経済社会を知りたい:経済ニュースの背景をグラフで易しく解説します
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米国の仕事と賃金と学歴にはどんな関連があるか?(学歴格差と低学歴の社会)
間もなく米国大統領に就任するトランプ氏は個別の企業に米国内の雇用拡大を促していて、自動車や航空などの大企業の中からこれに応える企業が出てきています。そのような動きに対する見解は別にして、ここでは最重要の政策となっている米国の雇用の実態がどうなっているか...
米国の雇用統計では毎月発表される「非農業部門雇用者数(Nonfarm payroll employment)」の増減数が重要な景気指標として注目を集めます。しかし、ここでは米国の雇用の「仕事・賃金・学歴」の関連について見ていきたいと思います。米国労働省労働統計局(United States Department of Labor / Bureau of Labor Statistics : BLS)がこれらの統計を公表していて、いま現在入手できるのは2015年5月現在のデータです。<仕事別雇用統計(Occupational Employment Statistics) >
まず、米国の雇用数の「仕事」別の内訳を見ていきます。働いている会社や団体の「産業区分」ではなくどんな「仕事」に従事しているかという内訳です。この統計の「仕事」の区分は非常に細かいところまでブレークダウンできますが、最初はいちばん大きな分類区分で全体像を見ていきます。
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2015年5月の米国内の雇用数は137,896,660人でした。労働統計局がここまで詳細な数字を公表するのにはびっくりさせられます。そのうち米国内で「製造する仕事(Production Occupations)」に従事する人は9,073,290人で、大分類では多い方から5番目でした。
ダントツの1位は「事務や行政の補助の仕事(Office and Administrative Support Occupations)」で従事者数は21,846,420人、2位は「販売関連の仕事(Sales and Related Occupations)」で従事者数は14,462,120人、3位は「食事調理と給仕関連の仕事(Food Preparation and Serving Related Occupations)」で従事者数は12,577,080人、4位は「輸送や物流の仕事(Transportation and Material Moving Occupations)」で従事者数は9,536,610人でした。米国内では、財貨を造る仕事に従事する人よりも、財貨を輸送したり販売したりする仕事に従事する人の方がはるかに多いことが分かります。これは米国民が消費する財貨の多く(ほとんど)は外国から輸入しているからです。
「製造する仕事」よりは若干少ないものの、6位は「教育・訓練・図書館の仕事(Education, Training, and Library Occupations)」で従事者数は8,542,670人、7位は「開業医と医療技術の仕事(Healthcare Practitioners and Technical Occupations)」で従事者数は8,021,800人、8位は「事業及び財務運営の仕事(Business and Financial Operations Occupations)」で従事者数は7,032,560人、9位は「管理職の仕事(Management Occupations)」で従事者数は6,936,990人、そして10位は「建設及び(原油?)抽出の仕事(Construction and Extraction Occupations)」で従事者数は5,477,820人でした。
この大区分の「仕事」の従事者数の構成比を円グラフで表すと以下のようになります。
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米国のドラマによく出てくる「法律の仕事(Legal Occupations)」に従事している人は1,062,370人で大分類にされるほど多い仕事ですが全雇用者の僅かに0.8%を占めるにすぎません。また、「農林漁業の仕事(Farming, Fishing, and Forestry Occupations)」に従事している人は454,230人しかおらず全雇用者の僅かに0.3%を占めるにすぎません。
大区分毎の仕事に従事する人の数の多さ(少なさ)はその区分の仕事に就ける機会の多さ(少なさ)でもあります。他方、仕事に伴う賃金の高さ(低さ)も就業機会と同様あるいはそれ以上に重要な問題です。賃金水準は大区分では比較しにくいので、より細かいより具体的な分類区分で比較する必要があります。
次のグラフは、この統計で示された3つの切り口の「仕事(occupation)及び製造業産業(Manufacturing industries)」別の「年平均賃金(annual mean wages)」の比較を一つにまとめたものです。3つの切り口とは、「従事者数が最も多い方の仕事の年平均賃金(Annual mean wages for the largest occupations)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方のSTEMの仕事(STEM occupations with the highest and lowest annual mean wages)」「年平均賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」です。なにやら分かりにくいですが、グラフの内容を見ていけば分かると思います。
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まず最初に明らかなのは、細分区分で「従事者数が最も多い仕事は年平均賃金水準が低い」ということです。細分区分で従事者数が多いトップ3は、「ファストフード店員等(合成食品の調理と給仕の労働者、ファストフードを含む:Combined food preparation and serving workers, including fast food)」「レジ係(Cashiers)」「ウエイターとウエイトレス(Waiters and waitresses)」で、年平均賃金水準は20千ドル(110円/ドル換算で220万円)前後のきわめて低い賃金水準の仕事になっています。このグラフ上の唯一の例外は「登録看護師(Registered nurses)」だけで、その年平均賃金水準は71千ドル(110円/ドル換算で781万円)になっています。
STEMは理系科目(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の頭文字をとった教育関連の用語で、労働力開発や移民政策に関連してこの理系科目の教育の強化がうたわれています。したがって、STEM occupationsは「理系の仕事」ということになります。理系の仕事の細分区分では年平均賃金の幅が広いことが示されています。「森林保全技術者(Forest and conservation technicians)」「農業及び食品化学技術者(Agricultural and food science technicians)」「測量及び地図製作技術者(Surveying and mapping technicians)」「生物学技術者(Biological technicians)」「環境科学及び健康を含む環境保護技術者(Environmental science and protection technicians, including health)」などの「ロマンティック」にみえる仕事の年平均賃金は40千ドル(110円/ドル換算で440万円)前後で全雇用平均の48千ドル(110円/ドル換算で532万円)よりも少し低い水準にあります。しかし、他方で、「石油エンジニア(Petroleum engineers)」「建築及びエンジニアリングのマネージャー(Architectural and engineering managers)」「コンピュータ及び情報システムのマネージャー(Computer and information systems managers)」は141千ドル(110円/ドル換算で1,550万円)を超えるきわめて高い年平均賃金を得ています。
「年賃金が最も高い及び最も低い方の製造従事者の製造業業種(Manufacturing industries with the highest and lowest annual wages for production occupations)」を見ると、製造従事者全体の年平均賃金は36千ドル(110円/ドル換算で398万円)で全雇用平均賃金より25%も低い水準にあります。その主因は、製造業全体の雇用数が減少してきて、食品加工などの賃金水準が低く賞味期限などでで海外生産移転しにくい製造業業種の雇用の占める割合が高まってきているからです。最も年平均賃金水準の低い製造従事者の業種は、「アパレルアクセサリー及び他のアパレル製造(Apparel Accessories and Other Apparel Manufacturing)」「アパレルニット工場(Apparel Knitting Mills)」「シーフードの調理とパッケージング(Seafood Product Preparation and Packaging)」などで、概ね25千ドル(110円/ドル換算で275万円)前後のきわめて低い賃金水準にあります。他方、最も年平均賃金水準の高い製造従事者の業種は、「石油及び石炭製品の製造(Petroleum and Coal Products Manufacturing)」「基礎化学品製造(Basic Chemical Manufacturing)」「航空宇宙製品及び部品製造(Aerospace Product and Parts Manufacturing)」「自動車製造(Motor Vehicle Manufacturing)」などで、これらの年平均賃金水準は50千ドル(110円/ドル換算で550万円)前後で全雇用平均賃金水準を若干(3%程度)上回る水準にあります。
最後に、学歴と賃金と雇用の関係を見てみます。まず、学歴(求職者に求められる典型的な教育の水準:Typical entry level education required)と年平均賃金(annual mean wages)の水準の関連を見ていきます。
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「博士号又は専門学位(Doctoral or professional degree)」「修士号(Master's degree)」「学士号(Bachelor's degree)」の大学卒以上の学歴者の年平均賃金は、全雇用者平均の1.5倍から2.5倍の高い水準にあります。その一方で、「短大卒もしくは大学一般教養課程修了資格(准学士号:Associate's degree)」は全雇用者平均水準を若干(11%強)上回るものの、それ以下の「高卒又は同等資格者(High school diploma or equivalent)」等の学歴では全雇用者平均水準をかなり下回っています。とくに「高卒資格を持たない(正式な教育資格情報なし:No formal educational credential)」の場合は年平均賃金は全雇用者平均の半分近い25千ドル(110円/ドル換算で275万円)となっています。これによって、米国は学歴で著しい格差が生じる社会になっていることが分かります。
それでは、学歴による雇用者数(求職者に求められる典型的な教育の水準による雇用者数:employment by typical entry level education required)はどうなっているのでしょうか。
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大学卒以上の学歴を求められる仕事の雇用者は全雇用者のおよそ4分の1(25.4%)を占めるにすぎません。その一方で、高卒資格を持たない仕事の雇用者が全雇用者の4分の1以上(27.7%)、高卒資格者の仕事の雇用者が3分の1以上(36.0%)を占めています。
米国は、雇用の際にきわめて学歴を偏重する一方、低学歴・低所得者層の構成割合が大きい社会であることが分かりました。したがって、政府も企業も国民も学歴の向上に強い関心を持っていますが、近年の非農業雇用者数の増加に占める高学歴の仕事の割合はきわめて低い実績にあります。米国全体としては経済は順調に拡大成長しているものの、成長の果実が国民に幅広く行き渡っていかないところが、今回の大統領選挙の結果に反映されているのではないかと推測することが出来そうです。
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米国 US
2017-01-16T03:59:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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名目GDPと総固定資本形成(国内固定資産投資)の関係を考えてみる
2014年(暦年)の名目国内総生産(nominal Gross Domestic Product)は487兆円でした。名目GDP(暦年)の過去ピークは1997年の523兆円でしたから、17年も前のピークと比べてまだ▲36兆円(▲6.9%)も小さいままです。しかし、その内容を見てみると、2014年は1997年に比べて...
民間消費支出は5兆円(1.9%)増加、現物社会給付(医療・介護現物給付)は16兆円(36.2%)も増加 、政府現実最終消費は4兆円(10.7%)増加 しています。すなわち国内消費項目は全て過去ピークをすでに上回っていて全体で25兆円(6.8%)増加しています。
国内消費は増加しているのに名目GDP全体が過去ピークに比べて大きく沈んだままなのは、総固定資本形成が▲37兆円(▲25.7%)減少 し、在庫品増加(在庫投資)が▲4兆円(▲132.7%)減少し、純輸出が▲21兆円(▲369.1%)も減少して赤字に転じている からです。純輸出は、2015年以降は原油価格の大幅な低下と旅行収支の黒字化などによって大きく改善していますし、在庫投資の減少は必ずしも悪いことではありませんから、問題は総固定資本形成に絞られる ことになります。
次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(支出側)の推移 を要素内訳で示したものです。
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あらためて、リーマンショック不況や東日本大震災の影響による経済規模の縮小は非常に大きく、その落ち込みから回復するだけでも非常に大変なことであるのが分かります。それでも、最初に述べたように、下から3つの国内消費項目の積み上げは2014年で僅かながらも過去最高水準にまで回復していることが確認できます。
このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは総固定資本形成(Gross Fixed Capital Formation) に絞って見ていくことにします。総(Gross)固定資本形成から固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital) を引いたものを純(Net)固定資本形成 と呼びます。固定資本減耗は、国民経済計算では名目国内総生産(生産側)で集計されます。
次のグラフは、1955年から2014年までの60年間の名目国内総生産(生産側)の推移 を要素内訳で示したものです。
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2014年はピークだった1997年に比べて、雇用者報酬は▲27兆円(▲9.6%)減少 し、生産・輸入品に課される税は3兆円(7.7%)増加し、固定資本減耗は0兆円(0.2%)増加 し、営業余剰・混合所得は▲8兆円(▲8.4%)減少しています。このグラフから考えてみたくなることは沢山ありますが、ここでは固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital) に絞って見ていくことにします。
GDPは国内経済活動による付加価値の総額です。固定資本減耗は減価償却と滅失を合わせたもので、会計もしくは税務上のみなし費用であって実際に支払いが行われる費用ではありません。ですから、付加価値総額から雇用者報酬と生産・輸入品に課される税を支払った残余(償却前利益)は、総(Gross)固定資本形成(設備投資)の原資になります。
次のグラフは、1955年から2014年までの純(Net)固定資本形成の推移 を総(Gross)固定資本形成と固定資本減耗の推移も合わせて示したものです。
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名目GDPの過去ピークは1997年でしたが、総(Gross)固定資本形成(設備投資)のピークは1991年の149兆円 で、純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)のピークは1990年の71兆円 でした。ちなみに固定資本減耗(減価償却および滅失)のピークは2008年の109兆円でした。
純(Net)固定資本形成(減価償却を上回る設備投資)は1990年をピークにほぼ一貫して縮小し、2009年には▲9兆円のマイナスまで転落しましたが、2010年から回復に転じて2014年には僅かながら3兆円のプラスにまで回復しています。しかし、設備投資が名目GDPの拡大(経済成長)を牽引していた時代にくらべるときわめて低調 で、概ね減価償却の範囲内程度で推移 する状況が続いています。
次のグラフは、1980年から2014年の総(Gross)固定資本形成(設備投資)の内訳推移 です。内訳データは国民経済計算の93SNAからしかデータがないので1980年以降になっています。
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総(Gross)固定資本形成(設備投資)は1991年に149兆円の過去ピークに達した後、1998年に▲12兆円(▲8.3%)、2002年に▲9兆円(▲8.6%)、2009年に▲14兆円(▲12.9%)という前年比の大きな落ち込みがあり、回復を見ないうちに次の大きな落ち込みがまた到来するという「階段状の」縮小を繰り返してきた ように見えます。とくに2009年の落ち込みは大きかったので、さすがに2012年以降はやや増加回復傾向が見られます。
主なものを大きい順に並べると、?その他の機械設備 (主として民間企業)、?その他の構築物 (公共土木事業が多く含まれる)、?住宅 、?住宅以外の建物 (民間のビルや商業施設と公共事業のハコモノ)、?輸送用機械 (民間企業)、?コンピュータソフトウエア (官民とも含まれる)、の順になっています。
次のグラフは、この主な6つについて合計ピークの1991年を100とする指数 でその後の推移を示したものです。
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?その他の構築物 ・?住宅 ・?住宅以外の建物 は、耐用年数が長く毎年の償却額が小さく償却期間が長い固定資本ですが、最も投資減少率が大きい固定資本 となっています。2012年以降の若干の増加傾向は東日本大震災の復興投資が押し上げていると推定されます。
?輸送用機械 ・?コンピュータソフトウエア は、耐用年数が短く毎年の償却額が大きく償却期間が短い固定資本で、最も投資の増加率が大きい固定資本 となっています。2012年の?輸送用機械の大幅増加は、東日本大震災の復興工事が押し上げていると推定されます。2000年の?コンピュータソフトウエアの大幅増加はいわゆる2000年問題(Y2K)クリア後の投資積極化だと考えられますが、以降は横ばい傾向で積極的な投資増はみられません。
最後に、最も額が大きく主として民間企業による、?その他の機械設備 は、景気によって増減しながらも基調的に右肩下がりに縮小 を続けてきました。景気回復期に入っているので足元の2015年まで含めて微増で推移していますがあまり力強さは見られません。
以上、あらためてマクロ統計から設備投資の推移を見てきました。単純に要約すると、国内への設備投資は概ね減価償却の範囲内程度に抑えられるようになってきていて、基調的に回復していく兆しは見えないということです。これは、民間企業の投資が消極的だということではなく、だいぶ前から投資先が国内ではなく海外になってきている ということです。
最後のグラフは、1996年から2014年の純固定資本形成と純対外直接投資の推移 です。
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純固定資本形成は、すでに見てきたように総固定資本形成から固定資本減耗を引いたもの、すなわち償却滅失を上回る固定資産純増額 です。総固定資本形成(固定資産投資)はモノやソフトウエアの実物資産を購入することで、これには民間企業だけでなく政府や個人も含まれ ています。
他方、純対外直接投資は、日本から海外への直接投資の実行額から回収額を引いたもの、すなわち海外直投資残高の純増額 です。対外直接投資は、株式取得・利益留保増(回収しないものは再投資したとみなす)・債権などの金融資産を取得することで、このほとんどが民間企業 によるものです。
したがって、この二つを比較するのはあまり馴染みませんが、上記のような認識を前提に、規模感と増減傾向をいっしょに見るためにあえてひとつのグラフにまとめてみました。1996年以降になっているのは対外直接投資のデータがそれ以降しかないからです。
明らかに分かるのは、国内の固定資産投資は減価償却・損耗の範囲内程度に抑えられてきているのに対して対外直接投資の方は純増が拡大する傾向 にあることです。
なお、国民経済計算基準が2008SNAに改定 されることによって、研究開発費(R&D)が費用ではなく固定資本形成にカウントされるようになると、名目GDP(支出側)の総固定資本形成が膨らみ、名目GDP(生産側)でも固定資産減耗および営業余剰・近行所得が同額膨らみます。名目GDPが膨張するので600兆円の政府目標とのギャップは縮まりますが、成長率に与える影響はきわめて小さいものです。
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日本 Japan
2016-01-18T13:14:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=209
米国に見る異次元金融緩和から正常な状態への復帰プロセス
2015年12月16日にFOMC(Federal Open Market Committee)は、フェデラルファンドレートの目標レンジを現在の0.0%−0.25%から0.25%−0.5%に0.25%引き上げる決定を発表しました。プレス・リリース原文はこちらです。それで決定発表の翌日は実際にほぼ目標レンジ中央値の0...
プレス・リリース原文はこちらです。それで決定発表の翌日は実際にほぼ目標レンジ中央値の0.37%になりました。実に久しぶりにフェデラルファンドレート水準が動いたので、現在は歴史的に見てどういう水準にあるのかをあらためて見てみることにします。FRBのサイトから1954年7月1日から現在までの実に60年間の日々実績データを取得することができます。
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60年間でフェデラルファンドレートが最高だったのは、1981年7月22日の22.36%でした。このときはインターバンク市場から資金が消えてしまったと言われて大混乱しました。その後、1991年以降は、引き締め期で概ね5から7%程度、緩和期で概ね1から3%程度のレンジで推移していました。ところが2008年の金融危機以降はほぼゼロ金利水準に張り付いたまますでに7年も経過 しています。
ほぼ無利息に近いゼロ金利近辺に張り付いてしまうと金利は金融緩和手段として使えない ことになります。FOMCは、雇用の回復や目標インフレ率2%の実現に自信が持てたので、異常なゼロ金利からの離脱 を実現することにしたのです。ですからこれは高いインフレ率を懸念した金融引き締めの「いわゆる利上げ」の始まりではなく、様子を見ながら過去の緩和期の1から3%程度のレンジに向けて「少しずつ正常化していくプロセスに着手した」ものと理解すべきでしょう。
米国内の経済金融情勢から見ればきわめて妥当で健全な対処に思えますが、世界に目を向けると、欧州中央銀行(ECB)の政策金利は0.05%、日銀の基準割引率は2008年12月からずっと0.3%に張り付いていて、いずれもほぼゼロ金利状態にあります。そこで、世界の金融センターである米国だけが金利を「ゼロ金利から正常化していく」と国際的な影響は避けられません。したがって、今回の発表に対する強い非難は世界経済に対する悪影響への懸念 からもっぱら発せられています。
ここで世界全体の問題を考えるのは手に余るので、あらためて米国内について振り返ってみます。ゼロ金利という金融緩和が行われたのは、2008年のリーマンショックに端を発する世界金融危機に対処するためでした。金融危機は同時に著しい景気後退をもたらし、米国の名目GDPは第二次大戦後初めて純減し、雇用者数も著しく減少しました。したがって強力な景気浮揚策が必要でしたが、金利政策の手段はなくなっていたため、以降は量的金融緩和(quantitative easing : QE) が行われました。今回の決定発表の中でも、QEで取得した不動産担保証券や財務省証券は、元本償還分の再投資(reinvesting principal payments)により保有残高を維持していく ことが表明されています。元本償還によって保有残高が減少すると実質的な量的金融引き締めになってしまいます。したがって、実際問題として重要なのは、僅かな金利の引き上げよりもこちらの方です。
2013年6月 に量的金融緩和(QE)をどのように終わらせるかという出口戦略(exit strategy) が公表され、毎月の買い上げ規模が段階的に縮小されていって、2014年10月 に追加的買い上げの停止 が発表されました。景気刺激策を終わらせるのは市場にネガティヴインパクトを与えるので、予告してから1年半をかけて実施したのです。予告の時は株価は大きく下がりましたが実際に停止したときは逆に株価は上昇しました。
QEで買取対象とされた、不動産担保ローンのキャッシュフローに裏付けされた証券(Mortgage Backed Securities : MBS )と自動車ローンなど消費者信用債権のキャッシュフローに裏付けられた証券(Asset Backed Securities : ABS )は、金融危機以降新たな証券化発行がほぼ停止 していて市場の発行残高は大幅に減少しています(末尾に参考グラフ)。他方で、景気対策や税収減による大幅な財政赤字(末尾に参考グラフ)によって米国債(財務省証券)はかつてない勢いで増加 を続けてきました。
財務省証券がどのような勢いで増加し、誰がそれを引き受けてきたかは財務省の公開資料から見ることができます。
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まず、全体を見ると、2015年第3四半期末の発行残高は14兆3,767億ドルで、2015年第3四半期の年換算名目GDP速報18兆602億ドルの80%にも相当し、金融危機前の2007年末からの累計では8兆3,255億ドル(138%増・約2.4倍に)も増加 しました。保有者は、外国(非居住者)が40%以上 を占め、銀行は4% に過ぎません。通貨当局(連邦準備銀行)は17% で国内最大の保有者になりました。
金融危機不況によって増加した8兆3,255億ドルを誰が引き受けたのかを示したのが次のグラフです。
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増加額8兆3,255億ドルのうち、45%は外国(非居住者)保有増加で通貨当局(連邦準備銀行)がQEで保有増加した21%の倍以上 になります。個人および実質個人資産であるオープン投信(Mutual Funds)と年金基金の保有増加を合わせると27%で、銀行の保有増加は全体の僅かに6%だけ でした。これによって国債(財務省証券)大量発行は銀行の資金繰りにほとんど影響を与えずに済んだことが分かります。
それでは、外国(非居住者)とはどこなのか、国(保有者居住国)別保有高を見ていきます。財務省のデータですが時点が少し違う(下は各6月末)ので上の数値とは若干相違があります。
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2015年6月末に外国(非居住者)が保有していた米国財務省証券(短期も含む)は6兆1,748億ドルで、金融危機前の2007年6月末から3兆9,808億ドル(181%増・約2.8倍に)も増加しました。その間に中国(居住者) は4,772億ドルから1兆2,712億ドルに7,940億ドル(166%増・2.7倍に)も増加し最大の保有国になりました。日本(居住者) は6,223億ドルから1兆1,971億ドルに5,748億ドル(92%増・約2倍に)も増加しましたがこの間に最大の保有国の地位を中国に譲りました。しかし、それでも日本の保有額は120円/ドルで換算すると実に143兆6,520億円 にもなり、これは日本の名目GDP500兆円の29%にも相当します。
米国は、主として防衛支出削減による歳出増加抑制と景気回復による税収増加によって財政赤字縮小を実現してきていて(末尾に参考グラフ)、財務省証券の発行残高増加額もかなり小さくなってきました。その過程でまずQE3の「追加買い上げ停止 」が行われ、次の段階として今回の「ゼロ金利の是正 」が始められました。次の「異次元緩和から正常な状態への復帰プロセス」 はどのようなものになるのでしょうか。
通貨当局は少なくとも1%以上までフェデラルファンドレート水準の回復 を目指すのでしょうか。これはたぶんイエスでしょう。政府は財政黒字化によって財務省証券残高の縮小 を目指すでしょうか。これはほとんどノーでしょう。通貨当局はQEで買い入れた財務省証券の削減 を目指すのでしょうか。おそらくそれはノーですが、もし外国から米国への資金流入が急拡大して米国債(財務省証券)への需要が過度に高まる(価格が上がり金利が下がる)ようなことがあれば売るかもしれません。
通貨当局が国債を大量に購入して通貨供給を拡大することは、米国の実績を見る限り正常な状態に回復する出口にたどりつける緊急対策 であれば問題は大きくないように見えます。翻って、日本の異次元緩和は将来出口を見いだすことができるかどうかについては、なお不安が拭いきれません。日本の政府は借金まみれですが、日本国居住者全体では大変大きな対外債権を保有していることは、ひとつの大きな安心材料ではあります。
最後に、参考となるグラフを提示しておきます。(過去の記事のグラフをアップデートしたものです)
<米国の財政収支推移>
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<量的金融指標 M1とM2残高の推移>
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<債権保有者別不動産担保債務残高(MDO)推移>
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<保有者別消費者信用残高推移>
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米国 US
2016-01-07T00:38:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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原油価格の歴史的な推移を振り返ってみる
原油価格が<歴史的な>低水準ゾーンに下落しています。そこで世界の原油事情に関する<歴史的な>情報の在処を探してみました。無料で誰もが簡単に入手できるものとしては米国EIA(Energy Information Administration)の情報がとても充実していますので、そこで得られる...
米国EIA(Energy Information Administration) の情報がとても充実していますので、そこで得られるデータを使って原油価格の<歴史的な>推移を振り返ってみます。
最初に、代表的な原油価格であるWTI(West Texas Intermediate)スポット原油価格の推移を振り返ります。
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このグラフには、原データのWTIスポットドル/バレル月平均価格 (青い細い線)を元に3つの線を加えてあります。月平均円/ドル為替レートと1バレル158.987リットルで換算した円/リットル月平均価格 (赤い細い線)、そして円価格とドル価格のそれぞれについて過去12ヶ月平均価格 (太い線)を加えました。また、U.S. EIAは、2015年12月8日の月報で2015年12月から2016年12月までの予想価格 も示していますので、それもグラフに加えてみました(予想部分は黄色い背景にしてあります)。スポット価格というのは限界的な需給や思惑を反映して動くので、月平均(細い線)でもかなり大きくかつ頻繁に振幅しますが、、12ヶ月平均(太い線)は細かい振幅を吸収してその時点(月)の基調トレンドを示します。
ドル/バレル月平均価格は先月(2015年11月)に42ドルまで低下し12月に入って40ドルを下回る水準 で推移しています。月平均価格が40ドルを下回ったのは、リーマンショック後の世界不況の動揺による急落があった2009年2月以来6年9ヶ月振りになります。他方、ドル/バレル過去12ヶ月平均価格をみると、先月(2015年11月)は51ドルまで低下していて、この水準は10年4ヶ月前の2005年7月の50ドル以来の<歴史的な>低い水準 になります。
このような<歴史的な>価格変動はどうしてこれほど大きな幅で振幅してきたのでしょうか。その理由を探るひとつの方法として、<歴史的な>供給と需要の変化を見てみることにします。まず、主要産油国(2014年の上位8か国)の原油生産量 (単位:千バレル/日)の推移を見ます。
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米国 は既存油井の産油量が落ちる のに伴って減産が続いていました。そのため1998年に世界一の産油国の座をサウジアラビアに譲り、2004年にはロシアにも抜かれてしまいました。ところが、原油価格が著しく高騰したことと技術革新によって、採掘コストが高いタイトオイルの生産が可能 になり、2009年から反転大幅増産に転じました。その結果、2015年には米国の産油量の約半分をタイトオイルが占め世界一の産油国の座を回復 しています。カナダ の近年の大幅増産も米国と同じくタイトオイルの増産によるものです。
サウジアラビア は、イラクやイランの減産をカバーする増産を行ったり、2004年下期以降ドル/バレル月平均価格が40ドルを突破して急騰した過程でも大きな増産を行っていて、概ね需給と価格の変動に合わせて需給安定化のための増産や減産 を行ってきているように見えます。それが可能なのはおそらく生産コストが非常にに安い からです。アラブ首長国連邦 もサウジアラビアとほぼ似通った増産・減産パターンで推移しています。
ロシアの増産 ピッチはとくに1996年から2004年までの間が大きかったので、ドル/バレル月平均価格が40ドル以下の水準で推移する主要因になっていた可能性があります。ロシアは生産を調整することなく一本調子の増産を続けていてサウジアラビアに迫る産油国 になっています。
中国 は、産油国としてはあまり注目されませんが、イランの減産によって(暫定)世界第4位の産油国の地位にあります。しかし、経済成長に伴う旺盛な国内需要増を賄うような増産はできていません。
イラン は、2010年6月の国連決議による経済制裁によって大幅な減産 を続けていますがその分をサウジアラビアが増産でカバーしています。核合意に伴う経済制裁解除 が行われれば減産分の回復が行われることになります。
イラク は、この間を通じてほぼずっと戦場でした。1996年から始まった増産はフセイン政権に対する経済制裁下の国民の困窮を受けて始められた「石油食料交換プログラム」によるもので、2001年からの減産は同時多発テロ以降の制裁締め付け強化とイラク戦争によるものです。2011年12月の米軍撤収後のイラクはISISやクルド勢力などが入り乱れた深刻な内戦状態に陥っていますが、なぜか石油生産量は着実に増加 しています。
1996年から2014年の18年間通算で増産・減産の大きかった国 を並べたのが次のグラフです。
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ロシア と米国 の増産量が抜きん出ています。ロシアは18年間一貫して増産を続けた結果ですが、米国は長く減産が続いた後に2009年からの6年間に急激な増産に転じた結果です。イラクはフセイン政権下の経済制裁時点から始まっているので大きくなっています。
他方、減産が大きいのは北海油田の英国 とノルウエー です。リビア の減産が3番目に大きくなっているのは無政府・内戦状態になっているためで資源枯渇や経済制裁によるものではありません。
以上で供給サイドを概観してきましたが、次に需要サイドを見てみたいと思います。需要は原油輸入量の変化 で見ていきます。
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EIAの国別原油輸入量データはこちらから 入手できますが、残念ながら2014年のデータがまだなく、肝心な中国とインドのデータは2012年までしかありません。
米国 は、世界一の原油生産国であると同時に抜きん出た世界最大の原油輸入国でもあります。国内原油生産の減少と国内需要の増加によって輸入量は増加を続けていましたが2006年をピークに反転減少に転じ、タイトオイルの増産に伴って輸入量は大きく減少してきました。それでもなお抜きん出た世界第一位の原油輸入国 であることに変わりありません。
中国 とインド は、世界の二大人口大国であり、成長著しい新興工業国で、成長に伴って原油輸入を急激に拡大 してきました。しかし、2011年をピークに減少に転じ ています。統計上の誤差なのか成長減速のためか正確なところは分かりません。この両国の動きが正確に把握しきれず先が読みにくいことが市場を疑心暗鬼にしている面があることは否めません。
日本・ドイツ・イタリア・フランスの非産油先進工業国 は、省エネルギー技術と代替エネルギーによって一貫して原油輸入量の削減を実現 してきています。韓国 はこれらの国々の前段階にあって概ね横ばい推移しています。
1996年から中国・インドの輸入量がピークだった2011年までの15年間通算で輸入量増減の大きかった国 を並べたのが次のグラフです。
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中国・インド・米国の3か国で輸入量増加の太宗を占めていた ことは明らかです。しかし、2012年以降に米国の輸入減少は加速していて、中国とインドも輸入増加にストップがかかった可能性がありますが実態は判然としません。他方、日本は世界で最も原油輸入を大きく減らした国 になっています。
さて、石油輸入国の多くは「戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve: SPR)」 を行っています。世界最大の石油輸入国である米国のSPRは2015年9月に過去最高の156日分にまで上昇しています。これは目先の米国の輸入減少要因になります。
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以上、原油生産と輸入の<歴史的な>推移を主要な生産国と主要な輸入国について振り返ってきました。とくに原油生産は政治や戦争によって大きく変動してきたことが分かりました。今後もそうであり続けるようです。
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日本 Japan
2015-12-23T15:45:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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急速に改善が進む経常収支の変化を見てみる
12月8日に財務省から「平成27年10月中 国際収支状況(速報)の概要」の発表がありました。月次の数値は、季節的要因や月の日数や月ズレなどによって振幅が大きくなりがちなので「季節調整値」というのも示されています。しかし、それでも単月の数値の推移ではなかなか現在...
財務省の「時系列データ:国際収支」(リンクはこちら) で、1996年1月以降の月次データを入手することができます。そこで、過去12ヶ月間の計(過去1年)の月次の動き にして推移を見てみることにします。過去1年間計の月次推移グラフは、前月比ではなく前年同月比 が増加すれば右肩上がりに、前年同月比が減少すれば右肩下がりになります。したがって以下では、前年比のトレンドを見るために過去12ヶ月計の数値を使って長期的な月次推移を見ていきます。
まず、経常収支の改善 を概観してみます。
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経常収支の(過去12ヶ月の計 =以下ではこの但し書きは省略します=)月次推移を見ると、2010年12月の19.4兆円の黒字をピークに収支悪化(黒字縮小)が約3年半(44ヶ月)続きました。しかし、2014年8月の▲0.7兆円の赤字をボトムに反転改善(赤字縮小) が始まり、14ヶ月後の2015年10月は15.2兆円の黒字まで一気に改善しています。経常収支は過去14か月で15.9兆円も改善 (黒字回復から黒字拡大)したことになります。しかも、直近数ヶ月のトレンドを見ると改善はもう少し先まで続きそうに見えます。
2014年9月以降の経常収支の改善15.9兆円 は、貿易収支の改善(赤字縮小)10.2兆円 、第一次所得収支の改善(黒字拡大)4.1兆円 、サービス収支の改善(赤字縮小)1.7兆円 、その他収支の悪化▲0.1兆円、によるものです。
以下では、これらの内訳についてもう少し詳しく見ていくことにします。最初は、貿易収支の改善 です。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、貿易収支は10.2兆円改善(赤字縮小)しました。これは、輸出が5.4兆円増加し輸入が4.8兆円減少した からです。
しかし、輸出は、足元の2015年9月に2年7か月振り(「量的・質的緩和」によって大幅な円安が始まった2013年3月の前月の2013年2月以来)に減少に転じ、2015年10月も連続して減少していて、しかも僅かながら減少幅が拡大しています。輸出は、大幅な円安が進んだことを主因に増加を続けてきましたが、円安による輸出の押し上げ効果は概ね出尽くした と見ることができそうです。
他方、輸入は、円安による膨張以上に大きく増加して貿易収支の赤字を拡大させてきました。その要因のひとつは原油価格(ひいてはLNG価格)の著しい上昇でした。しかし、原油スポット価格は2014年9月から2015年1月の4ヶ月間に一気に半値水準に大幅下落しました。2015年10月の(過去12か月間計の)原油およびLNGの輸入は、原油価格の低下をまだ全部反映しきっていないので、輸入の減少は少なくともあと数ヶ月程度は続く可能性が高い と考えられます。
したがって、貿易収支の改善(赤字縮小)は、あと数ヶ月程度は続く可能性が高いものの、改善(赤字縮小)の幅は徐々に小さくなり、近々に(過去12か月間計の)貿易収支の黒字回復が実現されるかどうかはやや微妙というところではないかと予想されます。
次に、第一次所得収支の改善 を見てみます。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、第一次所得収支は4.1兆円改善(黒字拡大)しました。
4.1兆円の内訳は、「直接投資」のネット受取増が2.7兆円、「証券投資」のネット受取増が1.3兆円で、雇用者報酬やその他の所得のネット受取の増減はきわめて僅か(0.0兆円←220億円)でした。
更に、「直接投資」のネット受取増2.7兆円の内訳は、「再投資収益」のネット増が1.8兆円、「配当金・配分済支店収益」のネット受取増が0.9兆円で、「利子所得等」のネット受取増はきわめて僅か(0.0兆円←364億円)でした。また、「証券投資」のネット受取増1.3兆円の内訳は、「債券利子」のネット受取増が1.0兆円で、「配当金」のネット受取増が0.3兆円でした。(注:「再投資収益」は海外支店・子会社・関連会社の内部留保増減の持ち分相当です)
第一次所得収支の受取は主として外貨建てで支払は主として円建てなので、円安によってネット受取は膨張します。第一次所得収支も、輸出と同様に2015年9月に僅かに減少に転じ2015年10月も減少が続いているので、やはり円安による膨張効果は概ね一巡した と見られます。しかし、経常収支黒字基調に変わりはなくネット対外資産は増加を続けているので外貨ベースの受取は基調的には増加していきます。したがって、第一次所得収支が基調的に増加傾向にあることには変わりありません。
なお、長期的に振り返ると、第一次所得収支は、債券利子収支の割合が6〜7割から4割に縮小し、株式収支や直接投資収支の割合が過半を超える構成変化が進んできました。日本は、貿易収支やサービス収支の赤字ににもかかわらず、第一次所得収支の黒字によって経常収支黒字を確保しています。「経常収支発展段階説」に従えば、このような国は第5段階の「成熟した債権国家 」に分類されます。これまで日本の対外資産の太宗はローリスク・ローリターンの債券投資に著しく傾斜していましたが、外国株式や直接投資などのハイリスク・ハイリターン投資の割合が増えつつあって、幾分か「成熟」が進みつつあるように見えます。
最後に、サービス収支の改善 について見てみます。
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経常収支が大幅改善した2014年8月から2015年10月の14ヶ月間に、サービス収支は1.7兆円改善(赤字縮小)しました。
1.7兆円の改善(赤字縮小)の内訳は、旅行収支の改善1.2兆円 (赤字から黒字に転換)、知的財産権等使用料収支の改善1.0兆円 (黒字拡大)、金融サービス収支の改善0.3兆円(黒字拡大)、建設収支の改善0.2兆円(黒字拡大)、保険年金サービス収支の改善0.1兆円(赤字縮小)、通信・コンピュータ・情報サービス収支の悪化▲0.3兆円(赤字拡大)、その他業務サービス収支の悪化▲0.7兆円(赤字拡大)、その他収支の改善0.1兆円でした。
サービス収支の長期推移を見て一見して分かる特徴は、貿易収支や第一次所得収支とは違って、2008年から2009年のリーマンショック不況の影響はあまりはっきりしないことです。また、一貫して赤字なので、円高になると赤字が縮小し円安になると赤字が膨らむはずですが、為替変動との相関関係はそれほど明確には見えません。逆にいうと、サービス収支は景気や金利や為替よりも「日本の対外サービス取引構造の変化」により大きく影響されてきた ということが分かります。
構造変化として特筆すべきことは、?知的財産権等使用料収支が2003年3月に黒字転換して以降も黒字を拡大していることと、?旅行収支が2015年1月に黒字転換して急ピッチに黒字拡大していることです。とくに、旅行収支は、1996年12月には年▲3.6兆円もの大幅赤字だったものが、2015年10月には年1.0兆円の黒字に4.6兆円も改善しています。また、2014年8月から2015年10月の旅行収支の改善1.2兆円はその間の経常収支改善15.9兆円の8%を占めています。
知財収支と旅行収支の改善(黒字拡大)が今後も続いていくのかあるいは勢いが弱まるのかは予測が難しいところです。しかし、「成熟した債権国家」としてより「成熟」していくには、知財収支と旅行収支の稼ぎをもっと増やしてサービス収支全体の黒字化を実現していく必要があることは間違いありません。
ところで、2014年8月から2015年10月までの貿易収支とサービス収支の改善の計11.9兆円は名目GDPの純輸出の増加に相当するので、これによって14ヶ月で名目GDPが11.9兆円(年率換算すると概ね2%程度)押し上げられた ことになります。経常収支と純輸出は当面の数ヶ月はなお改善が進むと予想されますが、改善のピッチは徐々に緩やかになると予想されます。
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日本 Japan
2015-12-09T13:37:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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米国大統領と財政政策の変遷を見てみる
2017年1月に新しい米国大統領になる候補者選びの長丁場の闘いがすでに始まっています。その動向について論評する知見は何も持ち合わせていませんが、過去から現在の歴代大統領の時代は、マクロ経済の実績から見るとどうだったのかを振り返ってみたくなりました。
最初...
最初のグラフは、1960年から2014年までの暦年の名目GDPの推移です。共和党政権の時代は薄い青の背景にしてあり、したがって白い背景のところは民主党政権の時代を示しています。
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米国の名目GDPの近似線を入れてみると、1960年から1990年までは概ね年率8.4%拡大線に沿いながら拡大し、1990年から2007年までは概ね年率5.3%拡大線に沿って拡大していました。しかし、2008年後半から2009年に著しい景気後退が生じ、2010年から再び年率3.6%拡大線に沿って拡大を始めています。3.6%拡大線は2002年の実績にクロスするので、もしかすると2003年から2007年の実績は安定成長を超えた景気加熱であったようにもみえます。その結果、2009年は、この55年間で初めて名目GDPが前年割れ(マイナス成長)となった特筆すべき年になっています。そこで、政権は共和党のブッシュ大統領から民主党のオバマ大統領に手渡されました。オバマ政権は、過去半世紀で最も厳しい経済状況の中で船出したということができます。
名目GDPは2008・2009年を除けば、程度の差こそあれ半世紀の間一貫して右肩上がりで拡大を続けてきました。これは凄いことです。しかし、当然、その中味は大きく変化してきました。そこで次に、支出側の名目GDPの構成比率の変化を見てみることにします。なお、純輸出と在庫投資増減はマイナス値になる場合があるので除外してあります。
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このグラフを見ると、名目GDPに占める政府消費支出の比率が縮小して「小さな政府」に向かったのは、共和党政権ではニクソン大統領の時代だけで、後は、いずれも民主党政権のカーター大統領・クリントン大統領・オバマ大統領の時代でした。逆に、名目GDPに占める政府消費支出の比率が拡大して「大きな政府」に向かったのは、民主党政権では1960年代のケネディ大統領とジョンソン大統領の時代だけで、後は、いずれも共和党政権のフォード大統領・レーガン大統領・ブッシュ(父)大統領・ブッシュ(ジュニア)大統領の時代でした。共和党「小さな政府」(緊縮財政)・民主党「大きな政府」(積極財政)という概念は、1970年代半ばを最後に完全に逆転しているように見えます。
そこで、次に、米国の財政収支の推移を見てみることにします。最初は、財政収支とそのGDP比の推移を見ます。
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最初のグラフで見たように名目GDPの規模は著しく拡大しているので、問題は財政赤字の額ではなく名目GDPに対する比率です。1960年代後半から1970年代初めは、財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」とハイパーインフレーションが大きな課題になっていました。しかし、今日から見ると、名目GDPに対する財政赤字の比率は当時のインフレ率の高さを考えると著しく小さい僅かなレベルに過ぎないように見えます。
財政赤字は、歳入を上回る財政支出が行われるために生じます。そこで、次に、歳出と歳入の推移を見てみることにします。
大きな画像
これを見て特筆すべきことは、1960年以降2009年までの50年間に歳出が前年より削減された年は一度もなかった ことです。皮肉なことに、オバマ大統領の行った「Change」の最も大きなもののひとつは、合衆国史上なかった「歳出総額のカット」 を行ったことではないかと思われます。しかし、歳出カットはけしてオバマ大統領や民主党が目指していたものではありませんでした。
歳入側を見ると、ブッシュ政権時代とオバマ政権時代に過去にない大きな縮小があります。ブッシュ大統領は、財政支出拡大ではなく時限減税によって(すなわち共和党らしい「小さな政府」化によって)景気刺激を行ったので、歳入が大きく減少しましたが、結果的に歳入減に見合う歳出削減は行わなかったので、財政赤字は大きく拡大し、非常に景気刺激的な財政政策になりました。オバマ政権になってからの歳入縮小は、ブッシュ政権時代のバブル経済崩壊に伴う著しい景気悪化によって税収が縮小したからです。しかし、半世紀来一度もなかった名目GDP縮小という経済金融危機に対して、財政支出を拡大して下支えする必要がありました。そのため、オバマ政権初年度の2009年には財政赤字は額は勿論のこと名目GDP対比でも史上最大規模に膨らむことになりました。
景気の底割れを回避するために、ブッシュ時限減税の期限延長(実質増税回避)や歳出拡大を続けようとしましたが、2011年5月16日に連邦政府債務は法定上限に達してしまうことになり、これは「財政の崖(fiscal cliff)」 と呼ばれました。景気対策と財政規律の板挟みの中でデフォルトぎりぎりまで議会共和党との攻防を続けた結果、なんとかデフォルトは回避されました。しかし、その後も財政赤字が続いているので、歳出を拡大する余地は全くなくなりました。
さて、それでは、歳出の中味の推移はどうだっかということをもう一度見ていきます。ここからは1990年以降の25年間の変化を1990年を100とした指数で見ていきます。
大きな画像
まず、著しく明確なのは、共和党政権のブッシュ(父)大統領とブッシュ(ジュニア)大統領の時代は、イラクやアフガニスタンでの戦争と占領を行って国防支出を著しく拡大 したのに対して、民主党政権のクリントン大統領とオバマ大統領の時代には国防支出が純減 していることです。オバマ政権はアフガニスタンとイラクから撤退し、「アラブの春」の民主化支援のための積極的な軍事対応は行いませんでした。必ずしもその結果だと言い切ることはできませんが、中東ではISが台頭し、膨大な数の難民が欧州に押し寄せる混沌とした状況に陥っています。
さて、実績から見て、共和党の「小さな政府(緊縮財政)」と民主党の「大きな政府(積極財政)」というイメージは、とくに国防支出の拡大と縮小の面で全く逆の実績になっています。これにはいろいろな理由があるでしょうが、共和党の「小さな政府」理念は政権野党にいるときに最も強く発揮され、政権与党になっているときは必ずしも発揮されにくい、というように推測することができそうです。
政権を担当して、国防支出を含む財政支出を削減した最後の共和党大統領はニクソン大統領でした。ベトナム戦争を終結させ、共産党中国との国交を樹立して世界の表舞台に招き入れ、ドルの金兌換停止と為替変動相場制移行を行いました。ウオーターゲート事件で失脚しましたが、ニクソン大統領が最も共和党らしい政策を断行した最後の大統領だったと言えるのではないかと思います。さて、2017年に発足する新政権は、どのような方向に動いていくのでしょうか?
