経済社会を知りたい:経済ニュースの背景をグラフで易しく解説します 2021-02-20T00:01:11+09:00 JUGEM 米国の仕事と賃金と学歴にはどんな関連があるか?(学歴格差と低学歴の社会) http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=211 2017-01-16T03:59:00+09:00 2017-01-15T19:22:44Z 2017-01-15T18:59:00Z 間もなく米国大統領に就任するトランプ氏は個別の企業に米国内の雇用拡大を促していて、自動車や航空などの大企業の中からこれに応える企業が出てきています。そのような動きに対する見解は別にして、ここでは最重要の政策となっている米国の雇用の実態がどうなっているか... Tooru Ozawa 米国 US
米国の雇用統計では毎月発表される「非農業部門雇用者数(Nonfarm payroll employment)」の増減数が重要な景気指標として注目を集めます。しかし、ここでは米国の雇用の「仕事・賃金・学歴」の関連について見ていきたいと思います。米国労働省労働統計局(United States Department of Labor / Bureau of Labor Statistics : BLS)がこれらの統計を公表していて、いま現在入手できるのは2015年5月現在のデータです。<仕事別雇用統計(Occupational Employment Statistics) >
まず、米国の雇用数の「仕事」別の内訳を見ていきます。働いている会社や団体の「産業区分」ではなくどんな「仕事」に従事しているかという内訳です。この統計の「仕事」の区分は非常に細かいところまでブレークダウンできますが、最初はいちばん大きな分類区分で全体像を見ていきます。
大きな画像
2015年5月の米国内の雇用数は137,896,660人でした。労働統計局がここまで詳細な数字を公表するのにはびっくりさせられます。そのうち米国内で「製造する仕事(Production Occupations)」に従事する人は9,073,290人で、大分類では多い方から5番目でした。
ダントツの1位は「事務や行政の補助の仕事(Office and Administrative Support Occupations)」で従事者数は21,846,420人、2位は「販売関連の仕事(Sales and Related Occupations)」で従事者数は14,462,120人、3位は「食事調理と給仕関連の仕事(Food Preparation and Serving Related Occupations)」で従事者数は12,577,080人、4位は「輸送や物流の仕事(Transportation and Material Moving Occupations)」で従事者数は9,536,610人でした。米国内では、財貨を造る仕事に従事する人よりも、財貨を輸送したり販売したりする仕事に従事する人の方がはるかに多いことが分かります。これは米国民が消費する財貨の多く(ほとんど)は外国から輸入しているからです。
「製造する仕事」よりは若干少ないものの、6位は「教育・訓練・図書館の仕事(Education, Training, and Library Occupations)」で従事者数は8,542,670人、7位は「開業医と医療技術の仕事(Healthcare Practitioners and Technical Occupations)」で従事者数は8,021,800人、8位は「事業及び財務運営の仕事(Business and Financial Operations Occupations)」で従事者数は7,032,560人、9位は「管理職の仕事(Management Occupations)」で従事者数は6,936,990人、そして10位は「建設及び(原油?)抽出の仕事(Construction and Extraction Occupations)」で従事者数は5,477,820人でした。
この大区分の「仕事」の従事者数の構成比を円グラフで表すと以下のようになります。
大きな画像
米国のドラマによく出てくる「法律の仕事(Legal Occupations)」に従事している人は1,062,370人で大分類にされるほど多い仕事ですが全雇用者の僅かに0.8%を占めるにすぎません。また、「農林漁業の仕事(Farming, Fishing, and Forestry Occupations)」に従事している人は454,230人しかおらず全雇用者の僅かに0.3%を占めるにすぎません。
大区分毎の仕事に従事する人の数の多さ(少なさ)はその区分の仕事に就ける機会の多さ(少なさ)でもあります。他方、仕事に伴う賃金の高さ(低さ)も就業機会と同様あるいはそれ以上に重要な問題です。賃金水準は大区分では比較しにくいので、より細かいより具体的な分類区分で比較する必要があります。
次のグラフは、この統計で示された3つの切り口の「仕事(occupation)及び製造業産業(Manufacturing industries)」別の「年平均賃金(annual mean wages)」の比較を一つにまとめたものです。3つの切り口とは、「従事者数が最も多い方の仕事の年平均賃金(Annual mean wages for the largest occupations)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方のSTEMの仕事(STEM occupations with the highest and lowest annual mean wages)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」です。なにやら分かりにくいですが、グラフの内容を見ていけば分かると思います。
大きな画像
まず最初に明らかなのは、細分区分で「従事者数が最も多い仕事は年平均賃金水準が低い」ということです。細分区分で従事者数が多いトップ3は、「ファストフード店員等(合成食品の調理と給仕の労働者、ファストフードを含む:Combined food preparation and serving workers, including fast food)」「レジ係(Cashiers)」「ウエイターとウエイトレス(Waiters and waitresses)」で、年平均賃金水準は20千ドル(110円/ドル換算で220万円)前後のきわめて低い賃金水準の仕事になっています。このグラフ上の唯一の例外は「登録看護師(Registered nurses)」だけで、その年平均賃金水準は71千ドル(110円/ドル換算で781万円)になっています。
STEMは理系科目(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の頭文字をとった教育関連の用語で、労働力開発や移民政策に関連してこの理系科目の教育の強化がうたわれています。したがって、STEM occupationsは「理系の仕事」ということになります。理系の仕事の細分区分では年平均賃金の幅が広いことが示されています。「森林保全技術者(Forest and conservation technicians)」「農業及び食品化学技術者(Agricultural and food science technicians)」「測量及び地図製作技術者(Surveying and mapping technicians)」「生物学技術者(Biological technicians)」「環境科学及び健康を含む環境保護技術者(Environmental science and protection technicians, including health)」などの「ロマンティック」にみえる仕事の年平均賃金は40千ドル(110円/ドル換算で440万円)前後で全雇用平均の48千ドル(110円/ドル換算で532万円)よりも少し低い水準にあります。しかし、他方で、「石油エンジニア(Petroleum engineers)」「建築及びエンジニアリングのマネージャー(Architectural and engineering managers)」「コンピュータ及び情報システムのマネージャー(Computer and information systems managers)」は141千ドル(110円/ドル換算で1,550万円)を超えるきわめて高い年平均賃金を得ています。
「年賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」を見ると、製造従事者全体の年平均賃金は36千ドル(110円/ドル換算で398万円)で全雇用平均賃金より25%も低い水準にあります。その主因は、製造業全体の雇用数が減少してきて、食品加工などの賃金水準が低く賞味期限などでで海外生産移転しにくい製造業業種の雇用の占める割合が高まってきているからです。最も年平均賃金水準の低い製造従事者の業種は、「アパレルアクセサリー及び他のアパレル製造(Apparel Accessories and Other Apparel Manufacturing)」「アパレルニット工場(Apparel Knitting Mills)」「シーフードの調理とパッケージング(Seafood Product Preparation and Packaging)」などで、概ね25千ドル(110円/ドル換算で275万円)前後のきわめて低い賃金水準にあります。他方、最も年平均賃金水準の高い製造従事者の業種は、「石油及び石炭製品の製造(Petroleum and Coal Products Manufacturing)」「基礎化学品製造(Basic Chemical Manufacturing)」「航空宇宙製品及び部品製造(Aerospace Product and Parts Manufacturing)」「自動車製造(Motor Vehicle Manufacturing)」などで、これらの年平均賃金水準は50千ドル(110円/ドル換算で550万円)前後で全雇用平均賃金水準を若干(3%程度)上回る水準にあります。
最後に、学歴と賃金と雇用の関係を見てみます。まず、学歴(求職者に求められる典型的な教育の水準:Typical entry level education required)と年平均賃金(annual mean wages)の水準の関連を見ていきます。
大きな画像
「博士号又は専門学位(Doctoral or professional degree)」「修士号(Master's degree)」「学士号(Bachelor's degree)」の大学卒以上の学歴者の年平均賃金は、全雇用者平均の1.5倍から2.5倍の高い水準にあります。その一方で、「短大卒もしくは大学一般教養課程修了資格(准学士号:Associate's degree)」は全雇用者平均水準を若干(11%強)上回るものの、それ以下の「高卒又は同等資格者(High school diploma or equivalent)」等の学歴では全雇用者平均水準をかなり下回っています。とくに「高卒資格を持たない(正式な教育資格情報なし:No formal educational credential)」の場合は年平均賃金は全雇用者平均の半分近い25千ドル(110円/ドル換算で275万円)となっています。これによって、米国は学歴で著しい格差が生じる社会になっていることが分かります。
それでは、学歴による雇用者数(求職者に求められる典型的な教育の水準による雇用者数:employment by typical entry level education required)はどうなっているのでしょうか。
大きな画像
大学卒以上の学歴を求められる仕事の雇用者は全雇用者のおよそ4分の1(25.4%)を占めるにすぎません。その一方で、高卒資格を持たない仕事の雇用者が全雇用者の4分の1以上(27.7%)、高卒資格者の仕事の雇用者が3分の1以上(36.0%)を占めています。
米国は、雇用の際にきわめて学歴を偏重する一方、低学歴・低所得者層の構成割合が大きい社会であることが分かりました。したがって、政府も企業も国民も学歴の向上に強い関心を持っていますが、近年の非農業雇用者数の増加に占める高学歴の仕事の割合はきわめて低い実績にあります。米国全体としては経済は順調に拡大成長しているものの、成長の果実が国民に幅広く行き渡っていかないところが、今回の大統領選挙の結果に反映されているのではないかと推測することが出来そうです。
]]> 名目GDPと総固定資本形成(国内固定資産投資)の関係を考えてみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=210 2016-01-18T13:14:00+09:00 2016-01-18T04:48:04Z 2016-01-18T04:14:00Z 2014年(暦年)の名目国内総生産(nominal Gross Domestic Product)は487兆円でした。名目GDP(暦年)の過去ピークは1997年の523兆円でしたから、17年も前のピークと比べてまだ▲36兆円(▲6.9%)も小さいままです。しかし、その内容を見てみると、2014年は1997年に比べて... Tooru Ozawa 日本 Japan 民間消費支出は5兆円(1.9%)増加、現物社会給付(医療・介護現物給付)は16兆円(36.2%)も増加 、政府現実最終消費は4兆円(10.7%)増加 しています。すなわち国内消費項目は全て過去ピークをすでに上回っていて全体で25兆円(6.8%)増加しています。
国内消費は増加しているのに名目GDP全体が過去ピークに比べて大きく沈んだままなのは、総固定資本形成が▲37兆円(▲25.7%)減少 し、在庫品増加(在庫投資)が▲4兆円(▲132.7%)減少し、純輸出が▲21兆円(▲369.1%)も減少して赤字に転じている からです。純輸出は、2015年以降は原油価格の大幅な低下と旅行収支の黒字化などによって大きく改善していますし、在庫投資の減少は必ずしも悪いことではありませんから、問題は総固定資本形成に絞られる ことになります。
次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(支出側)の推移 を要素内訳で示したものです。
大きな画像で見る
あらためて、リーマンショック不況や東日本大震災の影響による経済規模の縮小は非常に大きく、その落ち込みから回復するだけでも非常に大変なことであるのが分かります。それでも、最初に述べたように、下から3つの国内消費項目の積み上げは2014年で僅かながらも過去最高水準にまで回復していることが確認できます。
このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは総固定資本形成(Gross Fixed Capital Formation) に絞って見ていくことにします。総(Gross)固定資本形成から固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital) を引いたものを純(Net)固定資本形成 と呼びます。固定資本減耗は、国民経済計算では名目国内総生産(生産側)で集計されます。
次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(生産側)の推移 を要素内訳で示したものです。
大きな画像で見る
2014年はピークだった1997年に比べて、雇用者報酬は▲27兆円(▲9.6%)減少 し、生産・輸入品に課される税は3兆円(7.7%)増加し、固定資本減耗は0兆円(0.2%)増加 し、営業余剰・混合所得は▲8兆円(▲8.4%)減少しています。このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital) に絞って見ていくことにします。
GDPは国内経済活動による付加価値の総額です。固定資本減耗は減価償却と滅失を合わせたもので、会計もしくは税務上のみなし費用であって実際に支払いが行われる費用ではありません。ですから、付加価値総額から雇用者報酬と生産・輸入品に課される税を支払った残余(償却前利益)は、総(Gross)固定資本形成(設備投資)の原資になります。
次のグラフは、1955年から2014年までの純(Net)固定資本形成の推移 を総(Gross)固定資本形成と固定資本減耗の推移も合わせて示したものです。
大きな画像で見る
名目GDPの過去ピークは1997年でしたが、総(Gross)固定資本形成(設備投資)のピークは1991年の149兆円 で、純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)のピークは1990年の71兆円 でした。ちなみに固定資本減耗(減価償却および滅失)のピークは2008年の109兆円でした。
純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)は1990年をピークにほぼ一貫して縮小し、2009年には▲9兆円のマイナスまで転落しましたが、2010年から回復に転じて2014年には僅かながら3兆円のプラスにまで回復しています。しかし、設備投資が名目GDPの拡大(経済成長)を牽引していた時代にくらべるときわめて低調 で、概ね減価償却の範囲内程度で推移 する状況が続いています。
次のグラフは、1980年から2014年の総(Gross)固定資本形成(設備投資)の内訳推移 です。内訳データは国民経済計算の93SNAからしかデータがないので1980年以降になっています。
大きな画像で見る
総(Gross)固定資本形成(設備投資)は1991年に149兆円の過去ピークに達した後、1998年に▲12兆円(▲8.3%)、2002年に▲9兆円(▲8.6%)、2009年に▲14兆円(▲12.9%)という前年比の大きな落ち込みがあり、回復を見ないうちに次の大きな落ち込みがまた到来するという「階段状の」縮小を繰り返してきた ように見えます。とくに2009年の落ち込みは大きかったので、さすがに2012年以降はやや増加回復傾向が見られます。
