産業構造変化と経済成長(総括)

 アメリカのGDPの産業別付加価値とその推移をずっとみてきました。これまで確認したことを総括すると、以下のようなことがいえると思います。

<その1>製造業の退潮
アメリカでは、過去四半世紀以上にわたって、全ての製造業や物流産業の成長率は名目GDP成長率を下回るかあるいは更に停滞・縮小を経験してきています。製造業や物流産業は、一次統計が整備されており、需給ギャップが生じることもあるので、景気動向の目安としてしばしば注目されます。しかし、豊かになった経済社会では、自動車などの製造業や物流産業が経済社会全体に占めるウエイトはきわめて小さくなっているので、その変動が経済全体の拡大成長に与える影響はきわめて僅かに過ぎないと思われます。自動車産業はもはやアメリカのGDPの僅か0.8%しか占めておらず、そのきわめて小さな産業の動向がアメリカ経済全体に大きな影響を与えているとは到底考えられません。
産業構造1
産業抗争2
産業構造3
産業構造4
2005年産業構成グラフのオリジナルExcelファイルダウンロード(146KB)

産業別成長指数グラフのオリジナルExcelファイルダウンロード(453KB)

<その2>サービス産業の拡大
その一方、アメリカでは、過去四半世紀以上にわたって、全てのサービス産業が、名目GDP成長率を上回る拡大成長を実現しています。そしてサービス産業のウエイトが高くなり製造業や物流産業のウエイトが小さくなった経済社会では、モノのウエイトが高かった時代に較べて経済成長や物価変動が安定し、一定範囲にコントロールすることが可能になったかのようにさえ見えます。
産業構造5
産業構造6
産業構造7
アメリカ成長率
名目GDP推移1929-2006のオリジナルExcelファイルダウンロード(62KB)

実質GDP推移1929-2006のオリジナルExcelファイルダウンロード(73KB)

<その3>医療サービス
アメリカのサービス産業で、最も長期的で持続的な拡大を続け、大きな産業に成長しているのは「メディカル・ケア」です。家計消費支出の側でも医療費支出割合が拡大を続けて、最大の支出費目になっています。これは消費者のメディカル・ケア消費支出「選好」が高まり医療産業の拡大成長につながっていると見るべきなのか、あるいは医療費の高騰によって医療費「負担」の増大が続いていると見るべきなのか、見方によって評価は著しく異なって来きます。しかし、いずれにしても、医療産業とそれに付随する医療保険産業の拡大成長が、アメリカ経済全体の長期的な拡大成長の中心的な原動力となってきたことは間違いありません。


<その4>情報技術(IT)革新
アメリカの経済成長を牽引した医療や医療保険以外のサービス産業のほとんどは、金融技術(FT)と情報技術(IT)の技術革新に関連するものと考えられます。情報技術(IT)分野では、事業所向けサービスすなわちアウトソーシングビジネス分野の成長が大きく、情報およびデータ処理サービス(Information and data processing services)、コンピュータシステム設計(Computer systems design and related services)、事務管理サポートサービス(Administrative and support services)などが大きく拡大して、すでにGDPに占める比率もかなり大きくなっています。

<その5>金融技術(FT)革新
金融技術(FT)革新関連では、ファンド・信託およびその他の金融手段(Funds, trusts, and other financial vehicles)が27年間で51倍、証券・商品取引および投資(Securities, commodity contracts, and investments)が24年間で27倍、というような急激な拡大成長をみてきましたが、拡大成長の踊り場にさしかかりつつあるようにも見えます。金融技術(FT)革新は、こうした新しい成長産業を生み出したこと以上に、世界の金融センターとしてアメリカに世界の資金が集まってくることに貢献していることがきわめて重要であると思われます。また、株価暴落や信用不安などのリスク顕在化に対する対応力も、過去よりかなり高くなっているように思われます。
米国財務収支2006速報


<その6>その他のサービス産業
放送および通信(Broadcasting and telecommunications)は自動車産業の3.2倍の大産業になっていますが、成長率はすでにそれほど高くありません。法律サービス(Legal services)は訴訟社会を反映して自動車産業の1.9倍の大きな産業になっており、なお高い拡大を続けています。演劇・プロスポーツ・博物館(Performing arts, spectator sports, museums, and related activities)もかなり高い成長を続けています。

<その7>日本の産業構造転換
金融技術や情報技術のイノベーションには先行利益が大きく、日本でも米国と同じように大きな付加価値を実現できる産業に拡大できるかどうかには疑問があります。医療や法律サービスはドメスティックな産業ですから成長の牽引力になりうる可能性はあります。しかし、司法制度や医療制度の改革が成功する必要があり、今のところ近い将来に大きな期待が持てるような状況にはありません。なによりアメリカと最も違うのは、依然として輸出財貨製造業が経済を牽引する構造にあるということです。輸出製造業は新興諸国に追いつかれ追い抜かれつつあり、しかしながらサービス産業は成長軌道に乗り切れていないというのが、現在の日本の状況のように思われます。したがって当分、円安や低金利で、過去と同じように輸出産業主導成長の構造を維持する必要があるでしょう。その構造はいつまで続けられるでしょうか。すでに電気・電子機器産業などにその懸念が顕在化してきているような感じもします。

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