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米国 US
2015-11-05T03:32:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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日本に住む外国人の年齢構成を見てみる
日本に住む(在留する)外国人について、以下の二つの記事で、「在留資格」(日本で暮らす目的や理由)と「国籍」(どこから来たか)を軸に10年くらいの傾向を見てみました。要約すると、日本に住む外国人は2008年をピークに減少に転じ、2012年をボトムに再び緩やかに増加...
在留資格」(日本で暮らす目的や理由)と「国籍 」(どこから来たか)を軸に10年くらいの傾向を見てみました。要約すると、日本に住む外国人は2008年をピークに減少に転じ、2012年をボトムに再び緩やかに増加に転じていますが、2014年末現在ではまだ2008年の水準に回復していません。在留資格別では、「永住者等」が少しずつ減少を続けていて 、「永住者等以外の長期在留者」が近年少し増加 しています。また、国籍別では、ブラジル・ペルーの「日系外国人」と特別永住者・韓国の「韓国・朝鮮」の減少 が一貫して続いていて、近年の全体の増加はベトナム・ネパールの急増 によって生じています。
「日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる 」(在留資格)
「日本に住む外国人の国籍別の変化を見てみる 」(国籍)
法務省「在留外国人統計」 データ整理の最後の分析軸は「男女別・年齢階層別 」です。直近の2014年の状況を以下で概観してみます。とくに、現在の「永住者等 」の男女別・年齢階層別の構成には過去の歴史が反映 されています。
まず初めに、2014年の日本の年齢階層人口ピラミッドに占める外国人在留者の割合を見てみます。
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2014年の日本の人口は127,083千人でした。そのうち在留外国人は2,122千人で、僅かに1.67% を占めるに過ぎませんでした。しかし、年齢階層別にみると、20代人口 12,881千人のうち在留外国人は549千人(4.26% )を占め、また30代人口 16,137千人のうち在留外国人は479千人(2.97% )を占めています。すなわち、日本に住む外国人は若い人が多く 、高齢者人口に比べてかなり少ない日本の若い世代の人口を少しだけ補っていることが分かります。
このことを、在留外国人統計の男女別・年齢別データを使って、「在留資格」と「国籍」にブレークダウンして見ていきます。男女別・年齢階層別の構成は「在留資格」と「国籍」によって著しく異なる ことが見えてきます。
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まず、「在留外国人総数 」(上の左上のグラフ)は、2,122千人で、男性が980千人、女性が1,142千人で、女性が男性より17%多く なっています。年齢階層構成は、19歳未満の未成年者が著しく少なく、20歳以上の成人人口は年齢が上になるほど少なくなるピラミッド型になっているので、全体としてはやや女性側が膨らんだ「クリスマスツリー型」 になっています。これが全体像です。
このうち日本により長く暮らしている「永住者等 」(上の左下のグラフ)は、在留外国人総数の64%にあたる1,367千人で、男性が568千人、女性が799千人で、女性が男性より41%も多く なっています。年齢階層構成は、すでに長い期間日本に住んでいる人が多く含まれるので、19歳以下の未成年もある程度いて、全体としては女性側にかなり偏った「つぼ型」 になっています。
他方、日本に長く暮らしていない「永住者等以外の長期在留者 」(上の右下のグラフ)は、在留外国人総数の36%にあたる754千人で、男性が412千人、女性が342千人で、こちらは逆に女性が男性より17%少なく なっています。「留学 」と「技能実習 」が在留目的の1位・2位を占め、日本に住んでいる期間は短いので、20代が400千人で53% 、30代が194千人で26% 、合わせて79%を占めていて、それ以外の年代はきわめて僅かしかいません。したがって、全体としてはやや男性側に膨らんだ「地球ゴマ型」 になっています。
「在留資格」別の年齢階層構成は、主に日本で暮らしている期間の長さの違いによって著しく大きな違い が生じています。そこで、住んでいる期間の長い「永住者等」について、更に細かい「在留資格」別にブレークダウンして見てみることにします。「在留資格」によって男女別・年齢階層別の構成 は著しく異なっています。
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「特別永住者 」(上の左上のグラフ)は、358千人で、男性が179千人、女性が180千人で、男女ほぼ同数 になっています。年齢階層構成は、60歳代が最も多く、69歳以下の2世(子)・3世(孫)・4世(ひ孫)世代は完全な「逆ピラミッド型」 になっています。これは、この在留資格の新たな許可は日本で生まれた子孫に限られる上に、若い世代は日本国籍への「帰化」によって減り続けているので子孫の出生数が減り続けるという、減少の循環が働いている からです。子孫の出生数減少によって、「特別永住者」人口の減少要因として「帰化」が減っていき「死亡」が増えていくことになっていくと考えられます。
「日本人の配偶者等 」(上の右上のグラフ)は、145千人で、日本の女性と結婚した外国人男性が48千人、日本の男性と結婚した外国人女性が97千人で、女性が男性の2倍以上 になっています。年齢階層構成は、30代が最も多く年齢が上がるほど急激に少なくなっているのは、ある程度の期間を過ぎると在留期間無制限の「永住者」に移行していく人が多い ためです。人数は毎年減少しているので、新たに日本人と結婚して日本に住み始める外国人よりも、すでに日本人と結婚していて「永住者」に移行する外国人の方が多いということになります。ちなみに、これは日本では日本人男性と外国人女性の国際結婚の方が多いことを示しているのではなく、日本人の国際結婚の場合は男性側の国に住む傾向が強い ということを示していると考えられます。
「定住者 」(上の左下のグラフ)は、160千人で、男性が74千人、女性が85千人で、女性が15%多く なっています。年齢階層構成は、日系人(日本から移民した人の子孫)とその家族が多くを占めていて、受け入れ制度が始まってから20年を超えるので子供も増えている 反面、帰国するか在留期間無制限の「永住者」に移行するか しているので、40歳以上の人口はぐっと少なく なっています。
「永住者 」(上の右下のグラフ)は、677千人で、男性が255千人、女性が422千人で、女性が男性より65%も多く なっています。これは女性が多い「日本人の配偶者」から「永住者」に移行した人が多く含まれるからです。年齢階層構成は、一定の期間以上日本に住んだ人が「永住者」資格を得られる ので、40歳以上が多くなっていますが、高齢者人口はまだ少ない状態にあります。
さて次に、「国籍 」別の「男女別・年齢階層別」構成の違いを在留者数の多い順 に見ていくことにします。なお、国・地域別の男女別・年齢別の統計は、3か月未満の「短期在留者」を含む「在留者総数」 になっています。
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「中国 」(上の左上のグラフ)は、735千人の最大勢力で、男性が309千人、女性が426千人で、女性が男性よりも38%も多く なっています。「中国」は、「定住者」以外のほぼ全ての「在留資格」で最大数を占めており、とくに「日本人の配偶者」(日本人男性と結婚した外国人女性)でも最大数を占めている からです。年齢別人口構成は、「クリスマスツリー型」よりも年齢が高い人口が少ない「とんがりキノコ型」 になっています。これは日本国籍に「帰化」する人が少なくない ためです。
「特別永住者 」(上の右上のグラフ)は、国籍ではありませんが、みなし国籍として再掲しています。統計上2番目に多い「韓国・朝鮮」543千人から「特別永住者」358千人を引いた184千人を「韓国」とみなして後で別途説明します。
「フィリピン 」(上の左下のグラフ)は、3番目に多い236千人で、男性が59千人、女性が177千人で、女性が男性の3倍も多くなっているのがきわめて特徴的 です。これは、「日本人の配偶者」(日本人男性と結婚した外国人女性)で中国と並ぶ多数を占める からです。また、「技能実習 」資格で中国・ベトナムに次ぐ13千人が在留しており、看護師・介護福祉士を目指す女性が多く含まれていると考えられます。年齢別人口構成は、40代・30代が多く なっていますが、これは日本国籍に「帰化」する人が「中国」に比べて少ない ためではないかと推測されます。
「韓国 」(上の右下のグラフ)は、法務省統計の「韓国・朝鮮」543千人から「特別永住者」358千人を引いた184千人を「韓国」とみなしています。「韓国」は、「中国」「特別定住者」「フィリピン」に次ぐ4番目に多い在留外国人です。男性が71千人、女性が113千人で、女性が男性より59%も多く なっています。「日本人の配偶者」が15千人で4位・「家族滞在」目的が13千人で2位 になっていることなどによるためではないかと推測されます。年齢別人口構成は、女性は、40代・50代が最も多く60代も相応にいて、中国やフィリピンに比べて年齢層が一段高いことが特徴的 です。他方、男性の方は、仕事目的の「在留資格」の人が多く、後で述べる「米国」とかなり年齢階層別の構成が似通っています。
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「ブラジル 」(上の左上のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)4番目に多い178千人で、男性が96千人、女性が81千人で、女性が男性より16%少なく なっています。年齢別人口構成は、働き盛りの30代・40代が多く子供もかなりいて高齢者は少ない「つぼ型」 になっています。これは、「定住者」資格の日系人(日本から移民した人の子孫)が多くを占め、「定住者」は配偶者と実子も在留が認められるので家族で来た人たちも多く、また受け入れが始まってすでに20年以上が経過して日本で生まれた子供も少なくないからです。しかし、総数は2008年のピークから半数近くまで減っています。日本国籍に「帰化」した人は多くないので、家族がいない人たちを中心にブラジルに帰国したのではないかと推測されます。
「ベトナム 」(上の右上のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)5番目に多い102千人で、男性が59千人、女性が43千人で、女性の方が男性より27%少なく なっています。年齢別人口構成は、20代が65%を占める「地球ゴマ型」 になっています。「留学 」資格在留者数が「中国」に次いで2番目に多い33千人 で、「技術実習 」資格在留者も「中国」に次いで2番目に多い34千人 です。日本に学びに来る若者が近年急激に増えているのです。
2014年末の「国・地域別」のこの後の順位は、「台湾」85千人・「米国」80千人・「タイ」73千人・「ペルー」48千人・「ネパール」43千人・「インドネシア」43千人と続きますが、最後に特徴的で対照的な「米国」と「ネパール」の2つを取り上げます。
「米国 」(上の左下のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)7番目に多い80千人で、男性が51千人、女性が29千人で、女性は男性の半分程度 です。年齢階層別構成は、在留者数は多くないにもかかわらず、女性が著しく少ない「クリスマスツリー型」 に幅広く分散しています。また、在留資格の「教育」5千人・「公用」2千人・「宗教」2千人・「外交」1千人は国別1位で、短期滞在目的の「家族訪問」8千人は国別2位など、在留目的や理由が最も広く分散 しています。
「ネパール 」(上の右下のグラフ)は、(「韓国・朝鮮」を2つに分けなければ)10番目に多い43千人で、男性が28千人、女性が15千人で、女性は男性の半分程度 です。年齢階層別構成は、同じように近年急増している「ベトナム」に似た「地球ゴマ」型 になっています。在留資格の「留学」16千人は国別4位、「家族滞在」10千人は国別3位、「技能」7千人は国別2位で、ほとんどはこれに集中しています。ここからやや大胆に推測すれば、ネパール・インド料理人とその家族と若い留学生で太宗を占めている のではないかと思われます。
さて、だいぶ長くなりましたが、日本に住む外国人全体のプロフィール を、「在留資格」「国籍」「男女別・年齢別」の切り口でブレークダウンして、3回にわたって細かく見てきました。日本にはすでに2百万人を超える多くの外国人が住んでいて、年間に日本に入出国する外国人の数は延べ1,500万人を超えます。外国人については、海外や国内で起きた事件のニュースに反射的に反応して、「移民」や「難民」のようなきわめて抽象的で曖昧な概念を巡って感情的な意見が表明されることが多いですが、意見を簡単に決める前に、全体の現状のデータを知ってどのような将来の姿(数値)を目標とするべきかを議論することが重要なのではないか と思います。
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日本 Japan
2015-09-24T01:47:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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日本に住む外国人の国籍別の変化を見てみる
「日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる」では、主に「在留資格別」の変化を見てみました。外国人が日本で暮らすには在留資格が必要で、在留資格が日本で暮らす目的や理由に当たるからです。前の記事では、在留資格が「特別永住者」「永住者」「定住者」「日本人の...
日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる」では、主に「在留資格別 」の変化を見てみました。外国人が日本で暮らすには在留資格が必要で、在留資格が日本で暮らす目的や理由 に当たるからです。前の記事では、在留資格が「特別永住者」「永住者」「定住者」「日本人の配偶者」「永住者の配偶者」の合計を「永住者等」と呼ぶことにし、それ以外の「長期在留者」を「永住者等以外の長期在留者」と呼ぶことにしました。
そこで今度は、日本で暮らす目的や理由ではなく、「国籍 」すなわちどこの国から来ているかについて見てみることにします。2014年12月末現在の「永住者等」と「永住者等以外の長期在留者」の国籍別構成は次のようになっていました。
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「韓国・朝鮮」には漸次日本国籍への「帰化」が進んでいる「特別永住者」が含まれているので、近年の国籍別の人の移動を見るために、「韓国・朝鮮」を「特別定住者」というみなし国籍と「韓国」に分ける ことにしました。厳密にいえば、「特別定住者」には「韓国・朝鮮」以外に「中国」「台湾」「米国」などの国籍を持つ人たちも含まれていますが、きわめて少数(1%未満:数百人)なのでそれは便宜上無視することにします。
また、法務省の統計では、年によって「中国」に「台湾」を含んだり含んでいなかったり一貫性がないので、「台湾」の動きが見られないのは残念ですが、データの連続性を確保するために「中国」と「台湾」が区分されている年はその合計を「中国」とする こととしました。以上の整理を行った上で、2006年から2014年までの国籍別「長期在留者」数の推移をグラフにしてみました。したがって、2014年12月末の数値は上のグラフとは若干異なっています。
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「長期在留者」総数の過去ピークは2008年12月末 の2,177千人でした。その後、リーマンショック不況や東日本大震災の影響などで減少し、ボトムの2012年12月末 には2,034千人まで減少しました。そこから2014年12月末には2,122千人まで回復しましたが、まだ過去ピークまでには回復していません。
そこで、過去ピーク(2008年末)からボトム(2012年末)までの増減数 と、ボトム(2012年末)から近時(2014年末)までの増減数 に分けて、国籍別の増減数をグラフにしてみました。
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2008年末から2014年末までの累計増加数の多い順 に上から下に並べてあります。そして、6年間通算でも減少 している米国以下にはピンクの背景をつけてあります。総数 は、減少期4年間に▲143千人減少し、回復に転じた2年間に88千人増加しましたが、まだ過去ピークに比べ▲55千人少ない状況にあります。
減少の多かった、「ブラジル 」「特別定住者 (ほぼ韓国・朝鮮)」「韓国 」「ペルー 」は、いずれも総数ボトムの2012年末の以前も以降も一貫して減少 が続いています。この4つの合計で、2008年から2012年の4年間に▲184千人、2012年から2014年の2年間に▲45千人、6年間合計で▲229千人も減少しました。このうち「特別定住者」は、主として日本国籍への「帰化 」や死亡によって減少していると考えられるので日本から「出国」して減っているわけではありませんが、「ブラジル」「韓国」「ペルー」は、出国者数が入国者数を大きく上回って僅かではありますが日本の人口減少を加速していることになります。
この背景には、バブル経済期の労働力不足を補うための外国人労働力確保対策として、?日系人(日本人移民の子孫)に特別な在留資格(現在の「定住者 」資格)を付与したり、?(結果的には主として中国の貧しい農村部からの)外国人技能実習生に在留資格を付与する、などの政策が行われたことがあります。これらによって、外国人労働者数は1992年(平成4年)までに一気に50万人程度も増加 しました。しかし、リーマンショック不況以降は日本国内の製造業の雇用機会が減り、他方でブラジルでは急速な経済成長があったので、2008年末をピークに減少に転じ、2014年末ではピーク時の半数程度にまで減少しています。日系ブラジル人労働者の多くは雇用機会の多い地方の工業都市にコミュニティを形成している場合が多いので、それ以外の土地では増加や減少はあまり実感されない傾向があります。
他方、増加数の多かった、「ベトナム 」「中国 」「ネパール 」「フィリピン 」は、総数ボトムの2012年末の以前も以降も一貫して増加 が続いています。2008年から2012年の4年間に52千人、2012年から2014年の2年間に100千人、6年間合計で152千人も増加しました。とくに、「ベトナム」60千人と「ネパール」30千人の急増は大きな変化 として目を惹きます。
「ベトナム 」は、人口が1億人に迫る大国で、一人当たりGDPは2,073米ドル(約25万円)という経済発展「離陸中」 の状態にあり、日本企業の進出も増えています。他方、「ネパール 」は、人口26百万人で、一人当たりGDPが703米ドル(約8万円)という国連の後発開発途上国リストに挙げられる最貧国のひとつ で、日本企業の進出もほとんどありません。こういう人たちが、日本社会の発展に貢献し日本社会にうまく溶け込んでいけるように支援するプログラムを整備していく ことはとても重要なことではないかと思われます。
<参考>中国の一人当たりGDPは7,589米ドル(約91万円)
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日本 Japan
2015-09-19T23:09:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=203
日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる
外国人が日本に住む(3か月を超えて「在留」する)には在留許可を受ける必要があります。在留許可を受けると「在留カード」が交付され住民登録されます。法務省【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】から、2006年以降の詳しいデータを入手することができます。
...
法務省【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】 から、2006年以降の詳しいデータを入手することができます。
在留許可を受けるには在留資格要件を満たすことが必要です。2014年12月末現在、日本国内に在留している外国人の総数は2,476,103人でした。そのうち、3か月以内に出国する条件で入国し在留している「短期在留者」は336,169人で、3ヶ月を超えて在留する許可を受けて在留している外国人は2,139,934人でした(以下ではこれを「長期在留者 」と呼ぶことにしますがこれは公式の用語ではありません。一時出国中の在留許可者もいますからこれを使うことにします。)。在留許可を受けられる資格要件はいろいろありますが、2014年12月末現在の主な在留資格別の在留者数をグラフにしてみました。
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一番右の、「特別永住者 」358,409人「永住者 」677,019人「定住者 」159,596人「日本人の配偶者 」145,312人「永住者の配偶者 」27,066人の合計1,367,402人を、以下では「永住者等 」と呼ぶことにし、それ以外の「長期在留者」772,532人を「永住者等以外の長期在留者 」と呼ぶことにします。「永住者等以外の長期在留者」の主な資格別在留者数は、「留学 」214,539人「技能実習 」167,641人「家族滞在 」126,005人「人文知識・国際業務 」76,908人「技術 」45,900人「技能 」33,378人「特定活動 」28,977人「企業内転勤 」15,408人で、残りの「その他の資格」で在留する人は63,776人でした。
「留学 」資格の在留者は、大学の学部や大学院だけでなく日本語学校や専門学校で学ぶ外国人も含むので、他の経済先進諸国に比べるとまだまだ少ない印象を受けます。また、海外、とりわけアジア諸国で暮らす「永住者以外の在留日本人」の在留理由で最も大きかったのは日本の「民間企業」の海外拠点で働くことでしたが、それに比べると外国企業の「企業内転勤 」で日本に来て働いている外国人は著しく少ない印象を受けます。
さて、以上の概観を踏まえて、もう少し詳しく中味を見ていきたいと思います。まず、2006年から2014年までの9年間の「長期在留者」数の推移を「永住者等」と「永住者等以外の長期在留者」に分けて見てみます。
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まず驚くのは、「長期在留者」の総数は2百万人を少し超える水準であまり増加していない ことです。近年日本で暮らす外国人が増えてきたという感じを持つ人は少なくないと思いますが、事実はそうではないようです。日本の人口は日本国内に居住する人の数ですから、外国籍在留者も含まれます。少なくともこれまでは「長期在留者」の数は日本の人口減少を緩和する方向に動いてきてはいない ことが分かります。その原因のひとつは「永住者等」が2008年をピークに少しずつ減少してきている ためです。
そこで次に、「永住者等」の資格別在留者数の推移を見てみます。
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「永住者」と「永住者の配偶者」は一貫して増加していますが、「特別永住者」「定住者」「日本人の配偶者」は減少を続けています。そのため、「永住者等」全体は2008年をピークに減少 が続いています。「永住者」「特別永住者」「定住者」の資格要件は厳密に決められていますが、分かりにくいので、2014年12月末現在の「長期在留者」の国籍別構成比率を合わせて見ていくことにします。
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「特別永住者 」は、終戦後に旧日本領土に新たに生まれた国に「帰国」できなかった(あるいは帰国しなかった)人たちで、新たな母国における内乱・戦争やそれによる窮乏などに伴って発生した「難民」だったと考えることができます。99%が「韓国・朝鮮」なのは、朝鮮半島の内乱・戦争が激しかった上に新しい国が南北に分断されて生まれてしまったためです。したがって、政府の統計も「韓国・朝鮮」としていて、「韓国」と「北朝鮮」の内訳数を公開していません。直系の子孫以外に新たな資格付与は行われないので、子孫の日本国籍への「帰化」や死亡などによって一貫して減少 が続いています。
「日本人の配偶者等 」は、過去の一時期に嫁不足の農村などに外国人花嫁を斡旋する事業が盛んに行われた結果として、国籍は「中国」「フィリピン」の比率が高くなっています。しかし、近年は<在留期間無期限>の「永住者」に移行する人が新たな許可数を上回って、一貫して減少 が続いています。
「定住者 」は、?日系人(日本から移民した人の子孫)とその配偶者、?「定住者」の実子、?日本人・「永住者」の配偶者の実子の連れ子、?日本人・「永住者」・「定住者」の6歳未満の養子、?中国残留邦人とその親族などで、<在留期間は3年または1年の有期限 >とされています。国籍は、?と?で「ブラジル」「ペルー」、?と?で「フィリピン」「中国」、?で「中国」の割合が多くなっています。やはり、近年は<在留期間無期限>の「永住者」に移行する人が新たな許可数を上回って、一貫して減少 が続いています。
「永住者 」は、「特別永住者」以外の一般的な永住許可者で、<在留期間無期限 >です。概ね10年以上日本に在留しているなどの要件があるので、基本的に「定住者」など他の在留資格を経た人が「永住許可」を申請することができます。したがって、国籍は「中国」「フィリピン」「ブラジル」「ペルー」が多く、一貫して増加 を続けています。しかし、すでにみたように、「定住者等」全体では2008年をピークに減少に転じています。
なお、「定住者等」の減少要因には「帰化 」すなわち日本国籍の取得があります。帰化許可申請者数等の推移も法務省が公開 しています。それもグラフにしてみました。
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過去10年間の趨勢として、「帰化者」は15千人/年水準から10千人/年以下の水準に減少してきています。「不許可」数が著しく増加しているわけではないので、帰化申請者数が減少 していることが分かります。
「韓国・朝鮮」の太宗は「特別永住者」の子孫と考えられ、「特別永住者」の出生数の減少 によって帰化申請者数が減少していると推定されます。「韓国・朝鮮」以外の「帰化者」の太宗は「中国」が占めていて、こちらも趨勢として減少傾向にありますが理由は分かりません。これらによって、「永住者等」のうち「中国」に次いで多くを占める「フィリピン」「ブラジル」「ペルー」の帰化申請者は非常に少ない ことが分かります。これらの国々の「永住者」は、言葉や生活習慣などの違いによってなかなか日本社会に溶け込めきれず、いずれは母国に帰りたいと考える人が多いためかもしれません。
ここまで見てくると、将来の「長期在留者」の増加は、「永住者等以外の長期在留者 」の増加、すなわち新たに日本に住み始める外国人の受け入れ増加にかかってきます。そこで、「永住者等以外の長期在留者」の資格別在留者数の推移を見てみます。
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「留学・就学 」は、最も多く、また日本社会に順応するのに最も良い入り方であると考えられます。順調に拡大してきましたが、2011年の東日本大震災(に伴う原発事故)の影響で減少し、ようやく過去ピークを超える水準に回復しました。2014年の国籍別受け入れ数は、「中国」「ベトナム」「ネパール」「韓国」の順となっており、「中国」「韓国」はいまだに過去ピークに回復していませんが、「ベトナム」「ネパール」が大幅に増加しているので、全体を僅かに押し上げています。
「技能実習 」は、最低賃金以下の低賃金で単純労働力を確保するなどの制度目的から逸脱した違法な運用実態が生じたり、リーマンショック不況で受け入れが減ったりしましたが、制度の改善などによって大幅に増加しています。この制度を使った「インドネシア」「フィリピン」「ベトナム」からの看護師・介護福祉士候補者の受入れ などが国籍別の構成に反映しています。
さて、「その他」は、さまざまな資格要件に分かれていますが、これはさまざまな形で日本で働く(あるいは活動する)外国人という理解ができます。2009年末をピークに大きく落ち込んで2012年末にボトムを付けて反転していますが、あまり大きな回復にはなっていません。これは2011年の東日本大震災(による原発事故)で日本を離れた外国人があまり戻ってきていないため ではないかと推定されます。これによって、「永住者等以外の長期在留者」全体も2009年末をピークに減少し、2012年をボトムにようやく上昇に転じるという状況になっています。
以上、日本に住む外国人の数と中味の変化 を統計数値によって見てきました。日本の人口減少本格化 が経済社会の成長発展の桎梏となっていると考えたり、現に労働力の不足 に直面していたりする立場からは、外国人の受け入れをより積極的に拡大するべきだという意見や要望があります。在留外国人統計の中にも、拡大のために行われてきた政策の結果が反映されている部分があります。しかし、日本社会の発展に貢献し日本社会にうまく溶け込める外国人の受け入れだけを上手く拡大するというのはそう簡単ではなく、都合良いことばかりでは済みません。生じる問題をできるだけ小さくするための経験を蓄積して、受け入れプログラムの制度や運用の不断の改善を図っていく必要がありますが、他の経済先進諸国に比べると日本の経験はまだ著しく少ないことは間違いありません。
<参考1>
法務省 報道発表資料「第6次出入国管理政策懇談会報告書「今後の出入国管理行政の在り方」等について」
<参考2>
「在留カード」および「特別永住者証明書」の見本
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日本 Japan
2015-09-18T12:20:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=202
海外に長期滞在する日本人の変化を見てみる
海外で暮らした経験のある人に会うことは多いですし、子供がいま海外で暮らしているという年配者に会うことも少なくありません。また、海外在住の人(外国人と結婚した日本女性が多いようですが)のTwitterやブログは人気があるので見つけやすく、いろいろな面白い海外生...
日本国大使館や総領事館は、「海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に資するため」旅券法の定めにより提出が義務付けられている「在留届」を基礎資料として調査を行い、各年10月1日現在の「海外在留邦人」の状況を把握しており、その統計が毎年公開されています。
<外務省「海外在留邦人数調査統計 」http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html >
まず、「海外在留邦人 」の定義を確認しておきます。「在留邦人」は、海外に3か月以上在留している日本国籍を有する者 で、「永住者」と「長期滞在者」に区分されます。「永住者 」は、(原則として)当該在留国等より永住権を認められており、生活の本拠をわが国から海外へ移した邦人 を指します。「長期滞在者 」は、3か月以上の海外在留者のうち海外での生活は一時的なものでいずれわが国に戻るつもりの邦人 を指します。したがって、3ヶ月未満の短期滞在者(旅行者)は「在留邦人」には含まれません。
以上を理解した上で、「海外在留邦人」の推移をグラフにしてみました。
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2014年10月1日現在の「永住者 」は44万人で、1989年の25万人から25年間で19万人(76%)増加しました。「永住者」は、たとえば米国のグリーンカード(永住許可証)を取得した日本国籍者などが想定されます。通常永住許可は簡単には得られないので増加は緩やかですが、それでも2005年ころから僅かながら上向いてきているように見えます。「永住者」が死亡や帰国などで減る数はあまり多くないと想定されるので、全体の増加は新たに外国の永住許可を得る日本人が僅かながら増加している結果ではないかと推定されます。しかし、「永住者」の変化が日本国内に与える影響は基本的にきわめて小さい ものです。
他方、2014年10月1日現在の「長期滞在者 」は85万人で、1989年の34万人から25年間で51万人(150%)も増加しました。「長期滞在者」は、2002年から2006年までかなり大きく増加した後、ほぼリーマンショックに重なる2007年から2010年の間は横ばい気味に推移し、2011年からまた増加基調に転じています。「長期滞在者」の多くはある期間を過ぎると日本に帰国する ので、帰国者を上回る新たな長期滞在者の増加があったということです。「長期滞在者」が入れ替わり続けることで、日本人のうちの海外滞在経験者が累増していくことになります。たとえば、単純計算では、平均2年で入れ替わるとすれば、日本国内には20年で850万人の海外滞在経験者が生まれる理屈 になります。
以下では、「長期滞在者」に絞って、もう少し詳しく見ていくことにします。まず、2014年10月1日の「長期滞在者」85万人は、どの地域でどんな職業についているのかをグラフにしてみました。
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全世界の「長期滞在者」85万人のうち、46万人(54%)は「民間企業 」に勤務する人、18万人(21%)は「留学・研究者 」、5万人(6%)は「自由業 」に従事する人、2万人(2%)は日本「政府 」関係の仕事に従事する人で、(このグラフ上の)「その他 」14万人(16%)には同伴家族も含まれます。
最も「長期滞在者」が多いのは「アジア 」地域の35万人(全体の41%)で、うち「民間企業」25万人は世界全体46万人の55%を占め、「留学・研究者」2万人は世界全体18万人の13%を占めます。2番目に「長期滞在者」が多いのは「北米 」地域の26万人(全体の31%)で、うち「民間企業」12万人は世界全体46万人の27%を占め、「留学・研究者」9万人は世界全体18万人の48%を占めます。3番目に「長期滞在者」が多いのは「西欧 」地域の15万人(全体の17%)で、「民間企業」5万人は世界全体46万人の11%を占め、「留学・研究者」5万人は世界全体18万人の26%を占めます。
以上の結果は、中高年にはかなり違和感があります。以前は、海外勤務といえば米国や西欧が主であってアジア勤務は商社やプラント会社勤務の人を除けばかなりまれなことだったからです。
そこで最後に、世界の都市圏別の「長期滞在者」数の推移を見てみることにします。都市別のデータは1996年から2013年までしか公開されていませんが、時系列変化を知るにはこれで十分です。
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上のグラフの、2013年10月1日現在の都市圏別「長期滞在者」数上位9都市の合計は28万人で、世界全体84万人の33%を占めます。
1996年は、ニューヨーク が45千人で抜きん出た1位で、シンガポール25千人・香港23千人・ロンドン22千人・ロサンゼルス18千人・バンコク17千人が10千人を超えて続いていました。このとき上海はこの9都市の中で最下位の5千人しかいませんでした。2001年ころから、アジアの上海・バンコクと北米のロサンゼルスが急増した半面、アジアのシンガポール・香港や西欧のロンドン・パリは横ばいに推移しました。ニューヨークは2003年をピークに漸減に転じ、概ねリーマンショックと重なる期間にいったん大きく減少した後回復しましたが、減少傾向は強まっているように見えます。
2007年以降上海 はニューヨークを抜いて世界で一番日本人の「長期滞在者」が多い都市になっています。しかし、そうなってからまだ8年しか経過していないので、日本国内にいる上海滞在経験者はニューヨーク滞在経験者よりもまだまだはるかに少ない ということが言えます。また、直近の傾向として、ニューヨークや上海が減少しバンコク が増加しているのは、日本企業の活動の軸足が北米から中国、更に中国からASEAN諸国に移りつつあることを反映しているように見えます。
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2015-09-09T17:44:00+09:00
Tooru Ozawa
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貿易赤字の拡大について考えてみる(その2)
「貿易赤字拡大について考えてみる」では、2008年のリーマンショック以降の長期的な傾向として貿易赤字が拡大してきたことを説明し、その原因は、「鉱物性燃料の輸入の増加」だけでなく「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」が大きいことを説明しました。過去15年で名目GD...
名目GDPと輸出額がピークだったのが2007年で、ボトムだったのが2009年 でした。2010年以降輸出は大きく回復してきましたが、まだ2007年のピークの水準には届いていません。
この記事のアップが、たまたま原油価格の低下による貿易赤字縮小によって経常収支黒字が拡大したというニュースと重なりました。貿易赤字の拡大が止まって縮小に転じることは、長いスパンで見て大きな変化ですが、鉱物性燃料価格の大幅な低下が生じていたので、すでに十分に予測されていたことです。注目していた点は「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」の方にあったので、直近でそれがどうなっているかをあらためて確認してみたくなりました。そこで、2015年1−5月の5か月の通関実績を2007年・2009年の同期間(5か月間)の通関実績と比較 してみることにしました。
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2015年1-5月の輸出総額 は31.3兆円で、ボトムだった2009年の1−5月の19.4兆円からは大きく回復していますが、ピークだった2007年の1-5月の33.1兆円に対してはまだ▲1.8兆円(▲5.4% )少ない水準にあります。内訳をみると、2015年1−5月の「機械類及び輸送用機器」輸出額 は18.7兆円で、2007年1−5月の21.5兆円より▲2.8兆円(▲13.0% )少なくなっています。しかし、その他の輸出額 は12.6兆円で2007年同期の11.5兆円を1.1兆円(+9.6% )上回っています。
また、2015年1−5月の輸入総額 は33.0兆円で、2009年1-5月の29.2兆円を3.8兆円(+13.0% )上回っています。2015年1−5月の「鉱物性燃料」輸入額 は8.3兆円で、2007年1−5月の7.4兆円を0.9兆円(+12.2% )上回っています。その他の輸入額 は24.7兆円で2007年同期の21.8兆円を2.9兆円(+13.3% )上回っています。
これらの結果から、たとえばその他の輸出の増加をけん引しているのは何かというような、調べてみたくなることはいろいろ出てきますが、ここでは前のシナリオに沿って、まず、「鉱物性燃料輸入の増加」の内訳について見ていくことにします。
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2015年1−5月の「原油及び粗油」輸入額 は3.5兆円で、2007年1−5月の4.4兆円から▲0.9兆円(▲20.5% )減少しています。他方、「液化天然ガス」輸入額 は2.8兆円で2007年同期の1.2兆円より1.6兆円(+133% )も大幅に増加しています。2007年から2015年の間に全く異なる動きになっているので、さらに輸入量と輸入通関価格(円ベース)の変化を見てみます。
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2015年1−5月の「原油及び粗油」の輸入量 は2007年1−5月の輸入量より▲15%減少 していて、輸入通関価格(円ベース) も▲5%低下 しています。ですから、輸入額が▲20.5%(▲0.9兆円)減少したわけです。他方、「液化天然ガス」の輸入量 は2007年同期の輸入量より34%増加 していて、そのうえ輸入通関価格(円ベース) は73%も上昇 しています。ですから、輸入額が113%(1.6兆円)も増加しているわけです。2007年に比べて、「原油及び粗油」の輸入通関価格は下がっているのに「液化天然ガス」の輸入通関価格は上がっています。そこで、輸入通関価格の長期推移を見てみることにします。
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「原油及び粗油」と「液化天然ガス」の輸入通関価格(円ベース)の推移を1988年を100とする指数 で比較しました。「液化天然ガス」の輸入価格は長期契約になっているので、「原油及び粗油」の輸入通関価格より値上がりも値下がりにも緩やかに推移しています。過去10年ほどは原油スポット価格の非常に大きな上昇と下落があったので、ある時点間でとると片方が値下がりし片方が値上がりする結果になっています。しかし、長期的にみると、「液化天然ガス」は「原油及び粗油」よりも価格指数が下方で推移 しており、長期的には割安な輸入ができてきていると見ることができます。
さて、最後に、注目したポイントである「機械類及び輸送用機器」の輸出額の変化について、主な品目の輸出額の比較をしてみます。
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「機械類及び輸送用機器」の内訳品目は実に多岐にわたっています。そこで、2015年1-5月の輸出額が0.1兆円(1千億円)を超えている主な品目について、2007年同期および2009年同期の輸出額との変化を調べてみました。品目名を青い背景にしている品目は2015年の輸出額が2007年を上回っている品目で、逆に青い背景のない品目は輸出額が下回っている品目です。そのうち減少額が0.2兆円を超える品目には減少額を入れてあります。
このグラフから見えることを挙げてみます。
? 「機械類及び輸送用機器」輸出の減少額(2015-2007)は▲2.8兆円でしたが、乗用車▲1.0兆円/事務用機器(主に電算機およびその部分品)▲0.5兆円/半導体等電子部品▲0.5兆円/映像機器▲0.4兆円/音響・映像機器の部分品▲0.4兆円/2輪自動車▲0.2兆円の合計で▲3.0兆円になります。
? 「乗用車」は減っていますが「自動車の部分品」は増加していますから、海外生産は増加していることがうかがえます。他方、事務用機器(主に電算機およびその部分品)と「映像機器」は、「半導体等電子部品」も「音響・映像機器の部分品」も減っていているので、生産拠点の海外移転で減っているわけではなさそうです。
? 2015年1−5月の輸出額が2007年同期を上回っている品目は沢山あります。生産拠点の海外移転に伴う部分品の輸出の増加と、(消費財ではなく)資本財の輸出増加、に特徴づけられるように見えます。全体としては、消費財輸出の減少(他方で消費財輸入の増加)と、資本財・部分品の輸出増加があり、全体としては輸出額の減少に働いていると見ることができます。
これらはすでに自明のことように思えますが、貿易統計によってその規模やスピードを把握しておくことは意味があるように思われます。
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日本 Japan
2015-07-09T13:07:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=199
貿易赤字の拡大について考えてみる
<要旨>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトして...
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器輸出の減少」による
○「機械及び輸送用機器輸出の減少」は自動車と電気機器の輸出減少が主因である
<本文>
○「純輸出」の赤字拡大が「名目GDP」の回復を阻害している
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暦年名目GDPとその内訳について、<1996年と比べた増減額の推移>をグラフに描いてみました。1996年を基準年にしたのは現行基準で1995年以前のデータに遡れない統計があるためで、それ以外に特別の意味はありません。比較基準年からの変化額を比較するため に1996年を仮に用いています。2008年はリーマンショック後の世界同時不況が始まった年で、2011年は東日本大震災による原発稼働停止が始まった年ですので<赤い丸>で囲み、2011年以降の回復期を<赤い背景>にしています。
過去17年間で名目GDPが最も大きかった年は2007年で、最も小さかった年は2009年でした。僅か2年間ながら2007年(ピーク)から2009年(ボトム)の変化は著しく大きく、? 民間需要が△35兆円も減少し、? 公的需要は1兆円増加したものの、? 純輸出が△7兆円減少した ので、? GDP(名目)は△41兆円も減少してしまいました。
2009年(ボトム)から2014年(直近)までの5年間の回復は、? 民間需要が24兆円増加し、? 公的需要が10兆円増加したにもかかわらず、? 純輸出が△17兆円も減少した ので、? GDP(名目)は17兆円しか回復していません。
このグラフから、たとえば、民間需要は今後2007年(ピーク)の水準を超えて拡大していけるのだろうか?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、ここでは、かつて経験したことのない<純輸出の赤字転落と赤字拡大継続 >のところに注目してみたいと思います。内需はある程度回復しつつあるのに、純輸出がGDPの回復を著しく阻害しているように見えるからです。
○「純輸出」のうち「サービス貿易」の方は赤字が縮小し改善が続いている
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純輸出は財貨とサービスの貿易収支ですから、まずサービス収支の方を一瞥します。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 旅行収支は1.9兆円改善 (赤字縮小で2015年は黒字転換見込み)し、? 知的財産権等使用料収支は0.9兆円改善 (2002年に黒字転換し黒字拡大)し、? 輸送収支は0.2兆円改善(赤字縮小)し、? それ以外のサービス貿易収支が△1.8兆円悪化(赤字拡大)しましたが、? サービス貿易収支全体では1.3兆円改善 (赤字縮小)しました。
このグラフからも、たとえば、それ以外のサービス貿易収支はとくに2011年以降悪化(赤字拡大)が大きくなっているのは何故か?というような、考えてみたくなることがいろいろ出てきます。しかし、サービス貿易収支は一貫して改善してきているので、ここでは純輸出の赤字拡大は全て財貨貿易収支の悪化による ものだということを確認するにとどめます。
○「鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化」は「鉱物性燃料輸入増加」の2倍も大きい
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貿易収支(これ以降は財貨貿易収支を単に貿易収支と呼ぶことにします)は、通関統計によって品目別のデータを入手することができます。貿易収支の赤字拡大は、原油価格の高騰や原発停止による液化天然ガスの輸入量増大などが影響していることは間違いありません。そこで「鉱物性燃料を除いた貿易収支」と「鉱物性燃料輸入」に分けて見てみることにします。
2014年(直近)は2007年(名目GDPおよび輸出額の過去ピーク)に比べて、? 鉱物性燃料輸入額は7.5兆円増加 (貿易収支悪化・名目GDP縮小)し、? 鉱物性燃料を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化 (貿易収支悪化・名目GDP縮小)しました。つまり、鉱物性燃料輸入増加は確かに大きかったのですが鉱物性燃料を除いた貿易収支の悪化の方が2.1倍も大きかったことが分かります。
○「鉱物性燃料輸入増加」はピークアウトしていて今後は縮小に転ずる
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輸入金額が増加する第一の原因は輸入数量の増加です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 原油及び粗油輸入量は△16%減少 <(77−92)÷92>し、? 液化天然ガス輸入量は32%増加 <(193−146)÷146>しました。原油及び粗油輸入量は今後も減少が見込まれ、原発稼働停止に伴う液化天然ガス輸入量増加は2012年にピークアウト して概ね横ばいに沈静化していますから、輸入金額増加の第一の原因はほぼなくなったと考えることができます。
大きな画像
輸入金額が増加する第二の原因は輸入価格の上昇です。2014年(直近)は2007年(名目GDP過去ピーク)に比べて、? 原油及び粗油の年平均輸入価格(円ベース)は35%上昇 <(497−368)÷368>しており、? 液化天然ガスの年平均輸入価格(円ベース)は89%も上昇 <(433−229)÷229>しました。原油スポット価格(ドル建て)も液化天然ガススポット価格(同)もすでに大幅に下落していますが、ドル建て価格の下落は円安/ドル高によって相殺される面もあり、液化天然ガスは長期契約で輸入されていることもあって、2014年は年平均通関価格(円ベース)の低下はまだ実現していません。
以上から、今後は、輸入数量は増えず年平均通関価格(円ベース)は下がっていく可能性がきわめて高いので、「鉱物性燃料輸入額」が増加して貿易収支及び名目GDPを阻害する可能性は小さく、むしろ輸入額の減少によって名目GDPを押し上げていく 可能性が高いと考えられます。
○「鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支の悪化」はほぼ「機械及び輸送用機器の輸出」の減少による
(再掲)
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2007年は、名目GDP過去ピークの年であると同時に、財貨輸出額の過去ピークの年でもあります。2014年は2007年に比べて、? 鉱物性燃料を除いた輸入額が5.3兆円増加 したのに対して、? 輸出総額は△10.8兆円も減少 したので、? 鉱物性燃料輸入を除いた貿易収支は△16.1兆円悪化 (31.0兆円の黒字から14.9兆円の黒字に半減)しました。
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2014年の2007年に対する輸出減少額△10.8兆円のうち△10.6兆円(98%)は「機械及び輸送用機器」輸出の減少 でした。「機械及び輸送用機器」の主な品目別の減少額は、? 自動車△3.4兆円 、? 半導体等電子部品△1.6兆円 、? 事務機器(電算機およびその部品)△1.3兆円 、? 映像機器△0.8兆円 、などとなっています。増減額だけでは減少率が分からないので、「機械及び輸送用機器」の2007年と2014年の輸出額の比較もグラフにしてみました。
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輸出額の減少率が大きいのは、映像機器/音響・映像機器の部分品/二輪自動車/事務機器(電算機およびその部分品)/半導体等電子部品です。
さて、輸出額の減少は、? 為替レート上昇(円高) によるもの、? 生産拠点海外移転 によるもの、? 国際競争力の低下 によるものなどが考えられます。? 為替レートは2014年後半から2015年前半にはほぼ2006年から2007年(輸出過去最大)にかけての水準に並びつつあります。? 一部には生産拠点日本回帰の動きもあるようですが、生産拠点の国際分散は為替レートだけで決められるものではありません。? 国際競争力を失った品目に代わって数兆円規模で輸出される新たな工業製品の出現がないと輸出額全体が過去の水準に回復するのはきわめて難しいと考えられます。したがって、今後、従来型の工業製品輸出の増加による貿易収支の改善(ひいては名目GDPの拡大)については、それほど多くを望むことはできないように思われます。
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日本 Japan
2015-07-07T11:50:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=197
訪日旅行者数(インバウンド)目標2000万人について考えてみる
政府の「訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」は2,000万人の訪日旅行者数(インバウンド)の実現を目標に掲げています。すでに2014年12月の出入国管理統計速報が発表されていますので、2014年暦年実績が把握できます。このデータを使って過去の実績を分析し、今...
訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)」は2,000万人の訪日旅行者数(インバウンド)の実現を目標に掲げています。すでに2014年12月の出入国管理統計速報が発表されていますので、2014年暦年実績が把握できます。このデータを使って過去の実績を分析し、今後の見通しを考えてみたいと思います。
最初に、出国日本人数(アウトバウンド)と訪日外国人数(インバウンド)全体の推移を見てみます。
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日本人のアウトバウンド は、1996年に1,600万人を超えて以降、2003年と2009年に大きな落ち込みがあったものの、それ以外は概ね1,600万人から1,800万人のレンジ内で為替レートに連動して増減してきました。2003年はイラク戦争が始まった年で、2009年は前年のリーマンショックによる世界同時不況があった年でした。これらから、日本人のアウトバウンドは過去20年近く「概ね横ばい」の基調を続けているといえます。政府目標のインバウンド2,000万人が達成されると、日本は、発展途上国に多い旅行者「出超」の国から、多くの経済先進国と同様の旅行者「入超」の国に変われる可能性があります。
外国人のインバウンド は、1995年までは400万人を若干下回るきわめて低い水準で横ばい推移していましたが、1996年に400万人を超えて増加基調に転じました。しかし、やはり2003年と2009年に停滞と落ち込みがあった上に、2011年には東日本大震災の原発事故発生によって大きく落ち込みました。2009年から2012年の4年間はこれらの要因による落ち込み停滞の期間としてグラフではピンクの背景を入れてあります。この落ち込み停滞期間を過ぎて再び増加に転じ、2013年には初めて1,000万人の大台を突破し、2014年には1,415万人にまで拡大しました。過去2年は政府の目標に向かって順調に拡大しているように見えますが、国(地域)別の動向を更に詳しく見て、今後の見通しを考えてみたいと思います。
まず、訪日外国人数(インバウンド)を国(地域)別の積み上げ棒グラフにしてみました。
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2014年の訪日人数が20万人を越える国(地域)について多い順に下から上に積み上げてみました。1991年から2014年まで一貫して韓国が1位を続けていますが、それ以下には変化があり、かつ韓国との差もかなり小さくなってきています。2014年の上位4位、すなわち韓国 ・台湾 ・中国 ・香港 の合計は934万人で、全体の66%を占める とともに、2年前の2012年のインバウンド総数917万人を上回っています。
2000年のインバウンド総数は527万人でしたから、2014年までの14年間で888万人(169%)も増加したことになります。その14年間の増加数 が最も多かった国(地域)から順に並べてみたのが次のグラフです。2009年から2012年の4年間に大きな落ち込みがあったので、2001年から2012年までの12年間の増加と2013年と2014年の2年間の増加に色分けしてあり、( )内は14年間の全体の増加数888万人に対する割合(%)を示しています。
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14年間の増加数の順位と2014年の実績数の順位は、多少順位のズレはあるものの概ね似通っています。上位4位は中国 ・台湾 ・韓国 ・香港 で、増加数構成比率の合計は73% になり、2014年の実数構成比率66%よりもだいぶ高くなっています。他方で、2014年実数順位5位の米国 と11位の英国 が、14年間の増加数の上位17位以内には入っていません。これは米国と英国は2001年から2012年の12年間にインバウンドが減少 したからです。
以上のように、国(地域)毎の推移には多様性があり、同じように増加してきたわけではないので、それをより明確にするために推移を折れ線グラフで描いてみました。
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2014年のインバウンド上位7位までの国(地域)のうち、2年前の2012年に過去最高数を上回っていたのはタイ だけで、他の6つの国(地域)は全て過去最高数を下回っていました。韓国 の過去最高数は2007年の285万人で、その後の落ち込みが大きく、2014年に7年ぶりに過去最高数を少し更新して302万人になりましたが、台湾と中国との差は著しく縮小しました。米国 の過去最高数は2005年の85万人で、その後は過去最高数を上回ったことはなく、しかも2014年は大幅に円安ドル高が進行したにも関わらず大きく減少 しました。
最後に、2014年のインバウンドが5万人を超えた20の国(地域)について、当該国(地域)の人口10万人当たりの日本旅行者数が多い順に並べたグラフを作ってみました。分母の人口は全て同年ではなく2012年から2014年に分かれているので、これは概数です。
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訪日旅行者数(インバウンド)は、その国(地域)の、日本からの距離 (旅行に要する費用と時間)、所得水準 (費用の負担能力)、人口 、入国要件 (日本への入国のし易さ)、親日感情 の高さ(訪日動機の高さ)、などによって左右されます。
香港 と台湾 は、人口以外の4条件をほぼ満たしていて、すでに人口の13%から12%もの訪日旅行者数になっています。日本人の出国者(アウトバウンド)「総数」が人口の13%ですから、香港と台湾の訪日旅行者数がいかに多いかが分かります。韓国 とシンガポール は、それぞれ人口の6%と4%で、香港と台湾の半分以下の水準ですが、韓国の対日感情やシンガポールの距離などを考えるとやはり非常に高い水準にあります。これらの4つの国(地域)の人口は少なく、インバウンドはすでにきわめて高い水準にあるので、今後更に著しく増大する可能性は小さい と考えられます。
北米とヨーロッパ は「遠い国」ですが、毎年延べ数百万人の日本人が旅行に出掛けています。それに較べると、これらの国々から日本への旅行者は、すでに見たように実数でも増加数でも著しく小さく、人口は多いので人口1,000人について1人から5人くらいの著しく少ない水準になっています。これらの国々から「遠い国」へのアウトバウンドの行先は世界全体が対象となるので、その中で日本へのインバウンドが著しく増大する可能性は極めて小さい と考えられます。
他方、ASEAN諸国 は、経済発展と所得の水準には大きな開きがありますが、概ね高い経済成長を続けており、しかも人口が大きいので、所得水準の向上と入国要件の緩和によってインバウンドが拡大し続ける余地 が十分あります。近年のタイ がその好例で、それより人口の多いベトナム やインドネシア がそれに続くものと考えられます。
最後に、中国 は、2000年の39万人から14年間で215万人も増えて2014年には254万人になりましたが、人口が13億人もあるので、人口1,000人について2人にも届いていないという低水準にあります。近隣国でありすでに富裕層人口も大きくなっているので、インバウンドが増えること自体がSNSなどによる情報伝播を加速して新たなインバウンド増加につながる拡大循環が続く可能性があります。
総じて、訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)の2,000万人の目標達成は、需要面 からは主として中国とASEAN諸国の訪日旅行需要拡大によってあまり心配はないように思われます。むしろ、航空旅客輸送や宿泊や訪問地の地方分散など、旅行サービス供給面 の方がネックになる可能性があると思われます。なにしろ、日本は2,000万人もの外国人旅行者を受け入れた経験がないからです。
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日本 Japan
2015-02-12T00:12:00+09:00
Tooru Ozawa
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人口ボーナス(配当)から人口オーナス(重荷)に転換した日本
日本の人口は、5年毎に行われる「国勢調査」によって年齢・性別・居住地などについて詳しく調査されます。通常、人口統計上の(demographic)生産年齢人口(労働人口:working population)は15〜64歳とされていて、それ以外を従属人口(dependent population)として、年...
生産年齢人口(労働人口:working population)は15〜64歳とされていて、それ以外を従属人口 (dependent population)として、年齢階層3区分の人口集計が行われます。そして、生産年齢人口100に対する従属人口の割合を従属人口指数 (dependency ratio)とし、生産年齢人口の扶養負担の程度を示します。しかし、現代日本の実情に踏まえるとこの年齢階層3区分にはかなりの違和感があります。そこで、別に 0〜19歳 20〜64歳 65〜74歳 75歳以上 の年齢階層4区分の人口集計も行われています。これは<未成年><成人><前期高齢者><後期高齢者>に相当します。<成人>以外を従属人口と区別するために<扶養人口>と呼ぶことにして、<成人人口> と<成人1人当り扶養人口(人) >の推移を見ていくことにします。
まず、過去60年(1950〜2010)の国勢調査による5年毎の年齢4階層別人口の推移を<成人人口>を一番下にして重ね棒グラフにし、<成人1人当り扶養人口(人)>を折れ線グラフ(右目盛り)にしてその上に重ねてみました。
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1950年 の<未成年人口>は1931年から1950年までに生まれた人たちで、いわゆる「団塊の世代」を含んで38百万人もいたので、日本の歴史の中で<未成年人口>が最大 になっていました。<成人人口>は、1886年から1930年までに生まれた人たちで、<未成年人口>を少し上回るだけの41百万人に過ぎませんでした。そして<高齢者人口>は、1885年以前に生まれた人たちで、僅か4百万人しかいませんでした。これはそのころの平均寿命が現在よりもはるかに低かったからです。それでも<未成年人口>が非常に大きかったので、<成人1人当たり扶養人口>は1.02人というきわめて高い水準 にありました。この頃はもっぱら沢山の子供を家族が扶養していたわけです。
<成人1人当たり扶養人口>は、1950年の1.02人から20年後の1970年には0.66人に急速に小さくなりました。この20年間は概ね「高度経済成長」時代に重なります。人口増加に伴って労働人口増加が従属人口増加を上回ることによって経済成長が加速されることを「人口ボーナス(demographic bonus)」 と呼びます。これは、経済成長している国の人口動態がこのような状態になった時に経済成長がより加速(上乗せ)される傾向にあるので「人口ボーナス(配当)」と呼んでいる のであって、経済が成長していない国でも人口が増えれば経済成長が実現されるという意味ではありません。
1985年から1995年の10年間にも、<成人1人当たり扶養人口>は少しだけ小さくなりました。しかし、これは少子化による<未成年人口>の減少が大きくなってきたためで、その間の経済成長に「人口ボーナス(配当)」が働いたとは必ずしもいえません。
2000年頃に<成人人口>は79百万人でピークアウトして反転減少に転じ ました。少子化によって<未成年人口>も減少を続けましたが、<高齢者人口>の増加ピッチがますます速くなってきたので、1995年頃に<成人1人当たり扶養人口>はボトムに達して反転上昇に転じ ました。それでも日本の総人口は僅かに増加を続けて2010年に128百万人でピークアウトして反転減少に転じました。
さて、以上、過去60年の日本の人口動態を見てきましたが、今後の50年間(2010-2060)はどう変わっていくのでしょうか。国立社会保障・人口問題研究所は、5年毎に行われる国勢調査に基づいて将来推計人口・世帯数を5年毎に発表しています。最新の推計人口はやや古いですが、2010年の国勢調査に基づいて平成24(2012)年1月に発表 されたものです。その出生中位(死亡中位)推計による年齢階層4区分の推計データを同じようにグラフに描いてみました。こちらは国勢調査とは違って5年毎ではなく毎年に細かくなっています。
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人口の増減には、出生と死亡の差による自然増減と流出と流入の差による社会増減があります。2012年人口推計では、社会増減である国際人口移動 (migration:流出・流入差)は過去のトレンドが続くという単一の仮定を採用しています。日本の国際人口移動の実績はきわめて小さかったので、この推計人口はほぼ自然増減(出生・死亡差)のみによって変動する推計 になっています。
2030年以前と以後で<成人人口>の色を変えてあるのは、2030年までに<成人人口>に加わる人は2010年にすでに生まれている人なので2011年以降の出生率の変化の影響は受けないからです。同じく、2060年までに<高齢者人口>に加わる人も2010年にすでに生まれている人だけなので2011年以降の出生率の変化の影響は受けません。したがって、2011年以降の出生率の変化の影響を受けるのは、<未成年人口>と2031年以降の<成人人口>だけになります。つまり、人口の自然増減推計は20年くらい先まではほとんどハズレることはない のです。
2015年と2025年の<高齢者人口>は色を変えて強調してあります。2015年は歴史上最大となっていた1950年の<未成年人口> (38百万人)の全てが「年金受給開始年齢」である65歳以上<前期高齢者>になって財政負担が増加するので、「2015年問題」 と呼ばれます。また、2025年はその世代が「後期高齢者医療制度」適用年齢の75歳以上<後期高齢者>になって更に財政負担が増加するので、「2025年問題」 と呼ばれます。
<成人1人当たり扶養人口>は、? 2012年から2016年ころと ? 2033年から2043年ころに上昇が少し急になっていますので、そこを点線で囲って強調してあります。これは1950年の<未成年人口>とその子供たちがそれぞれ65歳以上高齢者になるからです。そして、2010年の<成人人口>76百万人から「年率1.25%減少線」 を目安線として加えてあります。出生率が中位推計どおりに推移すると、2041年頃に<成人1人当たり扶養人口>は1人を上回り<成人人口>と<扶養人口>は逆転 します。もし、出生率がそれより高くなると、まず<未成年人口>が推計よりも増加し、それが<成人人口>になっていくには20年を要しますから、むしろ「逆転」は2040年よりも前にシフトすることになります。
以上、1950年から2040年ころまでのおよそ90年間の年齢階層4区分の人口推移と<成人1人当たり扶養人口>の推移を見てきました。要約すると、<成人人口 >は、1950年の41百万人から増加を続けて50年後の2000年の78百万人でピークアウト し、その後は概ね年率1.25%の減少を続けて40年後の2040年には54百万人にまで減少します。また、<成人1人当たり扶養人口 >は、1950年の1.02人から低下を続けて45年後の1995年の0.60人でボトムをうち 、その後は上昇に転じて45年後の2040年には0.99人にまで上昇します。1950年生まれの人はこの90年間の激しい人口変動の浮き沈みを身を以てほとんど全部体験することになります。
<成人人口>の増加と<成人1人当たり扶養人口>の低下は「人口ボーナス(配当) 」として経済成長を加速後押ししたことはたぶん間違いありません。その逆に、<成人人口>の減少と<成人1人当たり扶養人口>の上昇に対しては、「人口オーナス(onus:重荷) 」という語呂合わせのような名前がつけられています。日本が「人口ボーナス」基調から「人口オーナス」基調の方向に転換したのは1995年 でした。2012年から2016年くらいの間にとくに「人口オーナス」の進行が加速します。1997年から17年も名目GDPが横這い低迷を続けていて、どうしても持続的で安定的な成長軌道に乗ることが出来ないでいるのは、やはり「人口オーナス(重荷)」が重すぎるためではないかという気がしてきます。しかも、人口動態の転換から20年が経つにもかかわらず、有効な対策が講じられていないことは非常に心配になります。
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2014-12-04T22:44:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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先進国クラブ(OECD)の中の日本(人口と移住)
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)は、経済先進国クラブとも呼ばれ、加盟が認められることによって発展途上段階を脱して経済先進国の仲間入りを果たすと考えられてきました。1961年発足当初からアジアで加盟していたのは...
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)は、経済先進国クラブとも呼ばれ、加盟が認められることによって発展途上段階を脱して経済先進国の仲間入りを果たすと考えられてきました。1961年発足当初からアジアで加盟していたのはトルコだけで、日本はその3年後の1964年に加盟し、韓国は更にそれから32年後の1996年に加盟しました。現在の加盟国は34ヶ国ですが、いわゆるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)はまだ加盟していません。OECDは、加盟34ヶ国とBRICs等加盟候補国について様々な統計データを公表しています。そのひとつであるOECD Factbook 2014 のトップカテゴリは「Population and Migration (人口と移住)」です。出生率の低下と人口の減少という経済先進国に共通する問題を緩和するには、移住による人口移動が避けて通れない課題であるからです。このカテゴリにおいて、日本は OECD 34ヶ国の中でどのような位置にあるのかをみていきたいと思います。
まず、出生率(fertility rate) についてみてみます。その年の子供の出生数をその年の15歳から49歳までの女性人口で割って出生率としています。OECD Factbook 2014 で加盟34ヶ国全部のデータが揃っているのは2010年までです。出生率は2-3年で大きく変わるものではありませんから、これがほぼ現状と考えて良いと思われます。この2010年のデータをもとにOECD加盟34ヶ国を出生率の低い順 に並べてみました。
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人口の維持に必要な出生率は2.01程度とされていますから、EU28ヶ国のうち人口がある程度大きく、子供の出生によって人口減少を回避していけそうな国はフランスだけです。英国と米国もそれに次いでかなり出生率が高く人口減少速度はそれほど速くはなさそうです。それに対して、欧州の人口大国であるドイツ・スペイン・イタリアと極東の日本・韓国は、出生率が著しく低く、人口の高齢化と減少がきわめて速く進んでいきます。
それでは、OECD34ヶ国の人口増加率 の将来の見通しはどうなっているのでしょうか。OECD Factbook 2014 では、2012年までの人口の実績と2020年および2050年の加盟国の人口推計を出しています。2010年から2020年までの近い将来の10年間の人口増加率と2020年から2050年までの少し先の30年間の人口増加率に分けて棒グラフとして重ね、OECD加盟34ヶ国を2010年から2050年の40年間の人口増加率が小さい順 に並べてみました。
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日本は、2050年までに人口が24%減少する見通し にあって、OECD34ヶ国の中で人口減少率ダントツの第1位に躍り出ています。他方、ドイツ・スペイン・韓国など、出生率が日本より低かった国の全てが、人口増加率(減少率)では日本よりかなり改善される見通しになっています。それはそれらの国々の政府が対策を講じるからです。勿論、基本は出生率を改善するためのいわゆる少子化対策ですが、それだけではなく、ほとんどの国が外国人移住者を受け入れていく政策をとっているかあるいはとっていこうとしているからです。
国の人口統計は、その国の国籍を持っている人の数ではなく、その国に居住している人の数の統計 です。したがって、国外に住んでいる日本人(日本国籍者)は日本の人口には含まれず、永住権を持ち現に日本国内に住んでいる外国人(外国籍永住者)は日本の人口に含まれます。国連は、国際的な移住者数残高(international migrant stock) について詳細な相互マトリックスデータ を公開しており、OECDもそれを利用しています。2013年央において、移住者(外国居住者)数残高は世界全体で232百万人でした。これは世界人口71億人の3%に相当します。ここでは、OECD34ヶ国に居住する移住者数残高を抽出し、OECDの人口(2012年)に対する移住者数残高の割合をグラフにしてみました。人口に占める移住者数残高比率の高い方から順 に並べています。
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人口に占める移住者数残高(定住外国人数)には留意すべきことがあります。多くの国では外国人の女性が生んだ子供でも希望すれば出生した国の国籍を取得することができます。したがって、移住者の2世・3世の多くは外国人ではなくなっていきます。ですからこの移住者数残高(stock)というのは、概ね、外国で生まれて移住してきた外国人1世の残存数 に近いと考えられます。移住1世でも国籍を取得して帰化した場合は外国人ではなくなりますから、当然この統計には含まれません。
さて、日本は人口に占める移住者(定住外国人)数残高が2%で、OECD34ヶ国の中では少ない方から3番目です。しかも、日本の定住外国人数には在留特別許可者(すでに太宗が1世ではなく2・3・4世になっていると考えられます)が多数含まれていますから、移住者1世の数は更にずっと少なくなります。また、日本より少ないメキシコは、異常に高かった出生率が経済成長によってようやく2.05%まで低下してきた国ですから、移住して出て行く人は多いですが移住して入って来る人はほとんどいません。また、ポーランド は、出生率が日本よりも低い1.38%で、しかも現在の定住外国人数残高比率も日本より低い2%ですが、前掲の人口増加率グラフでは日本よりも穏やかな人口減少となる見通しになっています。これは今後(おそらくウクライナを含む近隣国からの)外国人移住者の受け入れを行っていく政府の方針に踏まえているのではないかと推定されます。
上のグラフは、人口と移住者1世数の「残高(stock)」でしたが、他方、1年でどれくらいの外国籍者に対する定住許可(永住許可)を出しているのかという「流入(inflow)」速度の問題があります。OECD Factbook 2014 には定住外国人流入数(Permanent inflow) の統計があります。しかし、残念ながら加盟34ヶ国全部の数値が把握されているわけではありません。ここでは数値が把握されている2011年の23ヶ国のデータをもとに、人口1千人当たりの永住許可者数 を大きい方から順に並べてみました。(人口千人当たりにしましたので、一つ前のグラフの人口比率パーセンテージの10倍になっていることに注意が必要です)
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日本は、人口1千人当たり0.5人、すなわち人口1万人に対して5人の永住許可者しか受け入れておらず、人口急増に悩んできたメキシコとほとんど変わりません。米国は人口1千人当たり3.4人の永住許可者を受け入れ、全人口の15%の定住外国人残高があります。オーストラリアやニュージーランドは人口1千人当たり10人(人口の1%)も毎年受け入れています。それにしても、ヨーロッパの国々の人口比受入数はあまりにも大きいような気がします。
そこで、受入数と受入理由(Permanent inflows by category of entry) をグラフにしてみました。国の順番は上のグラフと同じです。
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まず、EU諸国には自由移動 (Free movements)が多いのが目立ちます。これは、EU諸国間は国境を越える人の移動が自由なので、EU域内の移住者が多く含まれているためではないかと推定されます。EU域内にも経済格差があり、貧しい国から豊かな国への移住もありますから域外からの移住と区分するわけにもいきません。他方、日本や北米(米国・カナダ・メキシコ)には自由移動を理由とする永住許可はありません。
総じて、就労目的 (Work)はそれほど多くなく、就労者同伴家族 (Accompanying family of workers)や(おそらく帰化者や定住許可者の)家族 (Family)が多くなっています。人口減少対策として一番望ましいのは、新しい国に溶け込みやすい子供やこれから子供を産む若いファミリーが移住してくることです。それに対して、単身で出稼ぎにやってくるような外国人は、所得を送金して国内であまり消費しなかったり、仕事がなくなった後にそのまま不法滞在化してしまう懸念も高くなります。テンポラリーな仕事に出稼ぎ外国人を使うことは人口問題の解決策ではなく、一時的な人手不足対策にしか過ぎません。(それはそれとして必要かもしれませんが)
日本以外の国について少しふれると、米国は、年間に106万人もの永住許可を与えています。また、人道的 (Humanitarian)永住許可については、米国169千人・カナダ36千人・オーストラリア14千人・英国とスエーデン13千人・ドイツとフランス11千人などが主な受け入れ国となっています。ちなみに日本は僅かに3百人でした。その面でも、日本は世界の経済先進国としての役割をほとんど果たしていません。
さて、以上、人口と移住(Population and Migration) に関して、OECD34ヶ国(経済先進国)の中で日本がどういう位置を占めるているのかを見てきました。その結果、日本の異質性は著しく際立っていました。人口の高齢化と減少という先進国病は、欧州のOECD諸国よりも遅く始まりましたが、その分進行速度が速く、今後はどの国よりも進行速度が速まっていきます。人口の問題は、出生率を上げるにしても外国人移住者を受け入れるにしても、10年20年の期間で成果を上げることはほとんど困難です。また結果を求めて急ぐと弊害の方が強く現れる危険もあります。ですから、出来るだけ早く始めて、時間をかけてじっくりと進めていく必要があります。先行しているOECD諸国の抱えている弊害の問題ばかりに目を向けて、自国の置かれている状況を認識せず、国境を閉ざしたままにしていると、日本の衰退は回復不能なものになってしまう可能性があります。
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日本 Japan
2014-11-27T22:27:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=192
経済社会の「成長」と「衰退」について考えてみる
2014年11月17日に、7-9月四半期国内総生産(GDP)速報値の発表がありました。記者公表資料のポイントは、7−9月四半期の前四半期(4-6月期)に対する「成長率」は実質で▲0.4%(年率換算▲1.6%)名目で▲0.8%(年率換算▲3.0%)ということでした。この「成長率」の算出根拠...
記者公表資料のポイントは、7−9月四半期の前四半期(4-6月期)に対する「成長率」は実質で▲0.4%(年率換算▲1.6%)名目で▲0.8%(年率換算▲3.0%)ということでした。この「成長率」の算出根拠となる(年換算した)7-9月四半期のGDPは実質で522.8兆円名目で483.2兆円 でした。名目(額面・帳簿価格)より実質(価格変動分調整後)の方が随分大きい数字になっているのはかなり違和感があります。
日々刻々の株価など市場の動きを気にしている人々や毎四半期決算を気にしている人々にとっては、3ヶ月の僅かな変化もとても重要かもしれません。しかし、普通の生活者の立場からすると、目先の僅かな変化よりも、5年後10年後20年後の先々に向かって今からどうなっていくのだろうかということの方がずっと重要なはずです。残念ながら将来を予測したり思うようにコントロールしたりすることはできませんが、過去がどうだったのかはある程度数字で振り返ることができます。
内閣府が公開している四半期時系列データ を使って、1994年1-3月四半期から2014年7-9月四半期までの20年間(83 四半期)の(年換算)名目(Nominal)国内総生産 (支出側:季節調整済み)の内訳を積み上げ棒グラフ(左目盛り 単位:兆円)で、前年同四半期に対する年成長率 を折れ線グラフ(右目盛り 単位:%)で、描いてみました。
? 日本の名目GDP は過去20年にわたって500兆円を挟んで上下しているだけて、基調的にはずっと「横ばいないし停滞 」の状態が続いています。? リーマンショック世界不況 によって2009年1-3月四半期の(年換算)名目GDPは1年で一気に8.9%(45.1兆円)も縮小 しました。? 財貨・サービス貿易収支 (ネット輸出)は、ずっと「黒字」(グラフのプラス側)で推移していましたが、リーマンショック「前夜」の2008年7-9月期に「赤字」(グラフのマイナス側)に転じ、2009年4-6月期から2011年1-3月期まで2年間(8 四半期)「黒字」に戻った後、また2011年4-6月期から「赤字 」に大きく転じたままです。? リーマンショック後の名目GDPの大幅な縮小からすでに5年以上を経過しましたが、財貨・サービス貿易収支要因を除く国内要因だけで見てもようやくリーマンショック以前の水準に戻りかけているところで足踏み しているようにみえます。
GDPは名目ではなく実質が重要なのだという考えもありますから、四半期年換算実質(Real)GDP(2005年基準連鎖方式) についても、上の名目GDPと同様に20年間(83 四半期)の推移グラフを描いてみました。
この四半期実質(Real)GDP 時系列データは、平成17年(2005年)を基準年としてそこからの物価変動分を調整して算出されています(連鎖方式)。実質GDPは、2005年より過去に遡るほど名目GDPより小さく、逆に2005年より現在に近づくほど名目GDPより大きくなっています。これはこの20年間を通じて基調として物価が下がり続けていた ためです。実質GDPは物価変動要因を除いた実質成長率を把握するために算出される数値であって、経済の実質規模を表す数値ではありません。したがって、上のグラフは、実質GDPは名目GDPと違って僅かながら右肩上がりに拡大している ことを示すだけで、数値に意味があるのは実質成長率だけ です。
名目GDP全体は20年停滞を続けてきましたが、その内訳構成はどう変わってきたのでしょうか。1994年1-3月四半期の名目GDP の支出側構成要素の値と2014年7-9月四半期までの20年間の変化量 をグラフにしてみました。
名目GDP は500兆円から20年間で17兆円(3%)減少しました。民間消費支出 は277兆円から20年間で16兆円(8%)増加して名目GDPに占める割合は55%から60%に上昇しました。また、政府消費支出 は77兆円から20年間で27兆円(40%)増加して名目GDPに占める割合は14%から21%に大きく上昇しました。逆に、公共投資 は43兆円から20年間で17兆円(40%)減少して名目GDPに占める割合は9%から5%に大きく低下しました。民間設備投資 は71兆円から20年間で3兆円(6%)減少して名目GDPに占める割合は15%から14%に低下しました。そして、財貨・サービス貿易収支 (ネット輸出)は、輸出が41兆円(93%)輸入が65兆円(105%)も拡大した結果、9兆円の黒字から24兆円減少して15兆円の赤字に転換し、名目GDPを2%増加させていたものが逆に3%減少させるようになっています。
これらの変化が時系列でどのように生じてきたかを確認するために、1994年1-3月四半期の値を100とした指数 で支出構成要素の推移をグラフにしてみました。
名目GDPより上側で推移しているのはGDPを押し上げてきた要素で、下側で推移しているのはGDPを押し下げてきた要素ですが、ただし輸入だけは輸出と比較するために逆転してあります。
名目GDPを押し下げてきた最大の要因は財貨・サービス貿易収支 (ネット輸出)の赤字化です。輸出と輸入がともに大きく拡大しているのは、日本企業の生産拠点が海外にシフトして資本財や部品の輸出と完成品輸入の両方が増えていること、また、化石燃料価格の上昇や円安による輸入価格上昇に原発停止に伴う輸入量増が相乗的に影響しています。価格や為替の先行きは予想できませんが、財貨の輸出入「数量」が名目GDPを「継続的に」拡大するほど著しく増減する可能性はあまりないのではないかと思われます。他方、旅行収支や知財収支などのサービス貿易収支 は、ビザの緩和やコンテンツ輸出などによってまだまだ改善していける可能性はあるのではないかと思われます。
名目GDPを押し上げてきた最大の要因は政府消費支出 の継続的拡大でした。これはいうまでもなく社会保障給付費の増加に伴って公費負担部分(政府現物消費支出)が拡大してきたからです。その推移データをグラフにしてみました。
社会保障給付費は、実質的には目的税に相当する社会保険料とその積立金の運用益や取り崩し、そして政府一般会計からの「公費」補てんによって賄われています。政府消費支出の増加は名目GDPを押し上げますから、それ自体はあながち悪いことではありません。問題はその財源がどう確保されるかです。社会保障給付費の財源となる社会保険料(実質目的税)と一般税は保険料率や税率が変わらなくても名目GDPに連動して増減 します。他方、名目GDPが増えなければ、増加する社会保障給付費に連動して社会保険料率と税率を引き上げる必要がありますが、税率引き上げは民間の消費や投資を減少させて名目GDPを縮小 させてしまいます。
名目GDPが持続的に拡大してこなかった最大の要因は、55-60%を占める民間消費支出 がほとんど増加してこなかったからです。消費は実質では増加してきたが物価が低下してきたので名目(額面・帳簿価格)では増えなかったということもできますが、物価が低下したのは消費力が潜在供給力に対して一貫して弱かったからということもできます。消費力が伸びなかったのは雇用者報酬が減り続けたからです。いわゆるデフレスパイラルです。
最初のグラフに戻って名目GDP成長率(折れ線グラフ)の推移 をみると、1994年から1997年まで名目GDPはその後の17年間のどの時期よりも順調に拡大していました。ところが、1997年4月に一般消費税率が3%から5%に引き上げられた後、名目GDPは縮小に転じてむしろ税収は減り、景気対策を行ったので財政赤字はより拡大してしまいました。その後17年の間名目GDPが持続的な拡大を続けることはなかったので、社会保障給付費が拡大を続ける中で一般消費税率の引き上げはずっと見送られ続けてきました。2014年4月に17年ぶりに5%から8%に一般消費税率が引き上げられましたが、やはり引き上げ後(2 四半期)は名目GDPの縮小が拡がる傾向にあるため、予定されていた2015年4月の8%から10%の引き上げは先送りされることとなりました。過去の経験から見て当然の判断と思われますが、同じく過去の経験に踏まえると消費税を安心して引き上げられるような状況はもう永遠に来ないのではないかという悲観論もいっそう現実味を帯びてきたように思われます。
過去20年間の推移を見てくると、日本の経済社会は、一時的な景気刺激策で「持続的な成長」に戻れるような潜在的な活力が失われており、逆にちょっとした景気減速要因の影響が何年も長く後を引いてしまうような脆弱な体質に陥っているようにみえます。こういう活力のない脆弱な体質は経済社会そのものが「衰退」しているためだと認識するのがやはり妥当なではないでしょうか。衰退している経済社会を立て直して5年10年20年後の将来になんらかの希望を見いだせるよう転換していくには、相当の痛みや危険を伴うような経済社会の「抜本的な革新」がどうしても必要なのではないかと思います。
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日本 Japan
2014-11-24T11:14:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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終了する米国の量的金融緩和(QE)を振り返る
2014年10月末に、米国連邦準備制度理事会(FRB)は量的金融緩和(quantitative easing : QE)による金融機関等からの資産追加購入を停止することを発表しました。その意味や今後の影響に関してはすでに沢山の解説や論評が出ていますので、ここでは長く続けられた量的金融...
量的金融緩和(quantitative easing : QE)による金融機関等からの資産追加購入を停止することを発表しました。その意味や今後の影響に関してはすでに沢山の解説や論評が出ていますので、ここでは長く続けられた量的金融緩和の実績と結果 について、FRBのデータをもと振り返ってみたいと思います。まず最初は、マネタリーベース(Monetary Base) の推移です。
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最初の量的金融緩和(これはのちにQE1 と呼ばれるようになりました)は、連邦準備銀行 が合計1兆7,250億ドルの金融機関資産を買い入れるという発表から始まりました。内訳は、不動産担保ローンのキャッシュフローに裏付けされた証券(Mortgage Backed Securities : MBS )1兆2,500億ドル(全体の73% )、自動車ローンなど消費者信用債権のキャッシュフローに裏付けられた証券(Asset Backed Securities : ABS )など1,750億ドル(全体の10% )、そして米国債 3,000億ドル(全体の17% )とされました。QE1 は、2008年11月から2010年6月までの間に実行されました。QE1 は、2008年9月15日の投資銀行リーマンブラザースの倒産をきっかけに生じた金融危機に対して、流通性(譲渡性)が失われた証券化金融商品を金融機関から大量に買い上げ、同時にそれによって金融機関の連邦準備銀行支払準備預金をかつてなく分厚く積み上げさせて、信用不安の芽を素早く摘むことを明確に力強く宣言するものでした。資産の大量買取というかつて行われたことのない思い切った政策を素早く発表することで、米国の信用秩序の維持が図られ金融危機は回避されました。QE の意味や意義については様々な見解がありますが、ここでは、債権の「証券化(securitization) 」が進んでいたことが連邦準備銀行の資産買い上げと金融証券市場への直接的政策効果実現を容易にしたという点を挙げたいと思います。
FRBは、不動産担保債務残高(Mortgage Debt Outstanding : MDO) の詳しい統計を定期公開しています。それを使って、ここでは1980年第1四半期から2014年第2四半期までの各四半期末の債権保有者別の不動産担保債務残高(MDO )の推移をグラフにしてみました。
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参考のために(名目)GDPの推移も加えてみました。GDPはフローでMDO はストックですから両者に直接的な関連性はありませんが、規模感を掴むことができます。たまたまだと思いますが、ピークの2008年の第2・第3四半期のMDO は、ほぼGDPと同規模だったことが分かります。不動産がらみの借金総額(MOD )がちょうど1年間の稼ぎ(GDP)を上回るほどまで膨らんだところでクラッシュが生じ、そこからGDPとMDO の両方とも減少に転じました。GDPはその後すぐにまた上昇に転じていますが、MDO の方はそれよりずっと後まで減少を続けました。
MDO のうち過半は証券化するためにまとめてプール(pools or trusts) されていました。住宅ローンのような小口の債権を大量にプールしたもののキャッシュフローは大数の法則が働いて予測精度が高まるので、優先償還部分(トランシェ)の償還確実性が非常に高くなるからです。しかし不動産市況の低下によってその信用度が大きく揺らぎ発行と流通が止まりました。そこで、プールされた債権の半分くらい(全債権の4分の1くらい)が、QE1 によって、連邦住宅抵当公庫(Federal National Mortgage Association, FNMA : 通称「ファニーメイ 」)と連邦住宅金融抵当公庫(Federal Home Loan Mortgage Corporation, FHLMC : 通称「フレディ・マック 」)に移転しました。(買い上げた連邦準備銀行は小口大量の住宅ローン債権を管理することはできないので、債務保証履行などで(?)これらの(準)公的専門機関に買い上げた債権を移転したと推定されますが、それについては具体的な検証はできていません。)
MDO は、新規融資によって増加し、約定償還と期限前償還と担保不動産処分回収と債権償却によって減少します。MDO が2008年第2四半期をピークに急激な減少に転じたのは、新規融資が減少し、担保不動産処分回収と債権償却が急増したためと考えられます。それからほぼ6年経った2014年第2四半期には、MDO の減少は止まって、増加に転じようとしているように見えます。したがって、MDO の不良債権処理は6年をかけて概ね終わったと推定できます。
FRBは、消費者信用(Consumer Credit)残高 についても詳しい統計を定期的に公開しています。それを使って、ここでは1980年1月から2014年8月までの毎月末の債権保有者別の消費者信用残高 の推移をグラフにしてみました。
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こちらにも参考のために(名目)GDP(の15%)の推移を加えてみました。やはりGDPはフローで消費者信用残高 はストックですが、消費者信用残高 の伸びは、GDPの7割程度を占める個人消費の伸びと密接に関連していると考えられます。MDO は概ねGDPと同規模でしたが、消費者信用残高 は概ねGDPの15%(したがって年間個人消費の20%、月間個人消費の2.4倍)程度の規模であると推計されます。
消費者信用残高 のうち20%程度はプールされて資産担保証券(Asset Backed Securities : ABS) に証券化(Securitized)されていました。しかし、2008年金融危機以降は流通性(譲渡性)が失われてほとんど証券化されなくなっています。証券化によってオフバランスができないと金融機関に債権が蓄積し、与信を拡大するには追加資金が必要になります。そこで、政府や連邦準備銀行などが債権を買い上げることによって消費者信用拡大のネックを緩和 しました。
消費者信用残高 は、2000年にGDPの15%を上回り、2009・2010年に一時的に減少しましたが、2010年末からGDPを上回る増加を続けています。消費者信用は不動産担保債権よりもはるかに回転期間が短いので、概ね2年程度で不良債権処理は終えたものと推定できます。しかし、証券化は未だ低調のままで、政府の関与が続いています。民間投資家のスタンスがまだ変わらないためでしょうか。その意味では金融危機の完全な終息にはまだ至っていないとみることもできます。
このように、QE1 は、金融危機回避の目的を持っていましたが、QE2 は、大きく落ち込んだ(名目)GDPや雇用の回復を促進する目的で実施され、2010年11月から2011年6月まで、米国債 6,000億ドルの買い入れが行われました。2010年第1四半期に増加に転じた(名目)GDPはその後も回復を続けましたが、QE2 がそれにどれだけ貢献したかは明確ではありません。
(名目)GDPは比較的順調に回復軌道に戻ったものの、それに比べて金融危機で大きく失われた雇用 の回復は下のグラフのようになかなか進みませんでした。
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そこで、更に2012年9月からQE3 を行うことが発表されました。QE3 は、米国債 450億ドル・MBS 400億ドル・計850億ドルを毎月買い上げ 続け、2013年12月までの16ヶ月間で総額1兆3,600億ドルを買い上げるというQE1 に匹敵する大規模なものでした。上のグラフのように、QE3 を実施した間に雇用 は相応の回復をみました。しかし、この雇用の回復にQE3 がどれだけ貢献したかは必ずしも明確ではありません。
2013年6月にFRBは量的金融緩和(QE) をどのように終わらせるかという出口戦略(exit strategy) を公表しました。このときは株価が大きく下げるなどの市場の反応がありました。2014年に入ってから、毎月の買い上げ規模が段階的に縮小され、2014年10月に買い上げの停止発表に至りました。これは1年以上も前から予告されていたことなので、市場は落ち着いて受け入れ、むしろ株価は最高値を更新しました。このように、量的金融緩和政策の発表は市場のセンチメントに大きな影響を与えることは明らかです。
さて、量的金融緩和(QE) は中央銀行が金融機関資産の大規模な買い取りを続けることですが、それは「通貨」の存在量(Money Stock) を増加させて物価を上昇させ、ひいては経済活動を活性化させるとされています。FRBは、当然、量的金融指標(Manetary aggregates) の統計を公開しています。それを使って、ここでは1980年1月から2014年9月までの毎月末のM1 およびM2 残高の推移をグラフにしてみました。
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こちらにも参考のために(名目)GDP(の50%)の推移と、1980年1月末M2 から年率6%増加する目安線(点線)を加えてみました。たまたまだとは思いますが、M2 とGDPの50%とM2年率6%増加線は2008年まではずっと近似していました。2008年以降(名目)GDP(の50%)は、年率6%目安線(点線)の下方に大きく離れてしまいました。それでもM2 が年率6%目安線(点線)レベルに維持されてきたのは量的金融緩和(QE) が行われてきたことによるものと推定できます。
QE が続けられた結果、M2 は2008年以降GDP(の50%)を上回るピッチで増加を続けてきています。したがって、これ以上量的金融緩和(QE) を続けると、物価上昇率が高まり過ぎて悪性のインフレに陥ってしまう懸念が芽生えてきます。FRBが、6年続けてきた量的金融緩和(QE) を終了することを決めたのは、その効果と弊害を総合的に勘案した結果だと考えられます。
米国のFRBが終了を決定した数日後に、日本の日銀は量的金融緩和 の規模を拡大する発表を行いました。市場はこれを好感して株価は急騰しました。量的金融緩和 は中央銀行が金融機関の資産を大量に買い入れると「宣言をする」ことで市場のセンチメントを資産インフレ方向に誘導する効果があることは間違いありません。それはそれで重要なことです。しかし、米国のFRBのQE は住宅ローン市場や消費者金融市場に直接的に好影響を及ぼすような資産の買い取りを行いましたが、日本の金融機関の資産には日本国債以外に中央銀行が大量に買い取れるようなめぼしい資産はありません。したがって、直接的な効果は、国債の流通発行環境を改善する以外にありません。あとは理論上の間接的波及効果によって日本の経済活動が活性化することを祈るしかありません。
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米国 US
2014-11-07T15:57:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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米国のインバウンド・アウトバウンドから日本の状況を考えてみる
日本は、出国日本人数に対して入国旅行者数が著しく少なく、国際収支においても旅行収支の赤字が大きく、経済先進国の中ではきわめて特異な国になっています。2012年の入国旅行者数ランキングでは、日本は世界で33位、アジアでも8位で、経済水準や人口規模からみると著し...