主なものを大きい順に並べると、?その他の機械設備 (主として民間企業)、?その他の構築物 (公共土木事業が多く含まれる)、?住宅 、?住宅以外の建物 (民間のビルや商業施設と公共事業のハコモノ)、?輸送用機械 (民間企業)、?コンピュータソフトウエア (官民とも含まれる)、の順になっています。
次のグラフは、この主な6つについて合計ピークの1991年を100とする指数 でその後の推移を示したものです。
大きな画像で見る
?その他の構築物 ・?住宅 ・?住宅以外の建物 は、耐用年数が長く毎年の償却額が小さく償却期間が長い固定資本ですが、最も投資減少率が大きい固定資本 となっています。2012年以降の若干の増加傾向は東日本大震災の復興投資が押し上げていると推定されます。
?輸送用機械 ・?コンピュータソフトウエア は、耐用年数が短く毎年の償却額が大きく償却期間が短い固定資本で、最も投資の増加率が大きい固定資本 となっています。2012年の?輸送用機械の大幅増加は、東日本大震災の復興工事が押し上げていると推定されます。2000年の?コンピュータソフトウエアの大幅増加はいわゆる2000年問題(Y2K)クリア後の投資積極化だと考えられますが、以降は横ばい傾向で積極的な投資増はみられません。
最後に、最も額が大きく主として民間企業による、?その他の機械設備 は、景気によって増減しながらも基調的に右肩下がりに縮小 を続けてきました。景気回復期に入っているので足元の2015年まで含めて微増で推移していますがあまり力強さは見られません。
以上、あらためてマクロ統計から設備投資の推移を見てきました。単純に要約すると、国内への設備投資は概ね減価償却の範囲内程度に抑えられるようになってきていて、基調的に回復していく兆しは見えないということです。これは、民間企業の投資が消極的だということではなく、だいぶ前から投資先が国内ではなく海外になってきている ということです。
最後のグラフは、1996年から2014年の純固定資本形成と純対外直接投資の推移 です。
大きな画像で見る
純固定資本形成は、すでに見てきたように総固定資本形成から固定資本減耗を引いたもの、すなわち償却滅失を上回る固定資産純増額 です。総固定資本形成(固定資産投資)はモノやソフトウエアの実物資産を購入することで、これには民間企業だけでなく政府や個人も含まれ ています。
他方、純対外直接投資は、日本から海外への直接投資の実行額から回収額を引いたもの、すなわち海外直投資残高の純増額 です。対外直接投資は、株式取得・利益留保増(回収しないものは再投資したとみなす)・債権などの金融資産を取得することで、このほとんどが民間企業 によるものです。
したがって、この二つを比較するのはあまり馴染みませんが、上記のような認識を前提に、規模感と増減傾向をいっしょに見るためにあえてひとつのグラフにまとめてみました。1996年以降になっているのは対外直接投資のデータがそれ以降しかないからです。
明らかに分かるのは、国内の固定資産投資は減価償却・損耗の範囲内程度に抑えられてきているのに対して対外直接投資の方は純増が拡大する傾向 にあることです。
なお、国民経済計算基準が2008SNAに改定 されることによって、研究開発費(R&D)が費用ではなく固定資本形成にカウントされるようになると、名目GDP(支出側)の総固定資本形成が膨らみ、名目GDP(生産側)でも固定資産減耗および営業余剰・近行所得が同額膨らみます。名目GDPが膨張するので600兆円の政府目標とのギャップは縮まりますが、成長率に与える影響はきわめて小さいものです。
]]> 米国に見る異次元金融緩和から正常な状態への復帰プロセス http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=209 2016-01-07T00:38:00+09:00 2016-01-06T16:02:28Z 2016-01-06T15:38:00Z 2015年12月16日にFOMC(Federal Open Market Committee)は、フェデラルファンドレートの目標レンジを現在の0.0%−0.25%から0.25%−0.5%に0.25%引き上げる決定を発表しました。プレス・リリース原文はこちらです。それで決定発表の翌日は実際にほぼ目標レンジ中央値の0... Tooru Ozawa 米国 US プレス・リリース原文はこちらです。それで決定発表の翌日は実際にほぼ目標レンジ中央値の0.37%になりました。実に久しぶりにフェデラルファンドレート水準が動いたので、現在は歴史的に見てどういう水準にあるのかをあらためて見てみることにします。FRBのサイトから1954年7月1日から現在までの実に60年間の日々実績データを取得することができます。
大きな画像を見る
60年間でフェデラルファンドレートが最高だったのは、1981年7月22日の22.36%でした。このときはインターバンク市場から資金が消えてしまったと言われて大混乱しました。その後、1991年以降は、引き締め期で概ね5から7%程度、緩和期で概ね1から3%程度のレンジで推移していました。ところが2008年の金融危機以降はほぼゼロ金利水準に張り付いたまますでに7年も経過 しています。
ほぼ無利息に近いゼロ金利近辺に張り付いてしまうと金利は金融緩和手段として使えない ことになります。FOMCは、雇用の回復や目標インフレ率2%の実現に自信が持てたので、異常なゼロ金利からの離脱 を実現することにしたのです。ですからこれは高いインフレ率を懸念した金融引き締めの「いわゆる利上げ」の始まりではなく、様子を見ながら過去の緩和期の1から3%程度のレンジに向けて「少しずつ正常化していくプロセスに着手した」ものと理解すべきでしょう。
米国内の経済金融情勢から見ればきわめて妥当で健全な対処に思えますが、世界に目を向けると、欧州中央銀行(ECB)の政策金利は0.05%、日銀の基準割引率は2008年12月からずっと0.3%に張り付いていて、いずれもほぼゼロ金利状態にあります。そこで、世界の金融センターである米国だけが金利を「ゼロ金利から正常化していく」と国際的な影響は避けられません。したがって、今回の発表に対する強い非難は世界経済に対する悪影響への懸念 からもっぱら発せられています。
ここで世界全体の問題を考えるのは手に余るので、あらためて米国内について振り返ってみます。ゼロ金利という金融緩和が行われたのは、2008年のリーマンショックに端を発する世界金融危機に対処するためでした。金融危機は同時に著しい景気後退をもたらし、米国の名目GDPは第二次大戦後初めて純減し、雇用者数も著しく減少しました。したがって強力な景気浮揚策が必要でしたが、金利政策の手段はなくなっていたため、以降は量的金融緩和(quantitative easing : QE) が行われました。今回の決定発表の中でも、QEで取得した不動産担保証券や財務省証券は、元本償還分の再投資(reinvesting principal payments)により保有残高を維持していく ことが表明されています。元本償還によって保有残高が減少すると実質的な量的金融引き締めになってしまいます。したがって、実際問題として重要なのは、僅かな金利の引き上げよりもこちらの方です。
2013年6月 に量的金融緩和(QE)をどのように終わらせるかという出口戦略(exit strategy) が公表され、毎月の買い上げ規模が段階的に縮小されていって、2014年10月 に追加的買い上げの停止 が発表されました。景気刺激策を終わらせるのは市場にネガティヴインパクトを与えるので、予告してから1年半をかけて実施したのです。予告の時は株価は大きく下がりましたが実際に停止したときは逆に株価は上昇しました。
QEで買取対象とされた、不動産担保ローンのキャッシュフローに裏付けされた証券(Mortgage Backed Securities : MBS )と自動車ローンなど消費者信用債権のキャッシュフローに裏付けられた証券(Asset Backed Securities : ABS )は、金融危機以降新たな証券化発行がほぼ停止 していて市場の発行残高は大幅に減少しています(末尾に参考グラフ)。他方で、景気対策や税収減による大幅な財政赤字(末尾に参考グラフ)によって米国債(財務省証券)はかつてない勢いで増加 を続けてきました。
財務省証券がどのような勢いで増加し、誰がそれを引き受けてきたかは財務省の公開資料から見ることができます。
大きな画像を見る
まず、全体を見ると、2015年第3四半期末の発行残高は14兆3,767億ドルで、2015年第3四半期の年換算名目GDP速報18兆602億ドルの80%にも相当し、金融危機前の2007年末からの累計では8兆3,255億ドル(138%増・約2.4倍に)も増加 しました。保有者は、外国(非居住者)が40%以上 を占め、銀行は4% に過ぎません。通貨当局(連邦準備銀行)は17% で国内最大の保有者になりました。
金融危機不況によって増加した8兆3,255億ドルを誰が引き受けたのかを示したのが次のグラフです。
大きな画像を見る
増加額8兆3,255億ドルのうち、45%は外国(非居住者)保有増加で通貨当局(連邦準備銀行)がQEで保有増加した21%の倍以上 になります。個人および実質個人資産であるオープン投信(Mutual Funds)と年金基金の保有増加を合わせると27%で、銀行の保有増加は全体の僅かに6%だけ でした。これによって国債(財務省証券)大量発行は銀行の資金繰りにほとんど影響を与えずに済んだことが分かります。
それでは、外国(非居住者)とはどこなのか、国(保有者居住国)別保有高を見ていきます。財務省のデータですが時点が少し違う(下は各6月末)ので上の数値とは若干相違があります。
大きな画像を見る
2015年6月末に外国(非居住者)が保有していた米国財務省証券(短期も含む)は6兆1,748億ドルで、金融危機前の2007年6月末から3兆9,808億ドル(181%増・約2.8倍に)も増加しました。その間に中国(居住者) は4,772億ドルから1兆2,712億ドルに7,940億ドル(166%増・2.7倍に)も増加し最大の保有国になりました。日本(居住者) は6,223億ドルから1兆1,971億ドルに5,748億ドル(92%増・約2倍に)も増加しましたがこの間に最大の保有国の地位を中国に譲りました。しかし、それでも日本の保有額は120円/ドルで換算すると実に143兆6,520億円 にもなり、これは日本の名目GDP500兆円の29%にも相当します。
米国は、主として防衛支出削減による歳出増加抑制と景気回復による税収増加によって財政赤字縮小を実現してきていて(末尾に参考グラフ)、財務省証券の発行残高増加額もかなり小さくなってきました。その過程でまずQE3の「追加買い上げ停止 」が行われ、次の段階として今回の「ゼロ金利の是正 」が始められました。次の「異次元緩和から正常な状態への復帰プロセス」 はどのようなものになるのでしょうか。
通貨当局は少なくとも1%以上までフェデラルファンドレート水準の回復 を目指すのでしょうか。これはたぶんイエスでしょう。政府は財政黒字化によって財務省証券残高の縮小 を目指すでしょうか。これはほとんどノーでしょう。通貨当局はQEで買い入れた財務省証券の削減 を目指すのでしょうか。おそらくそれはノーですが、もし外国から米国への資金流入が急拡大して米国債(財務省証券)への需要が過度に高まる(価格が上がり金利が下がる)ようなことがあれば売るかもしれません。
通貨当局が国債を大量に購入して通貨供給を拡大することは、米国の実績を見る限り正常な状態に回復する出口にたどりつける緊急対策 であれば問題は大きくないように見えます。翻って、日本の異次元緩和は将来出口を見いだすことができるかどうかについては、なお不安が拭いきれません。日本の政府は借金まみれですが、日本国居住者全体では大変大きな対外債権を保有していることは、ひとつの大きな安心材料ではあります。
最後に、参考となるグラフを提示しておきます。(過去の記事のグラフをアップデートしたものです)
<米国の財政収支推移>
大きな画像を見る
<量的金融指標 M1とM2残高の推移>
大きな画像を見る
<債権保有者別不動産担保債務残高(MDO)推移>
大きな画像を見る
<保有者別消費者信用残高推移>
大きな画像を見る
]]> 原油価格の歴史的な推移を振り返ってみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=208 2015-12-23T15:45:00+09:00 2015-12-23T06:49:36Z 2015-12-23T06:45:00Z 原油価格が<歴史的な>低水準ゾーンに下落しています。そこで世界の原油事情に関する<歴史的な>情報の在処を探してみました。無料で誰もが簡単に入手できるものとしては米国EIA(Energy Information Administration)の情報がとても充実していますので、そこで得られる... Tooru Ozawa 日本 Japan 米国EIA(Energy Information Administration) の情報がとても充実していますので、そこで得られるデータを使って原油価格の<歴史的な>推移を振り返ってみます。
最初に、代表的な原油価格であるWTI(West Texas Intermediate)スポット原油価格の推移を振り返ります。
大きな画像を開く
このグラフには、原データのWTIスポットドル/バレル月平均価格 (青い細い線)を元に3つの線を加えてあります。月平均円/ドル為替レートと1バレル158.987リットルで換算した円/リットル月平均価格 (赤い細い線)、そして円価格とドル価格のそれぞれについて過去12ヶ月平均価格 (太い線)を加えました。また、U.S. EIAは、2015年12月8日の月報で2015年12月から2016年12月までの予想価格 も示していますので、それもグラフに加えてみました(予想部分は黄色い背景にしてあります)。スポット価格というのは限界的な需給や思惑を反映して動くので、月平均(細い線)でもかなり大きくかつ頻繁に振幅しますが、、12ヶ月平均(太い線)は細かい振幅を吸収してその時点(月)の基調トレンドを示します。
ドル/バレル月平均価格は先月(2015年11月)に42ドルまで低下し12月に入って40ドルを下回る水準 で推移しています。月平均価格が40ドルを下回ったのは、リーマンショック後の世界不況の動揺による急落があった2009年2月以来6年9ヶ月振りになります。他方、ドル/バレル過去12ヶ月平均価格をみると、先月(2015年11月)は51ドルまで低下していて、この水準は10年4ヶ月前の2005年7月の50ドル以来の<歴史的な>低い水準 になります。
このような<歴史的な>価格変動はどうしてこれほど大きな幅で振幅してきたのでしょうか。その理由を探るひとつの方法として、<歴史的な>供給と需要の変化を見てみることにします。まず、主要産油国(2014年の上位8か国)の原油生産量 (単位:千バレル/日)の推移を見ます。
大きな画像を開く
米国 は既存油井の産油量が落ちる のに伴って減産が続いていました。そのため1998年に世界一の産油国の座をサウジアラビアに譲り、2004年にはロシアにも抜かれてしまいました。ところが、原油価格が著しく高騰したことと技術革新によって、採掘コストが高いタイトオイルの生産が可能 になり、2009年から反転大幅増産に転じました。その結果、2015年には米国の産油量の約半分をタイトオイルが占め世界一の産油国の座を回復 しています。カナダ の近年の大幅増産も米国と同じくタイトオイルの増産によるものです。
サウジアラビア は、イラクやイランの減産をカバーする増産を行ったり、2004年下期以降ドル/バレル月平均価格が40ドルを突破して急騰した過程でも大きな増産を行っていて、概ね需給と価格の変動に合わせて需給安定化のための増産や減産 を行ってきているように見えます。それが可能なのはおそらく生産コストが非常にに安い からです。アラブ首長国連邦 もサウジアラビアとほぼ似通った増産・減産パターンで推移しています。
ロシアの増産 ピッチはとくに1996年から2004年までの間が大きかったので、ドル/バレル月平均価格が40ドル以下の水準で推移する主要因になっていた可能性があります。ロシアは生産を調整することなく一本調子の増産を続けていてサウジアラビアに迫る産油国 になっています。
中国 は、産油国としてはあまり注目されませんが、イランの減産によって(暫定)世界第4位の産油国の地位にあります。しかし、経済成長に伴う旺盛な国内需要増を賄うような増産はできていません。
イラン は、2010年6月の国連決議による経済制裁によって大幅な減産 を続けていますがその分をサウジアラビアが増産でカバーしています。核合意に伴う経済制裁解除 が行われれば減産分の回復が行われることになります。
イラク は、この間を通じてほぼずっと戦場でした。1996年から始まった増産はフセイン政権に対する経済制裁下の国民の困窮を受けて始められた「石油食料交換プログラム」によるもので、2001年からの減産は同時多発テロ以降の制裁締め付け強化とイラク戦争によるものです。2011年12月の米軍撤収後のイラクはISISやクルド勢力などが入り乱れた深刻な内戦状態に陥っていますが、なぜか石油生産量は着実に増加 しています。
1996年から2014年の18年間通算で増産・減産の大きかった国 を並べたのが次のグラフです。
大きな画像を開く
ロシア と米国 の増産量が抜きん出ています。ロシアは18年間一貫して増産を続けた結果ですが、米国は長く減産が続いた後に2009年からの6年間に急激な増産に転じた結果です。イラクはフセイン政権下の経済制裁時点から始まっているので大きくなっています。
他方、減産が大きいのは北海油田の英国 とノルウエー です。リビア の減産が3番目に大きくなっているのは無政府・内戦状態になっているためで資源枯渇や経済制裁によるものではありません。
