経済社会の体温調節

 名目GDPの超長期推移の検証によって、どうやら四半世紀くらい前ころから、無理に過大な潜在成長力を予測しそれを経済政策目標として、一貫して拡大財政政策による財政赤字と公的債務累積を続けてきたことがかなり明白に確認できました。

50年以上前の日本のように、経済の規模が小さく貧しく発展途上にあるときは、経済活動を可能な限り活発化させ、経済規模を急速に拡大させて貧しさからの脱却を図ることが政策目標になります。経済規模を急速に拡大させるためには、政府が、将来の経済成長による税収増を担保とした公的債務によって歳出増加や減税を行い(拡大財政政策)、また中央銀行が、金利引き下げや公的債務引き受けなどの金融緩和措置によって通貨供給量を増やしたりして(金融緩和政策)、全体の購買力や投資力が増えるように政策誘導します。

貧しい経済社会では、鉄道・港湾・道路・電力・水道などの公共的な経済基盤や、輸入する必要がある資源あるいはそれを買うための外貨などが、経済活動活性化のネックになります。したがって、政府は、経済基盤への公共投資と外貨獲得のための輸出産業育成に対して優先的に資源配分を行います。これが、貧しい経済社会すなわち「発展途上国型」の典型的な経済発展政策であるといえます。

すでに見てきたように、貧しい発展途上経済社会から、奇跡的ともいえる高度経済成長を実現して、OECDに加盟し、世界トップクラスの経済規模にまで発展を遂げた後も、「発展途上国型」経済政策は基本的に見直されず、政府の役割はむしろますます高められてきました。経済規模が巨大になった後も、大規模公共投資は内需維持拡大の麻薬として常用され、また官僚・政治・企業の権益の仕組みの強化と精緻化が進みました。輸出産業育成の経済政策は、むしろオーバーシュートして貿易黒字恒常化とその累積拡大をもたらし、何度かの貿易摩擦と「大幅で急激な円高」を繰り返す結果となりました。その大幅で急激な円高衝撃による株価下落や経済成長停滞を懸念して円安誘導金融緩和策がとられたため、結果として経済は異常に「過熱」し、バブル経済に突入しました。要約的に言えば、「発展途上国型」経済金融政策からの脱却が行われていなかったことが、バブル経済とその後の「失われた10年」や今日の巨額の公的債務累積を作ってしまったということがいえます。

それでは、経済発展を遂げた後の成熟した先進国の財政・金融政策はどうあるべきでしょうか。

経済発展を遂げ経済規模がきわめて巨大になると、人口増加率の低下(いずれ減少)と高齢化が進み経済成長率も漸減することは、見本としてきた西欧先進諸国を見ても明らかなことで、しかも日本では同じことがより急速に起こりつつありました。経済成長力が低減し高齢化が進行する中で、福祉負担と経済規模のバランスをどうとっていくのかということが、「先進国型」の経済政策の目標になります。

経済規模がきわめて巨大で成長力が小さくなった経済政策は、いわば拡大成長することから長生きすることへの政策目標転換が必要です。すなわち「継続性(Sustainability)と安定性(Stability)」が目標になります。それでは経済社会の活性が失われ味気ないものになってしまうという懸念も生じますが、「継続性と安定性」は政府(マクロ)の目標であって、当然、企業や個人(ミクロ)の目標や活動は個別の経済的成功を目指したものでありつづける必要があります。成長し成熟した経済社会では、企業や個人(ミクロ)の目標や活動に対する政府のアシストは小さくしていくべき、あるいは小さくして良い、ということです。

経済の活性の度合いの予測は、価格や相場のセンチメント(市場心理)と相互に関連し合います。経済の「継続性と安定性」の観点からは、値下がりと急激な値上がりの両方ともが望ましくない傾向になります。商品や株式や為替とくに物価の動向は、成熟した経済社会の恒常性を計る体温であるといえます。体温が、値下がりと急激な値上がりの間で、できれば活性を適度に促す程度の「微熱」にうまく安定するようにデリケートに体温調整することが経済金融政策の目標になります。

財政は、福祉と負担のバランスの国民的合意の範囲で運用されることが基本で、低い経済成長力を前提として財政赤字を伴う経済政策に明確な歯止めを設定することが必要です。そして、金融政策は、財政より機動的に、「微熱」を目標にした微妙な体温調節を行います。これが、「インフレ・ターゲティング」の金融政策です。

さて、このように政策転換するにしても、過去の政策の誤りによって巨額に累積してしまった公的債務はどうやって片付けるのかということが、大きな課題になってしまっています。むしろ、この問題を解決するためになお経済成長を政策目標にする(あるいは期待する)というのが現在の政府の「戦略」として提示されています。

このまま責任を逃れながら将来の人たちに先送りするのか、高福祉や国民負担の見直しの全体案を分かりやすく国民に提示して判断を仰ぐのか、政治の責任が極めて重く問われていると思います。


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