出典:日本政府観光庁「出入国者数ランキング:入国旅行者数ランキング」
しかし、この統計にはいろいろ但し書きがつけられていますし、上位の国の数字が大きくなっているのにはそれなりの背景があり、日本の数字が小さくなっているのにもそれなりの背景があります。一般に、隣国同士の関係が良好で、経済水準の差が小さく、間に海がなく陸続き であれば、通勤したり商売したり買い物をしたり遊びに行ったり頻繁に国境を越える人たちが大勢出てきます 。EU諸国は、シェンゲン協定 によって域内国境を越えるのは基本的に自由になっています。また、ASEAN諸国にも、出稼ぎや行商などを含む人の行き来が盛んな国境があります。それに比べると、日本は、島国で国境は全て海上にあり、韓国・台湾・香港など人口の少ない国(地域)との経済水準格差はかなり縮小してきましたが、近隣大国中国・ロシアのとの外交関係があまり良くありません。
こうした背景の違いのひとつの例をみるために、米国の事情と数字 を調べてみたいと思います。米国の入出国統計は、商務省の旅行観光産業事務所(Office of Travel & Tourism Industries:OTTI)から月次観光統計(Monthly Tourism Statistics) として入手することができ、数字の解説も得ることができます。この統計の米国入国旅行者総数は日本の観光庁のランキングに使われた数字に一致しています。それがどのような数字であるかを知りたいわけです。
この統計から2013年の米国への入国旅行者数(Inbound)の居住地域別内訳 をグラフにしてみました。
米国は、カナダとメキシコとの間に長い陸上国境線があり、その両国と北米自由貿易協定(NAFTA) を締結しています。NAFTAに基づいて、相互に一定の条件を満たす範囲で短期労働目的での入国も認め合っています。また、メキシコから米国への入国者は、国境から25マイルまでの国境地帯への入国とそれよりも内陸部(Interior)への入国では手続が異なります。月次観光統計(Monthly Tourism Statistics)では、2005年までは内陸部到着者数のみを米国入国者数としていましたが、2006年以降2009年までは国境地帯入国者を含む入国者総数を併記するようになり、2010年以降は入国者総数のみを計上するようになっています。したがって、メキシコからの入国者数は次のグラフのように2005年以前と2006年以降で連続性がありません。
他方、米国には、ハワイ・グアム・北マリアナ(サイパン)など、本土からは海を隔てて遠く離れた国土(領土)があります。OTTIの月次観光統計(Monthly Tourism Statistics)は、米国本土の空港から入国した「海外(Overseas)」からの旅行者数 と、カナダとメキシコから米国本土に出国した人の数 (空路・陸路を含む相手国統計を使用)を計上しています。ですから、ハワイ・グアム・サイパンを訪れた日本人の数はこの統計数字には含まれていません。日本の観光庁の統計(観光白書)によれば、2013年に米国本土に入国した日本人は3,730千人で米国のこの統計数字と一致しますが、それとは別に、ハワイには1,523千人、グアムには893千人、北マリアナ諸島(サイパン)には153千人(これのみ2012年)の日本人が入国しています。
さて、統計の但し書きをこのように詳しく確認した上であらためて数字を見返してみます。米国本土への2013年の入国旅行者総数は約70百万人 で、カナダとメキシコが38百万人(総数の54%) 、それ以外の「海外(Overseas)」が32百万人(同47%) でした。また、「海外」に属するカリビアン(Caribbean)と中央アメリカ(Central America)は、海や他国によって隔てられてはいますが、米国人の近隣リゾート地(日本人にとってのハワイやグアムやサイパンと同じような位置付け)にあたるので、グラフではカナダ・メキシコの次に載せてみました。2013年に、カナダ・メキシコ・カリビアン・中央アメリカ以外(すなわち北中米以外)の「遠い国々」から米国本土に入国した旅行者は30百万人(同43%) だったということになります。これは米国の人口316百万人の9.5% に相当します。
米国から「遠い国々 」のうち米国に沢山入国している上位8ヵ国の年別入国旅行者数の推移をグラフにしてみました。
「遠い国々 」の中では、日本は米国本土を訪れる人が最も多い国でしたが、2001年の同時多発テロ以降は大きく減少し、その後あまり回復していません。英国とドイツも日本と同様の傾向にあります。他方、ブラジル・中国・フランス・韓国・オーストラリアは、2000年までは米国入国旅行者数が少なかったのですが、近年は増加傾向にあり、とくにブラジルと中国の増加が急ピッチです。日本の統計と同様中国には香港は含まれません。
さて、反対に、米国人はどこに向かってどのくらい出国しているのでしょうか。国外に出発した米国市民の目的地域別の数(Outbound) をグラフにしてみました。
2013年に出国した米国人総数は62百万人 でした。そのうち、陸路国境を超えてカナダ・メキシコに出国した人は延べ23百万人(総数の37%)、航空機でカナダ・メキシコに出国した人は10百万人(同16%)でした。またカリビアンと中央アメリカに出国した人はそれぞれ7百万人(同11%)と2百万人(同4%)でした。したがって、それより「遠い国々」(北中米以外の地域)に出国した米国市民は20百万人(同32%) でした。これは米国の人口316百万人の6.3%に相当 します。
北中米以外の「遠い国々」の6つの地域に出国する米国市民の数 はどうなっているでしょうか。
「遠い国々」から米国に入国する旅行者数は増加傾向にありましたが、「遠い国々」に出国する米国市民の総数は減少傾向 にあります。近年の米国国際収支で旅行収支黒字が拡大しているのは入国者の増加だけでなく出国者の減少も影響している ことが分かりました。そこで、北中米以外の「遠い国々」6つの地域毎の傾向をみてみます。
ヨーロッパ・アジア・南米・オセアニアは減少ないし横ばい傾向にあり、増加しているのは中東だけです。
最後に、以上でみてきた米国の例にならって日本の入国旅行者数を「近隣諸国」と「遠い国々」に分けて見てみる ことにします。
2013年の日本入国旅行者数は大幅に増えて11百万人 になりました。このうち東アジア「近隣諸国」は7百万人(全体の66%) で、その他の「遠い国々」は4百万人(同34%) でした。日本の人口127百万人に対する「近隣諸国」からの入国旅行者数の人口比率は5.8% 、「遠い国々」からの入国旅行者数の人口比率は3.0% でした。米国の場合、人口316百万人に対する「近隣諸国」からの入国旅行者数の人口比率は12.6% 、「遠い国々」からの入国旅行者数の人口比率は9.5% でしたから、やはり日米間の差はどちらもきわめて大きいといえます。
東アジア「近隣諸国 」では、中国・ロシア に潜在的な大きな拡大余地があり、経済水準格差の縮小と外交関係改善による入国管理の緩和で大幅に拡大することが可能と考えられますが、どちらにも領土問題があって見通しはきわめて不透明といわざるをえません。他方、「遠い国々 」の中では、比較的近いASEAN諸国 との経済水準格差の縮小による入国管理の緩和で拡大していくことが十分期待でき、実際に少しずつ動き出しています。しかし、本当に日本から遠い国々である北米や欧州 は、これまでも入国の制約はありませんでしたから、大きな増加が生じるきっかけはありません。北米や欧州は欧州や北米以外の「遠い国々」(アジアや南米やアフリカ)に旅行する人の総数が増えない傾向 にある中で、むしろ今まであまり訪れていなかった国々に分散していく可能性もあるので、マーケティング的には最も競争の厳しい市場になっています。日本がその中で選択されるためにできることが何かあるでしょうか。2020年東京オリンピック・パラリンピックでとにかく一度日本に来てもらうということが唯一の目玉でしょうか。
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2014.11.2 追記
(データの出典はいずれも日本政府観光局:資料室:マーケティングデータ:訪日旅行市場の基礎データ )
2013年の主なアジアの国(地域)への米国人旅行者数(インバウンド)は、?中国2,085千人・?香港1,110千人・?タイ823千人・?日本799千人 ・?韓国722千人・?フィリピン675千人でした。
2013年の中国のアウトバウンドは98,190千人とされています。しかし、これには、「中国領」ですが入出国手続きがある香港とマカオも含まれています。日帰りを含む中国人の「入国者数」は、香港41百万人・マカオ19百万人でした。したがって、それ以外の「外国」への中国人出国者数は39百万人だったことになります。
2013年の中国人インバウンドは、タイ・シンガポール・マレーシア・韓国・台湾・日本の6ヵ国(JNTO資料で分かる範囲)合計で17百万人でした。「近隣諸国」は、この6ヵ国に他のASEAN諸国やロシアなどを含めると20百万人前後ではないかと推定されます。したがって、欧州・北米・南米・アフリカなどの「遠い国々」は差引20百万人前後ではないかと推定されます。20百万人は中国人口の1.5%に相当します。
2013年も、韓国のインバウンドは日本のインバウンドを上回っています。韓国は、済州島をビザ不要特区としたため、中国人旅行者が2013年は前年に比べ1,851千人増えて4,327千人になりました。それに対し、日本に入国した中国人旅行者は前年より111千人減って1,314千人でした。
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米国 US
2014-10-31T22:20:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=189
『行き過ぎた円高是正』はもう限界?
基軸通貨国である米国のFRB(連邦準備制度理事会)は、世界の通貨の為替レートのヒストリカルデータを公開しており、月次データは為替変動相場制が始まった1973年までさかのぼって取得することができます。また、米国の貿易高による通貨別外国為替取引高シェアをもとにし...
通貨ウエイト(currency weights)も1973年までさかのぼって取得することが出来ます。近年の米国の外国為替取扱高の99%以上を占める26の通貨について、1973年3月の対USドル為替レートを100とする指数にし、毎年の通貨ウエイト(currency weights) で調整算出した月次の総合ドル指数(Broad Dollar Index -- Monthly Index 26通貨バスケット) も1973年までさかのぼって取得することができます。
1973年までさかのぼってデータを取得することができますが、1998年末に欧州通貨同盟(EMU)による通貨統合(ユーロ発足)が実施されるというきわめて大きな変化があり、また1973年には1%のウエイトしかなかった中国人民元が2008年には最大のウエイト(第1位)の通貨になっているという大きな変化がありました。そこで、ユーロ相場の始まった1999年1月を100とする指数 に再変換してその後16年間の推移を見てみることにします。26通貨全部を比較するのは難しいので、通貨ウエイト上位7通貨 と総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) の推移を比較してみます。この7通貨で全体の75%以上のウエイトを占めています。また、日本円を含む世界のほとんどの通貨の為替レートは1USドルの価格(単位はその通貨)で表されますが、ユーロ・UKポンドは逆にその通貨1単位のUSドル価格(単位はUSドル)によって表わされます。したがって、世界の通貨を同時に比較するためには、これらのUSドル表示通貨の為替レートを1USドルの当該通貨価格に変換する(逆数にする)必要があります。
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上のグラフでは、月次総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) は領域グラフで描いています。これが右肩下がりのときは「ドル安(26通貨バスケット高)」右肩上がりのときは「ドル高(26通貨バスケット安)」です。2014年10月は1999年1月に比べると7%くらいのドル安(26通貨バスケット高)の水準にあります。他方、7つの国と地域名の頭につけている番号は、その通貨の2013年の通貨ウエイト(currency weights) 順位です。7通貨の方は折れ線グラフで描いています。これらは1USドルのその通貨価格(の指数)なので、逆に、グラフが右肩上がりのときは対USドル「通貨安(切り下げ)」で、右肩下がりのときは対USドル「通貨高(切り上げ)」になります。
7通貨を同時に表示した上の図では見にくいので、以下ではウエイト順位毎に分けて見ていくことにします。最初はウエイト順位1位の中国です。
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ウエイト1位(21%)の中国人民元 の対USドル為替レートは、2005年6月まではほぼ1USドル8.27元に固定されていました(USドルペッグ固定相場制)。しかし、2003年以降はUSドル安(主要通貨高に伴うUSドルペッグ中国人民元安)に振れる中で米国との為替取引高のウエイトが日本を上回る12%(3位)にまで拡大したので、2005年7月から管理変動相場制に移行しています。主要通貨バスケット方式による管理変動相場制なので、2008年までは総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) に概ね沿った切り上げ(グラフ上では1USドルに対する人民元の減少なので右肩下がり)が行われています。2008年のリーマンショックに始まる金融危機で他の主要通貨が暴落(総合ドル指数は上昇)した間は為替相場は維持(グラフ上では横ばい)管理され、2010年からまた管理変動相場によるモデレートな切り上げ(右肩下がり)を続けています。その結果、中国人民元は1999年1月に対して25.9%切り上げられた状況にあり、1999年以降では主要7通貨の中で最も大きく切り上げられた通貨となっています。
次はウエイト順位2位のユーロと7位の英国ポンドの欧州通貨です。
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ウエイト2位(16%)のユーロ は、発足後しばらく大きな通貨下落(グラフ上では1USドルに対するユーロの増大なので右肩上がり)に直面し、2000年から多通貨安(USドル高)傾向が続いたため発足時より大幅に切り下がった水準(グラフ上では高位水準)で推移しました。しかし、2002年くらいから反転上昇(グラフ上では右肩下がり)に転じ、2003年以降は概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) に近い水準で推移しています。他方、ウエイト7位(3%)の英国ポンド は、2008年のリーマンショックまでは概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) に近い水準で推移していましたが、欧州金融危機ではユーロよりも大きく通貨価値が下落(グラフ上では高位水準シフト)し、その後今日まであまり回復していません。
次はウエイト3位のカナダと4位のメキシコです。
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ウエイト3位(13%)のカナダ と4位(12%)のメキシコ は、ともに米国と長い国境を有するNAFTA(北米自由貿易協定)締結国です。しかし、対USドル為替レートは全く正反対の推移になっています。カナダは、1USドルに対して払う自国通貨が7つの主要通貨のうち最も小さくなった(最も通貨高になった)国です(この期間通算では中国とほぼ同じ切り上げ幅)。逆にメキシコは、7つの主要通貨のうち1USドルに対して払う自国通貨が最も多くなった(最も通貨安になった)国になっています。どうしてそうなってしまっているかはここでは触れませんが、米国は、管理通貨の国(中国)や弱い通貨の国(メキシコ)との取引高が大きい国であるということは認識しておく必要があると思います。
最後は、5位の日本と6位の韓国です。
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ウエイト5位(7%)の日本円 は、しばしば総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) とは逆方向に動いていることが目を引きます。2005年から2008年のドル安(26通貨バスケット高)進行期に逆に大きく円安方向に向かい、2008年のリーマンショック後の急激なドル高(26通貨バスケット安)時には逆に円高方向に動き、そのままかなりの円高水準(グラフではかなり下方の水準)まで円高が進みました。2013年からは緩やかなドル高(26通貨バスケット安)が進む中で大胆な円安誘導オペレーションが行われ、(1999年1月からの累計変化では)概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) に近い水準に戻っています。
最後に、ウエイト6位(4%)の韓国ウオン は、1998年に生じた大幅なウオン安是正過程にあった2007年までは概ね総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) の領域グラフより下側、すなわち26通貨バスケットよりもよりもウオン高(グラフでは右肩下がり ウオン安是正)の方向で推移していました。しかし、輸出依存度が高いので2008年のリーマンショック後の金融危機と世界景気後退でまた一気に大幅なウオン安(グラフ上では上方突出)に陥りました。それでも、2009年以降すぐに反転上昇(グラフ上では右肩下がり)に転じ、2014年には総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) の水準にまでウオン安是正が進みました。これでようやく1998年に生じた大幅なウオン安の翌年である1999年の水準に戻ってきたところという理解の仕方が適切なように思われます。
以上、基軸通貨国の米国にとって主要な7通貨の過去16年の動きを概観してきました。月次総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) は1999年1月を100とすると2014年10月には93に低下しています(16年間で7%のUSドル安・26通貨バスケット高)。日本円は「行き過ぎた円高是正」のオペレーションを行ってきましたが、1999年1月を100とすると2014年10月には95の水準(16年間で5%の円高)になっており、総合ドル指数(Broad 26通貨バスケット) の93よりも少し円安ドル高ゾーンに踏み込んでいる(グラフ上では領域グラフの上に出てきている)ように見えます。したがって、もしこれ以上に強力な円安誘導オペレーションを行う場合は国際社会から非難が出てくる懸念があります。
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日本 Japan
2014-10-23T22:56:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=187
米国はエネルギー純輸出国にはならない
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration :EIA)は、毎年年次エネルギー見通し(Annual Energy Outlook)を公表しています。2014年版のアーリーリポートが2013年12月に、フルリポートは2014年4月にリリースされています(原データへのリンク)。20...
原データへのリンク)。2014年版では二酸化炭素排出量も含めて2040年までの見通しが出されていますが、以下では2025までのエネルギー供給見通しについて整理してみます。
最初に、エネルギー総供給量の見通しをグラフにしました。単位は「千兆英国熱量単位(quadrillion Btu)」という想像しがたいものになっていますが、異なるエネルギーを同じ指標で比較するための単位と理解できます。2013年までは実績になるので赤色の背景にしてあり、2014年以降は見通しなので背景色はなしにしてあります(以下の他のグラフも同じ)。
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さて、上のグラフで最初に注目されるのは、米国の「ネットエネルギー輸入 (輸入−輸出)」は、減少はするものの2025年までになくなることはないという見通しになっていることです。タイトオイル やシェールガス やタイトガス などの非在来型エネルギー の開発によって、米国がエネルギー純輸出国になるかもしれないという見解が出たりもしましたが、現時点で米国政府は米国がエネルギー純輸出国になることはないという見通しに立っている ようです。
米国内のエネルギー生産構成をみると、石油と天然ガス のウエイトが高いのは当然として、石炭 のウエイトも意外に高く、原子力 のウエイトは意外に低く、バイオマス のウエイトがかなり高く、(太陽光や風力などの)その他の再生可能エネルギー のウエイトは低い、という印象を受けます。バイオマスは、米国の主要輸出品目である農産物の国際需給をタイトにして国際価格を高値支持することにも役立ちます。
米国のネットエネルギー純輸入は、石油と天然ガスの国内生産増加によって縮小してきていて、今後数年も縮小が続くという見通しが表明されています。そこで、石油と天然ガスの生産見通しをもう少し詳しくみてみることにします。まず、石油 からみます。
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在来型油田である、米国本土陸上油田 (Lower 48 Onshore)やアラスカ の既存油田の原油生産量はこれまでもずっと減少を続けてきましたが、これからも少しずつ減少を続ける見通しにあります。他方、米国本土海底油田 (Lower 48 Offshore)は当面生産回復が見込まれ、炭酸ガスを注入して圧力で古い油田の残った原油を絞り出す炭酸ガス注入増進回収法 (Carbon Dioxide Enhanced Oil Recovery)による増産も僅かながら見込まれています。しかし、なんといっても大きな増産が見込まれるのはタイトオイル です。
タイトオイルがどういうものかは専門外なので、解説を引用させていただきます。『タイトオイルとは、孔隙率・浸透率が共に低い岩石から生産される中・軽質油(API比重32度以上 = 比重<0.865)を指す。シェールガス生産で使われる坑井仕上げ(水平掘りや水圧破砕法等)技術を応用でき、また2008年以降米国市場でガス価格が低迷しているのに対して原油の高価格が続いていることから、米国でタイトオイルの生産量が急増している。米国での埋蔵地域は、モンタナ州とノースダコタ州にまたがるBakken, Three Forks構造、テキサス州のEagle Ford構造が有名である。』(JX日鉱日石エネルギー「石油便覧」第4篇第2節2 非在来型石油資源 タイトオイル )
タイトオイルは生産コストが高いので、増産に伴って(だけではないと考えられますが)2014年に原油価格が低下 し始めると2016年にはタイトオイル生産は頭打ちする という見通しになっています。それでも、2016年には米国の原油生産のほぼ半分はタイトオイルが占める 見通しです。
次に、(液化を除く)天然ガス をみてみます。
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天然ガスの種類についても専門外なので、解説を引用させていただきます。(日本ガス協会 世界の天然ガス市場 非在来型ガス )
在来型ガス田 の、本土その他ガス田 の生産量は減少を続け、本土海底油田関連ガス も海底油田生産の回復に伴って増加してきたものの2014年くらいで頭打ちになり、本土海底油田非関連ガス も同様な見通しにあります。
他方、非在来型ガス田 については、炭層メタン はすでに概ね生産量横ばいの見通しにあります。タイトガス とシェールガス は生産コストが高いので、2016年頃から現在まで低迷が続いている天然ガス価格の回復に伴って生産量が増加していく という見通しになっています。2015年までは天然ガス生産量は横ばい推移を見通しており、日本が期待していたような大量の輸出などは考えにくい見通しとされています。
最後に、米国のエネルギー総生産量の中では小さいウエイトしか占めませんが、液化天然ガス の生産見通しをみてみることにします。日本が米国産天然ガスを輸入するためには液化して船で運搬する必要があるからです。
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液化天然ガスの生産は、米国本土陸上 (Lower 48 Onshore)が太宗を占め、生産増加の太宗も占めています。しかし、非在来型天然ガスの増産見通しに比べて、液化天然ガスの増産は小さく、2021年まではほとんど横ばいに推移する見通しとされています。
こうして米国政府のエネルギー生産見通しを見てきた限りでは、米国はエネルギー純輸入国の立場から純輸出国に変わることはなく、外国に大量にエネルギー資源を輸出する余力は生れてこないので、日本が米国の液化天然ガスを大量に輸入できるようになるというシナリオはあまり考えられない と思われます。
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米国 US
2014-10-07T02:09:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=186
大きく転換した米国の国際収支
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米国の国際収支(暦年)の推移をグラフに描いてみました。貿易収支・サービス収支・一次所得収支・二次所得収支・資本収支・その他資本収支・統計上の不一致の7つの国際収支勘定を積み上げ棒グラフで示しています。下の赤い背景部分にある勘定は「赤字」で...
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米国の国際収支(暦年)の推移をグラフに描いてみました。貿易収支 ・サービス収支 ・一次所得収支 ・二次所得収支 ・資本収支 ・その他資本収支 ・統計上の不一致 の7つの国際収支勘定を積み上げ棒グラフで示しています。下の赤い背景部分にある勘定は「赤字」で、上の青い背景部分にある勘定は「黒字」です。このうち、貿易収支・サービス収支・一次所得収支・二次所得収支の4つの勘定の合計である経常収支 を折れ線グラフで加えてあります。そして、1992年の経常収支赤字51,613百万ドルから年率21.5%の赤字拡大線 と、2006年の経常収支赤字806,726百万ドルから年率9.0%の赤字縮小線 を参考に加えてあります。
1991年に瞬間的に黒字転換した米国の経常収支は、1992年にはまた赤字に転じ、1997年までの5年間 は概ね年率21.5%赤字拡大線に沿って赤字を拡大し続けました。更に、1998年以降2006年までの8年間 は概ね年率21.5%赤字拡大線を超える大きな赤字拡大を続けました。ところが、2007年以降は経常収支赤字縮小に転じ、2013年までの7年間 は概ね年率9.0%赤字縮小線よりも大きく赤字縮小しています。
2009年と2010年はリーマンショックに後の消費縮小によって貿易赤字が大きく縮小したためですが、その前後の傾向も経常収支赤字縮小方向のトレンドが続いているように見えます。これは基調的変化なのか一時的な変化なのか、もう少し詳しく内容を見てみたいと思います。
経常収支赤字縮小にどの勘定の変化が影響しているのかを見るために5つの主要勘定収支尻を折れ線グラフで比較したものが次の図です。
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転換点となった2006年までは、経常収支赤字はほぼ貿易収支赤字と同規模で推移していました。ところが、2007年以降は経常収支赤字は貿易収支赤字よりも小さくなり、しかもその差異は拡がる傾向にあります。これは、サービス収支の黒字と一時所得収支の黒字が拡大を続けているからです。また、貿易収支赤字も目先縮小に転じ始めているように見えます。その結果、資本収支、すなわち国際間金融取引に伴うネット対外債務(負債)の増加も縮小する傾向に転じています。
こうした変化はどうして生じているのでしょうか、主な勘定の中味をもう少しブレークダウンして見ていきたいと思います。最初は貿易収支 です。
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米国の国際収支統計の拡張詳細(Expanded detail)では、貿易品目を、食料飼料飲料 ・工業原材料 ・資本財 (除く自動車)・自動車 ・他の消費財 (除く食料自動車)・その他の雑貨 ・非貨幣用金 の7つの大品目に分類しています。上の図は、品目毎の輸出額(黒字側)と輸入額(赤字側)を積み上げ棒グラフで示し、ネットの貿易収支を折れ線グラフで示しています。貿易収支赤字は、ほぼ工業原材料輸入額+α程度の規模で推移していましたが、2008年以降は工業原材料輸入額を下回るところで推移しています。
次に、これら7つの大品目のネット貿易額 の推移を折れ線グラフにして見てみます。
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工業原材料のネット貿易赤字 は、ピークの2008年の411,879百万ドルから5年後の2013年には194,544百万ドルに217,335百万ドル(53%)も縮小 し半分以下になっています。これは、米国内のシェールオイル・ガス開発の拡大 によって、化石燃料輸入額が減少し輸出額が増加していることが反映しているものと考えられます。また、穀物価格の上昇 によって食料飼料の純輸出が増えていることや、中国やインドの金投資拡大 によって非貨幣用金の輸出が拡大していることなども当面の貿易収支赤字縮小に働いています。
次はサービス貿易収支 です。
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米国の国際収支統計の拡張詳細(Expanded detail)では、サービス貿易を、旅行 ・知財使用料 ・その他のビジネスサービス ・金融サービス ・輸送 ・情報通信 ・政府 ・保険サービス ・保守修理サービス の9つに分類しています。上の図は、分類毎のサービス輸出額(黒字側)とサービス輸入額(赤字側)を積み上げ棒グラフで示し、ネットのサービス貿易収支を折れ線グラフで示しています。サービス貿易収支黒字 は2007年から拡大基調に転じ、2006年の75,573百万ドルから2013年には225,273百万ドルに149,700百万ドルも拡大し7年間で3倍に拡大 しました。
次に、これら9つのサービスのネット貿易額 の推移を折れ線グラフにして見てみます。
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ネット黒字だったのは、知財使用料(54%黒字拡大) ・旅行(227%黒字拡大) ・金融サービス(97%黒字拡大) ・その他ビジネスサービス(50%黒字拡大) でした(カッコ内は2006年から2013年の7年間の変化率)。旅行の増加率が大きいのは、同時多発テロ以降の減少の回復が含まれているためですが、テロ以前のピーク2000年に対する2013年の水準も99%増でほぼ倍増しています。他方、ネット赤字だったのは、保険サービス(15%赤字拡大) ・輸送(83%赤字縮小) ・政府(89%赤字縮小) でした(同じくカッコ内は2006年から2013年の7年間の変化率)。政府の赤字大幅縮小はアフガニスタンとイラクからの撤兵が反映されていると推定されます。輸送は、海運市況にこれほど大きな変動はなかったので、原油輸入量の減少が反映されているものと推定されます。保険サービスは、欧州金融危機に伴って再保険料が高騰し、その後の危機の鎮静化に伴って再保険料が低下したり、また原油輸入量が減少したことに伴って輸送保険料が減少したことなどが影響していると推定されます。全般的に見ると、米国のサービス貿易収支の黒字は、世界の後発発展国の経済拡大に伴って今後も拡大を続ける可能性が高い と考えられます。
次は一次所得収支 です。
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米国の国際収支統計の拡張詳細(Expanded detail)では、一次所得を、直接投資所得 ・資金運用投資所得 ・その他投資所得 ・雇用者報酬 の4つに分類しています。上の図は、分類毎の一次所得の受取 (黒字側)と支払 (赤字側)を積み上げ棒グラフで示し、ネットの一次所得収支を折れ線グラフで示しています。一次所得収支黒字 はやはり2007年から拡大基調に転じ、2006年の43,337百万ドルから2013年には199,654百万ドルに156,317百万ドルも拡大し7年間で3.6倍に拡大 しました。
次に、これら4つの一次所得のネット受払額 の推移を折れ線グラフにして見てみます。
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一次所得収支の黒字は、直接投資所得収支黒字 が資産運用所得収支赤字 を大きく上回っていることによって実現されています。米国は毎年の経常収支赤字分だけ対外債務を拡大し続けています。しかし、それでも借りている資金に対する支払所得よりも外国に投資している資産からの受取所得の方が大きく なっています。直接投資所得収支黒字は2008年のリーマンショック以降拡大の勢いが弱まったように見えますが、資産運用所得収支の赤字も2008年リーマンショック以降縮小に転じているので、一時所得収支全体では黒字拡大が続いています。経常収支赤字を外国からの借金を増やすことでまかない続けられるのは、米国が基軸通貨国であることだけでなく、(あるいはそれよりも)米国の対外直接投資のリターン率が米国の資金調達コストを大きく上回っているからです。つまり、金融力(投資力)の国際的優位が米国の消費拡大を資金面から支えている ということがいえます。一次所得収支黒字が今後も拡大を続けるとは断定できませんが、少なくとも急激に縮小していく可能性は低いと推定されます。
最後に資本収支(Finance transactions) です。
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米国の国際収支統計の拡張詳細(Expanded detail)では、資本収支(Finance transactions)を、直接投資 ・資金運用投資 ・その他投資 の3つに分類しており、これは一次所得の分類に対応しています。それぞれの分類毎に対外債務(負債)と対外債権(資産)があり、債務(負債)の増加と債権(資産)の減少は資本収支黒字(米国への資金流入)に、債務(負債)の減少と債権(資産)の増加は資本収支赤字(米国からの資金流出)に、それぞれ働きます。直接投資の債権と債務(資産と負債)だけはこの間に減少したことはなく、その他の債権と債務(資産と負債)は増減両方に大きく触れて出現しています。また、2008年のリーマンショック以降、債権と債務(資産と負債)のネット純増はそれ以前より小さく推移しています。
次に、これら3つの対外債権と債務(資産と負債)のネット増減額 の推移を折れ線グラフにして見てみます。
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米国の対外直接投資債権(資産)は一貫して増加を続けているので、ネット直接投資がマイナスになっている年は外国から米国への直接投資の増加が米国の対外直接投資の増加よりも大きかった年です。このネット直接投資増と経常収支赤字の分だけ外国からの資金流入が必要になります。資金運用投資は米国の債券や証券化商品や株式などへの投資資金流入で、その他投資は融資や預金などの資金流入です。2008年まではほぼ外国からの資金運用投資資金の流入で賄われる構造にありましたが、リーマンショック以降は資金運用投資資金と預金やローンの間でやや複雑な動きが続いているように見えます。
さて、以上、拡張詳細にまでブレークダウンして米国の国際収支の変化を見てきました。その上で再び全体像に戻ると、大方の認識どおりシェールガス・オイル開発の進展 によって米国の貿易収支赤字は大きく縮小 していますし、更に縮小していく可能性があります。また、無視できないのは、サービス貿易収支黒字と一時所得収支黒字の拡大 です。これらは、知財や観光や教育や金融などの米国の国際的競争力の強さ によって生み出されています。これらによって、米国の経常収支赤字は今後も縮小を続けるものと考えられ、もしかすると黒字に転換することもあるかもしれません。このような米国の国際収支の転換は、日本や世界全体にどのような影響をもたらすでしょうか?
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米国 US
2014-09-29T01:19:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=183
雇用拡大に繋がらない米国の経済拡大
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米国の「非農業雇用者総数(毎年8月:百万人)」と「2009年価格による実質国内総生産(年次:百億ドル)」の過去50年間の推移をグラフに重ねてみました。そして、非農業雇用者数の長期的な増加傾向を見るために、1963年から毎年2.30%拡大する定率拡大線と、2...
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米国の「非農業雇用者総数 (毎年8月:百万人)」と「2009年価格による実質国内総生産 (年次:百億ドル)」の過去50年間の推移をグラフに重ねてみました。そして、非農業雇用者数の長期的な増加傾向を見るために、1963年から毎年2.30%拡大する定率拡大線 と、2000年から毎年0.5%拡大する定率拡大線 を加えました。また、雇用が減少もしくは拡大しなかった期間(雇用不況期 )を灰色で示しています。
1963年から1990年 頃までは、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線の上側で推移(より大きく拡大)し、実質GDPと概ねパラレルに拡大を続けました。その27年 の間に、非農業雇用者数は57百万人から110百万人に拡大し、概ね2倍になりました。
1991年から2000年 頃までは、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線とほとんど重なるように推移し、実質GDPの拡大よりも緩やかに拡大しました。この10年 の間に、非農業雇用者数は110百万人から132百万人に20%拡大しました。
ところが、2001年から2014年 まで、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線から大きくかい離し、0.5%定率拡大線よりも更に下側で推移しています。2001年以降2014年までの14年間 に2回の大きな雇用不況期(雇用減少期)があり、実質GDPの拡大停滞以上に非農業雇用者数には大きな減少が生じました。その結果、非農業雇用者数は過去14年間通算ではほとんど拡大しておらず、2014年8月はようやく2007年8月の水準を上回ったばかりという水準に見えます。
米国は、人口が増加しているので、少なくともその分だけは消費が拡大します。しかし、非農業雇用者数が増えないと、潜在失業が増えます。社会保障番号を持たない不法滞在者はこの統計に乗ってこないと思われますが、2001年以降に、不法滞在者の実質就業数が著しく大きく増えたかどうかは分かりません。
とにかく、統計上、米国の非農業雇用者数は、不況時に過去よりも大きく減少 するようになったので、好況時に回復してもなかなか過去の水準には戻らない、という循環に入ったかのように見えます。
そこで、次に、2000年8月と2014年8月(速報)の14年間の産業別雇用者数の増減 を詳しく見ていくことにします。
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上のグラフは、米国労働統計の産業分類の中分類産業別雇用者数の変化量(2000年8月と2014年8月速報の増減=14年間の変化量)を雇用増加数の多い産業から順番に並べたものです。上から、ヘルスケア 、宿泊飲食 、専門技術サービス 、民間社会扶助 、民間教育サービス 、地方政府 の、6つの産業が雇用増加の上位 を占めています。また、下から、製造業 、情報産業 、建設業 の3つの産業 が雇用減少の太宗を占めています。この14年間に非農業雇用者総数は6,881千人増加 していますから、ヘルスケア産業の増加3,896千人だけで全体増加の過半(57%)を占めていることになります。
しかし、この大区分ではあまり実態が把握しきれないので、より細かい産業分類に更にブレークダウンして見ていくことにします。
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雇用増加数の多い6つの中産業分類 では、この14年間の全雇用者増加数6,881千人 の倍近い11,305千人(25%) の雇用増加がありました。上のグラフは、この6つの中産業分類について米国産業分類の最小分類までブレークダウンして詳細を見ています。中分類毎に雇用者数の多い産業から順に並べ、2000年8月の雇用者数に14年間の雇用者増加数を加えてあります。これによって雇用規模と14年間の増加率が把握できます。
ヘルスケアサービス産業 は、雇用増加数の多い順に並べると、病院 (852千人・22%増)在宅ケアサービス (656千人・103%増)他の外来医療サービス (723千人・49%増)診療所 (661千人・36%増)入居ケア施設 (531千人・49%増)外来患者看護センター (335千人・86%増)看護施設 (138千人・9%増)となっています。総じて雇用増加率が高く、経済の好不調に関わりなく直線的に雇用拡大を続けています。米国でも高齢者人口増によってさまざまな形態のヘルスケアサービスが増加していること、とりわけ通院・在宅系サービスの増加率が高いことが注目されます。
宿泊・飲食サービス産業 は、非常に大きな規模の雇用産業になっています。飲食サービス (2,477千人・30%増)は、11百万人を雇用する大産業になっていて、これが非農業雇用者数全体の増加を支えていることは明らかです。
専門・技術サービス産業 は、雇用者数は小さいですが、雇用拡大率が大きい産業です。コンサルティング (558千人・82%増)システム設計 (495千人・39%増)などは、企業や役所が外部の専門家に仕事を委ねる傾向が進んでいることを反映していると推定されます。これが、こうした専門性を身につけるための教育ビジネスの拡大にもつながっていると考えられます。
Social assistance は、民間サービス業に分類されているので公的社会扶助ではありませんが、具体的にどんなサービスビジネスが含まれるのかはよく分かりません。児童デイケアサービス以外の Social assistance (1,208千人・93%増)は、この14年間に雇用が倍増しており、全体雇用増加に占める割合も大きくなっています。過去にはあまり大きくなかった社会貢献的仕事の雇用が急激に増えてきていることには興味を惹かれます。
民間教育サービス (981千人・41%増)は、増加数・増加率とも非常に大きくなっています。これは、米国で職を得るには専門性を身につける必要がますます高まっていて、そのための教育機会とそのための教育産業雇用者数の拡大が大きくなってきたものと考えられます。
地方政府 は、雇用拡大率は小さいものの、雇用増加数では重要な位置を占めます。地方政府教育 (504千人・7%増)教育以外の地方政府 (445千人・8%増)の雇用増加は、14年間の人口増加に対応したモデレートなものと理解されます。
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雇用減少数の多い3つの中産業分類 では、この間の全雇用者増加数6,881千人 にほぼ匹敵する6,712千人(25%減)の雇用減少 がありました。上のグラフは、この3つの中産業分類について米国産業分類の最小分類までブレークダウンして詳細を見ています。中分類毎に雇用者数の多い産業から順に並べ、2014年8月の雇用者数と14年間の雇用者減少数をマイナス側に表示してあります。これによって14年前の雇用規模とこの間の減少率をおおよそ把握できます。
製造業 の中には、雇用増加のあった産業は一つもありません。食品製造業 だけがほぼ雇用を維持してきており、製造業で最大の雇用を有する産業 となっています。減少率の高い方から、アパレル (73%減)繊維 (69%減)通信機器 (60%減)繊維製品 (51%減)半導体 (47%減)家具 (46%減)印刷 (46%減)電算機及び周辺機器 (44%減)自動車および部品 (33%減)などは、雇用が半減から消滅に近づいているように見えます。不況期の雇用減少のほとんどは製造業におけるものです。
情報産業 では、電気通信 (36%減)インターネット以外の出版 (30%減)の雇用減少が大きくなっています。当然、これらはインターネットや電子出版の影響を受けています。
建設業 では、住宅建設 (18%減)が最も大きく減少していますが、雇用減少率は製造業よりはずっと小さくなっています。これは建設需要は景気の影響は受けるものの長期的に縮小していく分野ではないからです。
さて、以上、細かい産業分類にまでブレークダウンして米国の雇用の動向を見てきました。その上で再び全体像に戻ると、米国の産業全体では、付加価値額(GDP)を拡大しているのに雇用の拡大には結びついてきていない 、ということがあらためて浮き彫りになります。医療介護サービスや飲食サービス以外に、雇用拡大を牽引する雇用成長産業 は生れないのでしょうか?
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米国 US
2014-09-20T00:34:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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「成熟した債権国」の入口に立った日本
2006年の「通商産業白書」では、「経常収支発展段階説」(6段階)にあてはめると、(当時の)日本は、貿易・サービス収支黒字、所得収支黒字、したがって経常収支黒字が大きい第四段階の「未成熟な債権国」の状態にあるが、その後、貿易・サービス収支は赤字に転じるもの...
成熟した債権国」に移行していくだろうと予測していました(2006「通商産業白書」の該当部分はこちら )
経常収支 は、貿易収支 ・サービス収支 ・所得収支 の合計で、貿易・サービス収支の黒字は国内総生産(GDP) を増加させ、赤字は国内総生産(GDP)を減少させます。国民総所得(GNI) は国内総生産(GDP)と海外からの所得の純受取 の合計です(国民総所得(GNI)についてはこちら )。海外からの所得の純受取とは所得収支 に他なりませんから、経常収支の増減は国民総所得(GNI)を増減させます 。
今年(2014年)から国際収支関連統計の見直しが行われました(日本銀行レポート・調査論文「国際収支関連統計の見直しについて」はこちら )。2014年以降の統計を過去の統計と比較できるようにするために、過去の時系列統計についても見直しを反映したデータの公開が行われています。国際収支関連統計の内訳と見直しの内容は下の表のとおりです。
「仲介貿易商品 」「委託加工サービス 」「維持管理サービス 」が貿易収支とサービス収支の間で振り替えられたので、過去の統計のボリューム感が少し変わってきます。そのことも踏まえながら見直し後の新基準による国際収支の推移をあらためて見なおしてみます。
2011年(暦年)から貿易収支 が赤字に転じましたが、第一次所得収支 の黒字(海外からの所得の純受取)が貿易収支 とサービス収支 の赤字を上回っているので、経常収支 はなお黒字を維持しています。しかし、経常収支の黒字規模はかなり縮小したので、金融収支 の赤字(対外純資産の増加)も大きく縮小しています。更に、以下では、貿易収支・サービス収支・第一次所得収支・金融収支について順次見ていくことにします。
見直しによって、貿易収支 の赤字は少し縮小(過去の黒字は少し拡大)しましたが大勢に大きな変化はありません。2009年の大きな縮小から、輸入 は過去ピークの2008年を上回る水準まで拡大していますが、輸出 はあまり回復していません。そのため貿易収支が赤字に転じています 。
見直しによって、サービス収支 の内訳が分かり易くなり、貿易収支からサービス収支に変更された委託加工サービス などによってサービス収支の赤字幅が見直し前より拡大しました。サービス収支の赤字 は、主として旅行収支 赤字の縮小と知的財産権等使用料 黒字の拡大によって年々小さくなってきています。
所得収支(海外からの所得の純受取) は、日本が海外に保有する資産(対外資産 )からの受取所得と、外国が日本に保有する資産(対外負債 )に対する支払所得の差額です。経常収支の黒字が続いてきたので対外資産が対外負債よりも多く増え続けて所得収支の黒字幅が拡大してきました 。所得収支が2008年から2011年まで一時的に落ち込んでいるのは円高によって円ベースの受取が小さくなったためです。
見直しで、第一次所得収支 の内訳も分かり易くなりました。直接投資配当金・配分済み支店収益 および再投資収益 は、それぞれ直接投資に対する対外受取から対外支払を引いたネット受取超過額です。証券投資配当金 および債券利子 は、それぞれ金融市場投資に対する対外受取から対外支払を引いたネット受取超過額です。2000年頃までは、所得収支の太宗は債券利子によって占められていましたが、徐々に直接投資および(債券以外の)証券投資配当金の割合が拡大してきています。
所得収支(海外からの所得の純受取)の源泉となる対外資産と対外負債の残高の内訳は財務省本邦対外資産負債残高 から知ることができます。
2013年末の対外純資産 (対外資産−対外負債)は327兆円 で、2013年(暦年)の第一次所得収支 (受取−支払)は16兆円 でしたから、単純計算ネットリターン率は年5%弱 くらいになります。
さて、こうして日本は定義上は「経常収支発展段階説」の第五段階の「成熟した債権国」の仲間入りをして3年くらいたったことになります。対外資産ポートフォリオは、米国債一辺倒からようやく分散投資に少しずつ乗り出し始めたばかりでまだまだ「投資立国」としては未熟さが窺われます。他方、リーマンショック後の欧州金融危機が日本に(あまり)及ばなかったのは、それまでハイリスク・ハイリターン投資に消極的だったおかげだったともいえます。しかし、経常収支黒字幅が縮小したのでネット対外資産の増加も小さくなりますから、「成熟した債権国家」にふさわしい対外資産運用力がどうしても必要になってきます。
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日本 Japan
2014-04-10T21:33:00+09:00
Tooru Ozawa
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日本を訪れる外国人の推移を調べてみる
日本を出国した日本人と日本に入国した外国人の数の推移は、入国管理統計によって知ることができます。この統計は出入国管理通過者数ですから、当然延べ人数です。下のグラフは1991年から2013年の延べ出入国者数の推移です。
2013年の日本人出国者数は延べ1,747万人で...
