意識調査を読む

 社会の実情をできるだけ客観的かつ有用な形で認識するためには、統計的データを集め、何らかの方法でそれを図表化して分かりやすく提示してみることがきわめて有益です。たとえばビジネスのプレゼンテーションを作成するときも、そのようなことが出来ないか常に努めてきたつもりです。社会の中やあるいは会社の中などには、あらかじめ何らかの価値観や思い込みに囚われていて、実情を冷静に客観的に見据えようとしないで、抽象的・観念的な不毛な議論に陥ってしまう人々があまりにも多いのです。

さて、そのような背景に踏まえると、ほぼ私と同世代の1951年生まれの本川裕(ほんかわゆたか)さんが運営している「社会実情データ図録」は、きわめて貴重で有用な情報サイトであると思われます。重複を除いたベースでも月に30万以上のページビュー(PV)があるそうです。

データを図表化することは、非常に分かりやすくなる反面、客観性が損なわれ恣意性が生じやすくなりかねません。そこで、データの出所は当然として、データの正確性や問題点などにかかる注意、関連する図表の所在の表示、データと分析結果にかかる補足など、沢山の解説が必要です。その点で、「社会実情データ図録」の、客観性と有用性を両立しようとする分析の視点と方法に強く共感できます。

「何らかの価値観や思い込みに囚われる」議論の最近の代表的なものとしては、「愛国心」があります。この議論を巡る価値観はきわめてはっきり分かれていて、異なる立場間の論争が始まると必ずうんざりさせられます。

さて、この「愛国心」の問題を、「自国民であることの誇り」にかかるアンケート調査結果で見てみると、日本は「非常に感じる」21%・「かなり感じる」33%・計54%で、一応過半の人が誇りを抱いています。しかし、この54%は、調査国中最低に近い非常に低い率でもあります。ただ、よく見てみると、同じ様に誇りを感じる率の低い国々の中では、「全く感じない」という否定的な見解の方も低く、ネガティブな順に並べると全体の中位程度の位置にくるのではないかと思われます。したがって、私のこのデータの読み方は、誇りを感じるかと訊かれると気恥ずかしさもあって低くなるが、他方でけして嫌いじゃないという正直な気持ちが現れているものなのではないかということです。

ちなみに、この意識調査データの出所については以下のような説明がつけられています。

世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。

同じ調査の年齢別・男女別時系列データを見ると、年齢が高いほど誇りを感じる率が高く、かつどの年齢層でも女性より男性の方が高い、ということになります。2005年の調査では20代より30代の方が誇りを感じる率が低くなっていますが、もしかするとこれは「失われた10年」の影響を個人的に最も受けた世代だからなのかもしれません。

さて、同じ意識調査で、「もし戦争が起こったら国のために戦うか」というより突っ込んだ(厳密な意味の?)「愛国心」の問いかけがあります。この結果についての本川裕さんの読み方(解説)は以下のようなものです。

「はい」の比率が日本の場合、15.6%と、世界36カ国中、最低である。「いいえ」の比率は46.7%とスペインに次ぐ第2位の高い値である。

「はい」より「いいえ」が上回っているのは、日本、ドイツ、スペインの3カ国だけであり、いずれも第2次世界大戦の敗戦国側であったという共通点をもつ。もし戦争が起こったら国のために戦うかどうかという国民意識には、先の大戦が如何に大きな影響を与えているかがうかがわれる。戦争はもうこりごりだという感情が強いためと単純にとらえるのがよかろう。(スペインを敗戦国側としてよいかについて末尾に(注))

これに加えて、日本国憲法は、他国の憲法にない戦争放棄条項を有しており、憲法に対する遵法精神の上からは、この問は答えにくい内容をもっているといえる。日本は、「はい」が一番少ないだけでなく、「わからない」が37.7%と世界で最も多い値を示していることからもそれがうかがわれよう。

第2次世界大戦の敗戦国、及び戦争放棄条項をもつ憲法を有する国ということから、こうした回答結果となっているのであって、日本の若者が軟弱になっているからといった素朴な見方はあてはまらないことが、こうした国際比較から分かるのである。日本だけの調査結果であったら、「はい」と答えた者の少なさの理由として、日教組の影響、若者の軟弱さ、愛国心の欠如などがあげられた場合、そうかもしれないと誰だって思ったであろう。

逆に、「はい」の比率の高い国は、第1位がベトナム、第2位以下、中国、モロッコ、タンザニア、バングラデシュ、フィリピンとアジア、アフリカの発展途上国が来ている。欧米先進国は、フィンランドのみがかなりの上位なのを除くと、米国、カナダが中位であり、フランス、イタリアなどはさらに低くなっているなど、概して、高くはない。日本の「はい」の低さの原因の一つとして、経済先進国だからという点もあげられよう(解釈次第では、その結果、敢闘精神が欠如している、あるいは命の値段が高くなっているからとも言えよう)。


本川裕さんの読み方を裏返すと、先の戦争への反省や戦争放棄条項をもつ憲法などが、日本国民の愛国心の低さの原因(あるいは愛国心高揚の障害)になっているのではないかということになります。したがって、国民の愛国心を重視する(あるいは愛国心の低さを問題視する)価値観に立つと、先の戦争に対する卑屈で過度な反省を見直そうとか憲法改正を議論しようという方向に必然的に向かうことになる理由が理解できます。しかし、そのように法と国民意識の間に相互作用関係があるとしても、民主国家では、教育基本法や憲法は国民の意識によっていつでもいくらでも改正できる(はずの)もので、当然、重要で優先されるべきなのは国民の意識の方であるべきです。政治のリーダーシップによって国民の意識をより国を愛する方向に操作・誘導していこうというようなことより、国民が愛せる国の実態を作り守っていくことの方が、より本質的で重要な問題であるはずです。したがって、更に穿った見方をすれば、愛国心高揚が必要なのは、国の実態がこの先より悪くなっていく可能性が高く、場合によっては戦争が起こる可能性も高まっていく(「日本が戦争に巻き込まれる危険性」)ので、国民に耐乏と覚悟を求める必要があるためかもしれません。

この「社会実情データ図録」には、日本が世界の中でいかに暮らしやすい国であるか(あったか)ということを理解するためのデータも沢山あります。次からは、そのことをあらためて見て行きたいと思います。

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