アメリカの産業構造(その3)

 今回は、サービス産業のうち情報技術IT:Information Technology)と金融技術FT:Financial Technology)領域の産業を見て行きます。

下の図は、前回掲げた全体産業構成を再掲したもので、2005年暦年ベースの名目GDPに対する産業別付加価値(Value Added by Industry)の構成を積上げグラフにしたものです。赤い線で囲った部分がモノ作り産業に相当し、青い線で囲った部分がサービス産業に相当し、その間が流通産業に相当します。(数字は2005年暦年の名目GDP付加価値額 単位:10億ドル)
VA1

前回はこの図の赤線で囲まれたモノ作り産業のうち製造業(Manufacturing)の中味をブレークダウンして見てみましたが、今度は、青線で囲まれたサービス産業の中味をブレークダウンして見てみたいと思います。しかし、サービス産業は広範囲に及びかなり細分化されていますので、全部を一度に見るのは難しそうです。そこで2回に分けて半分ずつみていくことにしたいと思います。サービス産業の中味の1回目は、情報産業(Information)と金融・保険・不動産・リース業(Finance, insurance, real estate, rental, and leasing)の二つの大分類区分を見て行きます。これらは、いわゆる情報技術IT:Information Technology)と金融技術FT:Financial Technology)領域の産業です。

次の図は、上の全体構造から情報産業(Information)と金融・保険・不動産・リース業(Finance, insurance, real estate, rental, and leasing)の二つの大分類を取り出して拡大したものです。(数字は2005年暦年の名目GDP付加価値額 単位:10億ドル)
サービス産業1

サービス産業に分類されている個別の産業の規模を認識・理解するために、自動車関連産業(Motor vehicles, bodies and trailers, and parts)と比較しながら見て行くことにします。2005年暦年の自動車関連産業(Motor vehicles, bodies and trailers, and parts)の名目付加価値規模は954億ドルで名目GDP全体に占める割合は0.8%でした。

情報産業(Information)は5,552億ドルで名目GDP全体の4.5%を占め、全体では自動車産業の実に5.8倍もの規模があります。その内訳は、ソフトウエアを含む出版産業(Publishing industries (includes software))が1,502億ドル(自動車産業の1.6倍)、映画およびレコーディング産業(Motion picture and sound recording industries)が405億ドル(自動車産業の43%)、放送および通信(Broadcasting and telecommunications)が3,041億ドル(自動車産業の3.2倍)、情報およびデータ処理サービス(Information and data processing services)が604億ドル(自動車産業の63%)です。

金融・保険・不動産・リース業(Finance, insurance, real estate, rental, and leasing)は2兆5,361億ドルで名目GDP全体の20.4%を占めます。しかし、これは日本と同様に国連SNA基準に従って持ち家の帰属家賃(持ち家のみなし家賃収入)を不動産業(Real estate)に計上しているためです。したがって、産業構造の実態を見る場合には、不動産業(Real estate)は除外する必要があります。不動産業(Real estate)を除外した金融・保険・リース業(Finance, insurance, rental, and leasing)は1兆653億ドルで名目GDP全体の8.6%を占め、自動車産業の実に11.2倍の規模があります。

連邦準備銀行・信用仲介業(Federal Reserve banks, credit intermediation, and related activities)は金融のうちいわゆる銀行業(間接金融)に相当し、4,747億ドル(自動車産業の5.0倍)の規模があります。証券・商品取引および投資(Securities, commodity contracts, and investments)は金融のうちいわゆる証券およびその類似業(直接金融)に相当し、1,674億ドル(自動車産業の1.8倍)の規模があります。保険業(Insurance carriers and related activities)は2,961億ドル(自動車産業の3.1倍)の規模があり、金融分野の新しい産業であるファンド・信託およびその他の金融手段(Funds, trusts, and other financial vehicles)は195億ドル(自動車産業の20.4%)の規模になって国家経済統計上独立した産業分類を与えられています。

不動産(Real estate)は1兆4,726億ドル(自動車産業の15.5倍)と巨大な規模になっていますが、すでに説明したように、その太宗は持ち家の帰属家賃(持ち家のみなし家賃支出=収入)と考えられます。それ以外の有形無形資産賃貸・リース業(Rental and leasing services and lessors of intangible assets)は1,058億ドル(自動車産業の1.1倍)の規模があります。