入国管理統計 によって知ることができます。この統計は出入国管理通過者数ですから、当然延べ人数です。下のグラフは1991年から2013年の延べ出入国者数の推移です。
2013年の日本人出国者数は延べ1,747万人で日本の人口の約14% に相当しますが、国際化が進んだ世界ではこれはけして多いとは思われません。しかも2000年以降は概ね横ばい水準で増減し、頭打ちになっています。他方、2013年の外国人入国者数は延べ1,126万人で日本の人口の約9% にしか相当しません。更に1991年までさかのぼると、外国人入国者数は延べ386万人で日本の人口の僅か3% しかありませんでした。したがって、日本人にとっては外国人はきわめて珍しい存在でしたし、現在でもそれほど大きく変わってはいません。
日本を訪れる外国人の数が著しく少ないということは、たとえば国際収支にも影響します。日本のサービス収支は赤字ですが、サービス収支赤字額は旅行収支赤字と輸送収支赤字の合計額にほぼ近似しています。サービス収支赤字額は他の経常収支と比べればそれほど大きなものではありませんが、外国人訪問者数が著しく少ないことは、日本国内の「半鎖国状態」や「ガラパゴス状態」の原因にもなっています。また、日本はすでに人口減少に転じているので、もっともっと外国人に日本に来てもらって、国内消費の落ち込みを少しでもカバーしてもらう「普通の先進国」に変わることが必要です。
そこで、入管統計を使って、1991年から2013年の国籍別入国外国人の動向を調べてみます。以下では、2013年に延べ20万人以上が日本に入国した8つの国と地域とその他に分けてグラフに表示しています。
総数が純減になっている2009年と2011年は、リーマンショック不況と東日本大震災による原発事故の影響が考えられます。この間はずっと韓国が一番多くなっていますが、この数には日韓法的地位協定に基づく永住許可者(いわゆる在日韓国人)は統計的に別管理されているので含まれていません。2番目は台湾で、3番目は中国ですが、中国が3番目になったのは、2006年頃からでごく最近のことです。香港は、1997年に英国から中国に返還されたので国籍が変わっていますから、このグラフでは、香港は英国(香港)と中国(香港)の合計を表示しています。
韓国 の人口は約50百万人なので272万人は人口の5% 、台湾 の人口は約23百万人なので225万人は人口の10% 、香港 の人口は約7百万人なので75万人は人口の11% に相当し、これら3つのの国と地域からは非常に多くの人が日本を訪れるようになっているといえます。他方、中国 の人口は約13億4千万人なので160万人は人口の0.1% にしかなりません。中国からの来訪者数の増加が日本の外国人来訪者数の帰趨を握っていることは疑いようがありません。
次に構成比の推移を見てみることにします。
日本の隣国である、韓国・台湾・中国・香港の合計は、ずっと半数を超えていて、中国の増加に伴って全体の3分の2を占めるようになってきました。日本は政治的には隣国との関係があまり良くありませんが、人の来訪という面では中国以外の隣国との関係はかなり厚くなっており、今後の来訪外国人拡大の帰趨も隣国中国との関係次第だということができます。
入国外国人総数は2004年頃から大きく増加しています。そこで、2000年を100とした指数で、各国の増加ピッチを見てみることにします(1991年を基準にすると全体の増加率が3倍になって、国別増加率が大きすぎてしまうために2000年を基準としました)。
2000年から2013年の増加率 が大きかったのは、タイ6.5倍・中国4.2倍・香港3.1倍・台湾2.4倍・韓国2.1倍でした。他方、米国は1.1倍でほとんど横ばいに推移していて、オーストラリアも1.6倍、欧州諸国を含む「その他」も1.7倍で、それほど増加していません。日本人がイメージする外国人=白人の来訪者はもともと少ない上にあまり増加してきていないことが分かります。
2013年は、年間入国外国人数が前年比で208万人も増加し初めて1千万人の大台を超えました。直近の増加傾向を見るために、この208万人の増加の内訳を見てみます。
増加数で見ると、台湾74万人・韓国41万人・香港27万人の計142万人で年間増加208万人の68%を占めています。ひとつ前の指数グラフで見ると、韓国は2011年原発事故前の2010年水準の回復に見えますが、台湾と香港は2013年に過去最高数を大きく更新しています。逆に、中国は2万人減少していて、2011年原発事故前の2010年の水準にまだ回復していません。短期的には理由があるのでしょうが、中国からの来訪者数が今後どう推移していくかは大いに注目していく必要があります。
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日本 Japan
2014-04-07T22:01:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=179
韓国の国/地域別の経常収支を見てみる
韓国経済の入門的なデータ整理の2回目は、国・地域別の韓国の国際収支(経常収支)を見てみることにします。韓国の長期時系列経済データは韓国銀行の経済統計システム(ECOS)からダウンロードすることができ、国と地域別のデータも入手できます。これによって、韓国と他...
韓国銀行の経済統計システム(ECOS) からダウンロードすることができ、国と地域別のデータも入手できます。これによって、韓国と他の国と地域の経済・金融の結びつきをある程度おおまかに推定することができます。
まず、経常収支(Current Account)を国と地域に分けて見てみます。以下のグラフでは、比較しやすいように国と地域のグラフの色を統一してあります。また、日本・中国・東南アジア諸国は同系の赤の濃淡に色分けしてあります。以下のデータは全てUSドルベースであることに注意が必要です(韓国ウオンベースではありません)。
韓国は、アメリカや日本とくらべると、サービス収支(Balance of Services)や所得収支(Balance of Income)の規模がまだかなり小さいので、上の経常収支(Current Account)のグラフと下の貿易収支(Balance of Goods)のグラフはかなり似ています。そこで、中味は、下の貿易収支から見ていきます。
まず、中東諸国(Middle East)に対する貿易赤字が大きいのは、石油や天然ガスの輸入によるもので、原油価格の変動によって赤字額も大きく増減しています。
東南アジア諸国(Southeast Asia)に対する貿易黒字は、過去10年以上継続的・安定的に拡大を続けていて、韓国の最大の輸出先になっています。その間、韓国ウオン為替相場が大きく変動したので、東南アジア諸国への輸出は為替による影響を受けにくい分野(あるいは方法)が多いのではないかと推定されます。
それに対して、中国(China)に対する貿易黒字は2008年までは減少が続いていて、2009年からまた増加に転じています。これは2002年から2008年までは韓国ウオン高が続いたためではないかと推定されます。韓国ウオン安に転じた2009年からは再び対中国貿易黒字は大きく回復しました。したがって、対中国貿易は、国際的な価格競争が激しく、為替変動の影響を受けやすい分野が多いのではないかと推定されます。
日本(Japan)に対する貿易赤字とアメリカ(US)に対する貿易黒字は、為替変動とあまり関わりなく、過去10年位(ドルベースで)おおむね横ばいに推移しています。日本からの輸入は為替変動に関わらず輸入を続けなくてはならい資本財や部品などが多いためではないかと推定されます。
ラテンアメリカ(Latin America)の太宗は北米自由貿易協定(NFTA)圏(メキシコ)に対するものと考えられますから、実質的なアメリカへの輸出と見ることができます。アメリカとラテンアメリカに対する貿易黒字の合計は、為替変動に関わりなく拡大を続けているようにみえます。
最後に欧州連合(EU)に対する貿易黒字は、以上とはかなり異なる動きをしています。2004年に大きく増えたのは東欧など10か国のEU拡大があったためかもしれません。その後、EUに対する貿易黒字は、ウオン高の局面で中国とは逆に拡大し、ウオン安の局面でも中国とは逆に縮小しています。これにはより詳しいデータがないと合理性のある推定を行うことはできません。
次に、サービス収支(Balance of Services)について見ていきます。韓国のサービス収支の規模は貿易収支の10分の1くらいの規模しかなく、そのことが、韓国経済の現状でもあります。したがって、グラフは10倍強調されていますので規模感に注意が必要です。
中東諸国に対するサービス貿易黒字は、おそらく建設業の請負契約収入が多く含まれると推定されます。欧州連合に対する赤字は再保険料が多く含まれると推定されます。アメリカに対する赤字はパテント料やライセンスフィーなどが多く含まれると推定されます。中国と東南アジア諸国に対するサービス貿易収支はごく小さく、概ね赤字側で推移しています。これは旅行収支が主に含まれると推定されます。
最後に、日本に対するサービス収支も小さいものですが、ウオン高のときに赤字でウオン安のときに黒字になっているように見えます。この多くも旅行収支であると推定されます。
最後に、所得収支(Balance of Income)について見てみます。韓国の所得収支の規模は、サービス収支よりも更に小さく、そのことが韓国経済がまだまだ未成熟な段階にあることを示しています。したがって、グラフはサービス収支のグラフより更に大きく強調されていますから規模感に注意が必要です。
所得収支赤字の主因は対外債務に対する配当や利子の支払いによるもので、逆に、所得収支黒字の主因は対外債権や資産からの配当や利子の受取りによるものが太宗を占めると推定されます(貧しい国の中には海外出稼ぎ送金が大きい国もあります)。いわゆる「成熟した債権国」は、長年にわたって蓄積してきた巨額の対外債権からの配当や受取利息などで大きな所得収支黒字の状態にあります。日本もそうした国の仲間入りをしつつありますが、韓国はずっと所得収支の赤字が続いていた国で、所得収支黒字に転じたのはつい最近のことです。
韓国の所得収支は、2006年までほぼ全ての国と地域に対して赤字で、2005年には赤字幅が過去最大に拡大しました。つまり、ここまでは、韓国は外国からの借金を増やさないといけない厳しい財政状態が続いていたと推定できます。そのときに所得収支赤字が大きかった先が主要な債権国であり、韓国にとっては国際的な信用力が弱かったときに資金援助をしてくれた国であったということができます。その2006年までは、米国・EU・その他の地域に対する所得収支赤字(したがってネット債務残高)が多く、日本・中国・東南アジア諸国に対する所得収支赤字(したがってネット債務残高)はきわめて僅かしかありませんでした。
2007年から、アメリカに対する所得収支は黒字(したがってネット債権先の状態)に大きく転換しました。これは準備資産(Reserve Assets)などが増え、韓国全体で保有する米国債などの残高が増えてきたためだと推定されます。
また、対東南アジア諸国は2008年から、対中国も2010年から、それぞれ所得収支黒字に転換し、黒字幅も拡大してきました。これはこれらの地域に対する直接投資資産の配当などが徐々に生まれてきたためではないかと推定されます。
2006年から、主な所得収支赤字先(すなわちネット債務先)はアメリカからEUと日本に代わりました。当初はEUの方が融資拡大に積極的だったように見えますが、欧州金融危機の影響か韓国の資金需要が減ったためか、近年急速に縮小しています。日本は、欧州の縮退と韓国の借入減少に伴って、結果的に最大の債権国として残ったように見えます。しかし、日本の金融機関の韓国に対する信用評価判断は、だいぶ健全な状態になってきたもののまだ蓄積は始まったばかりで厚みはなく(すなわちフローは良くなってきたがストックはまだまだだということですね)、そして地政学的リスクは依然として続いているので、既往実績のクレジットラインでの取引を継続していこうというスタンスにあるのではないかと想像されます。
以上は、あくまでも韓国の所得収支の推移からおおまかに推測してみた私見であって、実際の金融取引残高の推移や信用評価機関の評価を検証したものではありません。
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韓国 Korea
2014-03-24T03:23:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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韓国の国際収支の長期推移を見てみる
韓国については政治や芸能の話題は溢れていますが、経済的話題は、個別企業や製品の話題が少し増えてきた感じはしますが、韓国経済全体の状況がどうなっているかについては、あまり知られていないというか一般の関心が薄いように思われます。そこで、韓国経済の入門的なデ...
韓国銀行の経済統計システム(ECOS) からダウンロードすることができます。
GDPの暦年推移は1970年から2012年までデータが入手できました。韓国ウオン(KRW)は、1997年12月にそれまでの管理変動制から完全変動制に移行し、アメリカドル(USD)に対する為替相場が大きく変動するようになりました。KRWとUSDの両方のGDPデータが入手できたので、そこから為替レート(KRW/USD)を逆算して、グラフにしてみました。
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これを見ると為替管理は、1980年から1986年までの6年間はかなり「ウオン安」方向誘導が続き、1987年から1989年の3年間は逆に「ウオン高」方向修正が続き、1990年から1993年まではまた「ウオン安」方向誘導が続くというように、為替管理が行ったり来たりしています。この間に、1988年にはソウルオリンピックが開かれ、1993年には文民大統領が生まれて32年間も続いていた軍事政権が終わり、それに伴って不正と腐敗の摘発と防止措置が進められました。
1993年から1996年までは為替管理も概ね米ドル連動で推移していましたが、<1997年>に大型倒産が続き、不良債権が金融機関経営危機に繋がり、株価が大暴落し、対外債務支払が困難となって、韓国の信用格付けは「投資不適格」にまで引き下げられてしまいました。そこで、韓国はIMFや国際協調の金融支援を受け入れ、12月には為替完全変動相場制に移行しました。その結果、為替相場は1998年に一気に極端な「ウオン安」となり、韓国のUSドルベースのGDPは大きく縮小してしまいました。
見方を変えると、韓国の(財閥名ではなく歴史的な意味での)「現代」は1998年から始まったと見ることができます。この年、政治的には、金大中大統領が就任して民主的な政権交代も実現しました。
以下では、変動相場制移行後の<USドルベース>の国際収支推移を見てみることにします。
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経常収支(Current Account)は、1998年から大幅な黒字に転じ、毎年外貨準備(Reserve Assets)が積み上がっています。しかし、ポジション改善によって行き過ぎた「ウオン安是正」(ウオン高)が進むので、その後は経常収支黒字の範囲内で「ウオン/ドル為替相場」と「経常収支」の綱引きが続いているように見えます。
ところが、1997年のアジア通貨危機の痛手をようやく乗り越えたころに、また2008年のリーマンショック不況と欧州金融危機がやってきました。経常収支は赤字スレスレに転落し、対外債務返済のために再び外貨準備を取り崩し、為替はウオン安に振れ始めました。
そこで、<USドルベース>の貿易収支とサービス収支と資本収支がどうなっていたかを見てみることにします。
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貿易収支は1998年以降及び2009年以降に大幅改善していますが、輸出増加ではなく輸入減少によって実現されています。他方、2011年以降の直近の貿易収支改善は、輸出増加と輸入減少の両方によって実現されています。韓国の貿易構造には基調的変化が生じているかもしれません。
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サービス収支の1998年以降の改善はやはりサービス支出の抑制によって実現されていましたが、経済規模の拡大に伴ってむしろサービス収支赤字は拡大してきました。2008年の改善はおそらく不況とウオン安によるものですが、やはり2011年以降は大幅に改善してサービス収支黒字に転換しています。文化の輸出や観光客の増加などが考えられますが、確認が必要です。
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上のグラフのように、資本収支の動き(Financial Activities)は、資産(assets)と負債(liabilitis)の増減が資本流入(financial in-flow)と資本流出(financial out-flow)の両側に効いてくるので、単年度ごとの増減からは傾向的なものがなかなか見えてきません。しかし、とにかく、毎年激しく行ったり来たりしていることは分かります。
そこで、1998年から2013年までの累計変化(total change)をグラフにしてみました。
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このグラフは残高推移ではありませんが、年変化の累計なので残高の動きを推定できます。
1997年には1980年からの準備資産(Reserve Assets)の蓄積はほぼ失われ、金融債務(Portfolio Investment, Liabilities)の累積を大幅に下回ってしまいました。これによって韓国が国際金融における信用力(債務履行能力への信頼)を失ってしまうことになりました。その後の両者の関係を見ると、金融債務(Portfolio Investment, Liabilities)の累積が拡大しているものの、準備資産(Reserve Assets)の蓄積もほぼそれに近い水準で拡大を続けていますから、概ね必要と考えられる準備率を維持しているように見えます。
必要な準備率を維持しながら、近年は対外直接投資(Direct Investment, Assets)をかなり累増させています。韓国の経済も、単純な輸出依存型から対外直接投資による成熟段階の入り口に入ってきたということが見えます。
世界中の市場で日本企業と韓国企業の競争が行われていますが、日韓直接の経済関係は隣国の割には低い水準にあります。次は、そのことを見てみたいと思います。
<このブログのグラフ画像のアルバムはこちら>
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韓国 Korea
2014-03-22T23:43:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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米国の国際収支から国際関係を見る(その2)
米国の国際収支から国際関係を見る(その1)では、米国とEU・中国・日本の二国(地域)間国際収支を概観しました。そこから注目されたのは、EUと較べてみることで、中国と日本は、米国とのサービス取引や所得受払の規模がモノの貿易量に較べて著しく小さいということでし...
米国の国際収支から国際関係を見る(その1) では、米国とEU・中国・日本の二国(地域)間国際収支を概観しました。そこから注目されたのは、EUと較べてみることで、中国と日本は、米国とのサービス取引や所得受払の規模がモノの貿易量に較べて著しく小さいということでした。中国と日本は、米国とのモノの取引は多いものの、モノに較べると人や文化や投資のやり取りが著しく少ない国に見えました。しかし、これらの地域と国の人口やGDPの規模には大きな差があるので、総量ではあまり関係性を断定できません。そこで、人口一人当たりやGDPに対する割合を出して、米国とこの3つの国と地域の関係の違いを見てみることにします。
まず、サービス収支(Balance on services) について、旅行収支(Travel + Passenger fares) ・知財収支(Royalties and license fees) ・手数料等収支(Other services) にブレークダウンしてみていきます。
元データは米国の地域・国別国際収支統計ですから、米国側の収入(支出)は相手国の支出(収入)で、米国側の黒字(赤字)は相手国側の赤字(黒字)です。米国の支出(相手国の収入)を米国の人口で除した米国民一人当り支出 と、米国の収入(相手国の支出)を相手国人口で除した(相手国(地域)国民一人当り支出 )を比較していきます。以下は、全て同じフォーマットを使って整理していきます。
2012年の米国に対する日本国民一人当りの旅行支出(米国の受取)は131ドルでした。これはEUの国民81ドルの1.6倍、中国の国民7ドルの18.7倍にも相当します。これに対して、日本に対する米国国民一人当りの旅行支出(日本の受取)は17ドルしかありませんでした。これは、EUに対する支出110ドルの6分の1以下しかなく、中国に対する支出11ドルとそれほど変わらない低い水準でした。米国国民は、EUの国民の1.4倍・中国の国民の1.7倍多く相手国への旅行支出をしたことになりますが、日本の国民に対しては8分の1程度しか相手国への旅行支出をしていないことになります。このような相手国旅行支出の大きな不均衡から、日本と米国の間の人の行き来は日本から米国への著しく偏った流れになっている ことが分かります。
2012年の米国に対するEUの国民一人当り知財支出(米国の受取)は96ドルでした。これは日本国民の82ドルの1.2倍・中国国民の4ドルの実に48倍でした。これに対して、EUに対する米国国民一人当りの知財支出(EUの受取)も56ドルありました。これは、日本に対する支出29ドルの1.9倍・中国に対する支出2ドルの28倍でした。EUの国民は米国国民の1.7倍、日本国民は2.8倍、中国国民は2.3倍の知財支出を米国に行いました。知的財産権や文化的版権などで日本は米国に大きく劣後しておりEUにもまだまだ及ばない状況にある ことが分かります。
2012年の米国に対するEUの国民一人当りその他サービス支出(米国の受取)は193ドルでした。これは、日本国民の129ドルの1.5倍、中国国民の11ドルの17.5倍でした。これに対して、EUに対する米国国民一人当りのその他サービス支出(EUの受取)は229ドルもありました。これは、日本と中国に対する支出19ドル(たまたま同額)の12.1倍にも相当します。これは再保険料がEUに集中していることが反映しているかもしれません。その結果、米国民のEUのサービス利用支出は非常に大きい反面、米国民の日本と中国のサービス利用支出は極めて僅か しかありません。
次に、所得収支(Balance on income) について、直接投資配当収支(Direct investment receipts/paymennts) ・その他の配当利子収支(Other private receipts/payments) ・政府受払利子収支(U.S. government receipts/Payments) にブレークダウンしてみていきます。
2012年の米国に対するEUの国民一人当りの直接投資配当支払(米国の受取)は391ドルでした。これは日本国民69ドルの5.7倍、中国国民5ドルの実に78.2倍もありました。これに対して、EUに対する米国国民一人当りの直接投資配当支払(EUの受取)も342ドルありました。これは、日本に対する51ドルの6.7倍、中国に対する1ドルの342倍にも相当します。配当は投資残高と配当率によって決まりますから配当受取(支払)が投資残高に比例するわけではありませんが、米国とEUは相互に大きな直接投資を行い合っているのに対して米国と日本の相互直接投資はまだそれよりはるかに低い水準にある ことは明らかです。
他の民間受払(Other private receipts/payments)は、直接投資配当と雇用者報酬支払を除く民間の所得収支です。したがって、民間の国際間の債権債務関係に伴う配当・利子の受払が太宗を占めると推定できます。配当や利子支払の対象となる債権債務の大きさは借入・返済・発行・償還・譲渡・売買などによって短期間で激しく変動します。ですからある年度の配当・利子の受払が二国間の債権債務関係の構造的な規模を示すものではありません。
2012年の米国に対するEUの国民一人当りのその他の配当利子支払(米国の受取)は198ドルでした。これは日本国民の123ドルの1.6倍、中国国民の2ドルの99倍に相当します。これに対して、EUに対する米国国民一人当りのその他の配当利子の支払(EUの受取)も331ドルありました。これは、日本に対する44ドルの7.5倍、中国に対する20ドルの16.6倍にも相当します。これからいえることは、EUと米国間の民間国際金融はきわめて活発であるのに較べると日本と米国間の民間国際金融はあまり活発ではない ということです。
米国政府の所得収支の太宗は外国が保有する米国国債に対する利子支払です。
2012年の米国政府の米国国民一人当たりの利子支払(相手国の受取)は、EUに対して52ドル(総額165億ドル)、日本に対して92ドル(総額291億ドル)、中国に対して97ドル(総額308億ドル)でした。
EU・日本・中国はいずれも米国に対して貿易黒字(米国側の赤字=輸入超過)ですが、EUに較べて日本や中国は米国への直接投資や米国民間債権への投資が少なく米国債の保有が多くなっています。また、EUに較べて日本や中国は米国からの直接投資や民間債権に対する投資受入が少ないので、EUは米国に対して所得収支赤字(米国の黒字)ですが、日本と中国は所得収支黒字(米国の赤字)になっています。貿易黒字で増えるドルを米国で投資する技術において日本と中国はEUに較べてまだかなり劣後している ように見えます。
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米国 US
2014-01-30T01:21:00+09:00
Tooru Ozawa
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米国の国際収支から国際関係を見る(その1)
米国商務省経済分析局(EBA)には米国と世界の地域・主要国との二国間の国際収支データがあります。これによって、米国側から見て、その地域や国がどのような経済的な位置づけになるかをある程度理解することができます。ここでは、米国(U.S.)と、欧州連合(European Un...
米国と世界の地域・主要国との二国間の国際収支データ があります。これによって、米国側から見て、その地域や国がどのような経済的な位置づけになるかをある程度理解することができます。ここでは、米国(U.S.)と、欧州連合(European Union )中華人民共和国(China )日本(Japan )とのそれぞれの二国間経済関係を較べてみることにします。二国間国際収支の比較をする前に、まずこれらの4つの国と地域の2012年の人口とGDP(通貨レート換算ベース:購買力平価ベースに非ず)を頭に入れておきます。
日本を1とすると、人口 は、EU3.9倍 ・米国2.5倍 ・中国10.6倍 、GDP は、EU2.7倍 ・米国2.6倍 ・中国1.4倍 になります。円安のために日本のGDPは随分小さくなっています。これを頭に入れたうえで、米国との2国(地域)間の国際収支(Balance of payment) の内容を比較していきます。規模を比較するために数値軸のスケールを同じ にしてあります。まず、国際収支全体を較べます。このうち、財務収支(Balance on financial accounts)は数値捕捉が完全ではないため統計上の不一致(Statistical discrepancy)が大きくなっています。概ねこれらを合計したものが財務収支であると推定できます。
米国の2012年の経常収支尻(Balance on current account)は、対EU80億ドル ・対中国3,290億 ドル ・対日本960億ドル の赤字 で、対中国赤字の大きさが際立っています。ただこれは収支尻(net)なので受払の規模(gross)を表しているわけではありません。そこで、受払の規模を比較していきます。まず、貿易収支(Balance on goods) を見ます。
米国の財貨輸入(Imports of goods )規模は、EUと中国は増加を続けて きていて、2012年では概ね4,000億ドル前後の同程度の規模 に並んでいます。他方、日本からの輸入は1,500億ドル以下のところで横ばい推移 していて拡大してきていません。他方、米国の財貨輸出(Exports of goods )規模は、中国と日本は輸入に較べて著しく小さく貿易収支が大幅な不均衡(赤字) になっています。近年、EUと日本に対する貿易赤字は横ばい傾向にありますが、中国に対する貿易赤字は再び拡大 する傾向にあります。
次に、サービス収支(Balance on services) を見ます。
米国のサービス収支(Balance on services) は、EU(470億ドル)・中国(170億ドル)・日本(170億ドル)のいずれに対しても黒字 です。しかし、サービス取引の規模はEUと比べて中国と日本の規模は著しく小さい ことにあらためて気付かされます。一言でいえば、モノ(goods)に較べて人や文化の往来が著しく少ない ということです。
同様に、所得収支(Balance on income) も見ます。
米国の所得収支(Balance on income) は、EUに対して黒字で中国と日本に対して赤字 になっています。同時に、ここでも、所得取引の規模はEUと比べて中国と日本の規模は著しく少ない ことに気付かされます。これも、モノ(goods)に較べて人や投資のやり取りが著しく少ない ということです。
米国から見ると、EUは大半の人にとって祖先の地であり、モノだけでなく人や文化や投資のやり取りも活発な地域です。他方、中国と日本はモノの取引は多いものの、人や文化や投資のやり取りが著しく少ない国です。日本は、中国と比べればずっと人や文化や投資のやり取りが多い国のように考えられがちですが、EUとの関係の深さと比べると、交流が疎遠な国のひとつにすぎないように見えます。
(その2)では、人や文化や投資のやり取りをもう少し考えてみます。
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米国 US
2014-01-28T10:50:00+09:00
Tooru Ozawa
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米国の産業別雇用者数の長期的・構造的変化を見る(その2)
米国において1998年から2011年の13年間に最も雇用者数が増加した産業セクターは、?娯楽・レジャー・宿泊・飲食、?教育・健康ケア・社会支援、?企業向けサービス、の3つでした。更にそれを細かくブレークダウンすると、?通院/訪問型健康ケア、?教育、?社会支援、?コンピュ...
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ここでは、更に雇用成長産業を可能な限り小さい産業にまでブレークダウンしてより具体的に理解するために、米国労働省労働統計局(BLS)の産業別非農業雇用者統計データーベース(Table B-1. Employees on nonfarm payrolls by industry sector and selected industry detail) からデータがとれる一番細かい産業までブレークダウンしてみます。
まず、労働統計局(BLS)の産業別非農業雇用者統計データベース(Table B-1)では、企業向けサービス(Professional and business services) は次のように細かくブレークダウンできます。(1998年と2013年速報値を比較しています)
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1998年から2013年の15年間に、米国の企業向けサービス(Professional and business services)の雇用者数は、全体で1,514万人から1,854万人に340万人(22.5%)増加 しました。企業向けサービスは、マネジメント(Management of companies and enterprises)、管理サービス(Administrative and waste services)、専門技術サービス(Professional and technical services)の3つに分けられています。このうち15年間で最も雇用が増加したのは専門技術サービス(Professional and technical services)でした。
更に専門技術サービス(Professional and technical services)は6つの産業にブレークダウンできますが、このうち15年間で最も雇用が拡大したのは、コンピュータシステム設計(Computer systems design and related services: 1.7倍 )とコンサルティングサービス(Management and technical consulting services : 2.0倍 )でした。この15年間に、専門的な知識や技術を積極的に外部に求める米国企業の傾向は更に一層進んだ ことがうかがえます。
同様に、健康ケア(Health care) は次のように細かくブレークダウンできます。(1998年と2013年速報値を比較しています)
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1998年から2013年の15年間に、米国の健康ケア(Health care)サービスの雇用者数は、全体で1,054万人から1,457万人に403万人(38.3%)増加 しました。健康ケア(Health care)サービスは、病院(Hospitals )、入所ケア(Nursing and residential care facilities)、通院/訪問ケア(Ambulatory health care services)の3つに分けられます。このうち15年間で最も雇用が増加したのは、通院/訪問ケア(Ambulatory health care services)でした。
更に通院/訪問ケアサービス(Ambulatory health care services)は4つの産業にブレークダウンできますが、このうち15年間で最も雇用が拡大したのは、在宅介護サービス(Home health care services: 1.94倍 )と訪問看護センター(Outpatient care centers: 1.90倍 )でした。これらによって、この15年間に、米国では在宅による看護介護サービスの割合が高まった ことがうかがえます。
さて、労働統計局(BLS)のデータベース(Table B-1)では、教育(Educational services : NAICS 611)には内訳データがありませんが、北米産業分類システム(North American Industry Classification System: NAICS)では、以下の産業グループから構成されると定義されています。
Elementary and Secondary Schools: NAICS 6111
Junior Colleges: NAICS 6112
Colleges, Universities, and Professional Schools: NAICS 6113
Business Schools and Computer and Management Training: NAICS 6114
Technical and Trade Schools: NAICS 6115
Other Schools and Instruction: NAICS 6116
Educational Support Services: NAICS 6117
教育サービスの雇用者数は、15年間で223万人から337万人に114万人(51%)も増加 しました。教育サービスの雇用者数が増加しているのは、専門技術サービスの雇用増加に対応した専門教育に対する需要の拡大 があるためと推定されます。
同様に、労働統計局(BLS)のデータベース(Table B-1)では、社会支援(Social assistance : NAICS624)には内訳データが児童デイケアサービス(Child Day Care Services : NAICS 6244)の一つだけしかありませんが、北米産業分類システム(NAICS)では、以下の産業グループから構成されると定義されています。ソーシャルアシスタンスはソーシャルワーカーなどの専門職による専門的な社会支援 です。
Individual and Family Services: NAICS 6241
Community Food and Housing, and Emergency and Other Relief Services: NAICS 6242
Vocational Rehabilitation Services: NAICS 6243
Child Day Care Services: NAICS 6244(これだけTable B-1 にデータあり)
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社会支援の雇用者数は、15年間で167万人から274万人に107万人(63.8%)も増加 しました。うち子供デイケアサービス(Child Day Care Services)が24万人(39.4%)増だったのに対し、それ以外が83万人(78.1%)も増加しています。これはリーマンショック不況などで困窮者が増加したため と推定され、景気回復に伴って減少に転じています。
総括すると、米国は企業向け専門サービス・医療介護・社会支援などの専門的サービス産業の雇用が急ピッチで拡大 していて、それに伴う専門教育需要の高まりから教育サービス産業の雇用も拡大 しています。それらの雇用拡大が基調的に製造業や建設業などのモノ作り産業の雇用縮小を上回って雇用全体の拡大 を支えています。
米国の非農業雇用者総数(total nonfarm )は、1998年から2013年の15年間に、1億2,603万人から1億3,693万人に1,090万人(8.6%) 増加しています。ここで分析したとくに雇用者数増加の大きかった4つの産業セクターの雇用増加は、企業向けサービス340万人+健康ケア403万人+教育114万人+107万人=計964万人 でしたから、総数増加のほぼ9割はこの4つのセクターによって生じたことになります。
こうして見てくると、やはり日本はどうなっているかを知りたくなります。
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米国 US
2014-01-26T01:59:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=172
米国の産業別雇用者数の長期的・構造的な変化を見る
目先の景気による小さな動きではなく、長期的・構造的に見て、どういう産業セクターで雇用が拡大していて、どういう産業セクターで雇用が縮小しているかは、国内の産業構成がどのように変化しつつあるかを把握する上できわめて重要です。
Googleで『雇用統計』で検索す...
Googleで『雇用統計』で検索すると、米国の雇用統計に関する情報ばかりが列挙されてきます。米国では、雇用統計は重要な経済指標と認識されていて、日本の金融経済の専門家たちも常にそれに注目しているからです。ところが、日本の雇用統計に関する情報はあまり出てきません。Googleの検索結果を数ページ繰るとようやく「労働力調査」が出てきますが、この統計に関するニュースや専門家のコメントは非常に少なく、あまり注目されていないように見えます。雇用統計に関する日米のこの大きな違いは、どうして生じているのでしょうか。
米国は、国内で雇用される可能性のある全ての個人にユニークな社会保障番号(Social Security Number, SSN)を付与しています。雇用主は、給与を支払った雇用者にかかる「給与税(payroll tax)<日本の社会保険料と同様の目的税で雇用主と雇用者が折半で負担>」を、雇用者の社会保障番号に基づいて毎月納付します。これによって翌月中には前月に給与支払いを受けた雇用者数の速報値が出てきます。この速報値は「非農業雇用統計(nonfarm payroll)」と呼ばれていて、米国労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のHPから誰でも簡単に詳細データを入手することができます。大区分産業セクター別の雇用者数についてはなんと1939年にまでさかのぼって時系列データを入手することができ、より詳細な産業別の雇用者数についても1990年にまでさかのぼって時系列データを入手することができます。また、米国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis)のHPからは、GDP関連データとして、1998年以降の産業別雇用者数の時系列データを簡単に入手することができます。これらによって、投入産出・付加価値・雇用者数を産業別に時系列で把握することができ、米国の産業構造の時系列的変化の中味を詳しく知ることができます。
米国労働省労働統計局に行ってみる
米国商務省経済分析局に行ってみる
このように、米国には社会保障制度を基盤にした雇用統計の仕組みがありますが、日本では、社会保障の制度ごとに対象者が別々に管理されていて、制度で使わないデータは保有せず、社会保障制度全体の対象者の名寄せ管理も行われていません。コストと手間を沢山かけながら、せっかくのデータを多様に活用できないでいます。日本の産業別雇用者統計は「労働力調査」で、一定の統計上の抽出方法に基づいて選定された全国約4万世帯を対象に毎月行われているサンプリング調査です。統計的有意性は確保されていて、長く続けられている統計調査だとは思われますが、産業分類区分の変更によって過去から連続する時系列データを入手することができません。現在の産業分類区分によるデータは2007年までしかさかのぼれず、また2011年は東日本大震災の影響で調査を行えなかった県があるために全国データがありません。また、内閣府の「国民経済計算」データには、産業別付加価値額(GDP)に対応する産業別雇用者数の統計はありません。「労働力調査」は、短期的な雇用動向をおおまかに知るのには役立ちますが、長期的な産業別雇用構造の変化を把握し分析するためにはきわめて不十分です。
以上のような前置きをしたうえで、あらためて米国の産業別雇用者数の変化の傾向 を見てみたいと思います。使用しているデータは米国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis)のHPからダウンロードしたGDPデータです。
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最初のグラフは、1998年を100とした指数にして、産業セクター別の雇用者数の変化を概観したものです。雇用者数が減少している期間を雇用悪化(不況)期と考えてピンクの背景にしてあります。また、この13年間に最も雇用が増加した3つの産業セクターと、最も雇用が減少した3つの産業セクターを点線で囲んであります。
まず、雇用が減った3つの産業セクター から見ます。?製造業(Manufacturing) の雇用は、とくに不況期に大きく削減されていますが、好況期にも増加は見られません。?新聞・放送・出版等情報産業(Imformation) の雇用は、2000年まで急激に増加した後は、一貫して減少が続いており、やはり不況期にとくに大きく減少しています。?建設業(Construction) の雇用は、ほぼ景気の波に連動して大きく増減しており、サブプライムローン破たん以降の減少が著しく大きかったために純減しています。
逆に、雇用が増えた3つの産業セクター を見てみましょう。?教育・健康・社会支援(Educational services, health care, and social assistance) の雇用は、景気に無関係に直線的な増加を続けています。?芸術・エンターテイメント・娯楽・宿泊・飲食サービス(Arts, entertainment, recreation, accommodation, and foods services) の雇用は、やはり一貫して増加する傾向にありましたが、リーマンショック後の2009年には減少し、その後またゆるやかに回復する傾向が見えます。?専門及びビジネスサービス(Professional and business services) の雇用は、企業向けサービス産業ですから景気に連動して増減していますが、長期的には増加を続ける傾向が見えます。
次に、雇用が増えた3つの産業セクター についてより細かい個別産業にブレークダウン して、同じように1998年を100とした指数で、より細かい産業別雇用者数の変化を見てみます。同じように、雇用不況期間をピンクの背景にして、この13年間に最も雇用が増加した4つの産業と、ほとんど雇用増加のなかった3つの産業を点線で囲んであります。
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まず、とくに雇用が増えた4つの産業 から見てみます。?社会支援(Social assistance) の雇用は、景気に関わらず概ね一貫して増加しており、一時的な雇用減少はむしろ好況期に生じています。?システム設計及び関連サービス(Computer systems design and related services) の雇用は、いわゆる「2000年(Y2K)問題」対応で急増した後に激減し、好況期に再び急増に転じ、リーマンショック不況で一時的に減少したものの、すぐにまた急増に転じています。?外来健康ケアサービス(Ambulatory health care services) の雇用は、景気とかかわりなくほぼ直線的な増加を続けています。?教育サービス(Educational services) の雇用も、やはり景気とかかわりなくほぼ直線的な増加を続けています。
逆に、ほとんど雇用増加のなかった3つの産業 を見てみます。?宿泊(Accommodation) の雇用は、好況期に少し拡大するものの不況期には減少して、13年間通算でほとんど増加していません。?管理及び支援サービス(Administrative and support services) の雇用は、企業向けサービスなので好況期に拡大し不況期に減少していますが、13年間通算ではあまり増加していません。ただし近年の好況では大きく回復しているように見えます。?法律サービス(Legal services) の雇用は、景気に関わらず少しずつ拡大を続けていましたが、リーマンショック不況で減少に転じ、近年の好況でも回復する傾向は見えません。
その他のサービス産業は、これらの7つの産業の中間に位置していて、全体として雇用の拡大に貢献しています。
以上では、産業別の雇用増減のトレンドを見てきましたが、次では産業別雇用規模の比較をしてみます。1998年と2011年の産業セクター別の雇用者数構成比 を比較し、更に、2011年については、13年間で最も雇用増加の大きかった3つの産業セクターをより細かくブレークダウン して産業別雇用者数構成比を詳しく見てみます。
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すでに見たように、1998年から2011年の13年間に3つの産業セクターの雇用が増えて構成比率が拡大し、3つの産業セクターの雇用が減って構成比率が縮小しました。製造業(Manufacturing) は、全体から見ると「小さな雇用セクター」になり、政府(Government) はそれよりずっと「大きな雇用セクター」になっています。
13年間で雇用の拡大が最も大きかった3つの産業セクターは、2011年には民間雇用の半分を占めるようになっています。その内訳をブレークダウンすると、フードサービス及び飲み屋(Food services and drinking places)の<飲食業> が最大の雇用産業になり、病院・看護及び介護住居施設(Hospitals and nursing and residal care facilities)と外来健康ケアサービス(Ambulatory health care services)の<医療介護健康系産業> がそれに次ぐ大きな雇用産業になり、管理及びサポートサービス(Administrative and support services)と多様な専門的科学的技術的サービス(Miscellaneous professional, scientific, and technical services)の<企業向けサービス産業> がそれに並ぶ大きな雇用産業になっています。
雇用成長率の最も大きかった4つの産業のうち、教育サービス(Educational services) と社会支援(Social assistance) もかなり大きな雇用産業に成長してきていますが、システム設計及び関連サービス(Computer systems design and related services) はまだそれほど大きな雇用産業にはなっていません。成長が大きかった新しい産業は、まだ雇用の大きな産業にまで成長しきってていないという見方もできます。
以上のような米国の産業別雇用変化に対して、日本の産業別雇用変化がどうなっているのかを、是非とも比較してみたいと思うのですが、残念ながら日本には公に公表される整理された雇用データがありません。これはとても残念なことです。
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米国 US
2014-01-23T23:22:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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2000年以降の為替と貿易の推移の関係性を眺めてみる
通貨の交換(外国為替)はモノの貿易に伴うもの以外に、投資やその他の支払や受取によっても発生し、今日では貿易以外の要因による通貨交換額の方が貿易伴う通貨交換額よりもはるかに大きくなっています。しかし、当然のことながら、通貨の交換比率(為替レート)は貿易に...