以上で供給サイドを概観してきましたが、次に需要サイドを見てみたいと思います。需要は原油輸入量の変化 で見ていきます。
大きな画像を開く
EIAの国別原油輸入量データはこちらから 入手できますが、残念ながら2014年のデータがまだなく、肝心な中国とインドのデータは2012年までしかありません。
米国 は、世界一の原油生産国であると同時に抜きん出た世界最大の原油輸入国でもあります。国内原油生産の減少と国内需要の増加によって輸入量は増加を続けていましたが2006年をピークに反転減少に転じ、タイトオイルの増産に伴って輸入量は大きく減少してきました。それでもなお抜きん出た世界第一位の原油輸入国 であることに変わりありません。
中国 とインド は、世界の二大人口大国であり、成長著しい新興工業国で、成長に伴って原油輸入を急激に拡大 してきました。しかし、2011年をピークに減少に転じ ています。統計上の誤差なのか成長減速のためか正確なところは分かりません。この両国の動きが正確に把握しきれず先が読みにくいことが市場を疑心暗鬼にしている面があることは否めません。
日本・ドイツ・イタリア・フランスの非産油先進工業国 は、省エネルギー技術と代替エネルギーによって一貫して原油輸入量の削減を実現 してきています。韓国 はこれらの国々の前段階にあって概ね横ばい推移しています。
1996年から中国・インドの輸入量がピークだった2011年までの15年間通算で輸入量増減の大きかった国 を並べたのが次のグラフです。
大きな画像を開く
中国・インド・米国の3か国で輸入量増加の太宗を占めていた ことは明らかです。しかし、2012年以降に米国の輸入減少は加速していて、中国とインドも輸入増加にストップがかかった可能性がありますが実態は判然としません。他方、日本は世界で最も原油輸入を大きく減らした国 になっています。
さて、石油輸入国の多くは「戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve: SPR)」 を行っています。世界最大の石油輸入国である米国のSPRは2015年9月に過去最高の156日分にまで上昇しています。これは目先の米国の輸入減少要因になります。
大きな画像を開く
以上、原油生産と輸入の<歴史的な>推移を主要な生産国と主要な輸入国について振り返ってきました。とくに原油生産は政治や戦争によって大きく変動してきたことが分かりました。今後もそうであり続けるようです。
]]>急速に改善が進む経常収支の変化を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=207 2015-12-09T13:37:00+09:00 2015-12-18T10:57:24Z 2015-12-09T04:37:00Z 12月8日に財務省から「平成27年10月中 国際収支状況(速報)の概要」の発表がありました。月次の数値は、季節的要因や月の日数や月ズレなどによって振幅が大きくなりがちなので「季節調整値」というのも示されています。しかし、それでも単月の数値の推移ではなかなか現在... Tooru Ozawa 日本 Japan
財務省の「時系列データ:国際収支」(リンクはこちら) で、1996年1月以降の月次データを入手することができます。そこで、過去12ヶ月間の計(過去1年)の月次の動き にして推移を見てみることにします。過去1年間計の月次推移グラフは、前月比ではなく前年同月比 が増加すれば右肩上がりに、前年同月比が減少すれば右肩下がりになります。したがって以下では、前年比のトレンドを見るために過去12ヶ月計の数値を使って長期的な月次推移を見ていきます。
まず、経常収支の改善 を概観してみます。
大きな画像
経常収支の(過去12ヶ月の計 =以下ではこの但し書きは省略します=)月次推移を見ると、2010年12月の19.4兆円の黒字をピークに収支悪化(黒字縮小)が約3年半(44ヶ月)続きました。しかし、2014年8月の▲0.7兆円の赤字をボトムに反転改善(赤字縮小) が始まり、14ヶ月後の2015年10月は15.2兆円の黒字まで一気に改善しています。経常収支は過去14か月で15.9兆円も改善 (黒字回復から黒字拡大)したことになります。しかも、直近数ヶ月のトレンドを見ると改善はもう少し先まで続きそうに見えます。
2014年9月以降の経常収支の改善15.9兆円 は、貿易収支の改善(赤字縮小)10.2兆円 、第一次所得収支の改善(黒字拡大)4.1兆円 、サービス収支の改善(赤字縮小)1.7兆円 、その他収支の悪化▲0.1兆円、によるものです。
以下では、これらの内訳についてもう少し詳しく見ていくことにします。最初は、貿易収支の改善 です。
大きな画像
経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、貿易収支は10.2兆円改善(赤字縮小)しました。これは、輸出が5.4兆円増加し輸入が4.8兆円減少した からです。
しかし、輸出は、足元の2015年9月に2年7か月振り(「量的・質的緩和」によって大幅な円安が始まった2013年3月の前月の2013年2月以来)に減少に転じ、2015年10月も連続して減少していて、しかも僅かながら減少幅が拡大しています。輸出は、大幅な円安が進んだことを主因に増加を続けてきましたが、円安による輸出の押し上げ効果は概ね出尽くした と見ることができそうです。
他方、輸入は、円安による膨張以上に大きく増加して貿易収支の赤字を拡大させてきました。その要因のひとつは原油価格(ひいてはLNG価格)の著しい上昇でした。しかし、原油スポット価格は2014年9月から2015年1月の4ヶ月間に一気に半値水準に大幅下落しました。2015年10月の(過去12か月間計の)原油およびLNGの輸入は、原油価格の低下をまだ全部反映しきっていないので、輸入の減少は少なくともあと数ヶ月程度は続く可能性が高い と考えられます。
したがって、貿易収支の改善(赤字縮小)は、あと数ヶ月程度は続く可能性が高いものの、改善(赤字縮小)の幅は徐々に小さくなり、近々に(過去12か月間計の)貿易収支の黒字回復が実現されるかどうかはやや微妙というところではないかと予想されます。
次に、第一次所得収支の改善 を見てみます。
大きな画像
経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、第一次所得収支は4.1兆円改善(黒字拡大)しました。
4.1兆円の内訳は、「直接投資」のネット受取増が2.7兆円、「証券投資」のネット受取増が1.3兆円で、雇用者報酬やその他の所得のネット受取の増減はきわめて僅か(0.0兆円←220億円)でした。
更に、「直接投資」のネット受取増2.7兆円の内訳は、「再投資収益」のネット増が1.8兆円、「配当金・配分済支店収益」のネット受取増が0.9兆円で、「利子所得等」のネット受取増はきわめて僅か(0.0兆円←364億円)でした。また、「証券投資」のネット受取増1.3兆円の内訳は、「債券利子」のネット受取増が1.0兆円で、「配当金」のネット受取増が0.3兆円でした。(注:「再投資収益」は海外支店・子会社・関連会社の内部留保増減の持ち分相当です)
第一次所得収支の受取は主として外貨建てで支払は主として円建てなので、円安によってネット受取は膨張します。第一次所得収支も、輸出と同様に2015年9月に僅かに減少に転じ2015年10月も減少が続いているので、やはり円安による膨張効果は概ね一巡した と見られます。しかし、経常収支黒字基調に変わりはなくネット対外資産は増加を続けているので外貨ベースの受取は基調的には増加していきます。したがって、第一次所得収支が基調的に増加傾向にあることには変わりありません。
なお、長期的に振り返ると、第一次所得収支は、債券利子収支の割合が6〜7割から4割に縮小し、株式収支や直接投資収支の割合が過半を超える構成変化が進んできました。日本は、貿易収支やサービス収支の赤字ににもかかわらず、第一次所得収支の黒字によって経常収支黒字を確保しています。「経常収支発展段階説」に従えば、このような国は第5段階の「成熟した債権国家 」に分類されます。これまで日本の対外資産の太宗はローリスク・ローリターンの債券投資に著しく傾斜していましたが、外国株式や直接投資などのハイリスク・ハイリターン投資の割合が増えつつあって、幾分か「成熟」が進みつつあるように見えます。
最後に、サービス収支の改善 について見てみます。
大きな画像
経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、サービス収支は1.7兆円改善(赤字縮小)しました。
1.7兆円の改善(赤字縮小)の内訳は、旅行収支の改善1.2兆円 (赤字から黒字に転換)、知的財産権等使用料収支の改善1.0兆円 (黒字拡大)、金融サービス収支の改善0.3兆円(黒字拡大)、建設収支の改善0.2兆円(黒字拡大)、保険年金サービス収支の改善0.1兆円(赤字縮小)、通信・コンピュータ・情報サービス収支の悪化▲0.3兆円(赤字拡大)、その他業務サービス収支の悪化▲0.7兆円(赤字拡大)、その他収支の改善0.1兆円でした。
サービス収支の長期推移を見て一見して分かる特徴は、貿易収支や第一次所得収支とは違って、2008年から2009年のリーマンショック不況の影響はあまりはっきりしないことです。また、一貫して赤字なので、円高になると赤字が縮小し円安になると赤字が膨らむはずですが、為替変動との相関関係はそれほど明確には見えません。逆にいうと、サービス収支は景気や金利や為替よりも「日本の対外サービス取引構造の変化」により大きく影響されてきた ということが分かります。
構造変化として特筆すべきことは、?知的財産権等使用料収支が2003年3月に黒字転換して以降も黒字を拡大していることと、?旅行収支が2015年1月に黒字転換して急ピッチに黒字拡大していることです。とくに、旅行収支は、1996年12月には年▲3.6兆円もの大幅赤字だったものが、2015年10月には年1.0兆円の黒字に4.6兆円も改善しています。また、2014年8月から2015年10月の旅行収支の改善1.2兆円はその間の経常収支改善15.9兆円の8%を占めています。
知財収支と旅行収支の改善(黒字拡大)が今後も続いていくのかあるいは勢いが弱まるのかは予測が難しいところです。しかし、「成熟した債権国家」としてより「成熟」していくには、知財収支と旅行収支の稼ぎをもっと増やしてサービス収支全体の黒字化を実現していく必要があることは間違いありません。
ところで、2014年8月から2015年10月までの貿易収支とサービス収支の改善の計11.9兆円は名目GDPの純輸出の増加に相当するので、これによって14ヶ月で名目GDPが11.9兆円(年率換算すると概ね2%程度)押し上げられた ことになります。経常収支と純輸出は当面の数ヶ月はなお改善が進むと予想されますが、改善のピッチは徐々に緩やかになると予想されます。
]]> 米国大統領と財政政策の変遷を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=206 2015-11-05T03:32:00+09:00 2015-12-18T12:54:43Z 2015-11-04T18:32:00Z 2017年1月に新しい米国大統領になる候補者選びの長丁場の闘いがすでに始まっています。その動向について論評する知見は何も持ち合わせていませんが、過去から現在の歴代大統領の時代は、マクロ経済の実績から見るとどうだったのかを振り返ってみたくなりました。
最初... Tooru Ozawa 米国 US
最初のグラフは、1960年から2014年までの暦年の名目GDPの推移です。共和党政権の時代は薄い青の背景にしてあり、したがって白い背景のところは民主党政権の時代を示しています。
大きな画像
米国の名目GDPの近似線を入れてみると、1960年から1990年までは概ね年率8.4%拡大線に沿いながら拡大し、1990年から2007年までは概ね年率5.3%拡大線に沿って拡大していました。しかし、2008年後半から2009年に著しい景気後退が生じ、2010年から再び年率3.6%拡大線に沿って拡大を始めています。3.6%拡大線は2002年の実績にクロスするので、もしかすると2003年から2007年の実績は安定成長を超えた景気加熱であったようにもみえます。その結果、2009年は、この55年間で初めて名目GDPが前年割れ(マイナス成長)となった特筆すべき年になっています。そこで、政権は共和党のブッシュ大統領から民主党のオバマ大統領に手渡されました。オバマ政権は、過去半世紀で最も厳しい経済状況の中で船出したということができます。
名目GDPは2008・2009年を除けば、程度の差こそあれ半世紀の間一貫して右肩上がりで拡大を続けてきました。これは凄いことです。しかし、当然、その中味は大きく変化してきました。そこで次に、支出側の名目GDPの構成比率の変化を見てみることにします。なお、純輸出と在庫投資増減はマイナス値になる場合があるので除外してあります。
大きな画像
このグラフを見ると、名目GDPに占める政府消費支出の比率が縮小して「小さな政府」に向かったのは、共和党政権ではニクソン大統領の時代だけで、後は、いずれも民主党政権のカーター大統領・クリントン大統領・オバマ大統領の時代でした。逆に、名目GDPに占める政府消費支出の比率が拡大して「大きな政府」に向かったのは、民主党政権では1960年代のケネディ大統領とジョンソン大統領の時代だけで、後は、いずれも共和党政権のフォード大統領・レーガン大統領・ブッシュ(父)大統領・ブッシュ(ジュニア)大統領の時代でした。共和党「小さな政府」(緊縮財政)・民主党「大きな政府」(積極財政)という概念は、1970年代半ばを最後に完全に逆転しているように見えます。
そこで、次に、米国の財政収支の推移を見てみることにします。最初は、財政収支とそのGDP比の推移を見ます。
大きな画像
最初のグラフで見たように名目GDPの規模は著しく拡大しているので、問題は財政赤字の額ではなく名目GDPに対する比率です。1960年代後半から1970年代初めは、財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」とハイパーインフレーションが大きな課題になっていました。しかし、今日から見ると、名目GDPに対する財政赤字の比率は当時のインフレ率の高さを考えると著しく小さい僅かなレベルに過ぎないように見えます。
財政赤字は、歳入を上回る財政支出が行われるために生じます。そこで、次に、歳出と歳入の推移を見てみることにします。
大きな画像
これを見て特筆すべきことは、1960年以降2009年までの50年間に歳出が前年より削減された年は一度もなかった ことです。皮肉なことに、オバマ大統領の行った「Change」の最も大きなもののひとつは、合衆国史上なかった「歳出総額のカット」 を行ったことではないかと思われます。しかし、歳出カットはけしてオバマ大統領や民主党が目指していたものではありませんでした。
歳入側を見ると、ブッシュ政権時代とオバマ政権時代に過去にない大きな縮小があります。ブッシュ大統領は、財政支出拡大ではなく時限減税によって(すなわち共和党らしい「小さな政府」化によって)景気刺激を行ったので、歳入が大きく減少しましたが、結果的に歳入減に見合う歳出削減は行わなかったので、財政赤字は大きく拡大し、非常に景気刺激的な財政政策になりました。オバマ政権になってからの歳入縮小は、ブッシュ政権時代のバブル経済崩壊に伴う著しい景気悪化によって税収が縮小したからです。しかし、半世紀来一度もなかった名目GDP縮小という経済金融危機に対して、財政支出を拡大して下支えする必要がありました。そのため、オバマ政権初年度の2009年には財政赤字は額は勿論のこと名目GDP対比でも史上最大規模に膨らむことになりました。
景気の底割れを回避するために、ブッシュ時限減税の期限延長(実質増税回避)や歳出拡大を続けようとしましたが、2011年5月16日に連邦政府債務は法定上限に達してしまうことになり、これは「財政の崖(fiscal cliff)」 と呼ばれました。景気対策と財政規律の板挟みの中でデフォルトぎりぎりまで議会共和党との攻防を続けた結果、なんとかデフォルトは回避されました。しかし、その後も財政赤字が続いているので、歳出を拡大する余地は全くなくなりました。
さて、それでは、歳出の中味の推移はどうだっかということをもう一度見ていきます。ここからは1990年以降の25年間の変化を1990年を100とした指数で見ていきます。
大きな画像
まず、著しく明確なのは、共和党政権のブッシュ(父)大統領とブッシュ(ジュニア)大統領の時代は、イラクやアフガニスタンでの戦争と占領を行って国防支出を著しく拡大 したのに対して、民主党政権のクリントン大統領とオバマ大統領の時代には国防支出が純減 していることです。オバマ政権はアフガニスタンとイラクから撤退し、「アラブの春」の民主化支援のための積極的な軍事対応は行いませんでした。必ずしもその結果だと言い切ることはできませんが、中東ではISが台頭し、膨大な数の難民が欧州に押し寄せる混沌とした状況に陥っています。
さて、実績から見て、共和党の「小さな政府(緊縮財政)」と民主党の「大きな政府(積極財政)」というイメージは、とくに国防支出の拡大と縮小の面で全く逆の実績になっています。これにはいろいろな理由があるでしょうが、共和党の「小さな政府」理念は政権野党にいるときに最も強く発揮され、政権与党になっているときは必ずしも発揮されにくい、というように推測することができそうです。
政権を担当して、国防支出を含む財政支出を削減した最後の共和党大統領はニクソン大統領でした。ベトナム戦争を終結させ、共産党中国との国交を樹立して世界の表舞台に招き入れ、ドルの金兌換停止と為替変動相場制移行を行いました。ウオーターゲート事件で失脚しましたが、ニクソン大統領が最も共和党らしい政策を断行した最後の大統領だったと言えるのではないかと思います。さて、2017年に発足する新政権は、どのような方向に動いていくのでしょうか?
