米国大統領と財政政策の変遷を見てみる

2017年1月に新しい米国大統領になる候補者選びの長丁場の闘いがすでに始まっています。その動向について論評する知見は何も持ち合わせていませんが、過去から現在の歴代大統領の時代は、マクロ経済の実績から見るとどうだったのかを振り返ってみたくなりました。

最初のグラフは、1960年から2014年までの暦年の名目GDPの推移です。共和党政権の時代は薄い青の背景にしてあり、したがって白い背景のところは民主党政権の時代を示しています。
GDP S.jpg
大きな画像

米国の名目GDPの近似線を入れてみると、1960年から1990年までは概ね年率8.4%拡大線に沿いながら拡大し、1990年から2007年までは概ね年率5.3%拡大線に沿って拡大していました。しかし、2008年後半から2009年に著しい景気後退が生じ、2010年から再び年率3.6%拡大線に沿って拡大を始めています。3.6%拡大線は2002年の実績にクロスするので、もしかすると2003年から2007年の実績は安定成長を超えた景気加熱であったようにもみえます。その結果、2009年は、この55年間で初めて名目GDPが前年割れ(マイナス成長)となった特筆すべき年になっています。そこで、政権は共和党のブッシュ大統領から民主党のオバマ大統領に手渡されました。オバマ政権は、過去半世紀で最も厳しい経済状況の中で船出したということができます。

名目GDPは2008・2009年を除けば、程度の差こそあれ半世紀の間一貫して右肩上がりで拡大を続けてきました。これは凄いことです。しかし、当然、その中味は大きく変化してきました。そこで次に、支出側の名目GDPの構成比率の変化を見てみることにします。なお、純輸出と在庫投資増減はマイナス値になる場合があるので除外してあります。
expenditure S.jpg
大きな画像

このグラフを見ると、名目GDPに占める政府消費支出の比率が縮小して「小さな政府」に向かったのは、共和党政権ではニクソン大統領の時代だけで、後は、いずれも民主党政権のカーター大統領・クリントン大統領・オバマ大統領の時代でした。逆に、名目GDPに占める政府消費支出の比率が拡大して「大きな政府」に向かったのは、民主党政権では1960年代のケネディ大統領とジョンソン大統領の時代だけで、後は、いずれも共和党政権のフォード大統領・レーガン大統領・ブッシュ(父)大統領・ブッシュ(ジュニア)大統領の時代でした。共和党「小さな政府」(緊縮財政)・民主党「大きな政府」(積極財政)という概念は、1970年代半ばを最後に完全に逆転しているように見えます。

そこで、次に、米国の財政収支の推移を見てみることにします。最初は、財政収支とそのGDP比の推移を見ます。
budget surplus or deficit S.jpg
大きな画像

最初のグラフで見たように名目GDPの規模は著しく拡大しているので、問題は財政赤字の額ではなく名目GDPに対する比率です。1960年代後半から1970年代初めは、財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」とハイパーインフレーションが大きな課題になっていました。しかし、今日から見ると、名目GDPに対する財政赤字の比率は当時のインフレ率の高さを考えると著しく小さい僅かなレベルに過ぎないように見えます。

財政赤字は、歳入を上回る財政支出が行われるために生じます。そこで、次に、歳出と歳入の推移を見てみることにします。
budget receipts and outlays S.jpg
大きな画像

これを見て特筆すべきことは、1960年以降2009年までの50年間に歳出が前年より削減された年は一度もなかったことです。皮肉なことに、オバマ大統領の行った「Change」の最も大きなもののひとつは、合衆国史上なかった「歳出総額のカット」を行ったことではないかと思われます。しかし、歳出カットはけしてオバマ大統領や民主党が目指していたものではありませんでした。