日本の輸出総額のうち6割以上は「機械類及び輸送用機器」が占めており、また自動車関連だけで輸出全体のほぼ4分の1を占めています。具体的な構成は下のグラフのようになっています(2012年暦年ベース)。
「機械類及び輸送用機器」(通関統計概況品コード 7)の輸出通関金額と前年同月比増減とドル円レートを、関連性を検証しやすいように倍率を調整してグラフに描いてみました。それが下のグラフです。
2004年1月ころからリーマンショックの2008年9月ころまでの90ヶ月以上の間にわたって、「機械類及び輸送用機器」輸出通関金額の前年同月比増減とドル円レートは非常に似通った推移をしているように見えます。言い換えると、輸出額は為替レートときわめて相関性が高かったということが推定できます。ところが、リーマンショック以後、すなわち2008年10月以後は、その関係性には大きな変化が生じているように見えます。言い換えると、輸出額と為替レートの相関性は薄くなったのではないかという推定がでてきます。
リーマンショックの前月の2008年8月から2009年11月までの16か月間も前年同月比減が続き、輸出額はピークの2007年3月の4兆9,467億円からボトムの2009年2月の2兆1,247億円まで約6割(57%)も減少しました。このような貿易額の急激な縮小は世界経済の危機に直面したと言っても過言ではありません。1年半近く経過した2009年12月にようやく輸出額は前年同月比増に転じましたが、2011年3月に2008年3月の7割の水準に回復したところで頭を打ち、2011年4月以降は再び概ね前年同月比減の傾向を続けています。
他方で、為替レートの方を見ると、リーマンショックの1年3ヶ月前の2007年6月に円安のピーク(月中平均122.6円)をつけた後、何度か揺り戻しはあったものの、2011年10月のボトム(月中平均76.7円)まで52ヶ月も円高ドル安進行の基調が続きました。そしてその間に円は37%も切り上がったことになります。輸出額の回復がピークの7割の水準で頭を打った原因のほとんどはこの円高の急速な進行によるものだと推定することができます。
さて、為替レートは、2011年11月のボトム以降、行き過ぎた円高ドル安の是正の方向に動こうとする気配が感じられますが、本格的で急激な是正が始まったのは2012年12月からです。2013年4月の月中平均は97.7円ですから2013年6月時点現在の推移とほぼ同水準にあります。これによって円は2011年10月の水準から27%切り下がったことになります。しかし、貿易額の方は2011年10月の水準から3割近く増えているようには見えません。
あえてその理由を推定すると、円安ドル高進行の期間は円建て輸出価格が上昇し輸出数量も横ばいないしは増えましたが、円高ドル安進行が長く続いたために円建て輸出価格が低下し採算性の悪化が続いて輸出数量が減少してきたと考えられます。輸出数量の減少は生産拠点の海外移転などによって進んだと考えられ、したがって、急に円安に振れて輸出採算性が改善しても直ちに輸出数量が回復するようことになっていないと考えられます。
問題は、円高是正によって「機械類及び輸送用機器」の輸出企業が日本国内に生産増強投資をどんどん進めるかどうかにあります。しかし、為替水準は輸出が好調に推移していたときの122円に対してはまだまだ円高の水準にあり、生産投資先を海外から国内に戻す動機としてはまだまだ十分ではないように見えます。
数量ベースの通関データを見るにはもっと品目を絞らなければなりません。そこで、最大の輸出品目である「自動車」(通関統計概況品コード 70503)の動向を見てみます。それが下のグラフです。
「自動車」の輸出価格は細かいところでは概ね為替レートに連動しています。これはドルベースの価格を円高に連動して上げることはできないからです。また、リーマンショックまでは、為替の動向(円安・円高)に関わらず、輸出数量は一貫して増加を続けていました。これは円高による採算性の悪化を生産性の向上である程度カバーできてきたので、生産能力を増加するための日本国内への投資も行われていたと推定できます。
リーマンショックからの回復過程に急激な円高の進行が重なっています。ここでは円高の進行にもかかわらず円ベース輸出価格は維持されていて、輸出数量の回復はピークの6割くらいで頭を打ち、近年はむしろ減少する傾向にあります。これは日本国内の生産は利幅が多くドルベース価格を引き上げやすい高級車にシフトして、大衆車の生産拠点を海外にシフトしてきたためではないかと推定されます。したがって、円高是正に伴って、ドルベース価格を引き下げずに円ベース輸出価格を引き上げ輸出採算性を大幅に改善させていますが、輸出数量はあまり増えていません。
円高是正がかなり定着したとしても、日本国内の新車販売の伸びが望めない状況にあるので、海外に輸出する大衆車の生産拠点を日本国内に増強することはあまり考えられないと思われます。
さて、「機械類及び輸送用機器」の輸出額と輸入額とその差額(ネット輸出額)の推移は以下のようになっています。
円安(円高是正)によって、「機械類及び輸送用機器」の円ベースの輸出金額は確かに増加していますが、円ベースの輸入金額はあまり変化しておらず、したがってネット輸出金額は増加しています。数年間の傾向を見ると、輸出額は減少傾向にあり輸入額は増加傾向にあって、したがってネット輸出金額は減少傾向にありました。円安(円高是正)はネット輸出額の減少傾向を食い止めたように見えますが、増加に反転するような傾向は今のところ見えません。
さて、次に輸入側を見てみます。日本の輸入は、「鉱物性燃料」と「機械類及び輸送用機器」で半分以上を占めます。具体的には以下のとおりです。
「機械類及び輸送用機器」の輸入金額の推移はすでに上で見ましたので、以下では「鉱物性燃料」の輸入を見ていきます。「鉱物性燃料」の太宗は「原油及び粗油」(通関統計概況品コード 30301)と「天然ガス及び製造ガス」(通関統計概況品コード 305)で占められています。最も大きい「原油及び粗油」の月次輸入通関実績は次のようになっています。
まず押さえておくべきことは、「原油及び粗油」の輸入金額と輸入価格は2000年以降リーマンショック前まではほぼ同様な傾向に推移しているので、輸入数量はほぼ横ばい傾向にあったことが分かります。ところが、リーマンショック不況以降は、輸入金額は輸入価格の下方に推移しているので、輸入数量が減少していることが分かります。直近の価格上昇はほぼ円安によるものです。
原油の輸入は減っていますが、原子力発電所の休止によって発電用の天然ガス輸入は増えています。「天然ガス及び製造ガス」の月次輸入通関実績は次のようになっています。
「天然ガス及び製造ガス」の価格推移は「原油及び粗油」の価格推移と概ね一致しています。大きく異なるのは、原油輸入量は減る傾向にあるのに対して、天然ガス輸入は原発停止によって増加し高止まりしていることです。したがって、直近の円ベースの天然ガス輸入額は円安によって過去最高額を更新しています。
以上、直近3〜4ヶ月の円安(円高是正)の進行と貿易の動きを、160か月間の推移の中で見てみました。その結果、やはり貿易収支赤字が黒字に転じる可能性は当面は高くないという推定ができるように思われます。
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日本 Japan
2013-06-24T03:27:34+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=169
製造業の国内生産回帰の巻き戻しはあるのか?
下の図は名目GDP(暦年)の主要構成要素がどのように変化してきたかを1994年を100とする指数の2012年までの推移を示したものです。
またその下の図は、名目GDP(暦年)に対する主要構成要素の比率が、1994年と2012年でどう変化したかを比べたものです。
最大構成...
またその下の図は、名目GDP(暦年)に対する主要構成要素の比率が、1994年と2012年でどう変化したかを比べたものです。
最大構成要素である民間消費支出 は、物価下落基調が続いてきた中にあっても、かろうじて横ばいないし微増の傾向を続けており、生産年齢人口の減少や雇用者報酬減少などを考慮するとそれほど弱かったとは言い切れないように見えます。
次に大きい政府消費支出 は、社会保障費移転 の拡大によって一貫して逓増を続けています。すなわち、社会保障費移転を加えた家計現実最終消費支出 はそこそこ増加を続けてきたということです。
ところが、名目GDP(暦年) は、過去17年間ほとんど横ばいで推移し、リーマンショック以降は1994年よりも低い水準で推移しています。そして、民間消費支出や政府消費支出よりも下回る傾向が続いていて、そのかい離幅も少しずつ大きくなっているように見えます。それは他に名目GDP(暦年)を押し下げる要因があるからです。
名目GDP(暦年)を押し下げている最大の要因は輸入 です。輸入は、エネルギー価格の上昇と、最終消費財の輸入シフト(あるいは供給サイドから見れば消費財生産拠点の海外シフト)の進行、という二つの要因によって大きく拡大してきました。最終消費支出(すなわち国内需要)のかなりの部分が輸入品によって代替されるようになったために、GDPが押し下げられているのです。
逆に輸出 は、海外の需要に対する国内の生産ですから、名目GDP(暦年)を押し上げます。輸出は概ね輸入と同じような傾向で大きく増減しています。これは貿易拡大の基調部分が、生産拠点の海外シフトに伴う機械・原料・部品などの輸出拡大と海外生産品の輸入拡大が並行して拡大してきたためだと推定されます。しかし、エネルギー価格 が高騰(あるいは下落)すると、輸入は輸出とは異なった動きになっています。
民間設備投資 は、生産拠点の海外シフトが進んできた割には、それほど大きく減少していないように見えます。一時的な輸出の増加に対応して設備投資も回復していましたし、オフィスビル・ショッピングセンター・アミューズメントパーク・ゲームセンターなどの国内サービス産業の設備投資もある程度底堅かったのではないかと推定されます。
最後に、一番減少率が大きかったのは民間住宅投資 でした。これは、生産年齢人口の減少や先行きの収入の不透明感という基調を反映していると推定できます。
さて、以上の簡単な整理に踏まえて、蛇足的に今後の見通しを考えてみます。
すでに決まっていた消費税引き上げ前の駆け込み需要や震災復興需要に、金融緩和による資産価格上昇と金利低下が加わると、民間設備投資や住宅投資の追い風になります。その追い風で当面どのくらい動くか、より重要な点としてそれがどのくらい長く続くか、ということが問題です。
民間設備投資も住宅投資も追い風である程度は動くと思われますが、それが長く続く可能性には「?」がつきます。とくに住宅投資には構造的な限界があるので、もし投資が続けばまたバブル崩壊につながる可能性が高くなります。
民間設備投資の方は、製造業の国内生産回帰という巻き戻しがあるか というと、はなはだ疑問と言わざるをえません。円安による輸入価格上昇分は、生産拠点をよりコストの安い国にシフトしていく方向を加速するだけだと思われます。ただ、国内サービス産業の設備投資拡大には期待が持てます。そのためには海外からの旅行者の増大がかなり重要なポイントになってくるように思われます。
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日本 Japan
2013-04-12T16:06:50+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=168
アメリカの貿易はどう変わってきたか(日本の地位低下は著しい)
アメリカの貿易収支赤字はどんどん拡大を続けてきました。それはグローバルな分業化による世界経済全体の貿易依存度の高まりを反映しているともいえます。アメリカの貿易はこうした拡大を続ける過程で、どのように変わってきたのでしょうか。
次のグラフは、1978年から...
次のグラフは、1978年から2011年(暦年)の間に、アメリカとの二国間貿易収支が国別にどう推移してきたかを示しています。ここでは、日本 ・中国 ・メキシコ ・石油輸出国機構(OPEC)加盟国 ・カナダ ・ヨーロッパ (EU以外も含む)・(および)その他の国と地域 に分けてみています。メキシコとカナダは、アメリカと長い国境を接する隣国であって、<北米自由貿易協定(NAFTA) >を締結している国です。
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上のグラフでも近年の動きはかなりよく分かりますが、構成比率 を見ていくと、その時にアメリカにとってどの国々との二国間貿易が一番大きな赤字だったかを明確に理解し易くなります。
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1980年代初めまでは、<第二次オイルショック >によって石油輸出国機構(OPEC)加盟国 に対する貿易赤字が最も大きくなっていました。しかしその後は、日本 との間の貿易赤字が大きくなり、1985年には<プラザ合意 >によるドル安協調誘導が行われました。しかし、ドル安による貿易赤字の縮小は日本との間よりも日本以外の国との間の方が大きかったので、貿易赤字全体に占める日本の割合はむしろ1993年まで上昇が続きました。
1978年に改革開放路線に転じた中国 は、とくに1992年頃から輸出主導による経済急成長期に入り、それによってアメリカの対中国貿易赤字もそのあたりから急激に拡大しました。そして、ほぼ2000年までに、アメリカの最大の貿易赤字相手国は日本から中国へと変わりました。
1992年の<北米自由貿易協定(NAFTA) >締結によって、メキシコ とアメリカの貿易は大きく増加しました。カナダ はその以前からすでにアメリカの最大貿易相手国であったので、協定によってメキシコほどの大きな変化はなかったように見えます。
貿易収支は輸出と輸入の差額ですから、まず輸入の方から見ていきます。
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これを見ると、アメリカの輸入額全体は急増を続けてきたにもかかわらず、日本 からの輸入額(勿論米ドルベース)はほとんど増えてきていないことが分かります。とくに1995年以降はほとんど横ばいから減少に転じているように見えます。
更に輸入額の国別構成比 でみると、日本の地位の低下の様子がより明確に現れてきます。
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アメリカの輸入に占める日本 の割合は、<プラザ合意 >翌年の1986年をピークに、以降はほぼ一貫して低下を続けていることが分かります。そしてほぼその割合の低下相当分を中国 が割合を伸ばして埋めてきました。
<北米自由貿易協定(NAFTA) >締結以降、メキシコ はアメリカの輸入に占める割合を伸ばしてきました。カナダ も貿易額は増えていますが割合は少しずつ低下してきています。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国 からの輸入は、もっぱら原油価格によって変動します。しかし、アメリカの輸入額全体が大きく増えてきたことで、原油輸入の割合は相対的に低下してきています。
ヨーロッパ 全体からのアメリカの輸入は、カナダと同様に、貿易額は増えていますが割合は少しずつ低下してきています。
輸出についても同様なグラフで見てみます。
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輸出も概ね輸入と同じような傾向が見て取れます。アメリカの輸出全体はかなり急激に増加してきました。とくに<北米自由貿易協定(NAFTA) >締結以降、メキシコ とカナダ に対する輸出額は大きく増加しました。
しかしながら、日本 に対する輸出は長い間横ばい水準が続いていて、アメリカの輸出額全体に占める割合は、日本の<バブル経済 >ピークにあたる1990年をピークとして、一貫して低下を続けています。
日本にとっては、アメリカは、つい最近まで最大の輸出および最大の輸入の最大貿易相手国でしたし、現在もなお中国に次いで圧倒的な第2位の貿易相手国です。しかしながら、アメリカ側から見ると、貿易相手国としての日本重要性は著しく低下してきており、しかもその低下は現在もなお続いています。
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米国 US
2013-03-01T21:48:00+09:00
Tooru Ozawa
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貿易はどう変わってきたか<その3 輸入相手国>
輸入は1990年の33兆8,550億円から2012年には70兆6,740億円に36兆8,190億円増加して、この間に2.1倍に増えました。この間に名目GDPはほとんど増加していませんから、経済に占める輸入のウエイトがほぼ2倍増加したことになります。
この間に主要品目の輸入金額構成と輸入...
1990年の33兆8,550億円から2012年には70兆6,740億円 に36兆8,190億円増加して、この間に2.1倍に増 えました。この間に名目GDPはほとんど増加していませんから、経済に占める輸入のウエイトがほぼ2倍増加 したことになります。
この間に主要品目の輸入金額構成と輸入相手国がどう変わったのかを見ていきます。
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この間に輸入額が2倍に増加した要因は、鉱物性燃料 ・機械類及び輸送用機器類 ・雑製品 の3つの品目であることが確認できます。これらの3つの品目の輸入相手国がどのように変わっているかを見ていきます。1つ目は鉱物性燃料(石炭・石油・天然ガス・石油製品)です。
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鉱物性燃料輸入は、1990年の8兆0,832億円から2012年の24兆0,784億円に15兆9,952億円も増加 して、ほぼ3倍 に増えました。この非常に大きな増加によって、カタール・オーストラリア・マレーシア・ロシア・クエートなどからの輸入が大幅に増え、逆にインドネシア・イラン・中華人民共和国などからの輸入はあまり増えませんでした。結果として、大幅な増加による中東依存度の大幅な増大は回避 されているように見えます。この増加要因のほとんどは原油価格の上昇 によるものです。
2つ目は、機械類及び輸送用機器類(製造建設機械・電気機器・自動車・船舶・航空機などの機械工業製品)です。
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機械類及び輸送用機器類輸入は、1990年の5兆4,703億円から2012年の15兆7,435億円に10兆2,732億円も増加 して、ほぼ3倍 に大きく増えました。この非常に大きな増加に伴って、中華人民共和国およびアセアン諸国からの輸入が大幅に増えましたが、アメリカ合衆国やヨーロッパ諸国からの輸入はあまり増えていません。この増加要因のほとんどは日本国内で製造していた工業製品の海外生産シフト によるものと考えられます。
3つ目は、雑製品(衣類・精密機器・雑貨など)です。
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雑製品輸入は、1990年の3兆9,129億円から2012年の7兆7,358億円に3兆8,229億円も増加 して、ほぼ2倍 に大きく増えました。この間、とくに中華人民共和国からの雑製品輸入 は4,736億円から4兆5,090億円にほぼ10倍 に飛躍的に増加しました。これに対して、アメリカ合衆国・大韓民国・フランス・イタリア・台湾・香港・その他の欧州諸国などの工業化が進んだ国々からの雑製品輸入は減少 しています。これは、この間に中国の世界の工場化が著しく進行したことを示していると考えられます。
最後に、また全体を振り返って、日本の主な貿易相手国と二国間貿易収支の変化を見てみます。
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1990年には主要貿易相手国の圧倒的な第1位はアメリカ合衆国 で、輸出13兆0,566億円・輸入7兆5,859億円・二国間貿易黒字5兆4,707億円でした。2012年のアメリカ合衆国との貿易は、輸出11兆1,848億円・輸入6兆0,818億円・二国間貿易黒字5兆1,030億円で、貿易額と二国間貿易黒字のいずれもが若干減少 しました。
他方、この間に、中華人民共和国 との貿易は、1990年の輸出8,835億円・輸入1兆7,299億円・二国間貿易赤字8,463億円から、2012年には輸出11兆5,110億円・輸入15兆0,337億円・二国間貿易赤字3兆5,227億円に拡大し、中国は日本の最大の貿易相手国になりました。この間に二国間貿易赤字は2兆6,764億円増加 しました。
1990年と2012年の間に、日本の貿易収支は1990年の3兆3,855億円の黒字から2012年の6兆9,307億円の赤字に10兆3,162億円減少 しました。その要因は、?鉱物性燃料輸入額が約16兆円増加 したこと、また、?中国との二国間貿易赤字が約2兆7千億円増加 したこと、したがって、?自動車や工業部品などの輸出増加や雑製品輸入の減少で中国以外で約8兆円の貿易黒字の増加 があったと理解することができます。
当然のことながら、この22年間の日本の貿易構造の変化は著しく大きかった ことが改めて確認できます。
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日本 Japan
2013-02-23T01:30:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=166
貿易はどう変わってきたか<その2 輸入>
2012年(暦年)の全概況品別輸入データをもとに品目別構成比を示したものが下の円グラフです。我が国の輸入の3分の1は石油天然ガス等の鉱物性燃料で占められ、それを含めた半分がエネルギーと原材料で占められています。
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概況品目別の輸入額は過去と...
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概況品目別の輸入額は過去と比べてどう変わったかを見るには、過去の年と比較してみる必要があります。1980年から2012年までの輸出・輸入・貿易収支(暦年ベース)は次のグラフのように推移してきました。
輸入額は2008年の79兆円弱をピークに、リーマンショック後の2009年に大きく減少し、2010年からまた少しずつ増加してきました。この推移から見ると、2011年・2012年の2年連続の貿易収支赤字は、どちらかといえば輸入の増加よりも輸出の減少の影響の方が大きかったように見えますが、勿論、輸入額の増加があったことも少なからず影響 しています。
ここでは2012年との比較対象の年として1990年を選択することにします。1990年は日本の経済が好調を続けていたバブル経済崩壊前です。ですからこの比較は「失われた20年」の間の輸入構成の変化 を見ることになります。輸入額は、1990年の33兆9千億円弱から2012年の70兆7千億円弱に2.1倍増加しましたが、概況品目別の輸入額の増減 はどうだったかを次のグラフで示します。
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輸入額の増加は、原油・天然ガスおよびその他機器・通信機そして医薬品の順に大きく増えています。言うまでもなくこれは原油およびそれに連動する天然ガスの価格の上昇 と、原発停止に伴う発電用天然ガス輸入量の増加 があったからです。それ以外では、通信機やその他機器のような工業品の輸入が増加していることが特筆されます。医薬品の増加は、高齢者人口増加による医療費増加に伴うものと推定されます。
日本の輸入はエネルギーと原材料が主体ですから、それ以外の品目で何が増えているかを見るために、輸入増加倍率の比較 のグラフも見てみます。
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エネルギー・原材料以外で増加が著しいのは、通信機です。これは携帯・スマートフォンなどは国内マーケットでも外国ブランドのシェアが大きいことを反映しています。また、医薬品・AV機器部品・半導体等・精密機械などの工業製品の増加が大きいのも注目されます。これらから、総じて、エネルギー輸入額が増加 し、同時に過去には少なかった工業製品の輸入も増加 していることが分かります。
輸入の品目別金額構成の変化は、完成組立工程が中国やアセアン諸国などに移転したり、家電製品の国際競争力が韓国・台湾などの企業に対して失われてきたことなどを反映していると考えられます。仮に今後円安方向に大きく戻った場合、エネルギー・原材料価格の上昇による国内向け製造企業業績の悪化が懸念されるものの、輸入に置き換わってきた工業製品を過去のように国内で生産するための設備投資が活発化するとは考えにくい と思われます。
日本は、工業製品を自国で製造して輸出する国から外国の工場で製造して世界中で販売するグローバル企業 の国に変わり、自国企業ブランドの製品も輸入する国(アメリカのような国)に変わってきたと思われます。
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「貿易はどう変わってきたか<その1 輸出>」も参照…
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2013-02-22T00:20:56+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=165
貿易はどう変わってきたか<その1 輸出>
財務省貿易統計は通関統計なので、公式に輸出されたり輸入された全ての物品の全量統計を比較的早くかつ細かく入手することができます。検索ページの概況品別表の検索条件をプルダウンメニューから選択指定して「検索」ボタンをクリックすると、画面に検索結果が出てきて、...
検索ページの概況品別表 の検索条件をプルダウンメニューから選択指定して「検索 」ボタンをクリックすると、画面に検索結果が出てきて、「CSVダウンロード 」をクリックするとCSVファイル形式で入手してデータを加工して利用することができます。
2012年(暦年)の全概況品別輸出データをもとに品目別構成比を示したものが下の円グラフです。我が国の輸出のほとんど全てが工業製品で占められていることが分かります。
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概況品目別の輸出額は過去と比べてどう変わったかを見るには、過去の年と比較してみる必要があります。1980年から2012年までの輸出・輸入・貿易収支(暦年ベース)は次のグラフのように推移してきました。
輸出額は2007年の83兆9千億円をピークに、リーマンショック後の2009年に大きく減少し、2010年に少し回復した後、2011年・2012年とまた減少が続いています。この推移から見ると、2011年・2012年の2年連続の貿易収支赤字は、どちらかといえば輸入の増加よりも輸出の減少の影響の方が大きかった ように見えます。
ここでは2012年との比較対象の年として1990年を選択することにします。1990年は日本の経済が好調を続けていたバブル経済崩壊前です。ですからこの比較は「失われた20年」の間の輸出構成の変化 を見ることになります。輸出額は、1990年の41兆4千億円から2012年の63兆7千億円に1.5倍に増加しましたが、概況品目別の輸出額の増減 はどうだったかを次のグラフで示します。
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化学製品・鉄鋼・半導体電子部品・自動車関連の増加額が大きい一方、繊維製品および映像機器・音響機器・通信機などの家電製品が純減していることが特徴的に見て取れます。とりわけ家電製品の減少額は約1兆5千億円にもなります。日本の輸出減少と貿易赤字転落にはこうした家電製品の国際競争力低下の影響が大きかった ことが分かります。
日本の輸出の柱は1990年も2012年も自動車と自動車関連製品でした。それ以外の品目で輸出の伸びが大きかったのはどのような品目だったでしょうか。それを見るために、輸出増加倍率の比較 をグラフにしてみました。
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増加金額も増加倍率も大きかった品目は化学製品および半導体電子部品でした。また、自動車関連では完成車とエンジンの増加率は小さく、タイヤと部品の増加率の方が大きくなっています。したがって、総じて、完成品の輸出はあまり増えないか減少 していて、他方で高度な原料や部品の輸出が増加 していることが分かります。石油製品・非鉄金属や電算機部品・半導体製造装置はこの間に著しく増加しましたが、それでも輸出総額に占める割合はそれほど大きくはなっていません。
輸出の品目別金額構成の変化は、完成組立工程が中国やアセアン諸国などに移転したり、家電製品の国際競争力が韓国・台湾などの企業に対して失われてきたことなどを反映していると考えられます。仮に今後円安方向に大きく戻った場合でも、輸出企業業績は大きく改善するものの、輸出品目構成をまた過去の形に戻すような設備投資が活発化するとは考えにくい と思われます。
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「貿易はどう変わってきたか<その2 輸入>」に続く…
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2013-02-21T22:08:00+09:00
Tooru Ozawa
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金価格はなぜ復活したのか(それは今後も続くのか)
1973年1月から2013年1月までの40年間(481か月)のロンドン金市場価格(米ドル/1トロイオンス)の月中最高値の推移をグラフにしてみました。東京市場金価格(日本円/1グラム)の月中最高値と円/米ドル為替レート(T.T.S.)の月中平均値の推移も加えてあります。東京金価格...
<データ出所:田中貴金属工業>
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第二次世界大戦後から1972年まではずっと、「35米ドルを1トロイオンスの金と交換」し(米ドルの金兌換制)、「360円の円を1米ドルと交換」する(外国為替の固定相場制)取り決めを土台にして、国際間の貿易や金融が行われていました。
ところが、1960年代からアメリカの貿易赤字が続くようになり、赤字幅も拡大してきたため、アメリカの保有する金が外国に流出し続け、いずれアメリカにはドルと交換する金がなくなる懸念が生じました。そのため、アメリカは、1972年に、米ドルの金兌換制と外国為替の固定相場制を停止することを決定しました。これは<ニクソンショック>と呼ばれています。
グラフは、<ニクソンショック>の翌年の1973年1月から今日までの月次推移全体を示しています。この40年間の推移は、明らかに「大きく異なる3つの期間 」に分かれています。
?<ニクソンショック>から8年目の1980年1月に1オンス2,644ドル まで著しく急騰しました。これは1979年に始まった<第二次オイルショック >の激しいインフレに伴うものでしたが、消費者物価上昇率の沈静化に伴って、2年程度で1,000ドルくらいまで反落しました。(1973年1月から1983年2月までのほぼ10年間 )
?再び反転して、1983年2月に1,591ドル をつけましたが、それ以降は2005年12月まで実に22年間もその価格を上回ることなく長い低迷 が続きました。(1983年3月から2001年1月頃までのほぼ18年間 )
?1999年8月に1983年以降の最安値813ドル をつけたあと、2001年頃から継続的な価格上昇 が始まりました。以降現在までの12年間は、概ね年率15%複利 線(グラフに書き込んであります)に沿うような強さで上昇を続けています。(2001年2月頃から現在までのほぼ12年間 )
この3つの異なる期間を共通して説明できる基調的な要因をみつけることは全く不可能であると言わざるをえません。?の長い低迷はなぜ生じたのか、それがなぜ?の継続的な高率の上昇に転じたのか、そして12年続いてきた?の上昇は今後もまだ続くのか、あるいはもし終わるとしたら次は大きく暴落するのか、などの興味がわいてきます。それを予測するのは占いでしかないように思えます。
しかし、あえて個人的意見(感想)を言えば、かつては通貨(米ドル)の価値が一定の金の量に裏付けられていたのですから、通貨が変動制になったら、通貨価値が下がれば(通貨供給量を増やしてインフレになれば)その分金価格が上昇することが最も妥当であるように思われます。
?の金価格の上昇には、アメリカの通貨供給量の拡大政策がなんらかの形で影響しているのではないかという推測ができます。また、より力強い2005年以降の金価格上昇は、たとえば資産選好として金を好む中国富裕層の台頭の影響もあるかもしれません。しかし、そのような説明では、?の低迷期間がこれほど長く続いたことが全く理解できません。
さて、日本円ベースで見ると、<オイルショック>時の1980年1月の最高値1グラム6,495円には、その後の円高進行もあってまだはるかに及ばない水準にあります。当面の短期的な動きは為替の円安進行にかかっていますが、これも長期的にはどうなるか、全く予断を許さないように思われます。
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日本 Japan
2013-02-19T00:31:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=163
アメリカの資本収支の変化(リーマンショック前後)<その2>
アメリカの「貿易収支」の赤字は、1985年の<プラザ合意>による協調ドル切下げから6年後の1991年をボトムに、また拡大に転じて、しかも赤字幅はどんどん大きくなっていきました。ところが、それまでとは違って、貿易赤字はあまり大きな問題にはならなくなりました。その...
しかし、2008年9月に、アメリカの投資銀行リーマンブラザースの破綻に象徴される金融危機<リーマンショック>が生じ、それを境に国境を越える資金の動きには大きな変化が生じています。そのことをアメリカの「資本収支」の動きをとおして見てみます。下のグラフは、アメリカの「資本収支」の動きを2000年から2012年まで四半期ベースで示したものです。基調変化があったところはグラフの間を空けて明示しています。
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「米国の対外負債の増(+)減(-)」は、外国の政府機関や金融機関や民間企業がアメリカの資産を取得購入したり償還売却したりすることに伴って生じる国境を超える資金の出入です。取得購入は資金流入となり資本収支の<プラス>に、償還売却は資金流出となり資本収支の<マイナス>になります。「米国の対外負債の増(+)減(-)」は、2000年(実際にはそれ以前)から2008年第1四半期までは、一貫して「純増」し、資本収支の<プラス>側(グラフでは上側)で推移していました。
「米国の対外資産の増(-)減(+)」は、アメリカの政府機関や金融機関や民間企業が外国の資産を取得購入したり償還売却したりすることに伴って生じる国境を超える資金の出入です。取得購入は資金流出となり資本収支の<マイナス>に、償還売却は資金流入となり資本収支の<プラス>になります。「米国の対外資産の増(-)減(+)」は、2000年(実際にはそれ以前)から2008年第1四半期までは、ほぼ一貫して「純増」し、資本収支の<マイナス>側(グラフでは下側)で推移していました。
そして、「米国の対外負債の純増」は常に「米国の対外資産の純増」を上回っていたので「資本収支」は<プラス>を続けて、「経常収支」の赤字による流出資金を余裕でカバーできていました。例外に見える2001年第3四半期は<9.11同時多発テロ>があったときです。
しかし、「米国の対外負債の増(+)減(-)」は、2007年前半をピークに2007年第3四半期から「純増」幅が3四半期連続で大きく縮小し、2008年第2四半期には「純減」に転じました。そして2008年第3四半期(9月)にリーマンブラザースが破綻しました。2009年第4四半期まで過去の基調とは全く異なる不規則な動きが続いた後、2010年第1四半期から2011年第1四半期まではまた2008年第1四半期まで続いていた基調に一旦戻ったかのように見えますが、2011年第2四半期からまた不規則な動きに入っています。
そこで、リーマンショック前後の2007年から2012年第3四半期までの動きをより詳しく見ていきます。それが次のグラフです。
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「外国政府対米資産の増(+)減(-)」のほとんどは財務省証券を中心とする米国債で、この間も一貫して「残高純増」(グラフの上側)で推移しています。それに対して「米国政府海外資産の増(-)減(+)」のほとんどは短期債権(非公式な外貨準備にも見える)で、<リーマンショック>以前にはほとんど動きがなかったにもかかわらず、<リーマンショック>から1年間(4四半期)だけは大きな動きがありました。金融危機時に政府が大きく介入していたことが見て取れます。
「外国民間対米資産の増(+)減(-)」および「米国民間海外資産の増(-)減(+)」は、<リーマンショック>以降は、「純増」したり「純減」したり、不規則な動きを続けていて、昔の「純増」一辺倒の基調に安定して戻る気配がありません。したがって、これらについては更に詳しく見ていきます。
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「外国(民間)の対米投資資産の増減」は、「増加」する(したがって資本収支<プラス>側、グラフでは<上側>にある)状態が基調的な傾向として続くことがアメリカにとって望ましいことです。実際<リーマンショック>まではほぼその傾向がずっと続いていました。しかし、<リーマンショック>以降は、かなり大きく「減少」する(したがって資本収支<マイナス>側、グラフでは<下側>になる)ことも頻繁に生じるようになりました。
その内訳を見ると、「直接投資」「米国債投資」「米国通貨保有」はほぼ「増加」側で推移していますが、「民間証券投資」「金融機関債権(米国側から見れば金融機関債務)」「非金融機関債権(米国から見れば非金融機関債務)」は、「増加」と「減少」を行ったり来たりしています。これはインターバンク市場を通じて飛び交う短期資金の流れる方向が不規則に変わるようになったことを反映していると考えられます。そして、その不規則性傾向は2012年に入ってもまだ続いているように見えます。
さて、「民間証券投資」には、問題の、アメリカの住宅ローンや自動車ローンやクレジットカード債権などの非常に小口分散化された債権を償還財源とする証券化商品、あるいは更にその証券化商品を償還財源とする証券化商品などが含まれていました。その供給が「増加」しすぎたことが、<リーマンショック>の要因のひとつともなり、したがってその後は「減少」もしくは小さな「増加」程度に大きく様変わりしています。
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「米国(民間)の海外投資資産の増減」も、「増加」する(したがって資本収支<マイナス>側、グラフでは<下側>にある)状態が基調的な傾向として続くことがアメリカにとって望ましいことです。実際<リーマンショック>まではほぼその傾向がずっと続いていました。しかし、やはり<リーマンショック>以降は、かなり大きく「減少」する(したがって資本収支<プラス>側、グラフでは<上側>になる)ことも頻繁に生じるようになりました。
その内訳を見ると、「海外直接投資」だけが一貫して「増加」で推移し続けていますが、「金融機関海外債権」「非金融機関海外債権」「外国証券投資」は、やはり「増加」と「減少」を行ったり来たりしています。これもインターバンク市場を通じて飛び交う短期資金の流れる方向が不規則に変わるようになったことを反映していると考えられます。そして、やはりその不規則性傾向は2012年に入ってもまだ続いているように見えます。
以上見てきたような<リーマンショック>以降のアメリカの「資本収支」の変化は、世界の金融市場の資金の流れの変化を投影しています。近時は、EUの金融不安の影響が反映していると考えられ、今後どう落ちついた基調に安定できるのかは、なお明確ではありません。<リーマンショック>まで20年くらい落ち着いて拡大してきた国際金融の基調的な流れは、新しい安定の構造を求めてまだ彷徨っている状態にあるように見えます。
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アメリカの国際収支統計は以下のリンクから簡単にダウンロードすることができます(実際は1960からの時系列データを取得することができます)。
U.S. Bureau of Economic Analysis Table 1. U.S. International Tran sactions
ダウンロードしたExcelファイルにグラフ作成用の調整を少し加えて上記のグラフを作っています。調整後のExcelファイルは以下からダウンロードできます(これを見れば同じことを自分でもやってみることができます)。
アメリカの資本収支推移(四半期)グラフExcelファイルDownload
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米国 US
2013-02-13T12:15:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=162
アメリカの資本収支の変化(リーマンショック前後)
アメリカの国際収支は、貿易収支赤字を主因とする経常収支赤字を資本収支黒字で賄ってバランスしています。その振幅はまるで地震計の地震波のように激しく振幅しています。
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ドル金兌換をやめ(それに伴って日本円の360円固定相場制もやめ)た1972年...
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ドル金兌換をやめ(それに伴って日本円の360円固定相場制もやめ)た1972年の<ニクソンショック>あたりからみると、最初の(1983年から1990年の)膨らみのピークにあたる1985年には<プラザ合意>があり、そこから日本の<バブル経済>が始まりました。アメリカの貿易赤字が一旦縮小した1991年は、日本の<バブル経済崩壊>の年に(たまたま?)一致します。
その次の(1992年以降の)より大きな膨らみは、概ね日本の<失われた二十年>に一致します。それが2008年の<リーマンショック>によって2009年に一旦激しく縮小し、2010年から再び拡大に転じています。しかし、まだピークの水準には戻っていません。この経常収支の中味について、もう少し詳しく見てみます。
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経常収支赤字の主因はなんといっても貿易収支赤字です。貿易収支と経常移転収支の赤字を、サービス収支と所得収支の黒字で埋める経常収支構造は一貫して変わっていません。1985年の<プラザ合意>前後の貿易収支赤字は(たまたま?日本のバブル経済が崩壊した)1991年にほぼ最小化しました。しかし、すぐに翌1992年から<リーマンショック>の2008年までずっと拡大の一途を辿りました。そして<リーマンショック>によって2009年に一旦劇的に縮小しましたが、2010年からすぐにまた拡大傾向に転じています。しかし、2011年ではまだピーク水準には戻っていません。
他方、<リーマンショック>直前の2007年から、サービス収支と所得収支の黒字幅がぐっと大きくなってきました。それによって貿易収支赤字の拡大ほどには経常収支の赤字が拡大しない構造に変わってきました。サービス収支と所得収支の急速な増加には、<リーマンショック>の影響もほとんどうかがわれず、アメリカの国際収支構造の基調的変化になっていると考えることができます。
経常収支赤字を賄っている資本収支の黒字はどういう中身で構成されていて、どう変わってきたのでしょうか。それを少し詳しく見てみます。
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2008年の<リーマンショック>を境にして、アメリカの資本収支の構成はそれ以前の基調とは大きく変化しています。
民間米民間証券投資(外国の民間金融機関等によるアメリカの民間証券商品に対する投資。グラフでは「赤」で表示)と、米金融機関対外債務(アメリカの銀行の外国の金融機関等からの借金。グラフでは「オレンジ」で表示)は、2007年までは基調的に増加を続けていました(いずれもアメリカの<対外債務>の<増加>なので資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>で推移しています)。ところが、<リーマンショック>後の2008年・2009年には、それが逆に減少に転じています(アメリカの<対外債務>の<減少>なので資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では逆の<下側>に生じるようになっています)。
他の民間海外資産(対外直接投資や外国証券を除くアメリカの金融機関や法人が保有する対外債権。グラフでは「薄い紫」で表示)も、2007年までは基調的に増加を続けていました(アメリカの<対外債権>の<増加>なので資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では<下側>で推移しています)。ところが、<リーマンショック>後の2008年・2009・2011年には、それが逆に減少に転じています(アメリカの<対外債権>の<減少>なので資本収支の<プラス>に働き、グラフ上で逆の<上側>に生じるようになっています)。
以上の3つは<リーマンショック>を通じて最も変化が大きく<プラス>が<マイナス>に逆転した項目です。
外国保有財務省証券(外国の政府または公的機関が保有する米国財務省証券。グラフでは「藍色」で表示)は、とくに<リーマンショック>後の2008・2009・2010年の3カ年の増加が大きくなっています(アメリカの資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>に生じています)。
民間保有財務省証券(外国の民間金融機関や法人が保有する財務省証券。グラフでは「やや濃いめの水色」で表示)は、増えたり減ったりしてきましたが、とくに<リーマンショック>後の2008・2010・2011年の3カ年は増加が大きくなっています(アメリカの資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>に生じています)。
以上の2つは<リーマンショック>を通じて量的に増えた<プラス>項目です。
他方で、民間海外直接投資(アメリカの民間企業による海外直接投資。資本収支の<マイナス>に働き、グラフ上では<下側>で推移しています)と、対米民間直接投資(外国民間企業によるアメリカへの直接投資。資本収支の<プラス>に働き、グラフ上では<上側>で推移しています)は、<リーマンショック>の前後であまり大きな変化がなく、一貫して増加基調にあって、<リーマンショック>後もあまり増え方が衰えていません。
以上の2つは、<リーマンショック>の影響をほとんど受けずに増加を続けている基調的項目です。
こうした資本収支の累積である対外債権債務および対外資産負債は、所得収支に跳ね返ってきます。最後にそれを少し詳しく見てみます。
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直接投資配当受払(対外直接投資の配当受取と対米直接投資への配当支払の差額。グラフでは「薄い赤」で表示)の黒字幅が圧倒的に大きくなっています。対外直接投資は、過去にはアメリカの製造業が製造拠点を海外に移転する雇用流出が原因でしたが、過去10年位は、中国での組み立てなどのグローバル・サプライチェーンを前提としたグローバル・ビジネス構築が主流となっています。
金融危機であった<リーマンショック>の影響もあまり受けることなく、対外直接投資が拡大を続けて、その投資配当が急速に拡大してきています。グローバル化したアメリカ製造業の典型的な姿と強さがここから浮かび上がってきます。
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アメリカの国際収支統計は以下のリンクから簡単にダウンロードすることができます(実際は1960からの時系列データを取得することができます)。
U.S. Bureau of Economic Analysis Table 1. U.S. International Transactions
ダウンロードしたExcelファイルにグラフ作成用の調整を少し加えて上記のグラフを作っています。調整後のExcelファイルは以下からダウンロードできます(これを見れば同じことを自分でもやってみることができます)。
アメリカの国際収支推移グラフExcelファイルDownload
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米国 US
2013-02-10T23:56:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=161
LNGと原油の月次輸入通関実績推移
原子力発電を停止したために液化天然ガス(LNG)による火力発電が増加し、それによって発電コストが上昇したため電力料金が引上げられました。そして、それは貿易収支が赤字化した主因のひとつとしてもあげられています。そこで、LNGの輸入量や金額(したがって通関価格)...
月次の実績をグラフにすると以下のようになります。目盛りの数値をいれていないのは、相対的な変化をみるために、2011年3月以前の数量・金額・価格がほぼ同じ水準になるように数値を調整しているからです(実質的には指数化しているのと同じです)。また、原子力発電所の稼働停止が始まった2011年3月以降は赤い四角で囲ってあります。
さて、上のグラフから明らかなことは、2011年3月以降のLNGの輸入量(タテ棒グラフ)はそれほど大きくは増加していないということです。月によって大きく変わりますが、概ね前年比1〜3割増で、平均して2割増程度にみえます。勿論、LNGは火力発電だけに使用されているわけではありませんから、火力発電用途向けの輸入量増加率は、当然もっとずっと大きくなっているはずです。ただ、ここでは、LNG全体の輸入量は原子力発電所停止後もそれほど大きく増加しているわけではないということは認識しておく必要があると思います。
しかし、輸入量に比べて、輸入金額(円ベース:領域グラフ)の方はずっと大きく増加しています。すなわちそれは輸入単価(円ベース:折れ線グラフ)が上昇しているためです。原子力に替えてLNG火力発電を増やしたためのコスト上昇のかなりの部分は、LNG輸入単価(円ベース)の上昇の影響によるものと考えることができます。良く知られるように、LNGの価格は原油価格に連動しているようです(またそれは日本だけではなくEUも同様のようです)。そこで、原油の輸入通関実績も同様にグラフにしてみました。
原油の方は、より長い2000年1月から2012年10月までの期間をとっています。したがって、LNGの通関実績を見た2010年1月から2012年10月までの期間を赤い四角で囲ってあります。
まず、価格(折れ線グラフ)と金額(領域グラフ)の相対関係を見ると、リーマンショック以前はほぼ同しような水準で推移していたことがわかります。しかし、リーマンショック後は金額が価格を下回る傾向にあるので、原油輸入通関数量(タテ棒グラフ)はリーマンショック後減少する傾向にあることが分かります。これは省エネルギーの進展の影響もあるでしょうが、もっぱらリーマンショック後の日本の製造業の生産活動の縮小が影響しているのではないかと考えられます。
2010年1月以降の部分をみると、原油の輸入通関価格は再び上昇傾向に転じていて、LNGの輸入通関価格は概ねそれと類似の動きになっていることが分かります。2012年に入ってからの輸入価格(円ベース)の低下は、急激な円高の進行によるものと理解されます。
今後の推移は、ドルベースの原油価格の推移とドル円為替レートの推移にかかってきます。仮に、原油価格(ドルベース)が変わらずに円安が進行すると、輸入価格(円ベース)が上昇し輸入金額が増加するので、発電コストは更に上昇します。したがって、デフレ対策=円安誘導=原子力発電所稼働再開はどうしてもセットで行われる必要があるということになります。今回の選挙の国民の選択は、そういう政策セットを選択したということになります。
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日本 Japan
2012-12-24T00:54:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=160
サービス収支は世界の中の立ち位置を示す
2011年は日本の貿易収支が赤字になったという点で大きな転換点の年であったといえます。しかし、所得収支の黒字がそれを上回って、経常収支の黒字はなお維持されています。所得収支の黒字が大きい国を「成熟した債権国」と呼びます。成熟した債権国の入口に立った日本の国...
成熟した債権国の代表はアメリカです。アメリカは貿易収支赤字が巨額なので、経常収支も大幅な赤字になっていますが、所得収支とサービス収支は黒字で、しかもそれは拡大しつつあります。そこでアメリカのサービス収支の中味をみてみます。
アメリカのサービス収支(Balance on services)<折れ線グラフ>の黒字 は、2003年をボトムに反転し、2011年には1,805億ドル(およそ14兆円)にもなっています。
その中で目立つのは、著作権使用料とライセンス料 (Royalties and license fees)のネット黒字拡大です。ソフトウエアライセンス料や映画・音楽などの著作権料は、アメリカのいわゆる「収穫逓増(売上が拡大するほど収益率が高くなる)」ビジネスの隆盛を示しています。また、アメリカの製造企業が製造コストの安い国に製造を委ねて製品を世界中に販売し、製造国から多額のライセンス料を取っている構図もあります。
その他の民間サービス収支 (Other private services)の黒字もかなり大きく、金融・保険・情報・通信などの手数料のネット収支が含まれますが、そのうち金融手数料がかなりの部分を占めると推定されます。ここもアメリカの企業が強い部分です。
旅行 (Travel)と旅客運賃 (Passenger fares)もかなりの黒字です。これは外国に行く(民間)アメリカ人よりもアメリカを訪れる外国人の方がはるかに多いことを示しています。アメリカの観光産業は、医療・福祉・教育分野に次いで雇用成長の大きな分野です。これは程度の差こそあれ欧米諸国に共通する傾向で、世界でも人は豊かな観光国の方に流れるのです。
他方、他の輸送料 (Other transportation)および政府サービス (U.S. government services)は赤字になっています。1999年頃から輸送料と政府サービスの赤字が拡大したためにサービス収支黒字は5年間ほど減少が続きました。これは輸入の増加と海外での軍事的な拡大を反映しています。また、同時多発テロがあった2001年以降はしばらく旅行収支の黒字幅も縮小しています。
さて、このようなアメリカと比較してみると、「成熟した債権国」の入口にさしかかった日本のサービス収支には、どのような違いがあるのでしょうか?
日本のサービス収支<折れ線グラフ>は、アメリカとは全く逆に、1996年の6兆5千億円の赤字をボトムに徐々に赤字幅が縮小してきていますが、それでもなお2兆円くらいの大幅赤字 となっています。
著作権使用料とライセンス料 (Royalties and license fees)や金融サービス (Financial Services)のネット収支は、21世に入ってようやく赤字から黒字に転じてきましたが、まだ黒字幅は僅かで、しかも必ずしも順調な拡大を続けているようにはみえません。そして保険サービス (Insurance Services)は海外への再保険によってずっと赤字が続いています。
また、建設サービス (Construction Services)は、おそらく政府援助などに付随する請負収入等を主に以前から黒字を続けていますが、これも拡大を続けているようにはみえません。
他方で目立つのは、旅行 (Travel)と運賃 (Transportation)のネット赤字の大きさです。これは日本を訪れる外国人が外国に行く日本人よりもはるかに少ない (入管通過累計では半分くらい)からです。これは、欧米諸国とは逆の傾向で、むしろ発展途上国に多い傾向です。日本人は円高を背景に世界中のどこにでも大勢旅行に出かけますが、欧米からみると日本はあまりにも遠く、また近隣の国々からの観光客は長い間あまり受け入れてきませんでした。
近年ようやく、日本人の海外旅行が頭打ちになる一方で、台湾・韓国そして中国から日本への観光客が増加し始め、旅行や運賃などの観光サービス収支の赤字が縮小し始め ました。しかしそれでもまだ赤字幅は大きく、発展途上国型を抜け出せてていません。近隣諸国の経済成長が日本への観光客増加を後押しして、観光サービス収支が黒字に転じていくかどうかが大きなポイント になると思われます。
国が(外貨=ドル=ベースで)豊かになるにつれて、製造業の空洞化(脱工業化)は不可避で、貿易収支は赤字化していきます。海外からの所得収入は国内の産業の需要に直接的には結びつきません。外国人観光客拡大によって、国内のサービス産業に対する海外需要をより多く引き入れる ことは、日本の経済社会にとって非常に重要な目標になっています。
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日本 Japan
2012-10-16T16:09:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=159
外貨準備高・為替レート・国際収支の関係を知りたい
次の図は、(政府の金保有高を除く)外貨準備高(International Reserves / Foreign Currency Liquidity)の世界ランクです。
中国は、国内総生産で日本を抜いて世界第2位になりましたが、外貨準備高でも日本を抜いてダントツの世界第1位になっています。そして、興味...
外貨準備高(International Reserves / Foreign Currency Liquidity)の世界ランクです。
中国は、国内総生産 で日本を抜いて世界第2位になりましたが、外貨準備高 でも日本を抜いてダントツの世界第1位になっています。そして、興味深いことに、中国・日本・ロシア・台湾・韓国・香港と日本の隣国(というよりは中国の隣「国」)が上位を占めています。これらの国々の多くは、1997年のアジア通貨危機やロシア通貨危機の苦い経験から、外貨準備を手厚くして流動性リスクを小さくしておこうとしていて、それを近年の経済の好調が可能にしていると思われます。ちなみにアメリカは世界最大の輸入国であるにもかかわらず外貨準備高 が少ないですね。勿論、輸入決済のほとんどが自国通貨であることがその理由ですが、政府の金保有高 はアメリカがダントツの世界第1位であることがとても重要です(1972年まではアメリカドルは金兌換制だったのです)。
外貨準備高 の「必要量」については、輸入の3か月分以上または短期債務残高以上と言われています。中国(3兆2千億ドル 253兆円)と日本(1兆2千億ドル 99兆円)の外貨準備高 はあまりも過大であるように思われます。外貨準備高 の大きい国は、経常収支黒字 が続いているために、自国通貨の切り上げ(元高・円高)圧力が高い国です。為替の急激な変化を和らげるために、政府が自国通貨売り・外貨買い介入を行います。それを日本円について確かめてみます。
次のグラフは、日本の月次の外貨準備高 と直物円ドルレート (月平均)の推移です。
まず、外貨準備のほとんどは(満期保有を目的としない短期保有目的=時価評価が行われる=の)外国債券 (Securities)資産で保有されています。近年は外貨建て預金 (Deposits)資産はきわめて少なくなり、他方で(世界の金融危機を回避するための財源拠出として)IMFや世界銀行に対する債権を持つようになっています。また、上の表には含まれていなかった政府保有の金がだんだん増えているように見えますが、実際は保有量は変わらず、ドル時価が値上がりしているためです。日本政府の金保有量 はそれほど多くはありません。
さて、時系列の変化をみると、確かに円高が進む局面で外貨準備高 が増加してきましたが、円高の進行度合い と外貨準備高の増加度合い は完全には連動していないようにみえます。政府の為替介入はもっぱら「アナウンス効果」によって投機的な変動を緩和しようとしているものであって、外貨準備高 の増加はもっと別の要因に支配されているようです。それは、円とドル(外貨)の売買高を均衡させる(バランスさせる)ことです。そのことを国際収支 の推移によって確認してみます。
次のグラフは、日本の国際収支 (Balance of payments)の均衡状況の推移です。
経常収支 (Current Account)は、貿易収支 (Trade Balance)・サービス収支 (Services)・所得収支 (Income)・経常移転収支 (Current Transfers)の合計です。日本はもう30年以上経常収支黒字 を続けています。2011年に貿易収支赤字(輸出<輸入) になりましたが、サービス収支赤字(料金受取<料金支払) が縮小してきていることや所得収支黒字(所得受取>所得支払) がかなり大きくなってきているので、なお大きな経常収支黒字 を保っています。
経常収支に対する経常外収支は、投融資収支 (Capital & Financial Account)で、2003・2004・2011年の3年以外は全て赤字(外貨建て日本資産の増加額>円建て外国資産の増加額)になっています。外貨建て日本資産からの利子や配当の受取が円建て外国資産に対する利子や配当の支払よりも多い分だけ所得収支 が黒字になります。そして投融資収支 赤字の累積額(ネット対外投融資資産残高)が大きくなるほど、所得収支黒字 が大きくなります。
経常収支黒字 から投融資収支赤字 を引いても収支がバランスしない部分を外貨準備高の増減 によってバランスさせます(誤差脱漏による多少の不均衡はあります)。理論上は、国際収支が瞬時に完全均衡していれば為替レートは変わらないはずですが、現実にはそうはなっていません。実際には、円高は円に対する投機すなわち円建て外国資産の瞬発的な増加によって生じますが、その円高が定着するのは外国と日本の物価上昇率の違いによって生じます。すなわち、基軸通貨国であるアメリカの物価は上昇(したがってドルの価値は下落)を続けていますが、日本の物価は長い間下落(デフレ)(したがって円の価値は上昇)を続けています。ですから円高期待は日本のデフレ継続期待 と考えることができます。
さて、外貨準備高の増加 は所得収支黒字 の拡大に寄与しますが、投融資収支赤字 の累積も所得収支黒字 の拡大に寄与します。次のグラフは、投融資収支赤字の累積 (ネット外貨資産残高の増加)の内訳を示しています。
外貨準備増 の累計(113兆円:外貨購入円貨累計)は外貨準備高 (金を除いて99兆円:外貨資産時価円貨)とほぼ等しくなっており、またネット対外短期債務 とネット外人保有株式 (取得価格)の累積(110兆円:円貨購入外貨累計)にほぼ等しくなっています。株式は2008年以降外人の売り越し気味なのは日本株の成長性に魅力を感じないからでしょう。他方でネット対外短期債務 が増加を続けているのは、通貨「円」に値上がりの期待(すなわち物価下落=デフレ期待)があるからでしょう。
総括すると、ネット対外直接投資 (Direct investment)やネット外貨建て中長期債投資 (Bonds and notes)の累計(290兆円)は着実な増加を続け、経常収支黒字の累積(302兆円)にほぼ等しくなっています。経常収支で稼いだ外貨とほぼ同じくらいは海外投資をしているのですが、外国から国内へのネット短期投資 (および株式外人買い越し)の分だけ国が外貨準備残高 を増加させてバランスさせる必要が生じているというように見えます。
国際収支における外貨準備の位置づけは分かりましたが、円高の原因となってきたデフレはどうして起きるのか、どうすれば穏やかなインフレに転換できるのか、そこがまさにホットな議論の焦点になっています。いろいろな意見がありますが、みんなが理解できかつ確実に実現できる処方箋はみつかっていないように思われます。
なお以上の時系列データは、いずれも財務省のホームページから簡単に入手することができます。
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日本 Japan
2012-10-07T03:35:00+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=158
アメリカの雇用データベースは素晴らしい(その2)
「アメリカの雇用データベースは素晴らしい」(その1)で雇用データベースの使い方をざっとみて、それを使って取得したデータの加工例を見ました。あらためて、アメリカの雇用データベースの入口はここにあります。
United States Department of Labor; Bureau of Labor...
アメリカの雇用データベースは素晴らしい」(その1)で雇用データベースの使い方をざっとみて、それを使って取得したデータの加工例を見ました。あらためて、アメリカの雇用データベースの入口はここにあります。
United States Department of Labor; Bureau of Labor Statistics
Databases, Table & Calculators by Subject; Employment
このデータベースには、選択して組み合わせることのできる、データタイプ (Data types)が沢山あり、産業分類区分 (Industry Codes)はきわめて詳細に区分されているので、あれこれやってみるときりがないくらい興味深いデータを取得することができます。この雇用データベースのデータ項目の一覧表(リスト)も以下のように公開されています。
データタイプの一覧表 (Data Type Codes)
産業区分の一覧表 (Super Sector Codes)
産業分類の一覧表 (Industry Codes)
そこで、実際に細かいところに突っ込んだデータを取得してみます。
社会保障に関連して、日本と同様アメリカでも介護需要が増大しています。産業分類一覧表から、介護に相当する産業を探すと、super sector の Education and health services の中に Health care and social assistance があり、Health care の中に Community care facilities for the elderly(高齢者のためのコミュニティケア施設) があります。また、Social assistance の中に Individual and family services があり、その中に Services for the elderly and disabled(高齢者と障害者のための在宅訪問サービス) があります。
どのような職種でも、現場で働く労働者とそれを管理する責任者がいます。管理責任者を除いた労働者の部分だけを抽出するためのデータタイプとして、生産及び非管理職雇用者数 (production and nonsupervisory employees)があります。また、平均的な週給についても、それに対応する生産及び非管理職雇用者の平均週給 (average weekly earnings of production and nonsupervisory employees)があります。いや、凄いですね。
それで、まずこの二つの職業の労働者数 (production and nonsupervisory employees)の推移のグラフを出してみました。
1990年(アメリカでもさすがにそれ以前のデータはありません)から2011年までの間に、高齢者のためのコミュニティケア施設の労働者 は30万人から68万人に(景気に関係なく一本調子で)増加しています。同じ期間に、高齢者と障害者のための在宅訪問サービスの労働者 は15万人から65万人に(やはり景気に関係なく一本調子で)増加しています。この領域は、社会保障のメイディケアとメディケイドの領域 になります。大変興味深いのは、日本で介護保険が始まった2000年に、アメリカでも介護職種労働者数の増加ピッチが速まっている点です。アメリカでは、高齢者と障害者の介護職は過去20年間に88万人も増加しほぼ3倍の133万人 にもなっています。
アメリカでも社会保障にかかる部分が少なくないので、従事する労働者の賃金水準が気になります。そこで労働者平均週給 (average weekly earnings of production and nonsupervisory employees)の推移グラフを出してみました。
先ず注意しなければならないのは、アメリカは日本と違って物価上昇(したがってドルの下落)が続いている ので、少なくともインフレ分だけ週給が上がって行かないと実質的な賃下げになってしまいます。ですから、基本的にこの間の週給は右肩上がり になっていなければなりません。
2011年の週給の水準をみると、370ドルから390ドル(1ドル80円で月収に換算すると12万円/月ちょっとくらい)です。フルタイムで働いた週給なのかどうか分かりませんが、労働時間のデータもあるので検証しようと思えば検証することもできます。いずれにしても介護労働者の週給はかなり低い部類に入るのではないかと思われます。
興味深いのは、高齢者のためのコミュニティケア施設の労働者の平均週給の方だけが、リーマンショック後の不況時に下がっている ことです。このときに設備投資のある福祉施設の一部に経営が困難になった施設が出てきたためではないかと推定されます。
さて、介護職労働者の週給と比較するために、よくテレビドラマに出てくる弁護士事務所 の雇用者平均週給も出してみました。弁護士事務所は、super sector の Professional and business seivices の中に Professional and technical services があり、その中に Legal services があり、更にその中に Offices of lawyers があります。
弁護士事務所の全ての雇用者の平均週給は1,340ドル(1ドル80円で月収に換算すると43万円/月くらい)です。介護職の4倍近くにはなりますが、きわめて高収入というほどではありません。しかし、この中にはおそらく弁護士事務所で働く事務員も含まれますから、もちろん弁護士はもっとずっと高給であるはずです。
こうやって細かな職種ごとの雇用者数動向や平均週給をみていく ときりがありません。でも、就職や就職のためのスキルを身に着けようとするときに、こういうデータがインターネットから簡単に入手できるのはとても素晴らしいことだと思います。また、この統計をみていると、アメリカは日本人が想像するよりはるかに管理された国 であることが分かります。
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米国 US
2012-10-04T15:07:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=157
アメリカの雇用データベースは素晴らしい
アメリカの社会保障や医療保険を概観してみると、あらためてそれらがアメリカの経済社会にいろいろな形で大きな影響を与えていることが分かります。社会保障税(給与税)(payroll tax)は全ての非農業雇用者(Employees on nonfarm payrolls)に課される定率(ただし上限...
社会保障税(給与税)(payroll tax)は全ての非農業雇用者(Employees on nonfarm payrolls) に課される定率(ただし上限あり)の目的税で、社会保障番号と給与税徴収の仕組みが素晴らしい雇用統計の整備 につながっています。これによって、雇用者数や賃金水準の状況を、産業別や州別や男女別や人種別や年齢階層別など、非常に詳細に、かつ迅速に、かつ長期間のデータを、把握することができます。しかも、その統計データベースには誰でも簡単にアクセスすることができます。
雇用データベースの入口 は以下のサイトです。実際に使ってみましょう。
United States Department of Labor; Bureau of Labor Statistics
Databases, Table & Calculators by Subject; Employment
たとえば一番上の<Employment, Hours, and Earnings - National (Current Employment Statistics - CES)>の <One Screen>データベースを選ぶと、次のようなセレクトリストウインドウが出てきます。
たとえば、上の図では、耐久財製造業の雇用者数の変化を知りたいので、Data Type は ALL EMPLOYMENTS, THOUSANDS、Super Sectors はDurable Goods、Industries は31000000 Durable Goods を選んでいます。それでGet Data をクリックすると次のような抽出データウインドウが出てきます。
上の<More Formatting Options>をクリックすると、次の画面に変わります。
<Super Sector>の雇用者数の年次(Annual)データは1939年から得られるのでそれを選択して<Include graphs>をチェックして<Retrieve data>をクリックすると、次のグラフが出てきます。
1939年から2011年までの72年間(ほぼ人の一生に近い期間ですね)の耐久財(Durable Goods)製造業の雇用者数の推移が出てきました。この下には Excel ファイルをダウンロードできるボタンもあります。
非農業雇用者(Employees on nonfarm payrolls)の統計を1939年まで遡れる のは、アメリカの社会保障制度(社会保障番号や社会保障税)が大恐慌の後につくられた からです。
このグラフを読むと、耐久財製造業の雇用者数は、1939年の約5百万人くらいから、第二次大戦中10百万人超に倍増し、戦後一旦7.5百万人くらいまで激減したところから、景気の波で増減しながらも、1970年代末の12百万人超くらいまで増加しました。1970年代末をピークに減少傾向に転じ、2011年には第二次世界大戦直後の水準の7百万人くらいまで減少しています。自動車や家電製品などがアメリカ産から輸入品に変わってきたことによる雇用への影響の歴史がよく分かります。
さて、この雇用データベースを使って、<Super Sector>の雇用者数の1990年と2011年の構成割合をドーナツグラフにして比較してみました。内側のドーナツが1990年で、外側のドーナツが2011年です。
こうしてみると、この20年余の間に、製造業(Manufacturing)雇用者は半分くらいに大きく減少し、他方で、専門およびビジネスサービス(Professional and business services)・教育および健康サービス(Education and health services)・娯楽および接待(Leisure and hospitality)の雇用者数が大きく増加していることが分かります。
それでは、雇用者数の変動が大きかったこれらの産業分野の雇用者数は、この20年余の間にどんなふうに増減してきたのか、1990年を100とした指数で変化量を見てみることにします。それが次のグラフです。
まん中辺りにある黒い点線は非農業雇用者の総数(Total nonfarm) です。2002・2003年頃と2008・2009年頃に総雇用者数の谷があります。これは米国の景気の谷 です。
製造業(Manufacturing)雇用者数 は、一貫して減少を続けていますが、とくに景気の谷で大きく減少する という傾向がはっきりでています。その逆に、教育および健康サービス(Education and health services)雇用者数 は、景気の波に関係なくほぼ直線的に増加 を続けており、20年間で1.8倍にもなっています。娯楽および接待(Leisure and hospitality)雇用者数 も似た傾向 がありますが、こちらはリーマンショックの時はさすがに縮小しています。
専門およびビジネスサービス(Professional and business services) ・小売業(Retail trade) ・建設業(Construction) は、いずれも景気の影響を非常に強く受けて激しく増減 しています。建設業は、住宅バブルとその崩壊の影響で最も激しく増減しています。
一般に、景気は国内総生産(GDP)の伸び率や鉱工業生産指数などによって語られることが多いですが、雇用の流動性が非常に高いアメリカでは、雇用者数の変化で見る 方がより分かり易いと思います。このデータベースを使うと、非常に細かな産業ごとに雇用者数の推移を見ることができるので、どういう産業がどういうふうに成長し、どういう産業がどういうふうに衰退しているかを細かく見ることができます。
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米国 US
2012-10-04T01:09:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=156
社会保障を知りたい(その4 アメリカの社会保障と財源)
日本の社会保障を概観してくると、やっぱりアメリカの状況を知りたくなります。それに応えてくれる資料をみつけました。
<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」September―2006>
アメリカにおける社会保障改革と財政
一般人にはなかなか読みにくいも...
<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」September―2006>
アメリカにおける社会保障改革と財政
一般人にはなかなか読みにくいものなので、例によって資料をグラフにしてみました。
最初のグラフは原資料の8ページの<表1 アメリカ連邦予算に占める社会保障費の割合(%)>の2003年分を円グラフにしてみたものです。
連邦予算の58%、6割近くも社会保障費が占めるというのは驚きですが、これは一般予算に占める割合ではありません 。給与から天引きされ事業主も同額負担する社会保障税(payroll tax 日本の社会保険料に相当)も加えた連邦税全体に対する支出割合を示していると考えられます。しかし、こうして国民が負担する連邦税全体の使い道を見る方が分かり易いと思います。
社会保障は所得再分配 に他なりませんから、日本の社会保険料もアメリカの社会保障税も、その年の社会保障給付費の財源として使われ、自分の医療費や年金のために積み立てているのではありません。日本は社会保険料 と呼ぶことによって国民に誤解が生じているように思います。アメリカのように社会保障税(給与税) と呼ぶ方が正しいと思います。
また、非農業雇用者数統計(Employees on nonfarm payrolls)が毎月素早く集計されるのは、社会保障税(payroll tax)をきっちり納税させるためだということも分かりました。
老齢・遺族・障害年金 (the Old-Age, Survivors, and Disability Insurance: OASDI )は、12.4%(被用者6.2%・雇用主6.2%・自営業者12.4%)の社会保障税で賄われており、報酬比例であることから日本の厚生年金(16.412%=被用者8.206%・事業主8.206%)に似ています。今のところ一般予算からの補てんはありませんが、ベビーブーマー世代が受給年齢に達していくので社会保障税率を据え置くと収支不均衡が続いて基金は枯渇する見通しにあります。
次のグラフは、原資料の9ページの<脚注4)>と本文をもとに作成しました。
「ER」などのアメリカの医療テレビドラマを見ていると、患者が医療保険に加入しているかどうかや保険会社の支払い限度などの問題がよく出てきます。大統領選挙の争点になったりもしているようですし、日本は患者負担率や保険カバーは全て同じ(同一保障)なので、アメリカの医療保険はいったいどうなっているんだろうという疑問がわいてきます。
勤務先の会社が加入する民間医療保険の加入者が60%を占めます。この人たちは現役世代で医療費の発生率(保険事故率)は低いので、会社が負担する(一部は個人が負担する?)保険料はそれほど高くはならないと推定できます。とはいっても、給料の安い人の保険は、保険がきく範囲がかなり絞られる種類の保険であろうことは想像されます。逆に高給取りの人の医療保険は先端医療でもなんでもフルカバーされるような医療保険なのではないかと推定されます。
失業したり退職したりすると企業医療保険はきかなくなるので、65歳以上の高齢者又は障害者は公的な高齢者医療保険(メディケア)に加入します。保険料は非常に安いのですが、カバー範囲が狭く、患者負担率が高いので、豊かな人はそれをカバーする民間医療保険にも個人で加入します。
医療保険に加入していない無保険者は16%もいます。おそらくそのほとんどは無職の貧困層です。貧困層の医療費は、公的な医療扶助(メディケイド)給付が行われます。これは日本の生活保護の医療費扶助にあたります。
次のグラフは、原資料の14ページの<表3 メディケアHI とSMI の収支(2005年)>をグラフ化したものです。
高齢者(および障害者)医療保険制度(メディケア:Medicare)のうち、外側のドーナツグラフの病院保険(HI) は2.9%(被用者1.45%・雇用主1.45%・自営業者2.9%)の社会保障税で賄われ、一般会計からの補てんはほとんどありません。他方、内側のドーナツグラフの補足医療保険(SMI) は、給付費の75%を一般予算で負担し、20%程度を保険料で賄っています。
アメリカの一般予算に絞ってみると、補足医療保険(SMI) と低所得者医療扶助制度(メディケイド:Medicaid) および低所得者扶助制度 の急激な膨張が問題になっています。
こうみてみると、制度の概観は日本とアメリカでそれほど大きく違わないように見えます。しかし、運用基準の厳しさがだいぶ違うようです。日本もアメリカ並みに給付基準を厳しく絞って行くのか、財源を確保して維持していくのか、そこが問題です。当然、財源を絞れば貧乏な人は高額医療は受けられなくなります。財源を確保しようとすると現役世代の負担と企業の負担が増えます。
また、アメリカと違って日本はフルタイムではない人に社会保障税がかからないことが税回避のために雇用の非正規化が進む要因になっているように思われます。アメリカはメディケイドと低所得者扶助が急膨張しています。これと比較すべきなのは、日本では国民年金の公費負担(年金額の半分)と生活保護(半分は医療介護扶助)の合計になると思われます。基礎年金公費負担のある日本の方が財政負担が圧倒的に大きいとは必ずしも言い切れないように思われます。
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米国 US
2012-10-02T17:17:00+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
Tooru Ozawa
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社会保障を知りたい(その3 所得再配分の現状)
社会保障は経済的側面から見れば所得再分配に他なりません。経済的に豊かな人ほど税金や社会保険料を多く負担します。他方、医療・介護・基礎年金などの社会保障給付は経済的な豊かさに関わりなく公平に給付されます。ただし、雇用保険や生活保護などの社会保障は経済的に...
社会保障は経済的側面から見れば所得再分配に他なりません。経済的に豊かな人ほど税金や社会保険料を多く負担します。他方、医療・介護・基礎年金などの社会保障給付は経済的な豊かさに関わりなく公平に給付されます。ただし、雇用保険や生活保護などの社会保障は経済的に貧しい人に給付されます。所得再配分の状況については、定期的に政府の調査(抽出調査)が行われています。
政府統計の窓口 所得再配分調査 平成20年
まず、税と社会保障負担・社会保障受給は、所得水準とどのような関連にあるかをグラフにしてみてみます。
所得階級は、当初所得(税と社会保険料負担前、社会保障受給前)の区分で分けてあります。当初所得から税と社会保険料を負担した残りが、社会保障受給前可処分所得です。それに、社会保障受給が加わります。
上のグラフから、社会保障受給前可処分所得を除いて、税と社会保険料・社会保障受給だけを取り出したものが次のグラフです。
こうして見てみると、左側の税と社会保険料の負担は綺麗に所得に比例 して増えていることが分かります。ただし、社会保険料率は税と違って、一定の所得を超えると増加しなくなることが分かります。
他方、右側の社会保障受給は必ずしも所得に比例していない ことが分かります。確かに所得の低い階層では雇用保険や生活保護などの低所得者支援によって社会保障受給額が大きくなっていますが、それ以上の所得階層では所得と社会保障給付の相関性は見出せません。これは、医療・介護・基礎年金などの社会保障給付は所得の大きさに関わりなく受給できる からです。
ところで、医療・介護・基礎年金などの社会保障は、所得によってではなく、高齢になるほど給付が多くなります。そこで、年齢階級別の所得再分配関係をグラフにして見てみます。
ここで重要なことは、このデータは年齢階級の平均値を示しているのであって、年齢階級の典型的なモデルを示しているわけではない ということです。若い人にも高齢者にも所得のすごく多い人からすごく少ない人までいます。地位があり財産があるような人には高齢の人が多いかもしれませんが、けして高齢の人が平均的に所得が多いわけではありません。どちらかというとリタイアして年金以外に収入のない人が多くを占めます。そういう前提に踏まえながら、年齢階級別の状況を概観してみます。
30歳代までは年齢に応じて所得が増加していくのは、年功序列型賃金の影響だけでなく、もしかすると若い人ほど非正規雇用(低賃金雇用)や失業の割合が高いせいもあるかもしれません。また、子育てによる女性の就労率低下(いわゆるM型の就業率)の影響があると思われます。
40〜60歳の働き盛り世代が、社会保障受給前可処分所得のピーク年齢階層になっていて、60〜65歳で退職と厚生年金受給が始まり、65歳以上では社会保障受給前可処分所得と年金受給が逆転します。しかしこれはあくまでも平均値です。
上のグラフから、社会保障受給前可処分所得を除いて、税と社会保険料・社会保障受給だけを取り出したものが次のグラフです。
まず、社会保険料負担と社会保障受給を較べると、社会保障受給の方が負担よりかなり大きい ように見えます。それは、社会保障給付費用は、社会保険料と公費(税金)で賄われ、更に、社会保険料の半分は事業主(雇用主)が負担しているからです。
34歳以下に多いその他受給には子育て支援が含まれると推定されます。医療受給も若い年齢階級から意外に多く、おそらく子供の医療費などによって多くなっているのではないかと推定されます。医療受給は、45歳くらいから年齢階級が上がるにつれて段階的に増えていきますが、やはり75歳以上の後期高齢者になると大きく増加しています。介護保険受給もほぼ医療と同様の傾向にあります。
年金が40歳以上階級から生じているのは障害者年金などが含まれるためと推定されます。60歳を超えて退職した人から(社会保険受給前所得が減り)年金受給が始まって、65歳からは退職して年金受給を受ける人がほとんどになります。
さて、社会保障問題=高齢化社会問題という認識が定着してきているので、これを世代間の問題と理解する(あるいはそう説明される)場合が多いように思います。確かに、社会保障給付(受給)は高齢化によって増加 しますが、負担は税率や社会保険料率の引き上げによって所得の大きさに応じて分担 されます。ですから、所得の少ない若者に大きな負担を課すようなことにはなりません。基本的に、年齢や世代に関わらず、所得の多い人に多く負担を求めることになります。
むしろ問題は、サラリーマン以外の個人の所得捕捉(税捕捉) が難しかったり、法人企業が正社員雇用のパート化で賃金の引き下げや社会保険料の「節税」 を図ったりしていることです。こうした不公正を可能とする制度を改革しようとしても、景気や中小企業経営の悪化や個人情報保護などを持ち出して政治的な抵抗が激しく、実現することがなかなかできていないようです。
社会全体として負担が増えるのですから、負担の公平性・公正性を保つことができるように、社会保障番号による個人の資金の一括管理ができる社会をつくることが非常に重要なのではないかと思います。
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日本 Japan
2012-09-18T00:29:08+09:00
Tooru Ozawa
JUGEM
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社会保障を知りたい(その2 公的医療保険の全体像)
日本の医療保険制度は、国内居住者は全て加入でき(皆保険)、どの制度に加入していても共通の給付を受けることができ(共通給付)、患者負担は高額医療費限度額まで(負担限度)です。患者負担率は70歳未満は3割、70〜75歳未満は2割(現状は経過措置によりまだ1割)、75...
健康寿命世界一の国になりました。
医療保険対象医療の料金(社会保険診療報酬)、保険適用医薬品の銘柄と単価(薬価基準)、保険適用医療材料の種類と価格(材料価格基準)は、あらかじめ全て公定料金表(点数表)で定められており、保険対象医療では自由な料金や価格の設定はできない仕組みになっています。また、指定医療機関からの診療報酬請求に対しては、過剰診療や過剰投薬が行われていないかなどを審査した上で給付金が支払われています。
日本の2009年度の国民医療費総額36兆円のうち、公的医療保険や生活保護制度など公的負担を伴うものは99%を占め、患者が全額負担したのは1%強の5千億円弱程度に過ぎませんでした。すなわち、日本の医療産業の99%は統制経済 下にあります。他方、公的関与(価格統制)が少なく民間の医療保険が主体のアメリカでは、医療・看護・介護といった産業分野の持続的な成長が国全体の経済成長を底支えしてきました。それらが国内総生産に占める割合は製造業などよりはるかに大きくなっています。しかし、日本は公的負担を抑制するため価格の抑制が図られてきているので、医療・看護・介護産業の成長はアメリカよりずっとゆるやか なものにしかなっておらず、医療・看護・介護産業の従事者はアメリカほど増えず、あまり豊かになってはいません。
日本の医療保険制度は、国民が安心して医療が受けられ国民の健康を増進 するためには大変優れた制度ですが、残念なことに、反面で、脱工業化以降の経済社会の目玉の成長産業の成長を抑制 してしまう結果にもなっています。
さて、以上を踏まえた上で、2009年度の36兆円の国民医療費の負担をまとめたものが次のグラフです。
国民医療費総額のうち、患者が負担しているのは14%に過ぎません。この理由は、まず生活保護扶助などによって全額公費負担されている部分があること、次に高額医療費限度額があること、そして患者負担1割の70歳以上の人ほど病気になる確率が高いこと、などによるものです。
本来、医療「保険」であれば、患者負担以外は保険料で賄われる必要がありますが、保険料では49%しか賄えておらず、37%は公費(税金)によって賄われています。これは制度(保険者)によって加入する被保険者の年齢や所得の構成に著しい偏りがあり、保険収支を均衡させることが出来ない制度(保険者)があるからです。
2010年度の制度(保険者)別の医療費と保険収支をまとめたものが次のグラフです。
後期高齢者医療制度 は、それに対応する保険者が運営する保険制度があるわけではなく、国民健康保険(市町村等が保険者)の加入者のうち75歳以上の被保険者の勘定を分離しているものです。患者負担は1割、保険料は年金から天引きされる75歳以上の被保険者の保険料を区分管理しています。2010年度の加入者数は1,406万人(全員75歳以上)、保険対象医療費12兆7千億円(加入者1人当たり9万円)に対し、患者負担は1兆1千億円(8.4%)、保険料は9千億円(6.8%)しかなく、10兆8千億円(84.8%)もの財源不足(赤字) が生じています。
他方、サラリーマン・OLなどが加入する被用者保険 (民間企業の健康保険組合、公務員等の共済組合、協会けんぽ等が保険者)は、現役世代が加入する医療保険です。患者負担は3割、保険料は事業主と折半負担で給与から天引きされます。2010年度の加入者数は7,382万人(うち96.5%が65歳未満)、保険対象医療費10兆9千億円(加入者1人当たり15千円)に対し、患者負担は2兆5千億円(22.6%)、保険料は14兆円(128.3%)で、5兆5千億円(51.0%)の収入超過(黒字) となっています。
被用者保険の被保険者になれない人は国民健康保険 (市町村等が保険者)に加入し、そこから後期高齢者医療制度の被保険者(75歳以上)勘定を除外したのが国保勘定です。保険料は被保険者が自ら市町村に納付します。2010年度の加入者数は3,917万人(うち70.5%が65歳未満、29.5%が65歳以上75歳未満)、保険対象医療費11兆3千億円(加入者1人当たり29千円)に対し、患者負担は2兆1千億円(19.0%)、保険料は3兆4千億円(29.9%)で、5兆8千億円(51.1%)もの財源不足(赤字) が生じています。
公的医療保険全体 では、加入者数12,705万人(77.8%の9,888万人が65歳未満、11.1%の1,411万人が65歳以上75歳未満、11.1%の1,406万人が75歳以上)、保険対象医療費34兆9千億円(加入者1人当たり27千円)に対し、患者負担は5兆7千億円(16.2%)、保険料は18兆2千億円(52.2%)で、11兆円(31.6%)もの財源不足(赤字) が生じています。その全額を公費(税金)によって補填 しています。
医療保険制度全体では3,486もの保険者(太宗は市町村国保)がありますが、黒字保険者(被用者保険)から赤字保険者(国保)に「後期高齢者支援金」を支払うことによって、制度(保険者)間の収支調整が行われています。ですから、実質的に、医療保険制度は一体的に運用されていることになります。そして、医療費から患者負担を引いた給付費は、実質的な目的税と認識される保険料(52.2%) と、一般会計からの公費(31.6%) によって賄われています。現状では、ほぼ、後期高齢者医療制度の赤字分を公費(一般会計) で、国保の赤字分を被用者保険の保険料(実質目的税) でそれぞれ補填する形になっています。
後期高齢者人口の急増によって増大していく医療保険給付費に対しては、公費(消費税も財源とする一般会計)の増額だけではなく、実質目的税である保険料を引き上げていくことが必要であり、かつ分かり易いのではないかと思われます。(勿論何であれ負担増には激しい反発や抵抗があるでしょうが…)
以上の資料のデータは以下から入手できます。
厚生労働省 医療保険制度の財政構造表
(残念ながら資料はPDFです)
<社会保障を知りたい(その3 公的年金の全体像) に続く>
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日本 Japan
2012-09-14T14:17:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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社会保障を知りたい(その1 社会保障の全体像)
社会保障を巡る議論は局所的・ミクロ的なものがほとんどです。たとえば、生活保護受給者数が211万人を超えて過去最高となったとか、自分はいつからいくら年金を受け取れるのだろうかとか、高額医療費はいくらまで負担すれば済むのか、などです。しかし、社会保障の全体は...
社会保障というのは、病気にかかった人に一定の現物給付(医療費の肩代わり)を行ったり、介護が必要になった人に一定の現物給付(介護サービス料金の肩代わり)を行ったり、リタイアして収入がなくなった人に一定の現金給付(年金)を行ったり、収入が少なく最低限度の生活が維持できない人に一定の現金や現物の給付(生活保護)を行ったり、障害によって生活が困難な人に一定の現金や現物の給付(社会福祉)を行ったりすることです。
社会保障給付にはどのような制度があり、どのくらいの給付が行われているのかをまず見てみます。
実にたくさんの社会保障制度があり、2009年度の社会保障給付費用の総額は100兆円 にものぼりました。これは国民所得377兆円の27% 、雇用者報酬243兆円の41% に相当します。
分野別・制度別の構成比率をみるために、円グラフにしてみました。
明らかに気付くことは、社会保障給付費用のほとんどは高齢者に対する給付 が占めているということです。ですから、社会保障給付費用は高齢者人口の増加に伴って増加していきます。社会保障給付費は、すでに国民経済全体の中で非常に大きい比率を占めていますが、今後、高齢者人口の増加によって更に増加していき、国民経済全体に占める割合がますます大きくなっていきます。
さて、100兆円もの巨額の社会保障給付費用は、どのような財源によって賄われているのでしょうか。社会保障給付費用の財源は、社会保険料 ・公費 ・その他(積立金運用益・積立金取崩しなど)によって賄われます。
社会保障制度別の財源構成は以下のとおりです。
財源は合計で122兆円になっていますから、社会保障給付費用100兆円より22兆円多くなっています。この差額は積立金となっています。この積立金は給付に備えるととともに、その運用収入が給付費用の財源となります。単年度の給付費用100兆円に対して22兆円しかありませんから、積立金だけでは1年分の給付費用も賄うことはできません。
また、公的医療保険制度や公的年金制度の中で、給付に対する財源が不足する制度(後期高齢者医療制度や基礎年金制度など)に他の制度(健康保険制度や厚生年金制度など)から「拠出金 」を出して財源負担を行っています。上記の制度別財源は、こうした「拠出金」による制度間財源調整を行う前のものです。
2009年度の100兆円の給付費用に対して、社会保険料55兆円 ・公費39兆円 ・その他6兆円 (うち積立金取崩し5兆円)が充てられ、22兆円の積立金(繰越剰余金)が残っているというように理解されます。
<補正追記:2009年度末の公的年金の積立金の総額は178兆円あったので、社会保障全体の積立金残が22兆円というのは明らかな間違いです。年金に関して言えば3年分くらいの給付を賄える積立金があるということです。>
社会保険制度は、毎年積み立てたお金が将来払い戻されてくる制度だと「誤解」されているかもしれませんが、基本的には、毎年の財源によって毎年の給付が行われるフローの仕組みになっています。したがって、社会保障は毎年の「所得再配分」の仕組み に他なりません。
それでは、誰の所得から財源が集められているのか、もう少し詳しくみてみましょう。
民間の事業主と被用者が、122兆円の財源の18%・22兆円ずつ、計44兆円の社会保険料を負担しています。これは社会保障給付費用100兆円の44%を占めますが、これを負担している人は、年金や社会福祉給付はほぼゼロ、医療給付もそれほど受けてはいませんから、社会保険料は一種の「目的税」の役割を果たしていると理解できます。そして、社会保険料は雇用者報酬に連動しますが、わが国の雇用者報酬は1997年をピークに減少が続いています 。
他方、公費負担は全て「普通税」によって賄われることになっています。しかし、実際には、一般会計歳出によって賄われてはいますが、それに見合う税収が確保されていないので、公的債務によって賄われています。したがって、この部分は将来の「普通税」納税者の負担 になります。
上記のデータは以下から入手することができます。
国立社会保障・人口問題研究所 社会保障給付費 平成21年度
参考資料(エクセルダウンロード版)
第12表 平成21年度 ILO第19次社会保障費用調査による社会保障給付費 基礎表
第13表 平成21年度 ILO第19次社会保障費用調査による社会保障財源 基礎表 ?
<社会保障を知りたい(その2 公的医療保険の全体像) に続く>
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日本 Japan
2012-09-13T17:26:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=152
国内消費はどう変わってきたか
国内家計最終消費支出は次の?〜?の支出区分によるデータを得ることができます。
形態別国内家計最終消費支出及び財貨・サービス別の輸出入(内閣府 統計一覧表)
?耐久財 : 家具・家電・自動車・宝石時計など
?半耐久財: 衣服履物・食器・部品備品・玩具・運動用...
形態別国内家計最終消費支出及び財貨・サービス別の輸出入(内閣府 統計一覧表)
?耐久財 : 家具・家電・自動車・宝石時計など
?半耐久財 : 衣服履物・食器・部品備品・玩具・運動用品など
?非耐久財 : 食糧飲料・水道光熱費・燃料・家庭用消耗品・新聞など
?サービス : 住宅賃借・医療・交通通信・文化旅行・教育・金融保険など
これに、民間住宅投資、雇用者報酬、名目国内総生産(暦年)、円相場(暦年平均)を加えて、1980年から2010年までの30年間の推移をグラフに描いてみました。
この30年間に起きた4つの大きな経済的転換点に縦線を入れてあります。
1985年: プラザ合意による急激な円高(ドル安)の進行とバブル(資産インフレ)の始まり
1991年: バブル崩壊(急激な資産デフレの開始)
1997年: 消費税引上げ・アジア通貨危機・金融機関破たん(長銀・山一・拓銀・日債銀)
2008年: リーマンショック
図1 消費支出の推移(実数 10億円)
図2 消費支出の推移(指数 1980=100)
上の原データとグラフのExcelファイルのダウンロード
今日からみると、1997年が最も重要な転換点であったように見えます。
1997年を境に次のような基調的な変化が生じていることが確認できます。
?国内家計最終消費支出と雇用者報酬の乖離が始まりその後も拡大が続いている(図1)
?消費税引上げが国内家計最終消費支出全体を減少させたことは確認できない(図1)
?国内総生産に占める国内家計消費支出の割合が増加に転じその後も拡大している(図2)
?しかし財貨(モノ)支出は明らかに減少に転じその後も減少が続いている(図2)
?他方でサービス支出の増加ペースが緩やかになりその後もその傾向が続いている(図2)
?民間住宅投資と半耐久財支出が減少に転じその後も減少が続いている(図2)
?耐久財支出の増加が止まった(しかし著しい減少に転じたとはいえない)(図2)
民間住宅投資・耐久財・半耐久財は、バブル経済崩壊以降も、1997年まで、バブル期水準から大きく減少してはいません。言い換えると、家計の消費バブルは、株価・地価暴落後も1997年まで5年以上も続いたように見えます。それが、1997年の消費税引上げと金機関破綻による金融危機を契機によってようやく終焉したというように見えます。
民間住宅投資 と半耐久財 は、1997年を境に10年以上減少を続けています。住宅投資は需要減少が続いているためだと考えられますが、半耐久財(衣服など)の支出減少は輸入代替による価格低下(デフレ)のためだと推定されます。1995年の極端な円高進行は、国内製造業の生産拠点海外シフトが加速される大きなきっかけになり、半耐久財≒軽工業品の輸入代替がそれ以降急速に進行したと考えられます。また、そのことが、他方で雇用者報酬の減少に間接的に影響しているかもしれません。
耐久財支出 は、これらに較べると意外に減少していません。消費税の駆け込み需要増とその反動減やリーマンショックによる減少などの一過性の変動を除けば、自動車・家電商品・家具などに対する支出は概ねバブルピーク水準の横ばいに推移しているように見えます。しかし、おそらく人口増がない限り、これらは買い替え需要の範囲を超えません。この領域の輸入代替はまだそれほど大きくは進んでいませんが、今後は輸入代替が進んでいくものと考えておく必要があります。
非耐久財 は、リーマンショック時を除いて徐々に増加ないし概ね横ばいに推移し、1997年までは国内家計最終消費支出に占める割合が一貫して低下していました。しかし、1997年以降は国内家計最終消費支出も非耐久財支出もともに横ばい推移しています。
サービス支出 は、リーマンショック直後に一時減少した以外は、一貫して増加を続けてきました。しかしやはり、1997年を境に増加率が小さくなっています。これは雇用者報酬の減少の影響を受けていると推定できます。1997年以降国内家計最終消費支出が横ばい推移する中で、サービス支出の割合は1997年の53%から2010年には58%に5%増加し、反対に半耐久財支出の割合は1997年の11%から2010年には7%に4%減少しました。
ここでの考察とは直接関係ありませんが、脱工業化ステージに入った日本の経済社会は、国内サービス産業と雇用をどうやって拡大していくかが最大の課題であることは明らかです。しかし、健康・医療・介護といった需要拡大分野が統制経済になっていてなかなか産業として大きく成長できないところに問題があります。
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日本 Japan
2012-08-16T21:57:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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オリンピックと世界金融経済の概観(2000-2012 12年間)
暑さが募る2012年8月、4年に1度のオリンピックがロンドンで開催されています。
4年前の2008年8月には北京で、8年前の2004年8月にはアテネで、12年前の2000年9月にはシドニーで、オリンピックが開催されました。これらのオリンピックを節目として見ながら、その12年間の...
4年前の2008年8月には北京で、8年前の2004年8月にはアテネで、12年前の2000年9月にはシドニーで、オリンピックが開催されました。これらのオリンピックを節目として見ながら、その12年間の世界の金融経済の変動を概観してみたくなりました。
オリンピック発祥の地であるギリシャは、人口が(9百万人の埼玉県より少し多い位の)11百万人しかなく、経済的に見れば、1人当たりGDPは世界31位くらい(?)の水準の、アジアに隣接する小さな国です。そのギリシャは、シドニーオリンピックが開催された2000年 にユーロ加盟を認められ、その4年後の2004年のアテネオリンピック 開催を契機にして、ユーロ圏諸国の資金を積極的に導入して国内インフラ投資を急拡大しました。
2004年8月のアテネオリンピックから2008年8月の北京オリンピック までの4年間は、世界経済が、主にアメリカと中国に牽引されて拡大した期間でした。アメリカでは、金融が牽引する住宅投資の活性化が消費拡大にも波及して、経済の拡大が続きました。中国では、北京オリンピックや上海万博に向けたインフラ投資が活況を呈していました。日本でも、それらの恩恵を受けて、自動車や鉄鋼などの輸出製造業の業績回復に牽引されて、バブル崩壊以降低迷を続けていた経済がようやく少し好転していました。しかし、華やかな、明るい期間はそれほど長くは続きませんでした。
奇しくも、北京オリンピックが終わった翌月の2008年9月15日に、リーマン・ブラザースは連邦破産法の適用を連邦裁判所に申請し、それに端を発して、いわゆるリーマンショックが世界中に波及しました。そして、その翌年の2009年10月には、ギリシャで政権交代があり、国家財政の債務が過少報告されていることが暴露されて、欧州の公的債務危機が始まりました。それが欧州の金融機関の信用問題にまで波及していって、なお収束・安定化が見えていない中で、2012年のロンドンオリンピック が始まりました。
これが、4回のオリンピックの間の12年間の世界の金融経済の概観です。これを、もう少し、数字でその様子を確認してみたくなります。
まず、アテネから北京の間の4年間の好況 が、結果的には、一時的な加熱であったと見えるグラフがあります。それが以下の、日本の自動車と鉄鋼の輸出通関実績推移です。リーマンショックによって一時的な加熱の反動の落ち込みの谷は非常に深くなりました。それがアテネ以前程度にまでは戻りましたが、少なくとも日本の「国内輸出製造業」は北京以前の規模にはもう戻らないであろうという予感がします。
図表1 自動車輸出月次通関実績
図表2 鉄鋼輸出月次通関実績
経済の極端な不振は、リーマンショックのように、金融の混乱によってもたらされます。貿易の決済代金よりはるかに巨大な金融(債権債務関係)資金が国境を超えています。しかしそれは、コンピューターや通信回線の中の数字データとして動くだけなので、実際何がどうなっているのかを知るのはけして容易ではありません。
世界最大の国際金融市場であるアメリカの、国の中と外との間の資金の動きの統計を入手することができます。
(U.S. Bureau of Economic Analysis:International Data:Table 1. U.S. International Transactions:Release Date: June 14, 2012 [Millions of dollars])
図表3 アメリカの国際財務収支と経常収支の推移(1990-2011)
アメリカへの外国資金流入額は非常に激しく変化しています。しかし、あくまでもこれは外国資金流入額の増減であって、アメリカからの外国資金流出に転じてしまっているわけではありません。もし、そんなことがおきるとアメリカと世界の金融市場と経済は壊滅的な打撃を受けてしまうでしょう。
このデータから言えることは、アメリカの国際財務収支黒字(すなわち外国に対するネット債務残高の増加)は非常にはやい速度で拡大してきたということです。その理由(あるいは原因)の一つは、輸入超過≒経常収支赤字が拡大を続けてきたためですが、もう一つの理由(あるいは原因)は、アメリカの国外投資債権がそれ以上に急増を続けてきたからです。すなわち、世界の資金のかなりの部分は、一旦アメリカに入ってから世界中に投資されていくようになったとも見えます。おそらくそれは、アメリカが一番信用力の高い国であり、アメリカの金融機関がそれ以外の国の金融機関よりも投資能力に優れていると思われているからです。実際、アメリカは世界最大のネット債務国であるにもかかわらず、所得収支(太宗が利息配当収支)は黒字であって、しかも所得収支黒字幅はむしろ拡大を続けていて、リーマンショック後もその傾向は続いています。それには、欧州の金融機関の信用力が相対的に弱まっていることも貢献しているかもしれません。
図表4 アメリカの所得収支の推移
アメリカの消費支出のうち工業製品のほとんどはすでに輸入にたよっています。アメリカの輸入は北京オリンピックまで逓増を続けてきましたが、リーマンショックで一旦大きく減少しました。それから3年でほぼ北京オリンピック以後のピーク水準近くにまで戻ってきているように見えます。これにはドル安による輸入物価の値上がりもかなり貢献しているかもしれません。
図表5 アメリカの財貨貿易収支の推移
ここでで使用したアメリカの国際収支データとグラフのExcelファイルdownload
(アメリカの経済統計は時系列データをExcelファイルでdownloadすることができます。これはそれをそのまま使ってグラフを作成しています。)
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米国 US
2012-08-04T00:49:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=150
年齢階層別人口構成将来推計(その2)
問題なのは過去ではなく将来です。前回は人口が増加してきた過去に焦点をあてて、現在は人口が減って行く転換点に入っていることを示しました。すでに人口は減少に転じているので、将来推計だけを描くと印象はもっと強烈になります。
国立社会保障・人口問題研究所の日...
国立社会保障・人口問題研究所 の日本の将来推計人口(平成24年1月推計・2011年〜2060年・出生率・死亡率中位推計結果)をグラフにしたものが下の図です。平均寿命が80歳を超える国の50年間の将来人口推計が大きく間違う可能性は極めて小さいので、この推計はほぼ正確な見込みと考えておく必要があります。
1億人と5千万人の水準に線をいれてあります。0〜64歳まで の「非・高齢者」人口は、2010年の約1億人弱(99百万人)から50年後の2060年には53%の約5千万人強(52百万人)にほぼ半減(△47%減) します。2010年に生まれた人が、50歳になるまでに、非・高齢者人口がほぼ半減するというのは、かなりショッキングな「事実」です。
他方、65歳以上の「高齢者」人口は、2010年の約29百万人から32年後の2042年に32%増の約39百万人でピークアウトし、以降は減少に転じて50年後の2060年には2010年比17%増の約35百万人になります。その結果、高齢者人口比率 は、2010年の23%から50年後の2060年には40%にほぼ倍増 します。
現在の2012年という年は、いわばこの下り坂を下り始めたところにあります。減少の傾斜は徐々にきつくなっていきます。ですから、その傾斜を少しでも緩やかにするために、勿論、少子化対策は重要です。しかし、同時に、避けがたい事実を正視して、その前提の中でどうしていくべきかを考える必要があると思います。
「非・高齢者」人口が50年で半減すると、それに近いペースで国内需要が減少する可能性があります。個々にビジネスを考える場合も、マクロ経済財政運営を考える上でも、この事実は非常に重いと思われます。
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日本 Japan
2012-07-16T17:34:22+09:00
Tooru Ozawa
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年齢階層別人口構成将来推計
上のグラフは、おなじみの年齢階層別人口構成推移のグラフを、高齢者の増加と子供の減少を際立たせるために、重ねる順番を高齢者を一番下にしてみたものです。こうしてみると、高齢者の増加と子供の減少には、なにか相関関係があるようにも見えてしまいます。
バブル...
上のグラフは、おなじみの年齢階層別人口構成推移のグラフを、高齢者の増加と子供の減少を際立たせるために、重ねる順番を高齢者を一番下にしてみたものです。こうしてみると、高齢者の増加と子供の減少には、なにか相関関係があるようにも見えてしまいます。
バブル経済が崩壊した1991年とその20年後の2010年を比較すると、「65歳以上」(いわゆる高齢者)はおよそ1,500万人から2倍のおよそ3,000万人に急激に増加しています。これが高齢化社会問題です。しかし、高齢者人口の激しい増加はおおむね2015年くらいまでで、以降は概ね微増から横ばいに推移するという見通しです。高齢者人口の推移は、今すでに生きている人のことですから、この見通しはほとんど正確なものと考えられます。
他方で、「0〜14歳」の人口は、これから生まれてくる子供の数に左右されますから、推計には幅があります。したがって、生まれる子供が少ないことが本質的問題であることは間違いありません。しかし、急に生まれる子供が倍に増えるようなことはありえませんし、仮に、もしそれが実現できたとしても、生まれた子が15歳になるには15年間もかかります。ですから、「15〜64歳」(いわゆる生産年齢人口)の推移も今後15年はほとんど正確なものと考えられます。
日本人の平均寿命は80歳を超えます。80年というのは非常に長い年数です。年齢階層別人口構成の将来推計グラフに、1950年生まれの私が80歳になるまでの期間を矢印でおいてみました。私が、?「0〜14歳」から?「15〜64歳」(いわゆる生産年齢人口)に移ったのは、東京オリンピックの翌年の1965年でした。そして、?「65歳以上」(いわゆる高齢者)に移行するのは2015年になります。また、2025年には「75歳以上」(いわわゆる後期高齢者)に到達します。65歳以上は年金受給年齢階層であり、75歳以上は医療保険受給が急増する年齢階層です。これを2015年問題、2025年問題といいます。
今年生まれた子が、65歳になる2077年までの間に、この国の人口・社会・経済はいったいどのように変わっているのでしょうか?想像を全く許さないような、物凄く大きな変化が生じているであろうことは間違いありません。
データ出所:平成23年版 子ども・子育て白書
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日本 Japan
2012-07-12T17:43:46+09:00
Tooru Ozawa
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雇用統計から見る日本の経済状況の推移
以前に、アメリカの雇用統計から経済状況をみてみました。同じような日本の雇用者数の長期時系列データは総務省統計局から入手することができます。
(http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm)
季節調整済み月次データの最新月が2012年2月なので...
(http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm )
季節調整済み月次データの最新月が2012年2月なので、過去の2月のデータの年次推移を見てみます。したがって、増減は前年同月(2月)増減です。総数には男女別内訳がついているので、男性に女性を積み上げるグラフとしました。それぞれ、色が濃くなっている年は前年同月比で雇用者数が減少した年です。雇用者総数増加率は男女合計数の前年同月比増加率を折れ線グラフ(右目盛)にしてあります。
長期時系列でみると、雇用者総数増加率は名目国内総生産の増加率とかなり傾向が似ています。とくに男性雇用者数の推移は、より名目国内総生産の推移に傾向が似ています。2012年2月の男性雇用者数は3,159万人で、過去ピークの1997年2月の3,268万人より109万人(3.3%)も減少し、概ね1992年2月の3,137万人に近い水準にまで減っています。1998年から2012年までの15年間のうち、男性雇用者数が減少しなかった年は僅か5年で、減少した年はなんと10年もありました。したがって、日本の男性雇用者数は過去15年間ほぼ一貫して減少を続けてきたといっても過言ではないと思われます。これは、製造業や建設業の雇用者数が大きく減少していることや、生産年齢人口が1995年をピークに減少に転じていることなどと関連していると推定できます。
他方で、女性雇用者数の過去ピークは1年前の2011年2月の2,358万人で、1999年・2002年にやや大きな減少があったものの、過去15年間は概ね一貫して増加を続けてきたといってよいと思われます。これは、高齢者人口の増加に伴って医療や介護の雇用者数が大きく増加していること、女性就業率の上昇と関連していると推定できます。
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日本 Japan
2012-04-11T00:22:55+09:00
Tooru Ozawa
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2011年の終わりに経済社会の現状を考える
1998年は、日本の暦年ベースの名目国内総生産が、第二次世界大戦後初めて「縮小」した歴史的な年でした。それ以降の13年間に、翌1999年、そして2001年・2002年・2003年の3年連続、直近では2008年と2009年の2年連続、あわせて3回計6年の「縮小」が生じました。とくに直近の...
1998年以降の経済の「縮小」は、1997年4月に消費税を2%引き上げたために生じたという見方をする人がいます。しかし、経済事象の因果関係に確定的なことはありません。景気が上向かなければ消費税の引き上げは行うべきではないという意見は、この経験からおそらく景気が上向いても腰を折らないよう消費税は引き上げるべきではないという意見になるでしょう。要するに、景気重視論者は、どのような時であっても消費税は景気にマイナスに働くので引き上げるべきではないと主張するのです。
しかし、基本的に、国の経済規模の成長は、既往の産業の生産性の向上、イノベーションによる新たな消費と産業の創出、あるいは人口の増加などによって生じるのです。税収とそれによる政府支出は、収支が均衡していれば、国内の所得の移転再配分を行っているだけなのです。政府の税収や支出が経済規模の拡大に寄与するのは、税収を上回る支出を行う場合だけなのです。
1991年にバブル経済が崩壊して以降、政府は一貫して税収を上回る支出を続けてきました。それにも拘わらず、国内総生産は「縮小」を繰り返し、結局、20年通算では全く拡大しなかった結果になっています。そして、他方で、GDPの2倍の規模の政府債務残高だけが残っています。政府が財政赤字=借金の拡大=を「縮小」すると、経済規模は「縮小」のスパイラルから逃れられなくなるという強迫観念が蔓延しきっています。
生命維持装置に依存するこのような経済社会の在り方をこのまま続けてはならないという提案に反対する人たちは、国の将来にあまりにも無責任であると言わざるをえません。政府の支出に見合う税収を確保することと、国の経済基盤を強くすることは、本来は別の問題でなければならないのです。
経済規模の成長を図るためには、ヒト・モノ・カネが自由に入ってくることができるようにすることしかありません。モノとくに工業製品は貿易によってほとんど自由に入ってくるようになっていますが、カネとヒトが入ってくることには非制度的なものを含めた準鎖国状態があまり解消されていません。経済社会を巡る議論は、消費税反対ではなく、本来そちらの方向に向かうべきではないでしょうか。
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日本 Japan
2011-12-29T22:31:11+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=146
日本留学試験 国別受験者数
11月13日日曜日に独立行政法人日本学生支援機構が実施する平成23年度第2回「日本留学試験(EJU)」が行われました。外国人が日本の大学等に留学するための共通一次試験のようなもので、年に2回、日本国内各地の試験会場および14か国17か所の海外試験会場(22年度第2回の実...
独立行政法人日本学生支援機構 が実施する平成23年度第2回「日本留学試験(EJU)」が行われました。外国人が日本の大学等に留学するための共通一次試験のようなもので、年に2回、日本国内各地の試験会場および14か国17か所の海外試験会場(22年度第2回の実績)で試験が行われました。ちなみに、中国の試験会場は香港のみで本土では行われず、他方、韓国・ベトナム・インドネシアでは2か所の試験会場が設けられています。
平成22年度第2回(2010年11月)の受験者総数は日本国内会場受験者19,978人・海外会場受験者3,419人・合計23,397人、平成23年度第1回(2011年6月)の受験者総数は日本国内会場受験者15,988人・海外会場受験者数3,591人・合計19,579人でした。以下では、この2回の合計42,976人について日本国内における国別受験者数と海外受験会場の国別受験者数を合計しています。なお、これは「日本留学生試験の受験者数」であって、実際に日本の大学等に在籍している留学生数ではありません。
中国・韓国・ベトナム・台湾・インドネシアの上位5か国で全体の93%を占めており、おそらく日本留学生のほとんどはこれらの5か国で占められていると考えられます。中でも中国は、69%(7割)という圧倒的な割合を占めています。中国の受験者の全てが日本国内の試験会場受験ですから、私費で日本に来て日本語学校に通ってから受験していることになります。これに対して、韓国は日本国内の試験会場で受験した人よりも韓国の2か所の試験会場で受験した人の方がやや多くなっています。もし、中国本土の主要都市数か所に日本留学試験の受験会場を設けた場合、どのくらい受験者が増え、どのくらい日本留学生が増えるでしょうか?過去に、孫文など辛亥革命の担い手たちの多くが日本や欧米諸国の留学経験者であったことが思い返えされます。
しかし、中国は13億人もの巨大な人口を抱える国です。したがって、日本への留学生が多いからと言って、日本に留学したいという人の割合が多いということにはなりません。そこで、人口百万人当たりの受験者数を出してみました。それが次の表です。
人口百万人当たりの日本留学試験受験者数では、韓国・モンゴル・台湾・中国が上位を占めます。第2位に躍り出てくるモンゴルは人口が3百万人にも満たない国ですし、韓国の人口は48百万人、台湾の人口は23百万人です。しかし、13億の人口を抱える中国が人口当たりでも上位に入っています。もし、中国の人口当たり日本留学試験受験者数が台湾と同じくらいになると仮定すると、中国の受験者数は2回で73千人に増加することになります。
また、留学を考えるような若い世代は人口の5%を超えないと大雑把に仮定すると、韓国の人口百万人当たり136人ということは、若い同世代の千人に3人(136÷0.05÷1000=2.73)くらいは日本留学試験を受けているというような荒っぽい推測ができます。韓国と台湾は所得の高い国ですから米国への留学生はもっとずっと多いと推定されます。
観光でも教育でも、中国からどれくらい来てもらえるのか、ということが大きな課題になります。貿易だけでなく、国内サービス産業にとって、中国はもっとも重要な国になっています。
なお、「雇用」からみたアメリカの経済状況 において、脱工業化経済社会では、教育および健康サービス(Education and health services)が非常に重要な割合を占めることが分かっています。日本に来てくれそうな留学生を増やすことは、日本の国内経済にとっても重要なことなのではないかと思われます。
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日本 Japan
2011-11-14T19:09:28+09:00
Tooru Ozawa
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http://3rdworldman.jugem.jp/?eid=145
「雇用」から見たアメリカの経済状況
「雇用」の側面から経済社会の発展状況をみてみたいと思います。
最初のデータは、アメリカの非農業雇用者数(Total Nonfarm Payroll Employment)の推移です。この統計は実に1939年まで遡って取得することができますが、ここでは私が生まれた1950年からの推移をとり...
最初のデータは、アメリカの非農業雇用者数(Total Nonfarm Payroll Employment)の推移です。この統計は実に1939年まで遡って取得することができますが、ここでは私が生まれた1950年からの推移をとりました。1950年から2011年までの各10月の雇用者数を棒グラフ(左目盛)で、前年同月比増減を折れ線グラフ(右目盛)で示しています。そして、前年同月比増減がマイナスすなわち雇用者数が純減になっている年の棒グラフの色を変えてあります。
<グラフ アメリカの非農業雇用者数の推移 1950〜2011>
上のグラフとデータの Excel File download
2年以上連続で雇用者数が純減になったことが、2000年代(21世紀)に入ってから2回もあり、これは1950年代にあってから50年ぶりの出来事です。そして、とくに2009年11月の前年同月比雇用者数減少は▲6,299千人にも及んでいて、過去60年間に経験したことのない大きな雇用喪失が生じています。その結果、2011年11月の雇用者数(速報値)131,616千人は、2000年11月の132,116千人とほぼ同規模にまで減って、11年前の規模に戻ってしまっています。アメリカではこの10年間にも労働力人口の増加が続いているので、雇用率という意味では悪化が進んでいると考えられます。
そこで次に、どの産業でどれくらいの「雇用」が失われているのか、あるいは逆にどの産業がどれくらい「雇用」の増加を支えているのかをみてみたいと思います。
次のデータはアメリカの主要産業分類別の非農業雇用者数(Nonfarm Payroll Employment by major industry sector)の推移です。この統計データは年平均値で1961年から2010年までの推移を得ることができます。
<グラフ アメリカの主要産業分類別非農業雇用者数の推移? 1961〜2010>
1961年の総雇用者数は54,105千人で、2010年にはそれが129,818千人に2.4倍にも大きく拡大しています。アメリカの経済成長はこの雇用者数すなわち労働人口の増加を無視しては考えられません。また、2010年の物品産出(Goods producing)産業(すなわち、Mining and logging 鉱業および林業, Construction 建設業, Manufacturing 製造業)の雇用者数は17,755千人で、総雇用者数129,818千人の13.7%しか占めていません。そしてより重要なことは、50年前の18,647千人よりも▲892千人も減少していることです。
上のグラフは産業分類順になっていますが、それを景気による増減変動が小さい順に重ねなおしたものが次のグラフです。
<グラフ アメリカの主要産業分類別非農業雇用者数の推移? 1961〜2010>
下から3つの産業、すなわち政府(Government)教育および健康サービス(Education and health services)その他のサービス(Other services)の雇用は、景気動向に関係なくほぼ安定的に拡大を続けています。他方、上の方の産業、すなわち製造業(Manufacturing)建設業(Construction)商業・輸送および公益事業(Trade, transportation, and utilities)専門およびビジネスサービス(Professional and business services)などは、「モノ(Goods)」と「費用の外部化(アウトソーシング)」に関わる産業であって、景気によって雇用者数は大きく調整されてきました。そして、それらの中間に置いた産業、すなわち金融活動(Finabcial activities)レジャーおよびホスピタリティ(Leisure and hospitality;主として飲食業やレジャーランド)は、あまり景気には左右されないできましたが、リーマンショック後の近年の雇用調整は少し大きくなっている産業であると理解できます。
そこで次に、産業分類別に「雇用」はどれだけ増減したかをみてみたいと思います。次のデータは上の2010年のデータと1961年のデータの増減数(差)です。
<グラフ アメリカの主要産業分類別非農業雇用者数の増減 2010−1961>
上の3つのグラフとデータの Excel File download
すでにみたように、1961年から2010年の50年間にアメリカの非農業雇用者数は全体では54,102千人から129,819千人に75,713千人も増加しました(2.4倍)。「雇用」を最も大きく伸ばしたのは(民間の)教育および健康サービス(Education and health services)で3,030千人から19,564千人に16,534千人(6.5倍)も増加しました。次が、政府(Government)で8,706千人から22,482千人(2.6倍;主として公教育)に増加しました。そして次に、商業・輸送および公益事業(Trade, transportation, and utilities)、専門およびビジネスサービス(Professional and business services)、レジャーおよびホスピタリティ(Leisure and hospitality;主として飲食業やレジャーランド)、金融活動(Finabcial activities)、その他のサービス(Other services)、建設業(Construction)という順にグラフでは下から上に続きます。そして、きわめて重要なことは、製造業(Manufacturing)の雇用は15,011千人から11,524千人に▲3,487千人(▲23.2%)も減少していることです。
以上をまとめると、アメリカ経済の脱工業化は雇用の面ではほぼ完了局面にあると認識されます。製造業の「雇用」は食品などのドメスティックな分野に依存していて、保管や輸送が可能な工業製品のほとんどは外国から輸入されるようになっています。この長期推移の中で一番気がかりなのは、製造業の雇用縮小を吸収して雇用を拡大してきた産業分野は、人口増加によって雇用が拡大していく産業分野であって、資本装備率と生産性は低く、賃金水準が低い産業分野が多いということです。そして、人口の増加が続いているにもかかわらずそうした分野の雇用もなかなか増加しにくくなっているように見受けられます。リーマンショック後の雇用縮小は一時的な調整なのか、あるいは逆にリーマンショック前の雇用拡大が一時的なブームに過ぎなかったのか、今後の推移は予断を許さないように思われます。「雇用」に関して言えば、オバマ政権は過去60年で最も厳しい状況の中で誕生したということができそうです。
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米国 US
2011-11-12T09:31:00+09:00
Tooru Ozawa
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Tooru Ozawa
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隅田川テラスウオーク
先月の明石町での会議の後、天気が良かったので、佃大橋から勝鬨橋まで隅田川テラスを歩いて、築地場外を回って東銀座まで歩いてみました。今日は会議の後、隅田川テラスを佃大橋から浅草まで逆に遡って歩いてみることにしました。買ったばかりのデジタル一眼レフにズーム...
この地図で見ると結構長い距離に見えますが、多分浅草〜勝鬨橋間を全部歩き通しても2万歩にもならず、ゴルフの18ホールより短いのではないかと思います。また、川べりですからアップダウンがなく、ひとつ橋を超えるたびに次の橋が新しい間近い目標になるので、変化があって、そうやっていくつか橋を超えて行くうちに自然にゴールに近づいて行きます。水上バスのキャビンから観るより隅田川テラスを歩く方が、景色をゆっくりじっくり楽しむことができます。
出発点の佃大橋から少し歩いて、次の目標の斜張橋の中央大橋を望む景色です。あそこに行くには八丁堀から隅田川に合流する亀島川を超えるために一旦迂回して「みなみたかばし」を渡ります。
亀島川を超えて再び隅田川テラスに戻ったところから出発点の佃大橋を振り返ったところです。右から亀島川が合流してきていて、その先に今歩いてきた隅田川テラスと佃大橋が見えます。その先の右に聖路加タワーが見えます。
同じ場所から進行方向を観ると、対岸の佃島にリバーシティー21などの高層マンション群が林立しています。
中央大橋を過ぎて少し進むと、突然次の永代橋の向こうに東京スカイツリーが見えてきました。予想していなかったのでちょっと感動しました。
次の隅田川大橋は上に首都高9号深川線が重なっていて風情がありません。その下を水上バスが遡って行きます。平日なのであまり乗っていないようです。
次の清洲橋はずっと洒落た橋です。平日とはいえ隅田川テラスにはあまり人がいません。
清洲橋はこんな風にくぐっていきます。水上バスに乗らなくても橋の下側を観ることができます。ここを過ぎると隅田川は大きく左に曲がって行きます。
フェンスに区切られた船着き場に繋いである船に、ウエットスーツを着てヘルメットを被った日本橋消防署の消防隊員が乗り込んでいきます。物々しい装備ですが、急ぐ様子はないので、救助の訓練に出かけるところかもしれません。
そして次の新大橋。名前の通りモダンでシンプルな橋です。
この辺りは首都高6号向島線と7号小松川線が隅田川西岸(右岸)沿いを進んで反対の東岸(左岸)に渡って分岐するところです。
首都高の橋の下で水上バスがすれ違います。首都高を過ぎると次は靖国通りの両国橋です。両国橋のところで神田川が合流しているので隅田川テラスは途切れ、大分迂回しなければなりません。
隅田川に合流する神田川の河口にかかる柳橋の上から、そのたもとにある料亭の看板を撮りました。大昔に何度か来たことがあります。
柳橋の街をしばらく歩いて総武線の高架下を過ぎるとようやくまた隅田川テラスに戻ることができます。振り返ると総武線の黄色い下り電車が橋を渡っていきます。そのずっと先に見える赤い橋が両国橋です。あそこからここまで隅田川テラスが途切れているわけです。
その次の蔵前橋から厩橋までの間は、隅田川西岸(右岸)の隅田川テラスは途切れているので、一旦蔵前橋を渡って対岸の東岸(左岸)のテラスを行く必要があります。
これから渡る蔵前橋の西岸(右岸)のたもとにある浅草御倉跡碑の説明。徳川幕府の勘定奉行が所管する米蔵があったので蔵前というようになったのですが、そう呼ばれた始めたのは昭和9年頃からだと書いてあります。
蔵前橋を東岸(左岸)に渡る途中、西岸(右岸)はどうなっているか観てみました。船着き場の名残りがありますが、隅田川テラスがありません。一旦対岸に行き、向こうに見える緑の厩橋を渡ってまた西岸(左岸)に戻ります。
向こうに見える蔵前橋を渡って東岸(左岸)のテラスに渡って来ました。こちら側は高速道路の下で雨がよけられるので、路上生活者の青いテントが並んでいます。対岸とは随分雰囲気が違います。
春日通の厩橋を渡ってまた西岸(右岸)に戻る途中橋の上から終点の駒形橋を望めます。右にはアサヒビールの建物の上に岡本太郎のモニュメントが乗っているのが見えます。
厩橋を渡って西岸(右岸)に戻ってきて、アサヒビール本社の屋上モニュメントと東京スカイツリーと水上バスをいっしょにおさめました。
最後に、浅草の屋形船乗り場からスカイツリーを望むショット。最後の橋は浅草通りの駒形橋で、そのたもとに地下鉄浅草駅があります。
こんな風に隅田川テラスはなかなか楽しい散歩道なので、次回は妻といっしょに浅草から勝鬨橋までを一回で踏破してみたいと思います。
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その他
2011-11-11T13:29:00+09:00
Tooru Ozawa
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311大震災前後の入国者数変化
以前、国境を超える人の動きの変化を見るという記事で、入管統計を使って日本と外国の間の人の動きの長期的な傾向を確認したことがありました。入管ベースでは、日本から出国した日本人は日本に入国した外国人の2倍以上で推移してきており、日本人は欧米諸国にあこがれて...
国境を超える人の動きの変化を見る という記事で、入管統計を使って日本と外国の間の人の動きの長期的な傾向を確認したことがありました。入管ベースでは、日本から出国した日本人は日本に入国した外国人の2倍以上で推移してきており、日本人は欧米諸国にあこがれて出ていくばかりで、それに較べて欧米諸国からから日本に来る人は非常に少ないということが確認できました。人の出入りを見る限りは、日本は他の先進国とは著しく異なり、どちらかというと貧しい国々と同じような傾向にあったわけです。しかし、近年、とくに中国本土から日本に来る人たちが増えてきたので、出国・入国比率は少し改善してきました。人の出入りでも、周辺の発展途上の国から経済先進国である日本にあこがれてやってくる人々が増えるという、普通の、経済先進国の状態に少しだけ近づき始めたと考えることができます。
ところが、その傾向に311の大震災とくに福島第一原発事故が大きなブレーキをかけました。地方の観光地では外国人観光客への依存度が高くなってきているところも多いので、この影響は局地的には大変大きいと想像されます。そこで、入管統計の月次資料 を基に、月次入国者数の変化を見てみました。
震災のあった3月の入国者総数は前年同月比▲363,108人(46%)減の422,940人、更に翌4月の入国者総数は前年同月比▲468,155人(54%)減の391,469人にまで減少しました。ビジネスなどの「公用」で入国する人もいることを考慮すると、「観光」客はほとんど来なくなったと見るべきでしょう。昨年は夏休みシーズンの7月8月が月次入国者総数のピークでした。今年の統計はまだ7月までしか公表されていませんが、ピークの7月の入国者総数は前年同月比▲312,339人(33%)減の629,428人でした。
国別についてはあまり予断を持たない方がいいかもしれませんが、台湾の戻り方が他の国より早いことは確認できます。また、もともと少ない米国は変動は小さく、それは「観光」が少なく「公用」で来訪する割合が高いからではないかと推定されます。
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日本 Japan
2011-10-14T14:07:36+09:00
Tooru Ozawa
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2011年8月6・7日「スマートグリッド」に関する連続ツイート
先日の原発問題に関する連続ツイートに続いて、「スマートグリッド」 (電気新聞ブックス―エネルギー新書) 横山明彦著 http://t.co/D8hzmsZ を読み終えて、スマートグリッドに関する連続ツイートをしてしまいました。しかし、こちらは技術的要素の一般理解を広めるために書...
http://t.co/D8hzmsZ を読み終えて、スマートグリッドに関する連続ツイートをしてしまいました。しかし、こちらは技術的要素の一般理解を広めるために書かれた教養書であり、素人の思い付き的なツイートには馴染まないテーマです。それで、あらためてこの本を読んだ今の時点のわたしの理解を整理してブログにアップしておくことにしました。
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<電力系統(グリッド)の基礎的な理解と課題認識の整理メモ>
発電機は、一定の周波数(電圧プラスとマイナスの振幅回数)の低電圧の電流を生み出す。その生み出された電流を効率よく搬送するために一旦高電圧に変換し、末端電力需要家に供給するときに再び低電圧に変換する。電力を使う機器は一定の電圧を前提に作られているので、供給電圧は一定に維持される必要がある。そこでもし、電力消費量と発電量にギャップが生じると、供給と消費の電流にギャップが生じ、それが周波数の変動を引き起こす。電力を消費する側の機器はインバーターなどによって周波数変動の影響を回避できるものが増えているが、発電機の側は周波数の変動によって障害が生じる可能性がある。したがって、周波数が一定以上大きく変動した場合には、発電機を守るために電力系統から発電機が切り離される。発電機が電力系統から切り離されると、電力需給のギャップは更に拡大し、それによって周波数の変動が更に拡大するという悪循環連鎖に陥って、終には大停電に拡大していく。したがって、発電量は電力消費量にほとんど過不足なく調整され続けている必要がある。
しかしながら、電力消費量は、季節・時間帯・天候などによってきわめて大きく変動する。したがって、発電量もそれに合わせて柔軟かつ迅速に調整が行える体制が確保されている必要がある。しかし、風力・太陽光・太陽熱・波力などの自然エネルギー発電のほとんどは発電量の変動が激しくて安定せず、また発電所の数が多くなればなるほど全体の発電量の柔軟かつ迅速な発電総量調整は複雑になっていく。したがって、発電能力全体に占める自然エネルギー発電や小規模分散発電の割合は、できるだけ小さくとどめておく必要があると認識されている。これが、電力系統(グリッド)の基本的な理解である。
とくに日本は、経済社会が成熟期に入り、人口が減少に転じ、製造業が縮退を続け、省電力技術が進歩普及し続けているので、電力需要は縮小していく。したがって、日本の発電能力には余剰が生じていくので、むしろ縮小させていく必要があって、自然エネルギー発電や小規模分散発電の増加は、電力供給の面からは必ずしも望ましいものではない。とくに、最終需要家である個人住宅の小規模分散発電は、これまで一方向だけであった電流の流れを双方向化させるので、問題を著しく複雑化させる。これを「逆潮流」問題と呼ぶ。電力系統を安定的に運用する上で、逆潮流は最も避けたい問題である。日本の電力供給は、これまで政府の統制のもとで独占企業によって担われているので、必然的に、自然エネルギー発電や小規模分散発電の拡大には消極的である。二酸化炭素排出量削減という政策目的ために、政府の統制によってやむをえず対応を図るが、その目的だけであるなら、原子力発電の割合を増やしていくことが最も良い対策であると主張されてきた。
そのような中で、2011年3月11日に福島第一原子力発電所のメルトダウンとその後の水素爆発が発生し、それによって、突然、原子力発電所の停止が議論されるようになり、また電力供給不足と大停電発生の危険性がにわかに現実化する事態が生じた。
需要者側の省電力対応と、古い発電所の稼働率アップや新しいガス火力発電所の建設などによって、当面はなんとか大停電の発生を回避していける可能性はあるが、原子力発電所を全部停止することになると、さすがに、電力供給の余力が著しく小さくなって危険な綱渡りと我慢を続けなければならなくなる可能性がきわめて高い。やはりそれは、なんとかして回避していく必要がある。電力需要が小さくなっていく可能性が高い日本では、原子力発電所停止対策として主張されているように、おそらく、ガス火力発電や自然エネルギー発電や省電力化などによって、電力供給能力不足問題はそれほど致命的にはならない可能性はある。しかし、課題は、自然エネルギー発電や小規模分散発電の拡大と電力消費のミスマッチをどのように回避して行けるかということ であろう。それがうまくいかなければ、ピーク発電能力を増加させても大停電の危険性を回避することはできず、経済活動や社会活動は大きなリスクを抱え続けることになる。
たとえば、総電力消費予測ピーク時間内にその直前の時間内に使用していた電力量を超える電力使用を行う場合、限界的な使用増加電力に対して著しく高い電力料金を適用することとし、その料金適用情報をあらかじめ30分前までに需要家の機器に通知することとする。需要家側の機器は、それに対応した消費電力制限(キャップ)措置をあらかじめ設定しておいたプログラムに従って実行し、それを超える瞬間電流を自主的に制約する措置を行う。自主制限を行わない需要家は、超過使用電力に著しい懲罰的料金を課されるとすれば、それを回避するための設備投資を選択していくであろう。それによって、総電力消費量のピークは抑制されていき、また限界的に著しく高い料金を支払えば電力使用を制約されないという選択も可能となる。
反対に、最低維持発電能力を総需要が下回る時間内は、その直前の時間内に使用していた電力量を超える電力使用を行う場合、限界的な使用増加電力に対して著しく安いか場合によってはマイナスの電力料金を適用することとし、その料金適用情報をあらかじめ30分前までに需要家の機器に通知することとする。需要家側の機器は、それに対応した消費電力底上げ(フロア)措置をあらかじめ設定しておいたプログラムに従って実行し、それを超える瞬間電流を自主的に活用する措置を実行する。たとえば、蓄電したり湯沸ししたりすることで、電力やエネルギーコストを削減できる。十分に料金が低ければ、そのための設備投資が促進される。
他方、発電側に対する支払い電力料金は、設備投資や運営維持費の間接固定料金と燃料などの直接変動料金に分けて支払う。先ず、総電力消費予測ピーク時間内に提供できる最大発電量を確保するための固定料金設定を行って、新たな発電所建設を促進する。既に償却が進んでいる既存の発電所の固定料金は償却分をディスカウントして、過大な利得が生じないようにする。実際の電力供給は、需要量と均衡するように送電側がコントロールする。発電能力調整所要時間に合わせて、供給量要求はあらかじめ発電側に通知する。要求供給量に対して発電所はあらかじめ可能供給量情報を返す。このような仕組みに従ってオペレーション可能な発電能力に対しては、どのような小規模な発電所に対しても買電を行う。ただし、自ら通知した可能供給量を下回った場合には、著しく高い違約金を支払う契約とする。限界送電料金が著しく高いと、最低維持発電能力を総需要が下回る時間内は蓄電してピーク時間帯に送電することもコスト的に見合う可能性がある。
このようなフレームワークを土台として、電力系統(グリッド)の運用基準を明確にすることが、将来の電力需給安定化に最も必要なことではないかと考えられる。また、そのような運用を実現するための技術的要素として「スマートグリッド」の実現が不可欠である。
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その他
2011-08-07T22:10:00+09:00
Tooru Ozawa
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2011年8月4日原発問題に関する連続ツイート
朝の寝ぼけ頭のままでツイッターに原発に関する連続投稿をしてしまいました。この時点でこんな風に考えていたんだということを記録としてとっておきたくなったので、Blogの方にもアップしておきます。
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原発賛否の議論は、放射...
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原発賛否の議論は、放射能と廉価な電力の選好問題である。原発が放射能をまき散らすリスクがあることは事実を以て明らかとなったが、原発を止めれば電力料金が高くなって産業にダメージを与える。産業すなわち廉価な電力を重視する側は、電力コスト高騰の被害は放射線健康被害よりも大きいと主張する。
放射線は多量に浴びればすぐに死に至ることが確認されている。しかし、広範囲に拡散された放射能からの微量な放射線は直ちには健康被害を及ぼさず、遺伝子を損傷して将来癌に侵される確率を増加させる。どの程度浴びればどの程度癌で死ぬ確率が上がるのか、疫学的なデータはきわめて少ない。
チェルノブイリでも広範囲に拡散され希釈された大量の放射能の放射線による健康被害の可能性を明確に裏付ける疫学的証拠はない。どのように危ないのかという明確な証拠がないのに、感情的・非科科学的に原発は危険なものだと決めつけ、電力コストを上昇させて産業を疲弊させてしまうのは間違っている。
しかし、放射線を大量に浴びればすぐ死に至るので、放射性廃棄物は危険物である。原発をどんどん増やしていけば、何十年何百年以上も放射線を出し続ける放射性廃棄物を累積的に莫大に増やしていくことになり、リスクは幾何級数的に大きくなっていく。これは人類をモルモットにした実地テストである。
やはり危険物である放射性廃棄物を大量に累積していく原発は増やしていかないに越したことはない。しかし、他方で、今直ちに稼働中の原発を全部を止めなければならないほどの差し迫った危険が確認されているわけではない。時間をかけて止めていくという選択が現実的なのは明らかだ。
現に原発は大量の放射能を広範囲にまき散らすことが明らかになったので、少なくとも日本では、これから新たに原発を作ることが受け入れられる可能性はなくなったと考えるべきであろう。そして日本の原発は古いものが多いので、安全性の上からも漸次止めていかざるをえない。
原発は、好き嫌いに関わらず、新しく作りたくても作れないことは(ほぼ)確定している。だから原発賛否の議論はもうすでに意味がない。問題は、稼働中の古い原発をいかに安全に運用し止めていくかということと、原発の停止に伴う電力供給の減少をどのように代替していくかということである。
原発に「建設推進」は事実上なくなったといえるので、今後、安全保安院の役割りは本来の安全性管理に専念することが期待できる。これによっておそらくはじめて、本質的な原発の安全性管理が始められることが期待される。安全には絶対というのはありえないので、リスクを承知で当面は動かしていく。
新しい原発を作らないと、古いものを止めていくので電力供給が減少する。古い原発が多いのでそのピッチはかなり早い。したがって、代替手段の開発が急がれなければならない。一番有力なのはサハリンの天然ガスを直接パイプラインで輸入することである。原発事故を機にLNG開発も進んでいる。
長い目で見ると、エネルギー価格の上昇は、省エネルギーの進歩を加速し、新たなエネルギー資源の開発を促すので、人類にとって悪いことばかりではない。エネルギーコストの上昇は日本に立地する産業にだけ生じるのではないので、本来は競争中立的である。日本の問題は相対的に高いことにある。
電力に関しては、供給拡大と安定を理由に独占が続けられてきたことが最も問題である。食糧不足がなくなって食管統制がなくなったように、ずっと以前に統制独占は廃止されているべきだった。それが維持されてきたのは、原子力発電を拡大するためで、目的が入れ替わっていたのである。
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その他
2011-08-04T11:46:48+09:00
Tooru Ozawa
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