]]> 日本に住む外国人の年齢構成を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=205 2015-09-24T01:47:00+09:00 2015-12-18T12:57:42Z 2015-09-23T16:47:00Z 日本に住む(在留する)外国人について、以下の二つの記事で、「在留資格」(日本で暮らす目的や理由)と「国籍」(どこから来たか)を軸に10年くらいの傾向を見てみました。要約すると、日本に住む外国人は2008年をピークに減少に転じ、2012年をボトムに再び緩やかに増加... Tooru Ozawa 日本 Japan 在留資格」(日本で暮らす目的や理由)と「国籍 」(どこから来たか)を軸に10年くらいの傾向を見てみました。要約すると、日本に住む外国人は2008年をピークに減少に転じ、2012年をボトムに再び緩やかに増加に転じていますが、2014年末現在ではまだ2008年の水準に回復していません。在留資格別では、「永住者等」が少しずつ減少を続けていて 、「永住者等以外の長期在留者」が近年少し増加 しています。また、国籍別では、ブラジル・ペルーの「日系外国人」と特別永住者・韓国の「韓国・朝鮮」の減少 が一貫して続いていて、近年の全体の増加はベトナム・ネパールの急増 によって生じています。
「日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる 」(在留資格)
「日本に住む外国人の国籍別の変化を見てみる 」(国籍)
法務省「在留外国人統計」 データ整理の最後の分析軸は「男女別・年齢階層別 」です。直近の2014年の状況を以下で概観してみます。とくに、現在の「永住者等 」の男女別・年齢階層別の構成には過去の歴史が反映 されています。
まず初めに、2014年の日本の年齢階層人口ピラミッドに占める外国人在留者の割合を見てみます。
大きな画像
2014年の日本の人口は127,083千人でした。そのうち在留外国人は2,122千人で、僅かに1.67% を占めるに過ぎませんでした。しかし、年齢階層別にみると、20代人口 12,881千人のうち在留外国人は549千人(4.26% )を占め、また30代人口 16,137千人のうち在留外国人は479千人(2.97% )を占めています。すなわち、日本に住む外国人は若い人が多く 、高齢者人口に比べてかなり少ない日本の若い世代の人口を少しだけ補っていることが分かります。
このことを、在留外国人統計の男女別・年齢別データを使って、「在留資格」と「国籍」にブレークダウンして見ていきます。男女別・年齢階層別の構成は「在留資格」と「国籍」によって著しく異なる ことが見えてきます。
大きな画像
まず、「在留外国人総数 」(上の左上のグラフ)は、2,122千人で、男性が980千人、女性が1,142千人で、女性が男性より17%多く なっています。年齢階層構成は、19歳未満の未成年者が著しく少なく、20歳以上の成人人口は年齢が上になるほど少なくなるピラミッド型になっているので、全体としてはやや女性側が膨らんだ「クリスマスツリー型」 になっています。これが全体像です。
このうち日本により長く暮らしている「永住者等 」(上の左下のグラフ)は、在留外国人総数の64%にあたる1,367千人で、男性が568千人、女性が799千人で、女性が男性より41%も多く なっています。年齢階層構成は、すでに長い期間日本に住んでいる人が多く含まれるので、19歳以下の未成年もある程度いて、全体としては女性側にかなり偏った「つぼ型」 になっています。
他方、日本に長く暮らしていない「永住者等以外の長期在留者 」(上の右下のグラフ)は、在留外国人総数の36%にあたる754千人で、男性が412千人、女性が342千人で、こちらは逆に女性が男性より17%少なく なっています。「留学 」と「技能実習 」が在留目的の1位・2位を占め、日本に住んでいる期間は短いので、20代が400千人で53% 、30代が194千人で26% 、合わせて79%を占めていて、それ以外の年代はきわめて僅かしかいません。したがって、全体としてはやや男性側に膨らんだ「地球ゴマ型」 になっています。
「在留資格」別の年齢階層構成は、主に日本で暮らしている期間の長さの違いによって著しく大きな違い が生じています。そこで、住んでいる期間の長い「永住者等」について、更に細かい「在留資格」別にブレークダウンして見てみることにします。「在留資格」によって男女別・年齢階層別の構成 は著しく異なっています。
大きな画像
「特別永住者 」(上の左上のグラフ)は、358千人で、男性が179千人、女性が180千人で、男女ほぼ同数 になっています。年齢階層構成は、60歳代が最も多く、69歳以下の2世(子)・3世(孫)・4世(ひ孫)世代は完全な「逆ピラミッド型」 になっています。これは、この在留資格の新たな許可は日本で生まれた子孫に限られる上に、若い世代は日本国籍への「帰化」によって減り続けているので子孫の出生数が減り続けるという、減少の循環が働いている からです。子孫の出生数減少によって、「特別永住者」人口の減少要因として「帰化」が減っていき「死亡」が増えていくことになっていくと考えられます。
「日本人の配偶者等 」(上の右上のグラフ)は、145千人で、日本の女性と結婚した外国人男性が48千人、日本の男性と結婚した外国人女性が97千人で、女性が男性の2倍以上 になっています。年齢階層構成は、30代が最も多く年齢が上がるほど急激に少なくなっているのは、ある程度の期間を過ぎると在留期間無制限の「永住者」に移行していく人が多い ためです。人数は毎年減少しているので、新たに日本人と結婚して日本に住み始める外国人よりも、すでに日本人と結婚していて「永住者」に移行する外国人の方が多いということになります。ちなみに、これは日本では日本人男性と外国人女性の国際結婚の方が多いことを示しているのではなく、日本人の国際結婚の場合は男性側の国に住む傾向が強い ということを示していると考えられます。
「定住者 」(上の左下のグラフ)は、160千人で、男性が74千人、女性が85千人で、女性が15%多く なっています。年齢階層構成は、日系人(日本から移民した人の子孫)とその家族が多くを占めていて、受け入れ制度が始まってから20年を超えるので子供も増えている 反面、帰国するか在留期間無制限の「永住者」に移行するか しているので、40歳以上の人口はぐっと少なく なっています。
「永住者 」(上の右下のグラフ)は、677千人で、男性が255千人、女性が422千人で、女性が男性より65%も多く なっています。これは女性が多い「日本人の配偶者」から「永住者」に移行した人が多く含まれるからです。年齢階層構成は、一定の期間以上日本に住んだ人が「永住者」資格を得られる ので、40歳以上が多くなっていますが、高齢者人口はまだ少ない状態にあります。
さて次に、「国籍 」別の「男女別・年齢階層別」構成の違いを在留者数の多い順 に見ていくことにします。なお、国・地域別の男女別・年齢別の統計は、3か月未満の「短期在留者」を含む「在留者総数」 になっています。
大きな画像
「中国 」(上の左上のグラフ)は、735千人の最大勢力で、男性が309千人、女性が426千人で、女性が男性よりも38%も多く なっています。「中国」は、「定住者」以外のほぼ全ての「在留資格」で最大数を占めており、とくに「日本人の配偶者」(日本人男性と結婚した外国人女性)でも最大数を占めている からです。年齢別人口構成は、「クリスマスツリー型」よりも年齢が高い人口が少ない「とんがりキノコ型」 になっています。これは日本国籍に「帰化」する人が少なくない ためです。
「特別永住者 」(上の右上のグラフ)は、国籍ではありませんが、みなし国籍として再掲しています。統計上2番目に多い「韓国・朝鮮」543千人から「特別永住者」358千人を引いた184千人を「韓国」とみなして後で別途説明します。
「フィリピン 」(上の左下のグラフ)は、3番目に多い236千人で、男性が59千人、女性が177千人で、女性が男性の3倍も多くなっているのがきわめて特徴的 です。これは、「日本人の配偶者」(日本人男性と結婚した外国人女性)で中国と並ぶ多数を占める からです。また、「技能実習 」資格で中国・ベトナムに次ぐ13千人が在留しており、看護師・介護福祉士を目指す女性が多く含まれていると考えられます。年齢別人口構成は、40代・30代が多く なっていますが、これは日本国籍に「帰化」する人が「中国」に比べて少ない ためではないかと推測されます。
「韓国 」(上の右下のグラフ)は、法務省統計の「韓国・朝鮮」543千人から「特別永住者」358千人を引いた184千人を「韓国」とみなしています。「韓国」は、「中国」「特別定住者」「フィリピン」に次ぐ4番目に多い在留外国人です。男性が71千人、女性が113千人で、女性が男性より59%も多く なっています。「日本人の配偶者」が15千人で4位・「家族滞在」目的が13千人で2位 になっていることなどによるためではないかと推測されます。年齢別人口構成は、女性は、40代・50代が最も多く60代も相応にいて、中国やフィリピンに比べて年齢層が一段高いことが特徴的 です。他方、男性の方は、仕事目的の「在留資格」の人が多く、後で述べる「米国」とかなり年齢階層別の構成が似通っています。
大きな画像
「ブラジル 」(上の左上のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)4番目に多い178千人で、男性が96千人、女性が81千人で、女性が男性より16%少なく なっています。年齢別人口構成は、働き盛りの30代・40代が多く子供もかなりいて高齢者は少ない「つぼ型」 になっています。これは、「定住者」資格の日系人(日本から移民した人の子孫)が多くを占め、「定住者」は配偶者と実子も在留が認められるので家族で来た人たちも多く、また受け入れが始まってすでに20年以上が経過して日本で生まれた子供も少なくないからです。しかし、総数は2008年のピークから半数近くまで減っています。日本国籍に「帰化」した人は多くないので、家族がいない人たちを中心にブラジルに帰国したのではないかと推測されます。
「ベトナム 」(上の右上のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)5番目に多い102千人で、男性が59千人、女性が43千人で、女性の方が男性より27%少なく なっています。年齢別人口構成は、20代が65%を占める「地球ゴマ型」 になっています。「留学 」資格在留者数が「中国」に次いで2番目に多い33千人 で、「技術実習 」資格在留者も「中国」に次いで2番目に多い34千人 です。日本に学びに来る若者が近年急激に増えているのです。
2014年末の「国・地域別」のこの後の順位は、「台湾」85千人・「米国」80千人・「タイ」73千人・「ペルー」48千人・「ネパール」43千人・「インドネシア」43千人と続きますが、最後に特徴的で対照的な「米国」と「ネパール」の2つを取り上げます。
「米国 」(上の左下のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)7番目に多い80千人で、男性が51千人、女性が29千人で、女性は男性の半分程度 です。年齢階層別構成は、在留者数は多くないにもかかわらず、女性が著しく少ない「クリスマスツリー型」 に幅広く分散しています。また、在留資格の「教育」5千人・「公用」2千人・「宗教」2千人・「外交」1千人は国別1位で、短期滞在目的の「家族訪問」8千人は国別2位など、在留目的や理由が最も広く分散 しています。
「ネパール 」(上の右下のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)10番目に多い43千人で、男性が28千人、女性が15千人で、女性は男性の半分程度 です。年齢階層別構成は、同じように近年急増している「ベトナム」に似た「地球ゴマ」型 になっています。在留資格の「留学」16千人は国別4位、「家族滞在」10千人は国別3位、「技能」7千人は国別2位で、ほとんどはこれに集中しています。ここからやや大胆に推測すれば、ネパール・インド料理人とその家族と若い留学生で太宗を占めている のではないかと思われます。
さて、だいぶ長くなりましたが、日本に住む外国人全体のプロフィール を、「在留資格」「国籍」「男女別・年齢別」の切り口でブレークダウンして、3回にわたって細かく見てきました。日本にはすでに2百万人を超える多くの外国人が住んでいて、年間に日本に入出国する外国人の数は延べ1,500万人を超えます。外国人については、海外や国内で起きた事件のニュースに反射的に反応して、「移民」や「難民」のようなきわめて抽象的で曖昧な概念を巡って感情的な意見が表明されることが多いですが、意見を簡単に決める前に、全体の現状のデータを知ってどのような将来の姿(数値)を目標とするべきかを議論することが重要なのではないか と思います。
]]> 日本に住む外国人の国籍別の変化を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=204 2015-09-19T23:09:00+09:00 2015-12-18T13:02:40Z 2015-09-19T14:09:00Z 「日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる」では、主に「在留資格別」の変化を見てみました。外国人が日本で暮らすには在留資格が必要で、在留資格が日本で暮らす目的や理由に当たるからです。前の記事では、在留資格が「特別永住者」「永住者」「定住者」「日本人の... Tooru Ozawa 日本 Japan 日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる」では、主に「在留資格別 」の変化を見てみました。外国人が日本で暮らすには在留資格が必要で、在留資格が日本で暮らす目的や理由 に当たるからです。前の記事では、在留資格が「特別永住者」「永住者」「定住者」「日本人の配偶者」「永住者の配偶者」の合計を「永住者等」と呼ぶことにし、それ以外の「長期在留者」を「永住者等以外の長期在留者」と呼ぶことにしました。
そこで今度は、日本で暮らす目的や理由ではなく、「国籍 」すなわちどこの国から来ているかについて見てみることにします。2014年12月末現在の「永住者等」と「永住者等以外の長期在留者」の国籍別構成は次のようになっていました。
大きな画像
「韓国・朝鮮」には漸次日本国籍への「帰化」が進んでいる「特別永住者」が含まれているので、近年の国籍別の人の移動を見るために、「韓国・朝鮮」を「特別定住者」というみなし国籍と「韓国」に分ける ことにしました。厳密にいえば、「特別定住者」には「韓国・朝鮮」以外に「中国」「台湾」「米国」などの国籍を持つ人たちも含まれていますが、きわめて少数(1%未満:数百人)なのでそれは便宜上無視することにします。
また、法務省の統計では、年によって「中国」に「台湾」を含んだり含んでいなかったり一貫性がないので、「台湾」の動きが見られないのは残念ですが、データの連続性を確保するために「中国」と「台湾」が区分されている年はその合計を「中国」とする こととしました。以上の整理を行った上で、2006年から2014年までの国籍別「長期在留者」数の推移をグラフにしてみました。したがって、2014年12月末の数値は上のグラフとは若干異なっています。
大きな画像