歳入側を見ると、ブッシュ政権時代とオバマ政権時代に過去にない大きな縮小があります。ブッシュ大統領は、財政支出拡大ではなく時限減税によって(すなわち共和党らしい「小さな政府」化によって)景気刺激を行ったので、歳入が大きく減少しましたが、結果的に歳入減に見合う歳出削減は行わなかったので、財政赤字は大きく拡大し、非常に景気刺激的な財政政策になりました。オバマ政権になってからの歳入縮小は、ブッシュ政権時代のバブル経済崩壊に伴う著しい景気悪化によって税収が縮小したからです。しかし、半世紀来一度もなかった名目GDP縮小という経済金融危機に対して、財政支出を拡大して下支えする必要がありました。そのため、オバマ政権初年度の2009年には財政赤字は額は勿論のこと名目GDP対比でも史上最大規模に膨らむことになりました。

景気の底割れを回避するために、ブッシュ時限減税の期限延長(実質増税回避)や歳出拡大を続けようとしましたが、2011年5月16日に連邦政府債務は法定上限に達してしまうことになり、これは「財政の崖(fiscal cliff)」と呼ばれました。景気対策と財政規律の板挟みの中でデフォルトぎりぎりまで議会共和党との攻防を続けた結果、なんとかデフォルトは回避されました。しかし、その後も財政赤字が続いているので、歳出を拡大する余地は全くなくなりました。

さて、それでは、歳出の中味の推移はどうだっかということをもう一度見ていきます。ここからは1990年以降の25年間の変化を1990年を100とした指数で見ていきます。
government exprnditure S.jpg
大きな画像

まず、著しく明確なのは、共和党政権のブッシュ(父)大統領とブッシュ(ジュニア)大統領の時代は、イラクやアフガニスタンでの戦争と占領を行って国防支出を著しく拡大したのに対して、民主党政権のクリントン大統領とオバマ大統領の時代には国防支出が純減していることです。オバマ政権はアフガニスタンとイラクから撤退し、「アラブの春」の民主化支援のための積極的な軍事対応は行いませんでした。必ずしもその結果だと言い切ることはできませんが、中東ではISが台頭し、膨大な数の難民が欧州に押し寄せる混沌とした状況に陥っています。

さて、実績から見て、共和党の「小さな政府(緊縮財政)」と民主党の「大きな政府(積極財政)」というイメージは、とくに国防支出の拡大と縮小の面で全く逆の実績になっています。これにはいろいろな理由があるでしょうが、共和党の「小さな政府」理念は政権野党にいるときに最も強く発揮され、政権与党になっているときは必ずしも発揮されにくい、というように推測することができそうです。

政権を担当して、国防支出を含む財政支出を削減した最後の共和党大統領はニクソン大統領でした。ベトナム戦争を終結させ、共産党中国との国交を樹立して世界の表舞台に招き入れ、ドルの金兌換停止と為替変動相場制移行を行いました。ウオーターゲート事件で失脚しましたが、ニクソン大統領が最も共和党らしい政策を断行した最後の大統領だったと言えるのではないかと思います。さて、2017年に発足する新政権は、どのような方向に動いていくのでしょうか?


 


Livedoor BLOGOS 掲載記事一覧

無題.jpg

Twitter

selected entries

categories

recent comment

  • 米国のインバウンド・アウトバウンドから日本の状況を考えてみる
    3rdworldman
  • 米国のインバウンド・アウトバウンドから日本の状況を考えてみる
    3rdworldman
  • 米国のインバウンド・アウトバウンドから日本の状況を考えてみる
    寺前秀一
  • 日本に住む外国人の数と中味の変化を見てみる
    TPPsan
  • LNGと原油の月次輸入通関実績推移
    yyy
  • 訪日旅行者数(インバウンド)目標2000万人について考えてみる
    一般社団法人国際観光政策研究所
  • 健康寿命世界一
    3rdworldman
  • 健康寿命世界一
    丸山寛之
  • 大きく転換した米国の国際収支
    3rdworldman
  • 大きく転換した米国の国際収支
    3rdworldman

recent trackback

profile

書いた記事数:190 最後に更新した日:2017/01/16

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM