米国のインバウンド・アウトバウンドから日本の状況を考えてみる

日本は、出国日本人数に対して入国旅行者数が著しく少なく、国際収支においても旅行収支の赤字が大きく、経済先進国の中ではきわめて特異な国になっています。2012年の入国旅行者数ランキングでは、日本は世界で33位、アジアでも8位で、経済水準や人口規模からみると著しく低い水準にあります。入国旅行者数を増やすことは国外の消費を国内に取り込むことですから、経済や雇用の面からとても重要なことですし、また、国境を越える世界の人の動きにあまり関わっていないことは、世界から孤立した国のようにもみえてしまいます。
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出典:日本政府観光庁「出入国者数ランキング:入国旅行者数ランキング」

しかし、この統計にはいろいろ但し書きがつけられていますし、上位の国の数字が大きくなっているのにはそれなりの背景があり、日本の数字が小さくなっているのにもそれなりの背景があります。一般に、隣国同士の関係が良好で、経済水準の差が小さく、間に海がなく陸続きであれば、通勤したり商売したり買い物をしたり遊びに行ったり頻繁に国境を越える人たちが大勢出てきます。EU諸国は、シェンゲン協定によって域内国境を越えるのは基本的に自由になっています。また、ASEAN諸国にも、出稼ぎや行商などを含む人の行き来が盛んな国境があります。それに比べると、日本は、島国で国境は全て海上にあり、韓国・台湾・香港など人口の少ない国(地域)との経済水準格差はかなり縮小してきましたが、近隣大国中国・ロシアのとの外交関係があまり良くありません。

こうした背景の違いのひとつの例をみるために、米国の事情と数字を調べてみたいと思います。米国の入出国統計は、商務省の旅行観光産業事務所(Office of Travel & Tourism Industries:OTTI)から月次観光統計(Monthly Tourism Statistics)として入手することができ、数字の解説も得ることができます。この統計の米国入国旅行者総数は日本の観光庁のランキングに使われた数字に一致しています。それがどのような数字であるかを知りたいわけです。

この統計から2013年の米国への入国旅行者数(Inbound)の居住地域別内訳をグラフにしてみました。


米国は、カナダとメキシコとの間に長い陸上国境線があり、その両国と北米自由貿易協定(NAFTA)を締結しています。NAFTAに基づいて、相互に一定の条件を満たす範囲で短期労働目的での入国も認め合っています。また、メキシコから米国への入国者は、国境から25マイルまでの国境地帯への入国とそれよりも内陸部(Interior)への入国では手続が異なります。月次観光統計(Monthly Tourism Statistics)では、2005年までは内陸部到着者数のみを米国入国者数としていましたが、2006年以降2009年までは国境地帯入国者を含む入国者総数を併記するようになり、2010年以降は入国者総数のみを計上するようになっています。したがって、メキシコからの入国者数は次のグラフのように2005年以前と2006年以降で連続性がありません。

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他方、米国には、ハワイ・グアム・北マリアナ(サイパン)など、本土からは海を隔てて遠く離れた国土(領土)があります。OTTIの月次観光統計(Monthly Tourism Statistics)は、米国本土の空港から入国した「海外(Overseas)」からの旅行者数と、カナダとメキシコから米国本土に出国した人の数(空路・陸路を含む相手国統計を使用)を計上しています。ですから、ハワイ・グアム・サイパンを訪れた日本人の数はこの統計数字には含まれていません。日本の観光庁の統計(観光白書)によれば、2013年に米国本土に入国した日本人は3,730千人で米国のこの統計数字と一致しますが、それとは別に、ハワイには1,523千人、グアムには893千人、北マリアナ諸島(サイパン)には153千人(これのみ2012年)の日本人が入国しています。

さて、統計の但し書きをこのように詳しく確認した上であらためて数字を見返してみます。米国本土への2013年の入国旅行者総数は約70百万人で、カナダとメキシコが38百万人(総数の54%)、それ以外の「海外(Overseas)」が32百万人(同47%)でした。また、「海外」に属するカリビアン(Caribbean)と中央アメリカ(Central America)は、海や他国によって隔てられてはいますが、米国人の近隣リゾート地(日本人にとってのハワイやグアムやサイパンと同じような位置付け)にあたるので、グラフではカナダ・メキシコの次に載せてみました。2013年に、カナダ・メキシコ・カリビアン・中央アメリカ以外(すなわち北中米以外)の「遠い国々」から米国本土に入国した旅行者は30百万人(同43%)だったということになります。これは米国の人口316百万人の9.5%に相当します。

米国から「遠い国々」のうち米国に沢山入国している上位8ヵ国の年別入国旅行者数の推移をグラフにしてみました。

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遠い国々」の中では、日本は米国本土を訪れる人が最も多い国でしたが、2001年の同時多発テロ以降は大きく減少し、その後あまり回復していません。英国とドイツも日本と同様の傾向にあります。他方、ブラジル・中国・フランス・韓国・オーストラリアは、2000年までは米国入国旅行者数が少なかったのですが、近年は増加傾向にあり、とくにブラジルと中国の増加が急ピッチです。日本の統計と同様中国には香港は含まれません。