「長期在留者」総数の過去ピークは2008年12月末 の2,177千人でした。その後、リーマンショック不況や東日本大震災の影響などで減少し、ボトムの2012年12月末 には2,034千人まで減少しました。そこから2014年12月末には2,122千人まで回復しましたが、まだ過去ピークまでには回復していません。
そこで、過去ピーク(2008年末)からボトム(2012年末)までの増減数 と、ボトム(2012年末)から近時(2014年末)までの増減数 に分けて、国籍別の増減数をグラフにしてみました。
大きな画像
2008年末から2014年末までの累計増加数の多い順 に上から下に並べてあります。そして、6年間通算でも減少 している米国以下にはピンクの背景をつけてあります。総数 は、減少期4年間に▲143千人減少し、回復に転じた2年間に88千人増加しましたが、まだ過去ピークに比べ▲55千人少ない状況にあります。
減少の多かった、「ブラジル 」「特別定住者 (ほぼ韓国・朝鮮)」「韓国 」「ペルー 」は、いずれも総数ボトムの2012年末の以前も以降も一貫して減少 が続いています。この4つの合計で、2008年から2012年の4年間に▲184千人、2012年から2014年の2年間に▲45千人、6年間合計で▲229千人も減少しました。このうち「特別定住者」は、主として日本国籍への「帰化 」や死亡によって減少していると考えられるので日本から「出国」して減っているわけではありませんが、「ブラジル」「韓国」「ペルー」は、出国者数が入国者数を大きく上回って僅かではありますが日本の人口減少を加速していることになります。
この背景には、バブル経済期の労働力不足を補うための外国人労働力確保対策として、?日系人(日本人移民の子孫)に特別な在留資格(現在の「定住者 」資格)を付与したり、?(結果的には主として中国の貧しい農村部からの)外国人技能実習生に在留資格を付与する、などの政策が行われたことがあります。これらによって、外国人労働者数は1992年(平成4年)までに一気に50万人程度も増加 しました。しかし、リーマンショック不況以降は日本国内の製造業の雇用機会が減り、他方でブラジルでは急速な経済成長があったので、2008年末をピークに減少に転じ、2014年末ではピーク時の半数程度にまで減少しています。日系ブラジル人労働者の多くは雇用機会の多い地方の工業都市にコミュニティを形成している場合が多いので、それ以外の土地では増加や減少はあまり実感されない傾向があります。
他方、増加数の多かった、「ベトナム 」「中国 」「ネパール 」「フィリピン 」は、総数ボトムの2012年末の以前も以降も一貫して増加 が続いています。2008年から2012年の4年間に52千人、2012年から2014年の2年間に100千人、6年間合計で152千人も増加しました。とくに、「ベトナム」60千人と「ネパール」30千人の急増は大きな変化 として目を惹きます。
「ベトナム 」は、人口が1億人に迫る大国で、一人当たりGDPは2,073米ドル(約25万円)という経済発展「離陸中」 の状態にあり、日本企業の進出も増えています。他方、「ネパール 」は、人口26百万人で、一人当たりGDPが703米ドル(約8万円)という国連の後発開発途上国リストに挙げられる最貧国のひとつ で、日本企業の進出もほとんどありません。こういう人たちが、日本社会の発展に貢献し日本社会にうまく溶け込んでいけるように支援するプログラムを整備していく ことはとても重要なことではないかと思われます。
<参考>中国の一人当たりGDPは7,589米ドル(約91万円)
]]> 日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=203 2015-09-18T12:20:00+09:00 2015-12-18T13:04:01Z 2015-09-18T03:20:00Z 外国人が日本に住む(3か月を超えて「在留」する)には在留許可を受ける必要があります。在留許可を受けると「在留カード」が交付され住民登録されます。法務省【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】から、2006年以降の詳しいデータを入手することができます。
... Tooru Ozawa 日本 Japan 法務省【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】 から、2006年以降の詳しいデータを入手することができます。
在留許可を受けるには在留資格要件を満たすことが必要です。2014年12月末現在、日本国内に在留している外国人の総数は2,476,103人でした。そのうち、3か月以内に出国する条件で入国し在留している「短期在留者」は336,169人で、3ヶ月を超えて在留する許可を受けて在留している外国人は2,139,934人でした(以下ではこれを「長期在留者 」と呼ぶことにしますがこれは公式の用語ではありません。一時出国中の在留許可者もいますからこれを使うことにします。)。在留許可を受けられる資格要件はいろいろありますが、2014年12月末現在の主な在留資格別の在留者数をグラフにしてみました。
大きな画像
一番右の、「特別永住者 」358,409人「永住者 」677,019人「定住者 」159,596人「日本人の配偶者 」145,312人「永住者の配偶者 」27,066人の合計1,367,402人を、以下では「永住者等 」と呼ぶことにし、それ以外の「長期在留者」772,532人を「永住者等以外の長期在留者 」と呼ぶことにします。「永住者等以外の長期在留者」の主な資格別在留者数は、「留学 」214,539人「技能実習 」167,641人「家族滞在 」126,005人「人文知識・国際業務 」76,908人「技術 」45,900人「技能 」33,378人「特定活動 」28,977人「企業内転勤 」15,408人で、残りの「その他の資格」で在留する人は63,776人でした。
「留学 」資格の在留者は、大学の学部や大学院だけでなく日本語学校や専門学校で学ぶ外国人も含むので、他の経済先進諸国に比べるとまだまだ少ない印象を受けます。また、海外、とりわけアジア諸国で暮らす「永住者以外の在留日本人」の在留理由で最も大きかったのは日本の「民間企業」の海外拠点で働くことでしたが、それに比べると外国企業の「企業内転勤 」で日本に来て働いている外国人は著しく少ない印象を受けます。
さて、以上の概観を踏まえて、もう少し詳しく中味を見ていきたいと思います。まず、2006年から2014年までの9年間の「長期在留者」数の推移を「永住者等」と「永住者等以外の長期在留者」に分けて見てみます。
大きな画像
まず驚くのは、「長期在留者」の総数は2百万人を少し超える水準であまり増加していない ことです。近年日本で暮らす外国人が増えてきたという感じを持つ人は少なくないと思いますが、事実はそうではないようです。日本の人口は日本国内に居住する人の数ですから、外国籍在留者も含まれます。少なくともこれまでは「長期在留者」の数は日本の人口減少を緩和する方向に動いてきてはいない ことが分かります。その原因のひとつは「永住者等」が2008年をピークに少しずつ減少してきている ためです。
そこで次に、「永住者等」の資格別在留者数の推移を見てみます。
大きな画像
「永住者」と「永住者の配偶者」は一貫して増加していますが、「特別永住者」「定住者」「日本人の配偶者」は減少を続けています。そのため、「永住者等」全体は2008年をピークに減少 が続いています。「永住者」「特別永住者」「定住者」の資格要件は厳密に決められていますが、分かりにくいので、2014年12月末現在の「長期在留者」の国籍別構成比率を合わせて見ていくことにします。
大きな画像
「特別永住者 」は、終戦後に旧日本領土に新たに生まれた国に「帰国」できなかった(あるいは帰国しなかった)人たちで、新たな母国における内乱・戦争やそれによる窮乏などに伴って発生した「難民」だったと考えることができます。99%が「韓国・朝鮮」なのは、朝鮮半島の内乱・戦争が激しかった上に新しい国が南北に分断されて生まれてしまったためです。したがって、政府の統計も「韓国・朝鮮」としていて、「韓国」と「北朝鮮」の内訳数を公開していません。直系の子孫以外に新たな資格付与は行われないので、子孫の日本国籍への「帰化」や死亡などによって一貫して減少 が続いています。
「日本人の配偶者等 」は、過去の一時期に嫁不足の農村などに外国人花嫁を斡旋する事業が盛んに行われた結果として、国籍は「中国」「フィリピン」の比率が高くなっています。しかし、近年は<在留期間無期限>の「永住者」に移行する人が新たな許可数を上回って、一貫して減少 が続いています。
「定住者 」は、?日系人(日本から移民した人の子孫)とその配偶者、?「定住者」の実子、?日本人・「永住者」の配偶者の実子の連れ子、?日本人・「永住者」・「定住者」の6歳未満の養子、?中国残留邦人とその親族などで、<在留期間は3年または1年の有期限 >とされています。国籍は、?と?で「ブラジル」「ペルー」、?と?で「フィリピン」「中国」、?で「中国」の割合が多くなっています。やはり、近年は<在留期間無期限>の「永住者」に移行する人が新たな許可数を上回って、一貫して減少 が続いています。
「永住者 」は、「特別永住者」以外の一般的な永住許可者で、<在留期間無期限 >です。概ね10年以上日本に在留しているなどの要件があるので、基本的に「定住者」など他の在留資格を経た人が「永住許可」を申請することができます。したがって、国籍は「中国」「フィリピン」「ブラジル」「ペルー」が多く、一貫して増加 を続けています。しかし、すでにみたように、「定住者等」全体では2008年をピークに減少に転じています。
なお、「定住者等」の減少要因には「帰化 」すなわち日本国籍の取得があります。帰化許可申請者数等の推移も法務省が公開 しています。それもグラフにしてみました。
大きな画像
過去10年間の趨勢として、「帰化者」は15千人/年水準から10千人/年以下の水準に減少してきています。「不許可」数が著しく増加しているわけではないので、帰化申請者数が減少 していることが分かります。
「韓国・朝鮮」の太宗は「特別永住者」の子孫と考えられ、「特別永住者」の出生数の減少 によって帰化申請者数が減少していると推定されます。「韓国・朝鮮」以外の「帰化者」の太宗は「中国」が占めていて、こちらも趨勢として減少傾向にありますが理由は分かりません。これらによって、「永住者等」のうち「中国」に次いで多くを占める「フィリピン」「ブラジル」「ペルー」の帰化申請者は非常に少ない ことが分かります。これらの国々の「永住者」は、言葉や生活習慣などの違いによってなかなか日本社会に溶け込めきれず、いずれは母国に帰りたいと考える人が多いためかもしれません。
ここまで見てくると、将来の「長期在留者」の増加は、「永住者等以外の長期在留者 」の増加、すなわち新たに日本に住み始める外国人の受け入れ増加にかかってきます。そこで、「永住者等以外の長期在留者」の資格別在留者数の推移を見てみます。
大きな画像
「留学・就学 」は、最も多く、また日本社会に順応するのに最も良い入り方であると考えられます。順調に拡大してきましたが、2011年の東日本大震災(に伴う原発事故)の影響で減少し、ようやく過去ピークを超える水準に回復しました。2014年の国籍別受け入れ数は、「中国」「ベトナム」「ネパール」「韓国」の順となっており、「中国」「韓国」はいまだに過去ピークに回復していませんが、「ベトナム」「ネパール」が大幅に増加しているので、全体を僅かに押し上げています。
「技能実習 」は、最低賃金以下の低賃金で単純労働力を確保するなどの制度目的から逸脱した違法な運用実態が生じたり、リーマンショック不況で受け入れが減ったりしましたが、制度の改善などによって大幅に増加しています。この制度を使った「インドネシア」「フィリピン」「ベトナム」からの看護師・介護福祉士候補者の受入れ などが国籍別の構成に反映しています。
さて、「その他」は、さまざまな資格要件に分かれていますが、これはさまざまな形で日本で働く(あるいは活動する)外国人という理解ができます。2009年末をピークに大きく落ち込んで2012年末にボトムを付けて反転していますが、あまり大きな回復にはなっていません。これは2011年の東日本大震災(による原発事故)で日本を離れた外国人があまり戻ってきていないため ではないかと推定されます。これによって、「永住者等以外の長期在留者」全体も2009年末をピークに減少し、2012年をボトムにようやく上昇に転じるという状況になっています。
以上、日本に住む外国人の数と中味の変化 を統計数値によって見てきました。日本の人口減少本格化 が経済社会の成長発展の桎梏となっていると考えたり、現に労働力の不足 に直面していたりする立場からは、外国人の受け入れをより積極的に拡大するべきだという意見や要望があります。在留外国人統計の中にも、拡大のために行われてきた政策の結果が反映されている部分があります。しかし、日本社会の発展に貢献し日本社会にうまく溶け込める外国人の受け入れだけを上手く拡大するというのはそう簡単ではなく、都合良いことばかりでは済みません。生じる問題をできるだけ小さくするための経験を蓄積して、受け入れプログラムの制度や運用の不断の改善を図っていく必要がありますが、他の経済先進諸国に比べると日本の経験はまだ著しく少ないことは間違いありません。
<参考1>
法務省 報道発表資料「第6次出入国管理政策懇談会報告書「今後の出入国管理行政の在り方」等について」
<参考2>
「在留カード」および「特別永住者証明書」の見本
]]>海外に長期滞在する日本人の変化を見てみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=202 2015-09-09T17:44:00+09:00 2015-12-18T13:05:57Z 2015-09-09T08:44:00Z 海外で暮らした経験のある人に会うことは多いですし、子供がいま海外で暮らしているという年配者に会うことも少なくありません。また、海外在住の人(外国人と結婚した日本女性が多いようですが)のTwitterやブログは人気があるので見つけやすく、いろいろな面白い海外生... Tooru Ozawa 日本 Japan
日本国大使館や総領事館は、「海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に資するため」旅券法の定めにより提出が義務付けられている「在留届」を基礎資料として調査を行い、各年10月1日現在の「海外在留邦人」の状況を把握しており、その統計が毎年公開されています。
<外務省「海外在留邦人数調査統計 」http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html >
まず、「海外在留邦人 」の定義を確認しておきます。「在留邦人」は、海外に3か月以上在留している日本国籍を有する者 で、「永住者」と「長期滞在者」に区分されます。「永住者 」は、(原則として)当該在留国等より永住権を認められており、生活の本拠をわが国から海外へ移した邦人 を指します。「長期滞在者 」は、3か月以上の海外在留者のうち海外での生活は一時的なものでいずれわが国に戻るつもりの邦人 を指します。したがって、3ヶ月未満の短期滞在者(旅行者)は「在留邦人」には含まれません。
以上を理解した上で、「海外在留邦人」の推移をグラフにしてみました。
大きい画像
