兆円改善(赤字縮小)しました。これは、輸出が5.4兆円増加し輸入が4.8兆円減少したからです。

しかし、輸出は、足元の2015年9月に2年7か月振り(「量的・質的緩和」によって大幅な円安が始まった2013年3月の前月の2013年2月以来)に減少に転じ、2015年10月も連続して減少していて、しかも僅かながら減少幅が拡大しています。輸出は、大幅な円安が進んだことを主因に増加を続けてきましたが、円安による輸出の押し上げ効果は概ね出尽くしたと見ることができそうです。

他方、輸入は、円安による膨張以上に大きく増加して貿易収支の赤字を拡大させてきました。その要因のひとつは原油価格(ひいてはLNG価格)の著しい上昇でした。しかし、原油スポット価格は2014年9月から2015年1月の4ヶ月間に一気に半値水準に大幅下落しました。2015年10月の(過去12か月間計の)原油およびLNGの輸入は、原油価格の低下をまだ全部反映しきっていないので、輸入の減少は少なくともあと数ヶ月程度は続く可能性が高いと考えられます。

したがって、貿易収支の改善(赤字縮小)は、あと数ヶ月程度は続く可能性が高いものの、改善(赤字縮小)の幅は徐々に小さくなり、近々に(過去12か月間計の)貿易収支の黒字回復が実現されるかどうかはやや微妙というところではないかと予想されます。

次に、第一次所得収支の改善を見てみます。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、第一次所得収支は4.1兆円改善(黒字拡大)しました。

4.1兆円の内訳は、「直接投資」のネット受取増が2.7兆円、「証券投資」のネット受取増が1.3兆円で、雇用者報酬やその他の所得のネット受取の増減はきわめて僅か(0.0兆円←220億円)でした。

更に、「直接投資」のネット受取増2.7兆円の内訳は、「再投資収益」のネット増が1.8兆円、「配当金・配分済支店収益」のネット受取増が0.9兆円で、「利子所得等」のネット受取増はきわめて僅か(0.0兆円←364億円)でした。また、「証券投資」のネット受取増1.3兆円の内訳は、「債券利子」のネット受取増が1.0兆円で、「配当金」のネット受取増が0.3兆円でした。(注:「再投資収益」は海外支店・子会社・関連会社の内部留保増減の持ち分相当です)

第一次所得収支の受取は主として外貨建てで支払は主として円建てなので、円安によってネット受取は膨張します。第一次所得収支も、輸出と同様に2015年9月に僅かに減少に転じ2015年10月も減少が続いているので、やはり円安による膨張効果は概ね一巡したと見られます。しかし、経常収支黒字基調に変わりはなくネット対外資産は増加を続けているので外貨ベースの受取は基調的には増加していきます。したがって、第一次所得収支が基調的に増加傾向にあることには変わりありません。

なお、長期的に振り返ると、第一次所得収支は、債券利子収支の割合が6〜7割から4割に縮小し、株式収支や直接投資収支の割合が過半を超える構成変化が進んできました。日本は、貿易収支やサービス収支の赤字ににもかかわらず、第一次所得収支の黒字によって経常収支黒字を確保しています。「経常収支発展段階説」に従えば、このような国は第5段階の「成熟した債権国家」に分類されます。これまで日本の対外資産の太宗はローリスク・ローリターンの債券投資に著しく傾斜していましたが、外国株式や直接投資などのハイリスク・ハイリターン投資の割合が増えつつあって、幾分か「成熟」が進みつつあるように見えます。

最後に、サービス収支の改善について見てみます。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、サービス収支は1.7兆円改善(赤字縮小)しました。

1.7兆円の改善(赤字縮小)の内訳は、旅行収支の改善1.2兆円(赤字から黒字に転換)、知的財産権等使用料収支の改善1.0兆円(黒字拡大)、金融サービス収支の改善0.3兆円(黒字拡大)、建設収支の改善0.2兆円(黒字拡大)、保険年金サービス収支の改善0.1兆円(赤字縮小)、通信・コンピュータ・情報サービス収支の悪化▲0.3兆円(赤字拡大)、その他業務サービス収支の悪化▲0.7兆円(赤字拡大)、その他収支の改善0.1兆円でした。

サービス収支の長期推移を見て一見して分かる特徴は、貿易収支や第一次所得収支とは違って、2008年から2009年のリーマンショック不況の影響はあまりはっきりしないことです。また、一貫して赤字なので、円高になると赤字が縮小し円安になると赤字が膨らむはずですが、為替変動との相関関係はそれほど明確には見えません。逆にいうと、サービス収支は景気や金利や為替よりも「日本の対外サービス取引構造の変化」により大きく影響されてきたということが分かります。

構造変化として特筆すべきことは、|療財産権等使用料収支が2003年3月に黒字転換して以降も黒字を拡大していることと、⇔更埃支が2015年1月に黒字転換して急ピッチに黒字拡大していることです。とくに、旅行収支は、1996年12月には年▲3.6兆円もの大幅赤字だったものが、2015年10月には年1.0兆円の黒字に4.6兆円も改善しています。また、2014年8月から2015年10月の旅行収支の改善1.2兆円はその間の経常収支改善15.9兆円の8%を占めています。

知財収支と旅行収支の改善(黒字拡大)が今後も続いていくのかあるいは勢いが弱まるのかは予測が難しいところです。しかし、「成熟した債権国家」としてより「成熟」していくには、知財収支と旅行収支の稼ぎをもっと増やしてサービス収支全体の黒字化を実現していく必要があることは間違いありません。

ところで、2014年8月から2015年10月までの貿易収支とサービス収支の改善の計11.9兆円は名目GDPの純輸出の増加に相当するので、これによって14ヶ月で名目GDPが11.9兆円(年率換算すると概ね2%程度)押し上げられたことになります。経常収支と純輸出は当面の数ヶ月はなお改善が進むと予想されますが、改善のピッチは徐々に緩やかになると予想されます。


 


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