なお、信用仲介(credit intermediation)はいわゆる「間接的に計測される金融仲介サービス(FISIM:Financially Intermediation Services Indirectly Measured)」に相当すると思われます。FISIMは、銀行業の利ザヤ利益部分に相当し、現在はまだ日本では正式導入はされず帰属利子として相殺されています。したがってアメリカのGDPはその分だけ日本よりも多少大きくなっているはずです。いずれにしても、アメリカは金融技術と情報技術にかかわる産業がきわめて大きな付加価値を産出しており、GDP統計もそれに合わせた対応を行っているということです。

それでは、以上で見てきた金融技術・情報技術分野を中心とする10のサービス産業がどのような成長過程を辿ってきたのか、ということを見たものが次の図です。1977年を100とした指数で2005年までの28年間の成長傾向を表示しています。

この28年の間に名目GDPは6.27倍(指数627)に拡大しました。上記の10の金融技術・情報技術分野サービス産業の全てが、それを上回る成長拡大を実現していて、この間の名目GDP全体の拡大に貢献してきたことが明瞭に伺えます。

ファンド・信託等(Funds, trusts, and other financial vehicles)は2004年までの27年間に実に51倍(指数5100)に飛躍的に成長拡大しています。特筆すべきは、ヘッジファンドLTCMが破綻した1998年以降も著しい勢いの成長拡大が続いてきたことと、2003年および2005年に縮小が見られ、成長拡大の踊り場に来ているようにもうかがえることです。

証券・商品取引および投資(Securities, commodity contracts, and investments)も、2001年までの24年間で27倍(指数2702)に飛躍的に成長拡大しています。しかしこれも2002年から縮小が見られ、成長拡大の踊り場に来ているようにもうかがえます。

情報およびデータ処理サービス(Information and data processing services)は、いわゆるシステム設計構築(Computer systems design and related services)は別に分類されていますから、たとえばGoogleやYAHOOのような企業が含まれると推定されます。2000年(Y2K)に一時的な成長停滞が見られますが、2004年までの28年間で23倍(指数2323)に飛躍的に成長拡大しており、産業規模がかなり大きくなった近年も成長率の低下は見られないように見えます。したがって、情報およびデータ処理サービス産業が自動車産業を上回る規模の産業になるのは時間の問題かもしれません。

残る7つのサービス産業については目を引く部分だけにします。

まず、持ち家の帰属家賃(持ち家のみなし家賃収入)を含む不動産業(Real estate)は28年間で名目GDPを少し上回る安定的な拡大をみています。これは日本でも同様の傾向が見られます。

放送および通信(Broadcasting and telecommunications)は自動車産業の3.2倍の規模の巨大産業で、携帯電話なども含むと思われますが、意外にも21世紀に入ってから成長拡大は名目GDPを下回る傾向にあります。おそらくこれは、旧来のテレビネットワーク産業の停滞もしくは縮小のためではないかと推定されます。

ソフトウエアを含む出版産業(Publishing industries (includes software))の代表的な企業はMicrosoftではないかと思われます。おそらくY2Kがらみの反動で2000年から2003年まで成長停滞が続きましたが、2004年から再び急激な成長拡大過程に入っているように見えます。

さて、半分に分けてもだいぶ長くなってしまいました。今回は金融技術(FT)・情報技術(IT)関係産業を見てきました。この二つが過去20年のアメリカ経済の拡大を牽引してきたことは疑いありません。ITの方は、Y2KやITミニバブル崩壊の影響で一次停滞しましたが再び新たな成長軌道に乗ってきているように見えます。他方、FTの方は、ブラックマンデー・アジア通貨危機・ロシア財政危機などをうまく乗り切りながら急激な成長拡大を続けてきましたが、21世紀に入ってからは成長拡大の踊り場に差し掛かっているように見受けられます。新興(エマージェンシー)市場との利ザヤ(スプレッド)縮小など、技術優位・先行独占のメリットの剥離が徐々に生じている可能性があります。

次回は、上記以外のサービス産業の中味を見て行きます。

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