さて、反対に、米国人はどこに向かってどのくらい出国しているのでしょうか。国外に出発した米国市民の目的地域別の数(Outbound)をグラフにしてみました。


2013年に出国した米国人総数は62百万人でした。そのうち、陸路国境を超えてカナダ・メキシコに出国した人は延べ23百万人(総数の37%)、航空機でカナダ・メキシコに出国した人は10百万人(同16%)でした。またカリビアンと中央アメリカに出国した人はそれぞれ7百万人(同11%)と2百万人(同4%)でした。したがって、それより「遠い国々」(北中米以外の地域)に出国した米国市民は20百万人(同32%)でした。これは米国の人口316百万人の6.3%に相当します。

北中米以外の「遠い国々」の6つの地域に出国する米国市民の数はどうなっているでしょうか。

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「遠い国々」から米国に入国する旅行者数は増加傾向にありましたが、「遠い国々」に出国する米国市民の総数は減少傾向にあります。近年の米国国際収支で旅行収支黒字が拡大しているのは入国者の増加だけでなく出国者の減少も影響していることが分かりました。そこで、北中米以外の「遠い国々」6つの地域毎の傾向をみてみます。
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ヨーロッパ・アジア・南米・オセアニアは減少ないし横ばい傾向にあり、増加しているのは中東だけです。

最後に、以上でみてきた米国の例にならって日本の入国旅行者数を「近隣諸国」と「遠い国々」に分けて見てみることにします。


2013年の日本入国旅行者数は大幅に増えて11百万人になりました。このうち東アジア「近隣諸国」は7百万人(全体の66%)で、その他の「遠い国々」は4百万人(同34%)でした。日本の人口127百万人に対する「近隣諸国」からの入国旅行者数の人口比率は5.8%「遠い国々」からの入国旅行者数の人口比率は3.0%でした。米国の場合、人口316百万人に対する「近隣諸国」からの入国旅行者数の人口比率は12.6%「遠い国々」からの入国旅行者数の人口比率は9.5%でしたから、やはり日米間の差はどちらもきわめて大きいといえます。

東アジア「近隣諸国」では、中国・ロシアに潜在的な大きな拡大余地があり、経済水準格差の縮小と外交関係改善による入国管理の緩和で大幅に拡大することが可能と考えられますが、どちらにも領土問題があって見通しはきわめて不透明といわざるをえません。他方、「遠い国々」の中では、比較的近いASEAN諸国との経済水準格差の縮小による入国管理の緩和で拡大していくことが十分期待でき、実際に少しずつ動き出しています。しかし、本当に日本から遠い国々である北米や欧州は、これまでも入国の制約はありませんでしたから、大きな増加が生じるきっかけはありません。北米や欧州は欧州や北米以外の「遠い国々」(アジアや南米やアフリカ)に旅行する人の総数が増えない傾向にある中で、むしろ今まであまり訪れていなかった国々に分散していく可能性もあるので、マーケティング的には最も競争の厳しい市場になっています。日本がその中で選択されるためにできることが何かあるでしょうか。2020年東京オリンピック・パラリンピックでとにかく一度日本に来てもらうということが唯一の目玉でしょうか。

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2014.11.2 追記
(データの出典はいずれも日本政府観光局:資料室:マーケティングデータ:訪日旅行市場の基礎データ

2013年の主なアジアの国(地域)への米国人旅行者数(インバウンド)は、|羚2,085千人・香港1,110千人・タイ823千人・て本799千人・ゴ攅722千人・Ε侫リピン675千人でした。

2013年の中国のアウトバウンドは98,190千人とされています。しかし、これには、「中国領」ですが入出国手続きがある香港とマカオも含まれています。日帰りを含む中国人の「入国者数」は、香港41百万人・マカオ19百万人でした。したがって、それ以外の「外国」への中国人出国者数は39百万人だったことになります。

2013年の中国人インバウンドは、タイ・シンガポール・マレーシア・韓国・台湾・日本の6ヵ国(JNTO資料で分かる範囲)合計で17百万人でした。「近隣諸国」は、この6ヵ国に他のASEAN諸国やロシアなどを含めると20百万人前後ではないかと推定されます。したがって、欧州・北米・南米・アフリカなどの「遠い国々」は差引20百万人前後ではないかと推定されます。20百万人は中国人口の1.5%に相当します。

2013年も、韓国のインバウンドは日本のインバウンドを上回っています。韓国は、済州島をビザ不要特区としたため、中国人旅行者が2013年は前年に比べ1,851千人増えて4,327千人になりました。それに対し、日本に入国した中国人旅行者は前年より111千人減って1,314千人でした。


 



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