原油価格の歴史的な推移を振り返ってみる

原油価格が<歴史的な>低水準ゾーンに下落しています。そこで世界の原油事情に関する<歴史的な>情報の在処を探してみました。無料で誰もが簡単に入手できるものとしては米国EIA(Energy Information Administration)の情報がとても充実していますので、そこで得られるデータを使って原油価格の<歴史的な>推移を振り返ってみます。

最初に、代表的な原油価格であるWTI(West Texas Intermediate)スポット原油価格の推移を振り返ります。
WTI Spot Price.jpg
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このグラフには、原データのWTIスポットドル/バレル月平均価格(青い細い線)を元に3つの線を加えてあります。月平均円/ドル為替レートと1バレル158.987リットルで換算した円/リットル月平均価格(赤い細い線)、そして円価格とドル価格のそれぞれについて過去12ヶ月平均価格(太い線)を加えました。また、U.S. EIAは、2015年12月8日の月報で2015年12月から2016年12月までの予想価格も示していますので、それもグラフに加えてみました(予想部分は黄色い背景にしてあります)。スポット価格というのは限界的な需給や思惑を反映して動くので、月平均(細い線)でもかなり大きくかつ頻繁に振幅しますが、、12ヶ月平均(太い線)は細かい振幅を吸収してその時点(月)の基調トレンドを示します。

ドル/バレル月平均価格は先月(2015年11月)に42ドルまで低下し12月に入って40ドルを下回る水準で推移しています。月平均価格が40ドルを下回ったのは、リーマンショック後の世界不況の動揺による急落があった2009年2月以来6年9ヶ月振りになります。他方、ドル/バレル過去12ヶ月平均価格をみると、先月(2015年11月)は51ドルまで低下していて、この水準は10年4ヶ月前の2005年7月の50ドル以来の<歴史的な>低い水準になります。

このような<歴史的な>価格変動はどうしてこれほど大きな幅で振幅してきたのでしょうか。その理由を探るひとつの方法として、<歴史的な>供給と需要の変化を見てみることにします。まず、主要産油国(2014年の上位8か国)の原油生産量(単位:千バレル/日)の推移を見ます。
国別日産量の推移1996-20152014.jpg
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米国既存油井の産油量が落ちるのに伴って減産が続いていました。そのため1998年に世界一の産油国の座をサウジアラビアに譲り、2004年にはロシアにも抜かれてしまいました。ところが、原油価格が著しく高騰したことと技術革新によって、採掘コストが高いタイトオイルの生産が可能になり、2009年から反転大幅増産に転じました。その結果、2015年には米国の産油量の約半分をタイトオイルが占め世界一の産油国の座を回復しています。カナダの近年の大幅増産も米国と同じくタイトオイルの増産によるものです。

サウジアラビアは、イラクやイランの減産をカバーする増産を行ったり、2004年下期以降ドル/バレル月平均価格が40ドルを突破して急騰した過程でも大きな増産を行っていて、概ね需給と価格の変動に合わせて需給安定化のための増産や減産を行ってきているように見えます。それが可能なのはおそらく生産コストが非常にに安いからです。アラブ首長国連邦もサウジアラビアとほぼ似通った増産・減産パターンで推移しています。

ロシアの増産ピッチはとくに1996年から2004年までの間が大きかったので、ドル/バレル月平均価格が40ドル以下の水準で推移する主要因になっていた可能性があります。ロシアは生産を調整することなく一本調子の増産を続けていてサウジアラビアに迫る産油国になっています。

中国は、産油国としてはあまり注目されませんが、イランの減産によって(暫定)世界第4位の産油国の地位にあります。しかし、経済成長に伴う旺盛な国内需要増を賄うような増産はできていません。

イランは、2010年6月の国連決議による経済制裁によって大幅な減産を続けていますがその分をサウジアラビアが増産でカバーしています。核合意に伴う経済制裁解除が行われれば減産分の回復が行われることになります。

イラクは、この間を通じてほぼずっと戦場でした。1996年から始まった増産はフセイン政権に対する経済制裁下の国民の困窮を受けて始められた「石油食料交換プログラム」によるもので、2001年からの減産は同時多発テロ以降の制裁締め付け強化とイラク戦争によるものです。2011年12月の米軍撤収後のイラクはISISやクルド勢力などが入り乱れた深刻な内戦状態に陥っていますが、なぜか石油生産量は着実に増加しています。

1996年から2014年の18年間通算で増産・減産の大きかった国を並べたのが次のグラフです。
石油産出量国別増減2014-1996.jpg
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ロシア米国の増産量が抜きん出ています。ロシアは18年間一貫して増産を続けた結果ですが、米国は長く減産が続いた後に2009年からの6年間に急激な増産に転じた結果です。イラクはフセイン政権下の経済制裁時点から始まっているので大きくなっています。

他方、減産が大きいのは北海油田の英国ノルウエーです。リビアの減産が3番目に大きくなっているのは無政府・内戦状態になっているためで資源枯渇や経済制裁によるものではありません。

以上で供給サイドを概観してきましたが、次に需要サイドを見てみたいと思います。需要は原油輸入量の変化で見ていきます。
石油輸入量国別1996-2013.jpg
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EIAの国別原油輸入量データはこちらから入手できますが、残念ながら2014年のデータがまだなく、肝心な中国とインドのデータは2012年までしかありません。

米国は、世界一の原油生産国であると同時に抜きん出た世界最大の原油輸入国でもあります。国内原油生産の減少と国内需要の増加によって輸入量は増加を続けていましたが2006年をピークに反転減少に転じ、タイトオイルの増産に伴って輸入量は大きく減少してきました。それでもなお抜きん出た世界第一位の原油輸入国であることに変わりありません。

中国インドは、世界の二大人口大国であり、成長著しい新興工業国で、成長に伴って原油輸入を急激に拡大してきました。しかし、2011年をピークに減少に転じています。統計上の誤差なのか成長減速のためか正確なところは分かりません。この両国の動きが正確に把握しきれず先が読みにくいことが市場を疑心暗鬼にしている面があることは否めません。

日本・ドイツ・イタリア・フランスの非産油先進工業国は、省エネルギー技術と代替エネルギーによって一貫して原油輸入量の削減を実現してきています。韓国はこれらの国々の前段階にあって概ね横ばい推移しています。

1996年から中国・インドの輸入量がピークだった2011年までの15年間通算で輸入量増減の大きかった国を並べたのが次のグラフです。
石油輸入量国別増減2011-1996.jpg
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中国・インド・米国の3か国で輸入量増加の太宗を占めていたことは明らかです。しかし、2012年以降に米国の輸入減少は加速していて、中国とインドも輸入増加にストップがかかった可能性がありますが実態は判然としません。他方、日本は世界で最も原油輸入を大きく減らした国になっています。

さて、石油輸入国の多くは「戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve: SPR)」を行っています。世界最大の石油輸入国である米国のSPRは2015年9月に過去最高の156日分にまで上昇しています。これは目先の米国の輸入減少要因になります。

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以上、原油生産と輸入の<歴史的な>推移を主要な生産国と主要な輸入国について振り返ってきました。とくに原油生産は政治や戦争によって大きく変動してきたことが分かりました。今後もそうであり続けるようです。


 


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