2014年10月1日現在の「永住者 」は44万人で、1989年の25万人から25年間で19万人(76%)増加しました。「永住者」は、たとえば米国のグリーンカード(永住許可証)を取得した日本国籍者などが想定されます。通常永住許可は簡単には得られないので増加は緩やかですが、それでも2005年ころから僅かながら上向いてきているように見えます。「永住者」が死亡や帰国などで減る数はあまり多くないと想定されるので、全体の増加は新たに外国の永住許可を得る日本人が僅かながら増加している結果ではないかと推定されます。しかし、「永住者」の変化が日本国内に与える影響は基本的にきわめて小さい ものです。
他方、2014年10月1日現在の「長期滞在者 」は85万人で、1989年の34万人から25年間で51万人(150%)も増加しました。「長期滞在者」は、2002年から2006年までかなり大きく増加した後、ほぼリーマンショックに重なる2007年から2010年の間は横ばい気味に推移し、2011年からまた増加基調に転じています。「長期滞在者」の多くはある期間を過ぎると日本に帰国する ので、帰国者を上回る新たな長期滞在者の増加があったということです。「長期滞在者」が入れ替わり続けることで、日本人のうちの海外滞在経験者が累増していくことになります。たとえば、単純計算では、平均2年で入れ替わるとすれば、日本国内には20年で850万人の海外滞在経験者が生まれる理屈 になります。
以下では、「長期滞在者」に絞って、もう少し詳しく見ていくことにします。まず、2014年10月1日の「長期滞在者」85万人は、どの地域でどんな職業についているのかをグラフにしてみました。
大きい画像
全世界の「長期滞在者」85万人のうち、46万人(54%)は「民間企業 」に勤務する人、18万人(21%)は「留学・研究者 」、5万人(6%)は「自由業 」に従事する人、2万人(2%)は日本「政府 」関係の仕事に従事する人で、(このグラフ上の)「その他 」14万人(16%)には同伴家族も含まれます。
最も「長期滞在者」が多いのは「アジア 」地域の35万人(全体の41%)で、うち「民間企業」25万人は世界全体46万人の55%を占め、「留学・研究者」2万人は世界全体18万人の13%を占めます。2番目に「長期滞在者」が多いのは「北米 」地域の26万人(全体の31%)で、うち「民間企業」12万人は世界全体46万人の27%を占め、「留学・研究者」9万人は世界全体18万人の48%を占めます。3番目に「長期滞在者」が多いのは「西欧 」地域の15万人(全体の17%)で、「民間企業」5万人は世界全体46万人の11%を占め、「留学・研究者」5万人は世界全体18万人の26%を占めます。
以上の結果は、中高年にはかなり違和感があります。以前は、海外勤務といえば米国や西欧が主であってアジア勤務は商社やプラント会社勤務の人を除けばかなりまれなことだったからです。
そこで最後に、世界の都市圏別の「長期滞在者」数の推移を見てみることにします。都市別のデータは1996年から2013年までしか公開されていませんが、時系列変化を知るにはこれで十分です。
大きい画像
上のグラフの、2013年10月1日現在の都市圏別「長期滞在者」数上位9都市の合計は28万人で、世界全体84万人の33%を占めます。
1996年は、ニューヨーク が45千人で抜きん出た1位で、シンガポール25千人・香港23千人・ロンドン22千人・ロサンゼルス18千人・バンコク17千人が10千人を超えて続いていました。このとき上海はこの9都市の中で最下位の5千人しかいませんでした。2001年ころから、アジアの上海・バンコクと北米のロサンゼルスが急増した半面、アジアのシンガポール・香港や西欧のロンドン・パリは横ばいに推移しました。ニューヨークは2003年をピークに漸減に転じ、概ねリーマンショックと重なる期間にいったん大きく減少した後回復しましたが、減少傾向は強まっているように見えます。
2007年以降上海 はニューヨークを抜いて世界で一番日本人の「長期滞在者」が多い都市になっています。しかし、そうなってからまだ8年しか経過していないので、日本国内にいる上海滞在経験者はニューヨーク滞在経験者よりもまだまだはるかに少ない ということが言えます。また、直近の傾向として、ニューヨークや上海が減少しバンコク が増加しているのは、日本企業の活動の軸足が北米から中国、更に中国からASEAN諸国に移りつつあることを反映しているように見えます。
]]> 貿易赤字の拡大について考えてみる(その2) http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=200 2015-07-09T13:07:00+09:00 2015-12-18T13:07:33Z 2015-07-09T04:07:00Z 「貿易赤字拡大について考えてみる」では、2008年のリーマンショック以降の長期的な傾向として貿易赤字が拡大してきたことを説明し、その原因は、「鉱物性燃料の輸入の増加」だけでなく「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」が大きいことを説明しました。過去15年で名目GD... Tooru Ozawa 日本 Japan 名目GDPと輸出額がピークだったのが2007年で、ボトムだったのが2009年 でした。2010年以降輸出は大きく回復してきましたが、まだ2007年のピークの水準には届いていません。
この記事のアップが、たまたま原油価格の低下による貿易赤字縮小によって経常収支黒字が拡大したというニュースと重なりました。貿易赤字の拡大が止まって縮小に転じることは、長いスパンで見て大きな変化ですが、鉱物性燃料価格の大幅な低下が生じていたので、すでに十分に予測されていたことです。注目していた点は「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」の方にあったので、直近でそれがどうなっているかをあらためて確認してみたくなりました。そこで、2015年1−5月の5か月の通関実績を2007年・2009年の同期間(5か月間)の通関実績と比較 してみることにしました。
大きな画像
2015年1-5月の輸出総額 は31.3兆円で、ボトムだった2009年の1−5月の19.4兆円からは大きく回復していますが、ピークだった2007年の1-5月の33.1兆円に対してはまだ▲1.8兆円(▲5.4% )少ない水準にあります。内訳をみると、2015年1−5月の「機械類及び輸送用機器」輸出額 は18.7兆円で、2007年1−5月の21.5兆円より▲2.8兆円(▲13.0% )少なくなっています。しかし、その他の輸出額 は12.6兆円で2007年同期の11.5兆円を1.1兆円(+9.6% )上回っています。
また、2015年1−5月の輸入総額 は33.0兆円で、2009年1-5月の29.2兆円を3.8兆円(+13.0% )上回っています。2015年1−5月の「鉱物性燃料」輸入額 は8.3兆円で、2007年1−5月の7.4兆円を0.9兆円(+12.2% )上回っています。その他の輸入額 は24.7兆円で2007年同期の21.8兆円を2.9兆円(+13.3% )上回っています。
これらの結果から、たとえばその他の輸出の増加をけん引しているのは何かというような、調べてみたくなることはいろいろ出てきますが、ここでは前のシナリオに沿って、まず、「鉱物性燃料輸入の増加」の内訳について見ていくことにします。
大きな画像
2015年1−5月の「原油及び粗油」輸入額 は3.5兆円で、2007年1−5月の4.4兆円から▲0.9兆円(▲20.5% )減少しています。他方、「液化天然ガス」輸入額 は2.8兆円で2007年同期の1.2兆円より1.6兆円(+133% )も大幅に増加しています。2007年から2015年の間に全く異なる動きになっているので、さらに輸入量と輸入通関価格(円ベース)の変化を見てみます。
大きな画像
2015年1−5月の「原油及び粗油」の輸入量 は2007年1−5月の輸入量より▲15%減少 していて、輸入通関価格(円ベース) も▲5%低下 しています。ですから、輸入額が▲20.5%(▲0.9兆円)減少したわけです。他方、「液化天然ガス」の輸入量 は2007年同期の輸入量より34%増加 していて、そのうえ輸入通関価格(円ベース) は73%も上昇 しています。ですから、輸入額が113%(1.6兆円)も増加しているわけです。2007年に比べて、「原油及び粗油」の輸入通関価格は下がっているのに「液化天然ガス」の輸入通関価格は上がっています。そこで、輸入通関価格の長期推移を見てみることにします。
大きな画像
「原油及び粗油」と「液化天然ガス」の輸入通関価格(円ベース)の推移を1988年を100とする指数 で比較しました。「液化天然ガス」の輸入価格は長期契約になっているので、「原油及び粗油」の輸入通関価格より値上がりも値下がりにも緩やかに推移しています。過去10年ほどは原油スポット価格の非常に大きな上昇と下落があったので、ある時点間でとると片方が値下がりし片方が値上がりする結果になっています。しかし、長期的にみると、「液化天然ガス」は「原油及び粗油」よりも価格指数が下方で推移 しており、長期的には割安な輸入ができてきていると見ることができます。
さて、最後に、注目したポイントである「機械類及び輸送用機器」の輸出額の変化について、主な品目の輸出額の比較をしてみます。
大きな画像
「機械類及び輸送用機器」の内訳品目は実に多岐にわたっています。そこで、2015年1-5月の輸出額が0.1兆円(1千億円)を超えている主な品目について、2007年同期および2009年同期の輸出額との変化を調べてみました。品目名を青い背景にしている品目は2015年の輸出額が2007年を上回っている品目で、逆に青い背景のない品目は輸出額が下回っている品目です。そのうち減少額が0.2兆円を超える品目には減少額を入れてあります。
このグラフから見えることを挙げてみます。
? 「機械類及び輸送用機器」輸出の減少額(2015-2007)は▲2.8兆円でしたが、乗用車▲1.0兆円/事務用機器(主に電算機およびその部分品)▲0.5兆円/半導体等電子部品▲0.5兆円/映像機器▲0.4兆円/音響・映像機器の部分品▲0.4兆円/2輪自動車▲0.2兆円の合計で▲3.0兆円になります。
? 「乗用車」は減っていますが「自動車の部分品」は増加していますから、海外生産は増加していることがうかがえます。他方、事務用機器(主に電算機およびその部分品)と「映像機器」は、「半導体等電子部品」も「音響・映像機器の部分品」も減っていているので、生産拠点の海外移転で減っているわけではなさそうです。
? 2015年1−5月の輸出額が2007年同期を上回っている品目は沢山あります。生産拠点の海外移転に伴う部分品の輸出の増加と、(消費財ではなく)資本財の輸出増加、に特徴づけられるように見えます。全体としては、消費財輸出の減少(他方で消費財輸入の増加)と、資本財・部分品の輸出増加があり、全体としては輸出額の減少に働いていると見ることができます。
これらはすでに自明のことように思えますが、貿易統計によってその規模やスピードを把握しておくことは意味があるように思われます。
]]> 貿易赤字の拡大について考えてみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=199 2015-07-07T11:50:00+09:00 2015-12-18T13:08:46Z 2015-07-07T02:50:00Z <要旨>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトして... Tooru Ozawa 日本 Japan
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器輸出の減少」による
○「機械及び輸送用機器輸出の減少」は自動車と電気機器の輸出減少が主因である
<本文>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
大きな画像
暦年名目GDPとその内訳について、<1996年と比べた増減額の推移>をグラフに描いてみました。1996年を基準年にしたのは現行基準で1995年以前のデータに遡れない統計があるためで、それ以外に特別の意味はありません。比較基準年からの変化額を比較するため に1996年を仮に用いています。2008年はリーマンショック後の世界同時不況が始まった年で、2011年は東日本大震災による原発稼働停止が始まった年ですので<赤い丸>で囲み、2011年以降の回復期を<赤い背景>にしています。
過去17年間で名目GDPが最も大きかった年は2007年で、最も小さかった年は2009年でした。僅か2年間ながら2007年(ピーク)から2009年(ボトム)の変化は著しく大きく、? 民間需要が△35兆円も減少し、? 公的需要は1兆円増加したものの、? 純輸出が△7兆円減少した ので、? GDP(名目)は△41兆円も減少してしまいました。
2009年(ボトム)から2014年(直近)までの5年間の回復は、? 民間需要が24兆円増加し、? 公的需要が10兆円増加したにもかかわらず、? 純輸出が△17兆円も減少した ので、? GDP(名目)は17兆円しか回復していません。
このグラフから、たとえば、民間需要は今後2007年(ピーク)の水準を超えて拡大していけるのだろうか?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、ここでは、かつて経験したことのない<純輸出の赤字転落と赤字拡大継続 >のところに注目してみたいと思います。内需はある程度回復しつつあるのに、純輸出がGDPの回復を著しく阻害しているように見えるからです。
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
大きな画像
純輸出は財貨とサービスの貿易収支ですから、まずサービス収支の方を一瞥します。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 旅行収支は1.9兆円改善 (赤字縮小で2015年は黒字転換見込み)し、? 知的財産権等使用料収支は0.9兆円改善 (2002年に黒字転換し黒字拡大)し、? 輸送収支は0.2兆円改善(赤字縮小)し、? それ以外のサービス貿易収支が△1.8兆円悪化(赤字拡大)しましたが、? サービス貿易収支全体では1.3兆円改善 (赤字縮小)しました。
このグラフからも、たとえば、それ以外のサービス貿易収支はとくに2011年以降悪化(赤字拡大)が大きくなっているのは何故か?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、サービス貿易収支は一貫して改善してきているので、ここでは純輸出の赤字拡大は全て財貨貿易収支の悪化による ものだということを確認するにとどめます。
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
大きな画像
貿易収支(これ以降は財貨貿易収支を単に貿易収支と呼ぶことにします)は、通関統計によって品目別のデータを入手することができます。貿易収支の赤字拡大は、原油価格の高騰や原発停止による液化天然ガスの輸入量増大などが影響していることは間違いありません。そこで「鉱物性燃料を除いた貿易収支」と「鉱物性燃料輸入」に分けて見てみることにします。
2014年(直近)は2007年(名目GDPおよび輸出額の過去ピーク)に比べて、? 鉱物性燃料輸入額は7.5兆円増加 (貿易収支悪化・名目GDP縮小)し、? 鉱物性燃料を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化 (貿易収支悪化・名目GDP縮小)しました。つまり、鉱物性燃料輸入増加は確かに大きかったのですが鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化の方が2.1倍も大きかったことが分かります。
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる
大きな画像
輸入金額が増加する第一の原因は輸入数量の増加です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 原油及び粗油輸入量は△16%減少 <(77−92)÷92>し、? 液化天然ガス輸入量は32%増加 <(193−146)÷146>しました。原油及び粗油輸入量は今後も減少が見込まれ、原発稼働停止に伴う液化天然ガス輸入量増加は2012年にピークアウト して概ね横ばいに沈静化していますから、輸入金額増加の第一の原因はほぼなくなったと考えることができます。
大きな画像
輸入金額が増加する第二の原因は輸入価格の上昇です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 原油及び粗油の年平均輸入価格(円ベース)は35%上昇 <(497−368)÷368>しており、? 液化天然ガスの年平均輸入価格(円ベース)は89%も上昇 <(433−229)÷229>しました。原油スポット価格(ドル建て)も液化天然ガススポット価格(同)もすでに大幅に下落していますが、ドル建て価格の下落は円安/ドル高によって相殺される面もあり、液化天然ガスは長期契約で輸入されていることもあって、2014年は年平均通関価格(円ベース)の低下はまだ実現していません。
以上から、今後は、輸入数量は増えず年平均通関価格(円ベース)は下がっていく可能性がきわめて高いので、「鉱物性燃料輸入額」が増加して貿易収支及び名目GDPを阻害する可能性は小さく、むしろ輸入額の減少によって名目GDPを押し上げていく 可能性が高いと考えられます。
○「鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器の輸出」の減少による
(再掲)
大きな画像
2007年は、名目GDP過去ピークの年であると同時に、財貨輸出額の過去ピークの年でもあります。2014年は2007年に比べて、? 鉱物性燃料を除いた輸入額が5.3兆円増加 したのに対して、? 輸出総額は△10.8兆円も減少 したので、? 鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化 (31.0兆円の黒字から14.9兆円の黒字に半減)しました。
大きな画像
2014年の2007年に対する輸出減少額△10.8兆円のうち△10.6兆円(98%)は「機械及び輸送用機器」輸出の減少 でした。「機械及び輸送用機器」の主な品目別の減少額は、? 自動車△3.4兆円 、? 半導体等電子部品△1.6兆円 、? 事務機器(電算機およびその部品)△1.3兆円 、? 映像機器△0.8兆円 、などとなっています。増減額だけでは減少率が分からないので、「機械及び輸送用機器」の2007年と2014年の輸出額の比較もグラフにしてみました。
大きな画像
輸出額の減少率が大きいのは、映像機器/音響・映像機器の部分品/二輪自動車/事務機器(電算機およびその部分品)/半導体等電子部品です。
さて、輸出額の減少は、? 為替レート上昇(円高) によるもの、? 生産拠点海外移転 によるもの、? 国際競争力の低下 によるものなどが考えられます。? 為替レートは2014年後半から2015年前半にはほぼ2006年から2007年(輸出過去最大)にかけての水準に並びつつあります。? 一部には生産拠点日本回帰の動きもあるようですが、生産拠点の国際分散は為替レートだけで決められるものではありません。? 国際競争力を失った品目に代わって数兆円規模で輸出される新たな工業製品の出現がないと輸出額全体が過去の水準に回復するのはきわめて難しいと考えられます。したがって、今後、従来型の工業製品輸出の増加による貿易収支の改善(ひいては名目GDPの拡大)については、それほど多くを望むことはできないように思われます。
]]> 訪日旅行者数(インバウンド)目標2000万人について考えてみる http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=197 2015-02-12T00:12:00+09:00 2015-12-18T13:09:52Z 2015-02-11T15:12:00Z 政府の「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」は2,000万人の訪日旅行者数(インバウンド)の実現を目標に掲げています。すでに2014年12月の出入国管理統計速報が発表されていますので、2014年暦年実績が把握できます。このデータを使って過去の実績を分析し、今... Tooru Ozawa 日本 Japan 訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」は2,000万人の訪日旅行者数(インバウンド)の実現を目標に掲げています。すでに2014年12月の出入国管理統計速報が発表されていますので、2014年暦年実績が把握できます。このデータを使って過去の実績を分析し、今後の見通しを考えてみたいと思います。
最初に、出国日本人数(アウトバウンド)と訪日外国人数(インバウンド)全体の推移を見てみます。
大きな画像
日本人のアウトバウンド は、1996年に1,600万人を超えて以降、2003年と2009年に大きな落ち込みがあったものの、それ以外は概ね1,600万人から1,800万人のレンジ内で為替レートに連動して増減してきました。2003年はイラク戦争が始まった年で、2009年は前年のリーマンショックによる世界同時不況があった年でした。これらから、日本人のアウトバウンドは過去20年近く「概ね横ばい」の基調を続けているといえます。政府目標のインバウンド2,000万人が達成されると、日本は、発展途上国に多い旅行者「出超」の国から、多くの経済先進国と同様の旅行者「入超」の国に変われる可能性があります。
外国人のインバウンド は、1995年までは400万人を若干下回るきわめて低い水準で横ばい推移していましたが、1996年に400万人を超えて増加基調に転じました。しかし、やはり2003年と2009年に停滞と落ち込みがあった上に、2011年には東日本大震災の原発事故発生によって大きく落ち込みました。2009年から2012年の4年間はこれらの要因による落ち込み停滞の期間としてグラフではピンクの背景を入れてあります。この落ち込み停滞期間を過ぎて再び増加に転じ、2013年には初めて1,000万人の大台を突破し、2014年には1,415万人にまで拡大しました。過去2年は政府の目標に向かって順調に拡大しているように見えますが、国(地域)別の動向を更に詳しく見て、今後の見通しを考えてみたいと思います。
まず、訪日外国人数(インバウンド)を国(地域)別の積み上げ棒グラフにしてみました。
大きな画像
2014年の訪日人数が20万人を越える国(地域)について多い順に下から上に積み上げてみました。1991年から2014年まで一貫して韓国が1位を続けていますが、それ以下には変化があり、かつ韓国との差もかなり小さくなってきています。2014年の上位4位、すなわち韓国 ・台湾 ・中国 ・香港 の合計は934万人で、全体の66%を占める とともに、2年前の2012年のインバウンド総数917万人を上回っています。
2000年のインバウンド総数は527万人でしたから、2014年までの14年間で888万人(169%)も増加したことになります。その14年間の増加数 が最も多かった国(地域)から順に並べてみたのが次のグラフです。2009年から2012年の4年間に大きな落ち込みがあったので、2001年から2012年までの12年間の増加と2013年と2014年の2年間の増加に色分けしてあり、( )内は14年間の全体の増加数888万人に対する割合(%)を示しています。
大きな画像
14年間の増加数の順位と2014年の実績数の順位は、多少順位のズレはあるものの概ね似通っています。上位4位は中国 ・台湾 ・韓国 ・香港 で、増加数構成比率の合計は73% になり、2014年の実数構成比率66%よりもだいぶ高くなっています。他方で、2014年実数順位5位の米国 と11位の英国 が、14年間の増加数の上位17位以内には入っていません。これは米国と英国は2001年から2012年の12年間にインバウンドが減少 したからです。
以上のように、国(地域)毎の推移には多様性があり、同じように増加してきたわけではないので、それをより明確にするために推移を折れ線グラフで描いてみました。
大きな画像
2014年のインバウンド上位7位までの国(地域)のうち、2年前の2012年に過去最高数を上回っていたのはタイ だけで、他の6つの国(地域)は全て過去最高数を下回っていました。韓国 の過去最高数は2007年の285万人で、その後の落ち込みが大きく、2014年に7年ぶりに過去最高数を少し更新して302万人になりましたが、台湾と中国との差は著しく縮小しました。米国 の過去最高数は2005年の85万人で、その後は過去最高数を上回ったことはなく、しかも2014年は大幅に円安ドル高が進行したにも関わらず大きく減少 しました。
最後に、2014年のインバウンドが5万人を超えた20の国(地域)について、当該国(地域)の人口10万人当たりの日本旅行者数が多い順に並べたグラフを作ってみました。分母の人口は全て同年ではなく2012年から2014年に分かれているので、これは概数です。
大きな画像
訪日旅行者数(インバウンド)は、その国(地域)の、日本からの距離 (旅行に要する費用と時間)、所得水準 (費用の負担能力)、人口 、入国要件 (日本への入国のし易さ)、親日感情 の高さ(訪日動機の高さ)、などによって左右されます。
香港 と台湾 は、人口以外の4条件をほぼ満たしていて、すでに人口の13%から12%もの訪日旅行者数になっています。日本人の出国者(アウトバウンド)「総数」が人口の13%ですから、香港と台湾の訪日旅行者数がいかに多いかが分かります。韓国 とシンガポール は、それぞれ人口の6%と4%で、香港と台湾の半分以下の水準ですが、韓国の対日感情やシンガポールの距離などを考えるとやはり非常に高い水準にあります。これらの4つの国(地域)の人口は少なく、インバウンドはすでにきわめて高い水準にあるので、今後更に著しく増大する可能性は小さい と考えられます。
北米とヨーロッパ は「遠い国」ですが、毎年延べ数百万人の日本人が旅行に出掛けています。それに較べると、これらの国々から日本への旅行者は、すでに見たように実数でも増加数でも著しく小さく、人口は多いので人口1,000人について1人から5人くらいの著しく少ない水準になっています。これらの国々から「遠い国」へのアウトバウンドの行先は世界全体が対象となるので、その中で日本へのインバウンドが著しく増大する可能性は極めて小さい と考えられます。
他方、ASEAN諸国 は、経済発展と所得の水準には大きな開きがありますが、概ね高い経済成長を続けており、しかも人口が大きいので、所得水準の向上と入国要件の緩和によってインバウンドが拡大し続ける余地 が十分あります。近年のタイ がその好例で、それより人口の多いベトナム やインドネシア がそれに続くものと考えられます。
最後に、中国 は、2000年の39万人から14年間で215万人も増えて2014年には254万人になりましたが、人口が13億人もあるので、人口1,000人について2人にも届いていないという低水準にあります。近隣国でありすでに富裕層人口も大きくなっているので、インバウンドが増えること自体がSNSなどによる情報伝播を加速して新たなインバウンド増加につながる拡大循環が続く可能性があります。
総じて、訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)の2,000万人の目標達成は、需要面 からは主として中国とASEAN諸国の訪日旅行需要拡大によってあまり心配はないように思われます。むしろ、航空旅客輸送や宿泊や訪問地の地方分散など、旅行サービス供給面 の方がネックになる可能性があると思われます。なにしろ、日本は2,000万人もの外国人旅行者を受け入れた経験がないからです。
]]> 人口ボーナス(配当)から人口オーナス(重荷)に転換した日本 http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=195 2014-12-04T22:44:00+09:00 2015-12-18T13:11:32Z 2014-12-04T13:44:00Z 日本の人口は、5年毎に行われる「国勢調査」によって年齢・性別・居住地などについて詳しく調査されます。通常、人口統計上の(demographic)生産年齢人口(労働人口:working population)は15〜64歳とされていて、それ以外を従属人口(dependent population)として、年... Tooru Ozawa 日本 Japan 生産年齢人口(労働人口:working population)は15〜64歳とされていて、それ以外を従属人口 (dependent population)として、年齢階層3区分の人口集計が行われます。そして、生産年齢人口100に対する従属人口の割合を従属人口指数 (dependency ratio)とし、生産年齢人口の扶養負担の程度を示します。しかし、現代日本の実情に踏まえるとこの年齢階層3区分にはかなりの違和感があります。そこで、別に 0〜19歳 20〜64歳 65〜74歳 75歳以上 の年齢階層4区分の人口集計も行われています。これは<未成年><成人><前期高齢者><後期高齢者>に相当します。<成人>以外を従属人口と区別するために<扶養人口>と呼ぶことにして、<成人人口> と<成人1人当り扶養人口(人) >の推移を見ていくことにします。
まず、過去60年(1950〜2010)の国勢調査による5年毎の年齢4階層別人口の推移を<成人人口>を一番下にして重ね棒グラフにし、<成人1人当り扶養人口(人)>を折れ線グラフ(右目盛り)にしてその上に重ねてみました。
大きな画像
1950年 の<未成年人口>は1931年から1950年までに生まれた人たちで、いわゆる「団塊の世代」を含んで38百万人もいたので、日本の歴史の中で<未成年人口>が最大 になっていました。<成人人口>は、1886年から1930年までに生まれた人たちで、<未成年人口>を少し上回るだけの41百万人に過ぎませんでした。そして<高齢者人口>は、1885年以前に生まれた人たちで、僅か4百万人しかいませんでした。これはそのころの平均寿命が現在よりもはるかに低かったからです。それでも<未成年人口>が非常に大きかったので、<成人1人当たり扶養人口>は1.02人というきわめて高い水準 にありました。この頃はもっぱら沢山の子供を家族が扶養していたわけです。
<成人1人当たり扶養人口>は、1950年の1.02人から20年後の1970年には0.66人に急速に小さくなりました。この20年間は概ね「高度経済成長」時代に重なります。人口増加に伴って労働人口増加が従属人口増加を上回ることによって経済成長が加速されることを「人口ボーナス(demographic bonus)」 と呼びます。これは、経済成長している国の人口動態がこのような状態になった時に経済成長がより加速(上乗せ)される傾向にあるので「人口ボーナス(配当)」と呼んでいる のであって、経済が成長していない国でも人口が増えれば経済成長が実現されるという意味ではありません。
1985年から1995年の10年間にも、<成人1人当たり扶養人口>は少しだけ小さくなりました。しかし、これは少子化による<未成年人口>の減少が大きくなってきたためで、その間の経済成長に「人口ボーナス(配当)」が働いたとは必ずしもいえません。
2000年頃に<成人人口>は79百万人でピークアウトして反転減少に転じ ました。少子化によって<未成年人口>も減少を続けましたが、<高齢者人口>の増加ピッチがますます速くなってきたので、1995年頃に<成人1人当たり扶養人口>はボトムに達して反転上昇に転じ ました。それでも日本の総人口は僅かに増加を続けて2010年に128百万人でピークアウトして反転減少に転じました。
さて、以上、過去60年の日本の人口動態を見てきましたが、今後の50年間(2010-2060)はどう変わっていくのでしょうか。国立社会保障・人口問題研究所は、5年毎に行われる国勢調査に基づいて将来推計人口・世帯数を5年毎に発表しています。最新の推計人口はやや古いですが、2010年の国勢調査に基づいて平成24(2012)年1月に発表 されたものです。その出生中位(死亡中位)推計による年齢階層4区分の推計データを同じようにグラフに描いてみました。こちらは国勢調査とは違って5年毎ではなく毎年に細かくなっています。
大きな画像
人口の増減には、出生と死亡の差による自然増減と流出と流入の差による社会増減があります。2012年人口推計では、社会増減である国際人口移動 (migration:流出・流入差)は過去のトレンドが続くという単一の仮定を採用しています。日本の国際人口移動の実績はきわめて小さかったので、この推計人口はほぼ自然増減(出生・死亡差)のみによって変動する推計 になっています。
2030年以前と以後で<成人人口>の色を変えてあるのは、2030年までに<成人人口>に加わる人は2010年にすでに生まれている人なので2011年以降の出生率の変化の影響は受けないからです。同じく、2060年までに<高齢者人口>に加わる人も2010年にすでに生まれている人だけなので2011年以降の出生率の変化の影響は受けません。したがって、2011年以降の出生率の変化の影響を受けるのは、<未成年人口>と2031年以降の<成人人口>だけになります。つまり、人口の自然増減推計は20年くらい先まではほとんどハズレることはない のです。
2015年と2025年の<高齢者人口>は色を変えて強調してあります。2015年は歴史上最大となっていた1950年の<未成年人口> (38百万人)の全てが「年金受給開始年齢」である65歳以上<前期高齢者>になって財政負担が増加するので、「2015年問題」 と呼ばれます。また、2025年はその世代が「後期高齢者医療制度」適用年齢の75歳以上<後期高齢者>になって更に財政負担が増加するので、「2025年問題」 と呼ばれます。
<成人1人当たり扶養人口>は、? 2012年から2016年ころと ? 2033年から2043年ころに上昇が少し急になっていますので、そこを点線で囲って強調してあります。これは1950年の<未成年人口>とその子供たちがそれぞれ65歳以上高齢者になるからです。そして、2010年の<成人人口>76百万人から「年率1.25%減少線」 を目安線として加えてあります。出生率が中位推計どおりに推移すると、2041年頃に<成人1人当たり扶養人口>は1人を上回り<成人人口>と<扶養人口>は逆転 します。もし、出生率がそれより高くなると、まず<未成年人口>が推計よりも増加し、それが<成人人口>になっていくには20年を要しますから、むしろ「逆転」は2040年よりも前にシフトすることになります。
以上、1950年から2040年ころまでのおよそ90年間の年齢階層4区分の人口推移と<成人1人当たり扶養人口>の推移を見てきました。要約すると、<成人人口 >は、1950年の41百万人から増加を続けて50年後の2000年の78百万人でピークアウト し、その後は概ね年率1.25%の減少を続けて40年後の2040年には54百万人にまで減少します。また、<成人1人当たり扶養人口 >は、1950年の1.02人から低下を続けて45年後の1995年の0.60人でボトムをうち 、その後は上昇に転じて45年後の2040年には0.99人にまで上昇します。1950年生まれの人はこの90年間の激しい人口変動の浮き沈みを身を以てほとんど全部体験することになります。
<成人人口>の増加と<成人1人当たり扶養人口>の低下は「人口ボーナス(配当) 」として経済成長を加速後押ししたことはたぶん間違いありません。その逆に、<成人人口>の減少と<成人1人当たり扶養人口>の上昇に対しては、「人口オーナス(onus:重荷) 」という語呂合わせのような名前がつけられています。日本が「人口ボーナス」基調から「人口オーナス」基調の方向に転換したのは1995年 でした。2012年から2016年くらいの間にとくに「人口オーナス」の進行が加速します。1997年から17年も名目GDPが横這い低迷を続けていて、どうしても持続的で安定的な成長軌道に乗ることが出来ないでいるのは、やはり「人口オーナス(重荷)」が重すぎるためではないかという気がしてきます。しかも、人口動態の転換から20年が経つにもかかわらず、有効な対策が講じられていないことは非常に心配になります。
]]> 先進国クラブ(OECD)の中の日本(人口と移住) http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=193 2014-11-27T22:27:00+09:00 2015-12-18T13:12:57Z 2014-11-27T13:27:00Z OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)は、経済先進国クラブとも呼ばれ、加盟が認められることによって発展途上段階を脱して経済先進国の仲間入りを果たすと考えられてきました。1961年発足当初からアジアで加盟していたのは... Tooru Ozawa 日本 Japan OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)は、経済先進国クラブとも呼ばれ、加盟が認められることによって発展途上段階を脱して経済先進国の仲間入りを果たすと考えられてきました。1961年発足当初からアジアで加盟していたのはトルコだけで、日本はその3年後の1964年に加盟し、韓国は更にそれから32年後の1996年に加盟しました。現在の加盟国は34ヶ国ですが、いわゆるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)はまだ加盟していません。OECDは、加盟34ヶ国とBRICs等加盟候補国について様々な統計データを公表しています。そのひとつであるOECD Factbook 2014 のトップカテゴリは「Population and Migration (人口と移住)」です。出生率の低下と人口の減少という経済先進国に共通する問題を緩和するには、移住による人口移動が避けて通れない課題であるからです。このカテゴリにおいて、日本は OECD 34ヶ国の中でどのような位置にあるのかをみていきたいと思います。
まず、出生率(fertility rate) についてみてみます。その年の子供の出生数をその年の15歳から49歳までの女性人口で割って出生率としています。OECD Factbook 2014 で加盟34ヶ国全部のデータが揃っているのは2010年までです。出生率は2-3年で大きく変わるものではありませんから、これがほぼ現状と考えて良いと思われます。この2010年のデータをもとにOECD加盟34ヶ国を出生率の低い順 に並べてみました。
大きな画像
人口の維持に必要な出生率は2.01程度とされていますから、EU28ヶ国のうち人口がある程度大きく、子供の出生によって人口減少を回避していけそうな国はフランスだけです。英国と米国もそれに次いでかなり出生率が高く人口減少速度はそれほど速くはなさそうです。それに対して、欧州の人口大国であるドイツ・スペイン・イタリアと極東の日本・韓国は、出生率が著しく低く、人口の高齢化と減少がきわめて速く進んでいきます。
それでは、OECD34ヶ国の人口増加率 の将来の見通しはどうなっているのでしょうか。OECD Factbook 2014 では、2012年までの人口の実績と2020年および2050年の加盟国の人口推計を出しています。2010年から2020年までの近い将来の10年間の人口増加率と2020年から2050年までの少し先の30年間の人口増加率に分けて棒グラフとして重ね、OECD加盟34ヶ国を2010年から2050年の40年間の人口増加率が小さい順 に並べてみました。
大きな画像
日本は、2050年までに人口が24%減少する見通し にあって、OECD34ヶ国の中で人口減少率ダントツの第1位に躍り出ています。他方、ドイツ・スペイン・韓国など、出生率が日本より低かった国の全てが、人口増加率(減少率)では日本よりかなり改善される見通しになっています。それはそれらの国々の政府が対策を講じるからです。勿論、基本は出生率を改善するためのいわゆる少子化対策ですが、それだけではなく、ほとんどの国が外国人移住者を受け入れていく政策をとっているかあるいはとっていこうとしているからです。
国の人口統計は、その国の国籍を持っている人の数ではなく、その国に居住している人の数の統計 です。したがって、国外に住んでいる日本人(日本国籍者)は日本の人口には含まれず、永住権を持ち現に日本国内に住んでいる外国人(外国籍永住者)は日本の人口に含まれます。国連は、国際的な移住者数残高(international migrant stock) について詳細な相互マトリックスデータ を公開しており、OECDもそれを利用しています。2013年央において、移住者(外国居住者)数残高は世界全体で232百万人でした。これは世界人口71億人の3%に相当します。ここでは、OECD34ヶ国に居住する移住者数残高を抽出し、OECDの人口(2012年)に対する移住者数残高の割合をグラフにしてみました。人口に占める移住者数残高比率の高い方から順 に並べています。
大きな画像
人口に占める移住者数残高(定住外国人数)には留意すべきことがあります。多くの国では外国人の女性が生んだ子供でも希望すれば出生した国の国籍を取得することができます。したがって、移住者の2世・3世の多くは外国人ではなくなっていきます。ですからこの移住者数残高(stock)というのは、概ね、外国で生まれて移住してきた外国人1世の残存数 に近いと考えられます。移住1世でも国籍を取得して帰化した場合は外国人ではなくなりますから、当然この統計には含まれません。
さて、日本は人口に占める移住者(定住外国人)数残高が2%で、OECD34ヶ国の中では少ない方から3番目です。しかも、日本の定住外国人数には在留特別許可者(すでに太宗が1世ではなく2・3・4世になっていると考えられます)が多数含まれていますから、移住者1世の数は更にずっと少なくなります。また、日本より少ないメキシコは、異常に高かった出生率が経済成長によってようやく2.05%まで低下してきた国ですから、移住して出て行く人は多いですが移住して入って来る人はほとんどいません。また、ポーランド は、出生率が日本よりも低い1.38%で、しかも現在の定住外国人数残高比率も日本より低い2%ですが、前掲の人口増加率グラフでは日本よりも穏やかな人口減少となる見通しになっています。これは今後(おそらくウクライナを含む近隣国からの)外国人移住者の受け入れを行っていく政府の方針に踏まえているのではないかと推定されます。
上のグラフは、人口と移住者1世数の「残高(stock)」でしたが、他方、1年でどれくらいの外国籍者に対する定住許可(永住許可)を出しているのかという「流入(inflow)」速度の問題があります。OECD Factbook 2014 には定住外国人流入数(Permanent inflow) の統計があります。しかし、残念ながら加盟34ヶ国全部の数値が把握されているわけではありません。ここでは数値が把握されている2011年の23ヶ国のデータをもとに、人口1千人当たりの永住許可者数 を大きい方から順に並べてみました。(人口千人当たりにしましたので、一つ前のグラフの人口比率パーセンテージの10倍になっていることに注意が必要です)
大きな画像
日本は、人口1千人当たり0.5人、すなわち人口1万人に対して5人の永住許可者しか受け入れておらず、人口急増に悩んできたメキシコとほとんど変わりません。米国は人口1千人当たり3.4人の永住許可者を受け入れ、全人口の15%の定住外国人残高があります。オーストラリアやニュージーランドは人口1千人当たり10人(人口の1%)も毎年受け入れています。それにしても、ヨーロッパの国々の人口比受入数はあまりにも大きいような気がします。
そこで、受入数と受入理由(Permanent inflows by category of entry) をグラフにしてみました。国の順番は上のグラフと同じです。
大きな画像
まず、EU諸国には自由移動 (Free movements)が多いのが目立ちます。これは、EU諸国間は国境を越える人の移動が自由なので、EU域内の移住者が多く含まれているためではないかと推定されます。EU域内にも経済格差があり、貧しい国から豊かな国への移住もありますから域外からの移住と区分するわけにもいきません。他方、日本や北米(米国・カナダ・メキシコ)には自由移動を理由とする永住許可はありません。
総じて、就労目的 (Work)はそれほど多くなく、就労者同伴家族 (Accompanying family of workers)や(おそらく帰化者や定住許可者の)家族 (Family)が多くなっています。人口減少対策として一番望ましいのは、新しい国に溶け込みやすい子供やこれから子供を産む若いファミリーが移住してくることです。それに対して、単身で出稼ぎにやってくるような外国人は、所得を送金して国内であまり消費しなかったり、仕事がなくなった後にそのまま不法滞在化してしまう懸念も高くなります。テンポラリーな仕事に出稼ぎ外国人を使うことは人口問題の解決策ではなく、一時的な人手不足対策にしか過ぎません。(それはそれとして必要かもしれませんが)
日本以外の国について少しふれると、米国は、年間に106万人もの永住許可を与えています。また、人道的 (Humanitarian)永住許可については、米国169千人・カナダ36千人・オーストラリア14千人・英国とスエーデン13千人・ドイツとフランス11千人などが主な受け入れ国となっています。ちなみに日本は僅かに3百人でした。その面でも、日本は世界の経済先進国としての役割をほとんど果たしていません。
さて、以上、人口と移住(Population and Migration) に関して、OECD34ヶ国(経済先進国)の中で日本がどういう位置を占めるているのかを見てきました。その結果、日本の異質性は著しく際立っていました。人口の高齢化と減少という先進国病は、欧州のOECD諸国よりも遅く始まりましたが、その分進行速度が速く、今後はどの国よりも進行速度が速まっていきます。人口の問題は、出生率を上げるにしても外国人移住者を受け入れるにしても、10年20年の期間で成果を上げることはほとんど困難です。また結果を求めて急ぐと弊害の方が強く現れる危険もあります。ですから、出来るだけ早く始めて、時間をかけてじっくりと進めていく必要があります。先行しているOECD諸国の抱えている弊害の問題ばかりに目を向けて、自国の置かれている状況を認識せず、国境を閉ざしたままにしていると、日本の衰退は回復不能なものになってしまう可能性があります。
]]>