日本の国内総生産と経済状況

アメリカ経済を続けて見てきましたので、再び日本に戻りたいと思います。

アメリカの経済統計は素人でも簡単に利用できるように非常に工夫されて公開されています。しかしそれに較べて、日本の経済統計は、データをどうやって入手できるかがきわめて分かりにくく、また入手した経済統計データの意味や注意点について理解するのは、これらの統計に長年専門的に関わってきた人間でないとまず理解できない、あるいは誤解してしまう危険性があります。ですから、日本の統計を扱って何か考えてみるのは、どこかに統計データの間違った理解が元になって生じる誤った認識が含まれてしまう可能性が捨て切れません。要するに、データを取ってきて加工してみたが、解釈には自信が持てないということです。マスコミや多くの人々が経済について議論をしていますが、そもそも正しい事実を把握できているのかどうかにかなり疑問があります。そうした認識を持ちながら、私なりに、入手しうるデータを使って日本の経済社会について考えて見ます。

まず、アメリカの国内総生産で試みたように、出来るだけ長い期間の国内総生産の時系列データを入手したいと思います。しかし、どうやら政府の公式サイトからは無理なので、政府の公式サイトにある異なる基準の統計を繋ぎ合わせて、可能な限り長い期間のデータを作ってみました。それが、下の3つのグラフです。その下にそれを作成した元の統計データを含むExcelファイルをダウンロードできるようにしてあります。

GDP支出側
GDP供給側
GDP成長率日本の国内総生産推移1955-2006ダウンロード(131KB)

1979年と1980年の間、および1994年と1995年の間に線を引いてあるのは、そこに基準の違う統計データの「繋ぎ目」があるからです。アメリカは大恐慌のあった1929年まで基本データを遡ることができましたが、日本は戦争に負け、戦後復興から高度経済成長に向かおうとして経済企画庁が発足した1955年までしか遡ることができません。実際敗戦によってほとんどが無に近いところまで失われていたのですから、それはやむを得ないことだと思われます。

上のグラフは、国内総生産(支出側)・国内総生産(生産側)・名目国内総生産成長率について1955年から2006年までの52年間の推移を描いたものです。最も重要な統計変更は1980年にあります。政府の社会保障支出は、1979年までは受益者である家計消費支出に含まれていましたが、1980年からは政府支出に含まれています。そこで、ここの整理では、1980年以降は社会保障費移転をどちらにも含めず抜き出しています。社会保障費のかなりの部分が健康保険や介護保険による医療・介護費用によって構成されている可能性があります。アメリカに較べてきわめて大きな政府・きわめて小さな個人消費になっているのは、この部分が「社会主義」かどうかに大きく影響されています。ここをきちんと押さえておく必要があります。

3つ目の成長率推移のグラフは、アメリカの国内総生産で1929年から2006年の78年間について作ってみたものと較べるために作ってみました。日本のデータは1955年以降の52年間なので高度経済成長が始まる前夜から現在までになっています。日本の場合、この期間で最も注目されるのは過去ではなく最近の方です。アメリカのときと同じように名目経済成長がマイナスになった年を青色で表示しました。1997年に初めてマイナス成長すなわちデフレが発生し、2006年(暦年)速報でもまだ1996年のGDP額を上回ってはおらず、名目成長率もまだ低位にとどまっています。

最初の二つのグラフでは、支出側・生産側のGDP構成項目を重ねグラフで表示しており、成長低迷の原因はなんとなく分かりますが、それをより明確に見てみるために、指数化して増減を比較してみました。それが下のグラフです。
日本の国内総生産要素指数推移1980-2005ダウンロード(43KB)

この指数推移グラフは、大きな基準変更後の1980年を100とする指数にしてあり、2006年は確報がでていないので2005年までにしてあります。また、生産側と支出側の項目を混在させていますので留意が必要です。

1980年から最も大きく増加しているのは、生産側の固定資本減耗です。真っ先に思い浮かぶのはバブルによるバランスシート是正の影響が考えられますが、この統計が時価会計の影響をどう反映しているのか定かではありません。これに関連して、支出側でも国内総固定資本形成が大きく落ち込んでいます。勿論政府の公共投資削減が最も大きく影響していると思われますが、民間でもバランスシート是正に伴う投資抑制は大きかったのではないかと思われます。

固定資本形成以外の政府消費支出社会保障費移転は大きく増加しており、アメリカと同様の傾向がうかがわれます。しかし、雇用者報酬民間消費支出は低迷し、したがって国内総生産もほぼ同じ水準に低迷しています。

1980年から1986年のプラザ合意を経て2000年頃までは円高によって輸出はGDPを牽引するような伸びにはありませんでしたが、2002年以降は、円安による輸出拡大が名目GDPの縮小を防ぎ、かろうじて回復の方向に持ち上げてきていることがうかがえます。

景況感が回復しているのは、長年かかったバランスシート是正負担がなくなり、人件費削減などのダウンサイジング効果もあがってきて、企業収益が飛躍的に改善してきているためです。回復は、脚を引っ張るものが軽くなったためであって、前に進む希望が大きくなってきているためではないと思われます。したがって、雇用者報酬も一時金部分でしか伸びず、昇給による賃金ベース増加には拡がっていないのではないかと推定されます。

日本の産業活力再生は、まだまだそのスタートラインに立ったに過ぎないと認識されます。

コメント
大変有意義な統計でとても参考になります。
私は現在アメリカの大学院で勉強中で昨年、公共政策の修士をとり今年は国際関係論の修士を取得しようとしております。アメリカの教授に日本の政権交代を経済力の変化に対応させて説明しようとしておりまして、参考にさせていただいております。
同僚の多くが中央官庁からの出向組ですので、なぜ日本の統計は分かりにくいのか聞いてみたいと思います。
発展途上国の学生にとって、戦後の日本の経済成長はあこがれであり、なぜそれが可能だったのか?とよくきかれます。 逆に最近の日本の経済停滞にも驚いているようです。
  • 国分
  • 2010/08/18 4:07 AM
古い記事に着目いただきコメントありがとうございます。
ご質問の件です。
「社会保障費移転」の項目は私が政府資料に追加して分離した項目です。
家計が現実に消費しているのに支出はしておらず政府が支出している金額が概ね「社会保障費移転」に相当するとみなしています。
グラフの説明にもあるとおりこの部分の統計に大きな変更があり長期的な連続性がないからです。
したがって算式は以下のように「差額」になります。
「社会保障費移転」=家計現実最終消費−民間最終消費支出=政府最終消費支出−政府現実最終消費
グラフのExcelファイルをダウンロードできるようにしてあります。
GDP推移グラフのデータシートは「1995-2005結合GDP」です。
「社会保障費移転」はこの位置に追加されています。
1.7 民間最終消費支出(2.1)
1.8 政府最終消費支出(2.2)
「社会保障費移転」
(再掲)
家計現実最終消費
政府現実最終消費
  • 3rdworldman
  • 2008/09/14 8:42 AM
Tooru Ozawa さま

時系列で素晴らしい整理をされているGDPデータを2007年度と
対比しようとしたのですが、「社会保障費移転」が政府資料の
どの費目の合計に対比するのかがわかりません。

教えていただけないでしょうか?

中山
  • nakayama
  • 2008/09/14 12:12 AM
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